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携帯電話の電源はお切りください

KDDI総研 宮脇景子
 (株)KDDI総研 市場分析グループ。主に国内のモバイル市場動向・マクロ需要予測を担当、最近は米国におけるM2M動向を調査した。舞台鑑賞好きが高じて今回の執筆に至る。ストレートプレイ、ミュージカル、バレエ、宝塚など何でも好む雑食型。でも一番テンションが上がるのは嵐のライブだったりする(もはや舞台鑑賞じゃない?)


 劇場や映画館に行くと、決まって「携帯電話の電源はお切り下さい」というアナウンスを耳にする。確かに上演途中にケータイが鳴り出すのはたまらない。物語のクライマックスに鳴り出した時など、せっかくいい場面だったのに〜! とガックリきてしまう。

 ポケベル時代から始まったこの「小さな騒音問題」。最近では、劇場の中を圏外にする装置を導入している所も多いけれど、例の「携帯電話の電源をお切りください」のアナウンスは未だによく聞く。しかし、観客側も毎度のアナウンスを聞き慣れてしまったのか、ケータイをうっかり鳴らして劇場中を敵に回してしまう気の毒な人が時折あらわれる。

 今回は、もう聞き慣れたとは言わせない、思わず注目してしまうケータイの電源オフ作戦を紹介しよう。

(筆者撮影)

 日本でも超有名なシルク・ドゥ・ソレイユが、ラスベガスで常設公演を行っている「O(オー)」は、一流のショーがひしめくラスベガスの中でも特に人気が高い。“O”とはフランス語で水のこと。サーカスとシンクロナイズドスイミングの要素を取り入れたステージで、その見事なパフォーマンスと何とも不思議な世界観に、ぐいぐい惹きつけられる。そして、舞台が瞬時に巨大なプールに変化したかと思えば、また水がさーっと引いて瞬時に元の舞台になる、その大掛かりな仕掛けにもビックリ!

 このショー、シルク・ドゥ・ソレイユお得意のいわゆる「客いじり」から楽しませてくれる。観客に水をかけたり驚かせたりしながらピエロがこちらの方に近づいてくる。どうなるんだろうとワクワク半分、ドキドキ半分……。その内、何列か前に座っていた1人の男性が、無理やり舞台上に引っ張りあげられる(内心ホッとする)。内気そうなその男性に、出演者が一枚の紙を渡し、「それを読みあげろ」と無言で指示。一体、何を読まされるのかと注目すると、“Ladies and Gentlemen, ……”と、英語でお決まりのアナウンスが始まった。観客の男性が劇場アナウンスをしどろもどろで読み上げる様子と、その間に入る出演者からの絶妙な突っ込みに、見ている方は大笑い。

 アナウンスの中にはもちろん「携帯電話の電源はお切り下さい」の一文も。観客はこの二人のこっけいなやり取りに爆笑しながらも、素直にその呼びかけに応じるのであった。無機質になりがちなアナウンスも、こんな風にすればずっと注目が集められる。

(筆者撮影)

 因みにこの話には続きがある。この男性、アナウンスの仕事が終わるや否や、それじゃバイバイとでも言われたかのように、すごいスピードで天井高く吊り上げられ、観客の視界から消えてしまう。びっくり唖然とする観客たちは、しばらくすると舞台上にその男性がいるのに気がつく。そう、彼は観客のふりをした出演者だったのだ。

 国内の取組み事例も紹介しよう。俳優、上川隆也を輩出したことでも有名な、演劇集団キャラメルボックス。この劇団では上演前に行う前説も名物となっていて、常連客は楽しみにしている。この前説に毎回登場するのが、「携帯電話チェックタイム」なる時間。その名の通り、ケータイの電源を切ったかどうかをチェックするのだ。「電源を切ったよという方も、もう一度取り出してください」「切ったかどうか、隣の人に画面を見せて確認し合ってください」等々、笑いを交えつつやや強引に観客を巻き込んで進めていくので、満席の会場が見事に電源をオフにできてしまう。何でも楽しくが得意なこの劇団、「携帯電話チェックタイムの歌」と題した数々の自作の歌(その時々の流行歌にとてもよく似た別の曲に、ケータイの電源オフを促す歌詞をつけてある)を作り、さらにはCDにして販売した事もあった。

 舞台を楽しみに来ている観客への、少しだけ堅苦しいお願いの時間。こんな風にエンターテイメントにしてしまえば、「小さな騒音問題」に終止符が打たれるかも?

(宮脇景子)

2011/2/22 06:00