世界のケータイ事情

熱烈歓迎! ローマ法王

ナショナル・モールの中心にあるワシントン記念塔。高さは555フィート(169メートル)。内部には展望台があるらしいが、登ったことはない

 通信政策をテーマにした学会に参加するため、9月の下旬に米国の首都、ワシントンD.C.を訪れた。ダレス国際空港からタクシーに乗り込むと、運転手さんに「いいときに来たね。昨日まではとんでもない渋滞だったんだ」と話しかけられた。キューバ・米国を歴訪中のフランシスコ・ローマ法王がワシントンD.C.を訪れていたため、市内のあちこちで交通規制が行われていたらしい。「法王はもう行ってしまったから、今日はスイスイ走れるよ」との言葉どおり、30分ほどでホテルに到着した。

 その日は特に予定もなかったので、時差ボケ解消をかねてナショナル・モールに出かけることにした。モールとは、スミソニアンミュージアムや国会議事堂が立ち並ぶワシントン随一の観光スポット。地下鉄のスミソニアン駅を降りて地上に出ると、そこには一面の緑の芝生が広がっている……はずが、あいにく植え替え中で土が掘り返されており、立ち入りが制限されていた。その上、多くの警官と警察犬が巡回しており、いつもとはかなり様子が違う。ローマ法王はもうワシントンを去ったはずでは? と、近くのフードトラックのお兄さんに聞いてみると、「次は中国のエライ人が来るらしい」とのこと。習近平国家主席の訪米が話題になっていたことを思い出し、警備が厳しそうな国会議事堂周辺は避けて、ワシントン記念塔(Washington Monument)の方を目指すことにした。

モールではリスに出会うことも多い。すぐ逃げるので、写真をとるのは結構難しい

 この日は暑いくらいのいいお天気だったこともあり、ミュージアムのまわりには半袖姿の人も多かった。お揃いのTシャツを着たアジア人らしい団体とすれ違った。ん? よく見ると、前面にはローマ法王の顔写真がプリントされている。さらに西に向かって歩いていくと、同じTシャツを着た人を何人か見かけ、そしてついにTシャツ、マグカップ、ステッカーなどの法王グッズを並べた露店を発見。しかも、ちょうど観光客らしい二人連れの男性がTシャツを買って、その場で着替えているところだった。熱心なカトリック信者だったのかもしれないが、バチカンならともかく、なぜここで買う? なぜすぐに着て歩く? 暑いからか? それはあるかも、などと不思議に思いつつ、モールを後にした。

 ホテルに戻ってテレビのニュース番組をつけると、そこにはニューヨークに移動したローマ法王の姿が映っていた。ちょうどセント・パトリック大聖堂に到着したところで、まわりにはスマートフォンを片手に法王の写真をとろうとする人々が山のようにあふれていた。これは別に珍しい光景ではない。驚いたのは、大聖堂の中で待っていた大勢の司祭やシスター、その他の来賓らしき人々まで、我先にと通路に身を乗り出し、スマホをかざして法王の写真を撮ろうとしている姿だった。中には法王に声をかけられて言葉をかわしながらも、同時に写真をとろうとしている人もいた(さすがに自撮り棒を持っている人は見かけなかったが)。日本だったらこんな場面では、写真撮影は控えて下さいとか、自分の席でお待ち下さい、とか注意されるのではないだろうか(そもそもスマホはしまっておくのでは?)。

ハロウィンを前にあちこちでかぼちゃが飾られていた。これはジョージタウンの北にあるダンバートン・オークス庭園のもの

 しかし、法王やそのまわりの人達も特に気にする様子はなく、ゆっくりと聖堂の奥へと進んでいった。夕べの祈りが捧げられた後、法王が退出するときには、またたくさんのスマホがかざされ、パシャパシャが繰り返されていた。さすがにお祈りの最中には写真はとってなかったと思うのだが、シスターのあの衣装のどこにスマホを入れておけるようなポケットがあるのだろうか、と気になって仕方なかった。

 その後も、ホテルでテレビをつけるたびに各地で熱狂的な歓迎を受ける法王の姿を目にした。CNNにいたってはほぼ終日、法王のニュース一色だった。訪米中の中国の要人は? 日本の首相も国連で演説しているのでは? と、チャンネルを変えてみたが、少なくとも私がホテルでテレビを見ていた朝と夜の時間帯には、こうした話題が取り上げられている様子はなかった。

 法王以外にテレビでよく見かけたのは共和党の大統領候補、ドナルド・トランプ氏だった。過激な発言で何かと物議を醸しているトランプ氏だが、ちょうどこの時期は女性対立候補のカーリー・フィオリーナ氏について「誰があんな顔のやつに投票するんだ」と発言し、女性を中心に大きな反感をかっていた。そういえば、CNNでは「法王を3つの単語で表そう(Popein3Words)」とツイッターで呼びかけていた。テレビの画面の下にhumble、charitable、graceなどといった単語が流れていく中で、私が一番ウケたのは「Opposite of Trump(トランプとは正反対)」というものだった。