猫とスマートフォン

 KDDI総研 堺原いずみ
(株)KDDI総研 調査1部 海外市場・政策グループ。写真によってはちょっと怖い風貌のスリム氏だが、実は愛妻家だったそうだ(夫人は1999年に逝去)。通信業以外の企業のコングロマリットの名称は「カルソ(Carso)」。自身(Carlos)と夫人(Soumaya)の名前の冒頭を組み合わせたものだという。また、メキシコシティには彼女の名を冠したソウマヤ美術館がある。


 日本では携帯のコマーシャルというと犬の方が馴染み深いのかも知れないが、海の向こうのアメリカでは猫がスマートフォンを器用に使いこなしていたりする。

 アメリカ3位の携帯電話事業者Sprintが発売している「Nexus S」のコマーシャルのことである。30秒の中に人は出てこない。所々ナレーションの声は入るが、猫が“Meow”と言って音声入力で地図を検索し、手で画面をスライドしたり、写真やビデオを再生し、アプリを選んで、データのシェアまでしてしまう。もしかすると、この猫たちは私よりもITリテラシーが高いのかもしれない。いや、そんな気がする。

 人の好みに差はあれど、やはり猫は可愛い。そして可愛い動物に弱いのは洋の東西を問わないのかもしれない。YouTubeにあるSprintの公式チャンネルで見ることができるコマーシャルでは、この「Nexus S」は再生数が26万回超と飛び抜けて高いし、評価も上々らしい。

 ちなみにSprintのライバルキャリアであるAT&Tにも猫が出てくるコマーシャルがある。高画質の液晶を売りにする「Samsung Infuse 4G」のコマーシャル・シリーズの一つで、スマートフォンの画面に映った毛糸玉を本物だと思った子猫が一生懸命画面をつついている。

 “Real Colors Test”という副題がついているこのシリーズは、色々な生き物が登場し、どのコマーシャルでも画面に映ったものを本物と勘違いして飛んだり跳ねたり引っ掻いたりする。子猫のコマーシャルはいかにも可愛さを狙った感じの作りなのだが、AT&T公式チャンネルのこのシリーズで一番再生数が多いのは、何故かクモのバージョンだったりする。レストランで、スマートフォンの画面に映ったクモを本物だと思った相席の客が、思わず履いていた靴でそのスマートフォンを叩き割ってしまうという何ともシュールなオチが付くコマーシャルなのだが、その再生数たるや、なんと120万回。

 さらに、ヨーロッパでも猫はコマーシャルの中を闊歩している。そして、ついには通信会社を乗っ取ってしまったらしい。

 フランス3位の携帯電話事業者Bouygues Telecomのコマーシャルに出てくるのは「les Chatons Telecom」(ネコ通信会社)。なんとBouygues Telecomが猫の会社になってしまったのだ。だから、画面に出てくるのは全て猫。人間と同じように、パソコンをいじってみたり、会議をしてみたり。もちろんパソコンの「マウス」は文字通りネズミなのだけど、お仕事中はそれに釣られたりはしないようだ。さらにはショップの店員を演じている猫や保守担当の猫もいて、随分と賑やかなコマーシャルとなっている。

この猫もやがてスマホを使いこなすのだろうか……(カンボジアにて筆者撮影)

 だが、彼らは先ほど紹介した「Nexus S」の猫とは少々気質が異なる感じがする。何だかとてもマイペースなのだ。アメリカの猫は放って置いてもそのうちバリバリと仕事をこなしてしまいそうな勢いだが、フランスの猫はよく見ると端々に猫らしさを残している。

 どちらが好みかはご覧になった皆さんにご判断いただくとして、こうしたコマーシャルを見ながら、猫にしても犬にしても、人の言葉を話さないからこそ、言葉の壁を越えて万人に受けるのではないかと思った。なぜなら、私はフランス語は全く分からないのだけど、もう10回くらいこのBouygues Telecomのコマーシャルを見ているのだから。

2012/1/25 09:00