英国大使館モバイルコンテンツセミナー

「日本企業よ、来たれ」、英国市場最新動向の紹介イベント


 駐日英国大使館は18日、日本のコンテンツプロバイダに対し、英国市場への参入の参考となる情報を紹介するセミナー「英国モバイル・コンテンツの最新3G マーケット動向 ―日本企業にとってのビジネスチャンスとは―」を開催した。

ウォレン駐日英国大使

 セミナーでは、日本の携帯コンテンツ業界団体であるモバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)常任理事である岸原孝昌氏が登壇したほか、英国貿易投資総省 デジタルテクノロジー&コンテンツ セクター・チャンピオンのトニー・ヒューズ氏と英フューチャー・プラットフォームズ社長のトム・ヒューム氏から英国の状況に関する説明が行われた。

 冒頭、ディビッド・ウォレン駐日英国大使は「今回は、英国のコンテンツ最新動向と日本企業にとってのビジネスの機会を伝えるため、2人のエキスパートを招き、日本企業の立場から見た海外展開の可能性について講演を行う。2012年にはロンドン五輪/パラリンピックが開催され、多くのチャンスがある。ロンドンに拠点を置けば、EU市場にも進出しやすくなる。日本の優れた技術とノウハウの展開を検討してほしい」と聴衆に呼びかけた。

MCF岸原氏が語る日本企業海外進出のポイント

 岸原氏からは、日本の携帯コンテンツ市場の現状紹介と、海外展開に必要と思われる要素の分析などが語られた。

 1億を超える携帯電話が利用される日本市場では、そのほとんどが3G端末であり、半数がパケット通信料定額制サービスを利用する。特に定額制の普及は、リッチコンテンツの利用促進に与えた影響は大きい。また日本で順調にコンテンツ市場が立ち上がったのは、キャリアの料金回収代行サービス手数料が10%が適正であり、コンテンツビジネス拡大には有効だったと岸原氏は分析する。

MCFの岸原氏

 現在人気のコンテンツは1190億円市場を形成するまでになった着うた分野で、国内の音楽配信市場のうち25%程度を占める。一方、2005年には1000億円市場だった着メロ分野は現在、473億円市場に縮小した。また注目の分野としては、電子書籍/コミック、ヘルスケアが挙げられたほか、ドコモのiコンシェルのようにライフログや行動パターンにあわせた情報配信も実現しつつある。

 “ガラパゴス”と揶揄されるほど、世界よりも進んだ端末が普及し、それにあわせたサービスが登場しているにも関わらず、「海外展開する日本のコンテンツ企業はうまくいっていない」とする岸原氏は、「日本ではWebベースのサービス提供が当たり前だが、海外ではSMSを活用した課金ビジネスの割合が大きい。告知の方法もフリーペーパーを使ったり、マスメディアを使ったりして、それらがポータルサイトの役割を果たしている。また、日本では会員制の課金方式が成功要因の1つで、海外では従量制が中心」とし、コンテンツ提供や課金の在り方に違いがあり、その壁を乗り越えられなかった結果と説明する。

日本のコンテンツ市場の内訳海外と日本との違い

 キャリアの配信サービスを利用することもできるが、手数料が日本よりも高いことがあったり、端末メーカーごとに仕様が異なったりする点も障壁となっているという。

 岸原氏はこれらの課題の解決のほかにも、著作権管理など業界団体レベルや国レベルで情報を整理、提供する必要性を指摘したほか、海外のモバイル関連情報の収集を政府レベルで取り組むべきと提言した。

海外進出に向けた施策の提言も政府~民間、各レイヤーでの取り組みが必要と指摘

 

英国市場にiPhoneが与えた衝撃

 続いて登壇した英国貿易投資総省のトニー・ヒューズ氏は、英国の市場規模などを紹介。英国での3Gサービスは、現在アクティブユーザーが30%程度、初期導入フェーズから普及期(Early Majority)に入りつつあるとしたヒューズ氏は、英国では携帯電話単独の契約ではなく、固定網などと組み合わせたパッケージサービスが多く用意され、より安価に契約できることが特徴とする。

 端末販売は2008年通期で3220万台で、スマートフォンが成長すると予想されている。1人あたり1.25台の携帯電話を持っており、通信事業者の収益源は、依然として音声通話サービスが115億ポンド(約1兆7200億円)で中心となる一方、SMSが約30億ポンド(約4500億円)で、コンテンツは10億ポンド(約1500億円)ほどとされている。端末販売については、2005年までは12カ月契約が中心(同年第1四半期で88%)だったが、徐々に18カ月契約が増加し、2009年第1四半期には60%を占めている。その一方で1カ月契約という短期の形態が出現し、現在は24%を占めている。

英国での端末販売動向英国での契約期間
英国の携帯キャリアの収入内訳英国ではiPhoneが複数キャリアで販売されることに

 コンテンツ市場については、キャリアの手数料が70~80%、つまりコンテンツプロバイダ側の収益は20~30%と日本の逆と言える状況であったが、アップルのiPhoneが登場し、App Storeの手数料が英国キャリアよりも低いことから、英国コンテンツ市場へ参入しやすくなったと語る。また英国のユーザーにとっても、かつては通信料がかかるためコンテンツが利用しづらい状況だったが、定額制の登場で、コンテンツの利用が促進されているという。

英国貿易投資総省のヒューズ氏

 ヒューズ氏は「iPhoneは英国市場をかなり啓発してきた。これまではO2(英国のキャリアの1つ)が販売してきたが、ボーダフォンやORANGE、T-Mobileといった他社も販売することになり、これまでに予約が25万件に達した。App Storeでコンテンツを提供すると、クレジットカード決済によって、ユーザーはコンテンツプロバイダへ直接代金を支払える。英国市場では、平均年齢が32歳で17%がアプリのダウンロード経験があり、そのうち6割がゲームをダウンロードした。ユーザーの半分は女性で、男性以上にアプリをダウンロードする。iPhoneはユーザーインターフェイスが使いやすいという重要な側面がある。これまでもスマートフォンは存在し、一部機能は使われるが、その他は使われないという形だったが、iPhoneはそれを変えた」と紹介した。

 質疑応答の中でも、比較的シンプルなコンテンツであれば、スマートフォン向けのアプリケーション配信プラットフォームへ参入するほうが英国キャリアの配信サービスに食い込むよりもたやすいと紹介され、iPhoneが英国市場へ大きな影響を与えたがよくわかるプレゼンテーションとなった。

 

英国で成功している事例とは

フューチャー・プラットフォームズ社長のヒューム氏

 最後に登場した英フューチャー・プラットフォームズ社長のトム・ヒューム氏は、英国市場における過去10年の大きなトピックとして「3G免許のオークション」「WAPが失敗と見なされたこと」「高額なデータ料金体系」「iPhoneの登場」の4点を上げる。

 最初の点は、2000年に英国で行われた周波数オークションのこと。落札価格は、全事業者あわせて224億ポンドに達したが、ヒューム氏は「もし落札できなければ10年~15年は3Gサービスを提供できない、として入札が行われたが、落札額を回収することもできなかった。その結果、英国では3Gサービスは消費者向けサービスのブランドとして確立されなかった」と、3Gサービスの遅れに繋がったと分析した。

 WAPは、GSMなどで採用されたコンテンツの仕様で、英国ではコンテンツが少ない状況であり、3Gとの組み合わせは失敗したと受け止められた。実際には徐々に利用が増加したものの、やがて消えゆく存在と見られていたため、投資家が遠のいた。この時期、長期的視野に立って参入した事業者は現在成功しているとしたものの、当時の料金体系は分単位の課金だった。

 その後、データ通信容量(メガバイトあたり)での課金となったが、どう測定しているかユーザーにうまく伝わらず、初期に使ったユーザーが高額請求に驚き、「Bill Shock(ビルショック)」と呼ばれた。英国版“パケ死”とも言える事象だが、その後、定額サービスが導入され、iPhoneの登場によって、2.5Gというネットワークながら英国でのコンテンツ利用が促進される状況に至った。

過去10年における4つのポイントコンテンツの事例として紹介された「Flirtomatic」

 具体的なコンテンツの事例として、英国発の“出会い系”(英国大使館員は“ケータイナンパ”と呼んでいた)とされるモバイルSNSサービス「Flirtomatic(フロトマティック)」も紹介された。同サービスを一言で表現すると「他のユーザーにちょっかいをだせるサービス」(ヒューム氏)とのことで、携帯電話を通じてプレゼントを贈ったりできるという。

 当初は毎月、毎週などといった区切りで課金する方針だったが、収益化には繋がらなかった。しかしながらトラフィックは十分にあり、仮想通貨を使って「プレゼントを購入して贈呈できる」という仕組みにしたところ、あるシーズンには350万本のバラが同サービス経由で販売され、80万ポンドの売上に達したという。また「Visibility services」と呼ばれる機能では、他のユーザーに向けて自分自身をアピールする“広告”が出せるというもので、「Vanity services」は他のユーザーを評価できるという機能。いわば自分自身のブランド化を両機能で行えるようになっているという。こういった付加価値的サービスがFlirtomaticの収益の75%を占める一方、広告は25%に達し、広告媒体としても成長している。

収益の75%を付加価値的サービスで、25%を広告が占めるブランド構築などが英国での展開では重要とした

 同サービスは英国以外でも展開されており、会員登録後の利用率は66%、1人のユーザーは1日あたり30通のメッセージをやり取りする。また1日あたり7回、サイトへアクセスするとのことで、これは英国市場では高い頻度になるという。

 このほか同氏からはパズルゲームコンテンツや、新聞紙「ガーディアン(Guardian)」のコンテンツが紹介され、「もし英国へ進出するのであれば、ブランド構築が成功に繋がる要因だ。パズルゲームを提供した企業は35年の歴史があり、ガーディアンも世界的な新聞社。唯一ゼロからスタートしたのはFlirtomaticだが、ブランド構築に注力した」と語り、マーケティング戦略の重要性を指摘した。ただし「ドイツでは単語の綴りが長いため、クロスワードパズルが受け入れられなかった」」「米国よりも英国のほうがキャリアと連動しやすい」などといった点を上げ、地域性には考慮すべきとも語っていた。

 



(関口 聖)

2009/11/19 06:00