ケータイ絵文字がグローバルに

 KDDI総研 藤原正弘
 KDDI総研総務企画部。専門は情報通信全般の社会・経済分析ということになっていが、昨今クルマの情報化に関わる時間が増えている。


 manga、anime、kawaiiはすっかり世界語になったが、emojiもその仲間入りだ。

 今年の2月に、GoogleとAppleが、「日本のケータイ絵文字をUnicode化」しようとISOに共同提案した。基本的には、日本のケータイ各社の絵文字を統合して、すべてUnicodeに収容してしまおうという提案だ。

 これを日本の通信事業者ではなく、GoogleとAppleが共同提案するのだからスケールが大きい。単に、ひらがなやカタカナの領域を拡張して絵文字を収めてしまおうという話であれば、ひとつのローカルな議論として、たいして物議をかもすことはなかったかもしれないが、グローバルな位置づけであっただけに多くの議論を巻き起こしたのだ。

 簡単に経緯を説明すると、

1. GoogleとAppleは、インターネットのテキストメッセージの世界に絵文字を持ち込むことで、より多様なコミュニケーションの発展につながると考えた。

2. 具体的には、世界で最も利用されている、日本のケータイ絵文字をそのまま採用する提案を行った。新しいものを導入するときに、既存利用者の利益を尊重するのは、ビジネス活動にとっては自然な選択肢だ。

3. これに対して、アイルランドとドイツの代表者は、いくつか注文をつけた。その理由は「キュート過ぎる」というものだ。グローバルな用途として絵文字を採用するならば、特定の利用環境を想定するのではなく、図案も名前もより一般的な意味を表現するべきだと主張した。

4. 最終的な採択には至っていないが、アイルランドとドイツの修正提案をある程度受け入れた提案文書が作成された。

 Google・Apple連合は、理想や理念ばかりを消費者に押し付けたのでは見向きもされないことを、十分承知してこの提案に踏み切ったと思うし、ケータイ絵文字がマンガやアニメの文法を踏襲しているのだからキュートなのは当然。かわいくなければ誰も使わないとも考えられる。

 まあ、いろいろ議論があったものの、どうやら、日本のケータイ絵文字が国際規格になりそうなのだ。欧州側の提案ももっともだが、それでも、アフリカやアジア諸国の文化的背景が考慮されるわけでもないので、結局、いちローカル文化をどこまで薄めて納得できるかということなのだろう。

 具体的にどの程度薄まったのかを、現時点での提案文書(N3626)で見てみよう。

 まず、「顔・表情」の絵文字は、総じてかわいらしさが半減している。また、「気持ち」を表す絵文字も表現が弱くなっている。ただ、Unicodeの規定は色がないなど、ケータイの絵文字に比べれば表現能力が限られるのである程度は仕方のないところだ。

 その一方で、「生き物」は種類も増えている。マンガ的な図案もあるが、動物の実物的なシルエットを表したものもある。シルエットの虎、豹、猫はどういう使い分けができるのだろう。それに、ワニやクジラのシルエットもパッと見にはわからない。このあたりに、デフォルメすることで視認性を高めるマンガの特徴が見て取れる。

 もちろん、上記は、日頃ケータイ絵文字を使っている者からみて気になる図案だけを取り上げたものだが、多くの絵文字は、ほぼ、そのまま採用されているのだ。逆に、海外の人には分かりにくそうなものもいくつかある。

 たとえば、「てんぐ(Goblin)」。西洋のGoblinは必ずしも鼻が長くないだろうに。「くす玉(Confetti Ball)」もそう。紙吹雪のボールってイメージわくかなあ。「モアイ像」については、少なくても私は「渋谷での待ち合わせ」と先入観を持って見るが、世界の人はどんな用途に使うだろうか? 「100点(perfect score)」「花丸(brilliant homework)」なんかは、世界中の宿題に「花丸」が押される日がくると思うとちょっと楽しい。「おでん(Seafode casserole)」も白黒で串にささった三角・丸・四角の図案。おでんを見たことない人は、いったい何を想像するだろうか。

 さらに図案だけをみても分かりづらそうなのが、「ひな祭り」「こいのぼり」「七夕」「お月見」などの行事もの。でも、世界中の人が短冊に希望を託したり、中秋の名月を愛でるようになったら、きっと世の中平和になるに違いない。

2009/9/30 11:00