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Lost iPhone

KDDI総研 菅谷知美
 KDDI総研海外市場・政策グループ。専門はラテンアメリカなど新興市場の情報通信政策・市場動向ということになっている。「TVで津波みたよ。大変だったね」とキューバの人から声をかけられ、ニュースが世界を巡ることを改めて実感。


真夏のキューバ(ハバナにて筆者撮影)

 旅行先でiPhoneがなくなったらどうする? それは、真夏のキューバでの出来事。事件は、ビニャーレス渓谷への日帰りツアーで起きた。

 ビニャーレス渓谷は首都ハバナから西へ150km。ユネスコ文化遺産にも登録されていて、観光スポットも多い。我々も、タバコ農園、すべて手作業の葉巻工場、ボートで巡るインディヘナの洞窟……と回って、遅いランチをとった。あとはバスに3時間ゆられてハバナへ帰るだけ。最後に、教会や露天商を覗いてバスに戻ると、何やら車内が騒がしい。

 ガイドのルイスが公衆電話へと走っていく。同じツアーのスペイン人の一団が、荷物棚やバスの座席下を覗きながらスペイン語で騒いでいる。キョトンとしていると、その中の女の子がカタコトの英語で教えてくれた。「このバスでケータイがなくなったんだって」。

 それから、バスは地元の警察署へ。なんと全員そこで3時間過ごすことになったのだ。さっき騒いでいたスペインからの家族親戚連れは、とにかくテンションが高い。ガイドが「警察へ向かいます」と説明しただけで盛り上がる。「逮捕される時ってこんな感じかしら〜?」とポーズをとる女の子。「こうじゃない?」と別の女の子もポーズ。家族爆笑。

 実は、iPhoneをなくしたのはノルウェー人女性。彼女の気持ちを思うと、私は騒げないなぁ。ノルウェーの彼女は英語しか話せないのだが、スペインの子は果敢に話しかけにいく。これってSympathy(思いやり)? Curiosity(好奇心)? 内心混乱する私に、ラテンをよく知る人が一言。「100%好奇心でしょ。ラテンだよ」。

 同じラテンでもメキシコから来た兄妹にはSympathyの表情が浮かんでいる。スペイン語も英語もわかる2人は学生さん。ノルウェーの彼女の話を真摯に聞いているように見えたし、わりと控えめだった。以前メキシコで人々の明るさ(ラテンのノリ)に驚いたけれど、メキシコ人も色々なんだなぁ。
警察署(ピナール・デル・リオにて筆者撮影)

 イタリア人夫婦は、私たちと「Sushi, delicious!」レベルの会話を楽しんでいた。フランス語圏から来ているらしいカップルは、ケータイがなくなったなんて我関せず、終始2人の世界に浸っていた。他に上品な英語(Queen's English?)を話すイギリス人夫婦もいたが、彼らは常に落ち着いていた。「どうなってるんだ!」とキューバ人ガイドに食ってかかるような人は誰もいなかった。蒸し熱さで頭が働かないからなのか? キューバのゆるさに感化されたからなのか?

 iPhoneをなくしたノルウェーの彼女はバックパッカー。ランチの時間には、「これまで旅したところでどこがよかった?」「私にはまだまだ行かなきゃいけない国がいっぱいある!」と話していた。背が高くてがっちりした体格。いまどきの草食系男子だったらやりこめられそうなパワフルなエネルギーを振りまいていた。意思も強そう。気の弱い人だったら、初対面のツアー仲間を巻き添えにしてしまうことに気が引けて、警察での処理は諦めてしまいそうだけど。

 彼女は、バックパックの中身をすべて警察署の床に並べながら、キューバ人ガイドに言った。「ひとつお願いしていいですか? 皆さんへの気持ちとしてスイスチョコを配ってほしい」。キューバ人ガイドは苦笑いして聞き流していた。蒸し暑い中、チョコはきつい……。

 結局、iPhoneのなくなった場所ははっきりしないよう。キューバはとても治安がよく、盗難の可能性は低そうに感じたが、もし盗難であれば保険申請時に警察の証明書が必要となる。

 やがて「別のバスがハバナから到着するのを待つしかないようだ」という情報を例のスペイン人たちが仕入れてきた。警察の調べがあるから我々のバスはすぐに出発できないのだ。彼らは長期戦に備えて、20mほど先に見えるガソリンスタンドまで水を探しに行こうと誘ってくれた。「Vamos! Agua」(Let's Go! Water)。ラテン、頼もしい!

(菅谷知美)

2011/8/31 09:00