世界のケータイ事情

世界で進むモバイル決済への期待

 筆者はものぐさなところがあり、財布を持たずに出かけてしまうことがある。そのため、ちょっとした買い物にはよく携帯電話の電子マネーを利用している。

 最近では、携帯電話アプリのプリペイド式電子マネーでもクレジットカードとの連携によりオートチャージされるので、残高が2000円以下になったら5000円チャージするなどの設定をしておけば残高不足を心配する必要はない。何よりも、ジャラジャラ小銭を取り出すという面倒なやりとりが発生しないのが嬉しい。

 ただ、勤務先近くでランチにくり出すと、ラーメン屋や昔ながらの定食屋などでは現金しか取り扱わないお店がほとんどで、残念ながら携帯電話は財布としての役割を果たしてくれない。ラーメン好きの筆者としては、ラーメン屋の電子マネー導入をぜひとも進めてもらいたいと切に希望するところである。

 このように、利用店舗が限定される点ではまだまだ十分普及しているとは言えないが、国内外で実際にどのくらい電子マネーが使われているのか気になったため、その利用状況を調べてみた。

電子マネーの方式はいくつか存在する

 まず、電子マネーの核となる近距離無線通信のNFC規格にいくつか方式があることに触れておく。日本で最も主流となっているのはFeliCa方式で、電子マネーの代表格であるSuicaやEdyがこの方式を採用しているため、日本で販売されているモバイル決済のできる携帯電話にはFeliCaチップが搭載されているものが多い。

 Apple Payが利用できるiPhone 6に搭載されたチップはISO/IEC 14443方式に該当するといわれているが、具体的な規格は公表されていない。したがって、現時点のApple Payは、セキュリティー認証まで含めたNFC国際規格に完全に準拠していない可能性もある。

 少し話はそれるが、筆者はiPhone 6発売まで、機種変更の際には、電子マネー未対応であるiPhoneには見向きもしなかった。iPhone 6がNFC対応した段階でそろそろiPhoneデビューしてもよいかなと考えたこともあったが、FeliCa方式の電子マネーはiPhone 6では使えないことがわかり、結局iPhoneデビューには至らなかった。この分だと筆者がiPhoneユーザーになるのは当分先の話になりそうだ。

 それはさておき、FeliCa方式、ISO/IEC 14443 Type A/B及びISO/IEC 15693がNFC国際規格であるが、実際に決済をする店舗側のリーダー側がどの方式に対応しているかで使用の可否が変わってくる。店舗側の導入が進まない主な要因は導入コストや手数料が高いということだと推測するが、もしかすると、規格が統一されていないことも導入をためらわせる一因となっているのかもしれない。

【NFC規格ごとの採用例】

規格採用例
MIFARE(ISO/IEC 14443 Type A)taspoカード、欧州交通系カード
ISO/IEC 14443 Type B住民基本台帳カード、免許証
FeliCaSuica、Edy、WAON、nanacoなど

ここ最近の日本における電子マネー利用実態は

街でよく見かける「電子マネー使えます」のステッカー

 日本銀行決済機構局発行の決済動向(2015年4月)によると、2015年3月における電子マネー決済(非接触型ICカード及び携帯電話デバイスによる取引)件数は3億8800万件、決済金額は3851億円となり、2012年から増加傾向が続いている。電子マネー発行枚数も増加しており、全体で2億6396万枚、うち携帯電話は2766万枚である。全体ベースでみれば、日本人1人当たり2枚以上の電子マネーを利用している計算だ。すべてがアクティブユーザーではないかもしれないが、思っていたより利用者は多い印象である。

 店舗側にとっての直接的な導入メリットは、電子マネーによる集客効果や購買データと個人情報との紐付けによるマーケティングへの活用などが考えられるが、電子マネー決済が広がれば、現金の出し入れやおつりの準備のための両替が減らせるなど管理コスト削減にもつながり、導入による副次的な効果も見込まれる。管理コスト削減が手数料コストを上回ることができれば採算も取れるため、電子マネー利用の集客が期待される首都圏ではもう少し積極的に導入する動きがあってもよいのではないかと感じる。

一方、海外では……

 海外の状況はどうだろう。Capgemini社とスコットランドRoyal Bankにより発行されるWorld Payments Report 2014によると、先進国を中心に非現金決済の取引は年々増加しているようだ。2012年時点の全世界の実績で、非現金決済(銀行口座振替・引き落とし、クレジットカード、デビットカード、小切手などの取引)の全体取引件数は3340億件となっており、そのうちモバイル決済(携帯電話デバイスのみの取引)件数は110億件である。予測によれば2015年の全世界モバイル決済件数は470億件に達するとみられている。

 また、マッキンゼー社の2012年消費者調査で国別にモバイル決済の利用率を見てみると、1週間に1回以上利用する人の割合は、米国では16%、英国では20%となっている。

 さらに新興国については、ブラジルでは22%、インドでは18%、香港では30%、中国では28%となり、先進国並み、またはそれ以上に利用されているようだ。

マッキンゼー社2012年消費者調査モバイル決済利用率(出典:McKinsey Global Payments 2020:Transformation and Convergenceを筆者加工)

 ここでふと、新興国でモバイル決済の利用率が高い理由も気になり、あわせて調べてみた。すると、新興国は銀行口座の保有率が低く、モバイル決済であれば事前に現金で携帯にチャージし、銀行口座を介さず取引先に送金が可能であるため、クレジットカードなどの代替決済手段になっているとのことだ。

 筆者はネットワーク経由でチャージできることもモバイル決済の利点であり、銀行口座ありきの決済手段だと思いこんでいたため、銀行口座不要であることが新興国のモバイル決済の利用率に寄与していることが少々驚きであった。

 このように世界でモバイル決済利用が進む中で、日本ではすでに日本人1人当たり2枚以上の電子マネーが普及しており、利用件数の動向は店舗側の導入次第といった状況まで来ている。楽天では、店舗のEdy導入に際し、一部費用を負担するような動きもあるため、以前に比べて障壁はすいぶん下がっているように思われる。

 すべてのお店が電子マネーに対応しないまでも、筆者が財布を持たずに行けるラーメン屋が今より増えてくれることをひそかに期待している。