【CEATEC JAPAN 2010】
ドコモ辻村氏、LTEやグローバル戦略を説明


 「CEATEC JAPAN 2010」のキーノートスピーチで7日、NTTドコモ代表取締役 副社長の辻村清行氏が「ケータイの今とこれから」のタイトルで講演し、CEATECに出展した内容を中心に同社の今後のサービス像や、現在力を入れている取り組みなどについて説明した。

ドコモ副社長の辻村氏

 辻村氏はまず、世界の携帯電話市場の概況に触れ、中国とインドというふたつの急成長市場を持つアジア地域がここ数年最も大きな伸びを示していることを紹介。一方、日本では携帯電話契約者数が1億1000万を超えて、ほぼ「1人に1台」の時代となっており、その伸びは鈍化している。

 日本市場の大きな特徴であり、他の国と比べ大きく進んでいるのが、携帯電話からのインターネット利用である。1億1000万のうち、およそ9000万のユーザーがiモードなどのインターネット接続サービスに契約しており、日本では誰もが携帯電話でインターネットを利用しているが、全世界で見ると携帯電話からのインターネット利用率はまだ30%ほどに留まるのだという。また、世界では現在も2G(第2世代)のGSM方式が主流だが、日本は3G(第3世代)への移行率も世界トップクラスだ。

 その結果として、1ユーザーあたりの収益(ARPU)のうちデータ通信が占める割合が日本市場では非常に高く、同社でも今年度中に音声通話の収益をデータ通信が上回る見込みだ。ARPUに占めるデータ通信の割合は欧州や韓国ではおよそ25%、データ需要が急増している米国でも35%ほどといい、日本の50%は突出している。

日本市場はデータ通信への需要が突出して高い

 データ通信に関する最大のトピックは、今年12月に導入を控えるLTE方式のサービス「Xi(クロッシィ)」だ。Xiでは、FOMAハイスピード(HSPA方式)と比較して通信速度が約10倍、周波数利用効率が約3倍、伝送遅延が約1/4となり、急増するデータ通信需要に対応するための同社の切り札となる。

 サービス開始当初は、パソコンに接続するデータ通信用端末からの投入となるが、サービスインから1年ほどで電話機型の端末も投入する予定。サービスエリアは東名阪地区の高トラフィック地域から展開(累計基地局数約1000局・人口カバー率約7%)し、2011年度末には県庁所在地級都市(同約5000局・約20%)、2012年度末には全国主要都市(同約1万5000局・約40%)をカバーする。

LTEへの設備投資額とサービス展開のロードマップ

 LTEに関する最近の動向に関連して辻村氏は、世界最大のユーザー数を擁する携帯電話事業者であるChina Mobile(中国移動)が導入するTDD方式のLTE(TD-LTE)について「TDDは上りと下りという周波数のペアでなく、ひとつの周波数でいい。Wi-Fi、WiMAXも使っている方式だが、その人たちはTDDのLTEに行く可能性が高いと思う」とコメント。WiMAX陣営からTD-LTEへと軸足を移すベンダーや事業者が増えるとの考えを示すとともに「細かく言うと(FDD/TDDという)2つの流れが出てくるが、LTEという大枠の中ではひとつなので、FDD/TDDデュアルモードの端末がいずれ主流になってくるのではないか」と話した。

 これまで、通信方式がPDC、W-CDMA、HSPAと進化するごとに、通信速度はざっと10倍ずつに加速してきた。LTEの導入も同レベルの進化となるが、ネットワークの大容量化で利用が一層加速すると考えられるのは動画コンテンツだ。そして、CEATEC会場において、映像に関して最も大きな話題は3Dである。辻村氏は「映画では3D化は既に大きな流れだし、テレビでも50インチくらいの画面で3Dを見る時代になるだろう。ゲームでは任天堂が『3DS』を出す。おそらくここ2~3年の間に、携帯電話も中心は3D端末になってくるのだろう」と話し、本格的なLTE時代を迎えると、携帯電話でも3Dが当たり前になるとの展望を示した。ドコモでも、今回のCEATECでは「触る3D」など立体映像に関するいくつかの要素技術を出展している。

新しい通信方式が導入されると速度は約10倍になり、新たな形態のコンテンツの利用が促進される3Dの波は携帯電話にもやってくるとの見方

 ただし、データトラフィックは毎年前年比約1.6倍、すなわち5年で約10倍になるほどのスピードで増大しており、LTEの導入だけでは良好なネットワーク品質を維持できない。同社でも上位1%の「超ヘビーユーザー」のトラフィックが全体の約30%を占めているといい、極端に利用の多いユーザー(直近3日間の通信量が合計300万パケット以上)が混雑中のエリアで通信を利用する場合、通信速度を制限する制御を行っており、この方針は今後も継続する。

前年比約1.6倍でのトラフィック増が続いている

 無線LAN対応端末の拡充やフェムトセルの導入といった負荷軽減策も並行して実施していく予定で、同社ではこれらの施策は、LTEや速度制限によっても対応できないほど今後のトラフィックが増加するおそれへの対策と位置付けており、現時点ではユーザー宅のブロードバンド回線を利用した負荷軽減を「積極策にしなくても良いのではないか」(辻村氏)としている。

 また、同社らが出資するマルチメディア放送(mmbi)による携帯端末向けマルチメディア放送も「データトラフィック爆発時代への対応の仕方のひとつ」(同)として活用し、映画や電子書籍などのコンテンツを蓄積型のファイルキャスティング、スポーツ中継やニュースはリアルタイムのストリーミングで提供する考え。

 製品やサービスのグローバル化に関しては、スマートフォン市場の世界的な急成長も関連してくる。辻村氏は、あと5年ほどで携帯電話の販売数のうち半数以上がスマートフォンになるという米調査会社CSMGの予測を紹介。世界全体ではスマートフォンは既に全携帯電話販売台数の1割程度まで増えているが、日本ではそれよりも低い。

mmbiの放送波もトラフィック増対策のひとつとして活用する考え世界のスマートフォン市場の動向と今後の予測

 これについて辻村氏は「日本の場合フィーチャーフォン(iモード端末など従来の標準型機種)で既にインターネットが使えていたが、欧米の場合そうではない。スマートフォンに移らなくてもある程度のインターネット接続は使えるため、世界のトレンドに比べて日本はスマートフォンの出方が遅かったが、いずれ世界のトレンドにあるような傾向になる。ここ数年で30%くらいがスマートフォンになるだろう」とコメント。その後は、フィーチャーフォンのスマートフォン化や、従来フィーチャーフォンでしか使えなかった機能のスマートフォンへの移植が進み、両者は融合していくと述べた。

 また、モバイルFeliCaチップ(おサイフケータイ機能)で実現されるSuicaなどの交通系サービスや電子マネーなどは「日本がはるかに進んでおり、世界がその後を追っている分野」(辻村氏)とアピール。世界にはFeliCaを含む複数の非接触ICカード規格があるが、「別々の方式を統一しようという取り組みがあり、海外へ行って地下鉄に携帯で乗ったり、決済したりができる時代が来るだろう」(同)と説明し、「おサイフケータイ」のサービスをスマートフォンに搭載し、世界各国の交通・決済サービスなどに対応させていくという方向性を示した。

 辻村氏は「せっかくこれだけ進んでいるビジネスモデルを、日本だけでなく世界にも打っていきたい」と述べ、ドコモの出資先事業者はもちろん、それ以外の事業者を含めサービスやコンテンツのグローバル展開に積極的に取り組んでいく姿勢を強調した。

NFCによる標準化でおサイフケータイの利用範囲を海外にも拡大するドコモが出資・展開する海外の事業者やサービス

 



(日高 彰)

2010/10/7/ 20:40