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恐竜と位置情報<前編>

KDDI総研 山本雄次
 KDDI総研 調査1部 海外市場・政策グループ。海外の情報通信市場動向や制度・政策に関する調査、分析を担当。普段は公正競争ルールやプライバシーといったお堅いテーマを相手にすることが多いが、実は最も関心の強い分野は、野球と恐竜(?!)。今回の執筆では「安全装置」が外れたかも。


 昨今「位置情報」と言えば、個人情報やプライバシーといった少々デリケートな話題の主役になることが多いが、ここでは少し趣を変えて、恐竜の世界から位置情報を眺めてみよう。

 ケータイやスマホの便利な機能として日常生活の中で利用されているGPS。私たちが道に迷うことなく目的地に到着し、周辺のお薦めレストラン情報を手にするのは、衛星からのGPS信号や携帯基地局との間でやりとりする位置情報のおかげだ。

化石発掘に利用されるGPS端末の一例(Glen Rose Dinosaur Track Expedition, 2012:Paleontology meets the 21st Centuryより)

 こうした位置情報は、恐竜発掘のような広大な砂漠を相手にするフィールド調査にこそ威力を発揮する。なにしろ、古生物学者の活躍の舞台は、人間の営みとは無縁の悠久の大地。そこは道もなければ目印になる建物・標識もない。せっかくの大発見も、場所を見失ってはならず、発掘地点を正確に把握・記録することが重要なのは、昔も今も変わらない。実際、化石発掘の学術調査において、今やGPSトラッキングデバイスは必須のアイテムになっている。

 19世紀前半に英国で始まった恐竜研究の舞台は、欧州から北米、モンゴルや中国、アフリカ、南米、果ては南極大陸と世界中に広がっている。日本でも貴重な化石の新発見が相次ぐが、“埋蔵量”の観点で言えば、やはり広大な砂漠に視線が集まる。背中の帆が特徴的な「スピノサウルス」(ジュラシックパークIIIでティラノサウルスと闘い一躍有名になった)の化石も、20世紀初頭にドイツの高名な古生物学者エルンスト・ストローマーの功績によってアフリカのサハラ砂漠で発見された。

 この貴重な標本は、ドイツ・ミュンヘンの博物館に保存されていたが、第二次大戦中の空襲により永遠に失われたため、最近まで「謎の恐竜」とされていた。この謎を解明すべく、米国調査チームが約90年ぶりの“再発見”を目指して2000年頃にサハラ砂漠に乗り込んだ。この調査記録は一般書籍としても出版され、多くの恐竜ファンを魅了した(筆者もその一人)のだが、同書の中で、最新装備の一つとしてGPSの活躍が描写されている。GPSの位置情報には高度も含まれるため、場所の特定だけでなく地層の厚みも計測できる。データの解析により発掘地点の三次元地図も作成可能だ。
2009年幕張メッセ「恐竜 2009 砂漠の奇蹟」展示のスピノサウルス全身骨格(筆者撮影) スピノサウルス全身骨格模型(筆者所有・撮影)

 GPSが活躍した米国チームの調査も今となっては10年以上前の話。当時、ケータイはあっても、現在のようなスマホやタブレットはまだ出現していない。現在の発掘調査の最新装備には、さまざまな画像処理に長けているタブレットが加わる場合もあるようだ。ストローマーによるスピノサウルスの最初の発見から約100年経ち、位置情報を含む通信技術は飛躍的に進歩した。ケータイも、「ガラパゴス化」と揶揄される独自の進化を遂げたものもあれば、スマホのように急速に勢力を増す新種も出てきた。

 ちなみに、スピノサウルスの仲間の歯とされる化石は、2003年に日本(群馬県神流町:旧中里村)からも発見されている。実は、この付近からは、1985年に恐竜の足跡化石が発見されている。まさか、恐竜が道に迷わないようにわざわざ足跡を残したわけではないだろうが。

<後編につづく>

(山本雄次)

2012/9/26 10:00