世界のケータイ事情

モンゴルの旧正月

 アマルバイノー、サイハンシンレッヂバイノー(Amar baina uu? ,Saihan shinelej baina uu?)。ほとんどの方が何の暗号か? どこかの言葉か? と思われたことだろう。これをスラスラと読めた人は、横綱白鵬か、モンゴルにゆかりのある人に違いない。

 2009年10月、筆者は初めてモンゴルに降り立った。モンゴルの携帯電話会社に勤務することになったためだ。赴任した10月は、日本と違い既に雪がパラパラと降っており、緑もほとんどなく、日本からたった5時間で行けるのに何だかとても遠いところに来た気がしていた。12月に入る頃にはマイナス30度に達し(田舎ではマイナス50度)、赴任したての私には外に居ると生死をさまようような気さえしていた。

 ウランバートルにはモンゴルの総人口300万のうち、約半分の130万人が集中して住んでいる。その内約40%が街の中心にあるマンション群に住み、その周りをゲル(遊牧民の移動式の家)地域が囲っている。マンションではセントラルヒーティングシステムが使われており、部屋の中に配管が張り巡らされ、その中を温かいお湯が流れるため、部屋の中はとても暖かい。一方でゲル地域での暖房は、石炭ストーブが多く使われている。モンゴルの田舎でこの石炭ストーブを使う分には、あっという間に外の空気と交ざり問題ないだろう。しかし、ウランバートルのような都会で石炭ストーブが一斉に使われると、空気が見る見るうちに汚くなる。日本にいたらまず経験することはないだろうが、空気の汚れがはっきり目に見えるぐらいだ。田舎に行くのであれば良いが、真冬のウランバートルへの訪問はあまりお勧めできない。

 モンゴルの携帯電話事情に少し触れると、携帯電話は普及率100%を超え、老若男女問わずほとんどの人が携帯電話を持っている。携帯電話事業者は4社あり、プリペイド式の携帯電話が一般的に使われている。スマートフォンも徐々に浸透して来ており、お金がない若者は隣の中国から仕入れてきた低価格スマートフォンを使用している。

 さて、話を元に戻すと、“アマルバイノー、サイハンシンレッヂバイノー”とは、旧正月で行われるモンゴルの挨拶だ。モンゴルでは、他のアジア諸国と同様に西暦の正月のお祝いはほどほどで、旧正月を盛大にお祝いする習慣だ。夏のナーダム(相撲・競馬・アーチェリーの競技会)と合わせて2大イベントの一つである。旧正月はモンゴルではツァガンサルと呼ばれ、親戚、友人、会社の同僚の家を次々と挨拶に回る。毎年ツァガンサル期間は変わるが、2015年は2月18日~20日の間である。各家庭を回る際に、ツァガンサル期間中は特別な挨拶、振る舞い方をする必要がある。そこで今回は、赴任時代に教わった招待された場合にどのように振る舞うかにフォーカスしてお伝えする。

(1) まずはドアを開け、一言“サンバイノー”(こんにちは)と一言伝える。

(2) 部屋に入ったらコートを脱ぎ、帽子をしたまま中へ進む(モンゴルの正装は帽子をした状態)。

机の上にはこれでもかと盛り上げた食べ物の山がある。へビンボーというクッキーのようなパンを積み立てた山の上に、モンゴル伝統のアーロール(乾燥チーズ)等のお菓子を載せたものと、その周りには野菜やお肉、アリヒ(ウォッカ)などが所狭しに並べてある

(3) 席に座る前に、その家の一番の年長者から順番にツァガンサルの挨拶を行う。両手でお皿を持つように肘を折りまげて、青い布地(事前にお寺で購入)を両手の親指と人差し指で挟んで持つ。この時にお金を右手の布地の下に忍ばせおく。お金の目安は5000MNG(約300円)~2万MNG(約1200円)

折りたたみ込んだ端は必ず相手に向ける
お金を布地と手の間に挟み込む
手を下に入れる

(4) 準備ができたら、年長者が肘を出したら、手をその下を通すようにし、両ほほを交互にくっつける。その時“アマルバイノー、サイハンシンレッヂバイノー”(お元気ですか。良いお年をお迎えですか)と挨拶の言葉を交わす。

(5) 元に戻ったら、年長者が青い布地とお金を受け取るので、そのままにしておく(布地は受け取らない場合もあるので、その場合は右手に集めて持ち帰る)。

(6) 終わったら布地とお金を再び準備し、次の年長者のところへ行き同じことを繰り返す。

右手を相手の上に、左手を相手の下にする

 ところで、年長者から順番にと書いたが、もし相手が同じ年齢の人の場合であったらどうするか? 答えは片手を相手の上に、片手を相手の下に入れて挨拶を行う。この場合お金は不要である。

 また、会社では新年になると、最初の出勤日に上司に挨拶するが、この場合は布地やお金は必要ない。

(7) 挨拶が一通り終わったら席に座る。ボウズが蒸しあがる間に、お酒と野菜やお肉を勧められる。お酒を注がれたら“乾杯”を表すモンゴル語“トクトーイ”で飲む(基本的に男性は一気に飲み干す事を求められる)。

(8) ボウズが蒸しあがって来たら最低3個は取る(3個は取らないと失礼に当たる)。

(9) 次から次へとお互いに挨拶に回るため、あまり長時間お邪魔しないのがルール。1時間程度したらサッと帰ることを伝える。

(10) 帰り際に年長者からお土産をいただけるのでありがたく頂戴する。

 ところで、もしお土産の中に、携帯電話会社のプリペイドカードがあったらラッキー! 携帯電話各社からは、この時期だけの限定のプリペイドカードが販売される。各社共にツァガンサルをイメージした凝ったデザインのため、お土産にも使うこともできる。

Mobicomの2015年の旧正月用プリペイドカード