【CES 2016】

サムスンの社内ベンチャーから3つのプロジェクトが出展

ブースの様子

 CES 2016において、サムスンは同社の社内ベンチャー、Creative Lab Projectの3つのプロジェクトを初公開した。

 Creative Labはサムスン社内からアイディアを募集し、その中から選ばれたものがプロジェクト化され、社内のリソースを使って1年間研究開発し、その結果を判定するという制度。2012年より制度を開始し、プロジェクト募集は定期的に行われるが、1000件の応募に対して採用は10件程度というようなレベルの非常に狭き門だという。

 プロジェクト化に至ると、プロジェクトリーダーは社内から人材を集め、チームを作る。チームでは職種や職歴、役職は関係なく、トップダウン型のアジア企業であるサムスンとしては異例な組織体制となるという。

 プロジェクトは開始から1年後、社内で審査が行われ、サムスンの事業とするか、独立した会社を設立するか、プロジェクトを終了するかの判断が行われる。今回公開された3つのうち、「WELT」と「RINK」はそれぞれ6カ月目の折り返し地点にあるプロジェクトで、「TIPTALK」は1年が経過して新会社による事業化が決定している。このほかにも多くのプロジェクトが進行中とのこと。

 Creative Labという取り組み自体もユニークかつ興味深いものだが、そこで作られている製品のアイディアも非常にユニークだ。一方で研究開発にはサムスンの豊富な人的・技術的リソースを使えるため、ほかのスタートアップ企業とはひと味もふた味も違う完成度を見せていた。

 ちなみにこのCreative Labがブースを出展していたのは、サムスンのメインブースとは別の、スタートアップ企業がさまざまな製品を並べる「Eureka Park」というフロア。ブースにはサムスンロゴが小さく入っているものの、大手企業による製品としてではなく、ユニークなアイディアを来場者に見て判断してもらおうという意思の感じられる展示になっていた。

運動だけでなく食事も検知するセンサー内蔵ベルト「WELT」

 「WELT」はベルト型のウェアラブルデバイス。加速度センサーなどに加え、ベルトにかかる張力を計測するセンサーやベルトがどの穴で固定されているかを検出するセンサーが内蔵されていて、歩数や座っていた時間といった活動量に加え、ウエストサイズや食事の回数などを計測し、スマホ上のアプリで確認できる。

 見た目はほぼ完全に普通のベルトで、センサーがどこに内蔵されているかは一見しただけではわからないほど。普通のベルトとして着用することができる。スマートフォンとはBluetoothで接続する。

 このプロジェクトのチームリーダーは医師でもあり、医師の知見が活かされたウェアラブルデバイスとしてプロジェクトが進められている。

VELT。一見するとただのベルト
連携アプリ。ベルトのテンションがリアルタイムでモニタリングできていた

省電力性能が売りのVR向けコントローラー

RINKの利用イメージ。ちなみにこの男性はWELTのチームリーダーらしい

 「RINK」はGearVRなどのVR環境向けのコントローラー。両手の位置と動きを検出し、VR空間内のものを掴んだり、手をポインター代わりに使ったりできる。

 手のひらを認識する技術としては、「Leap Motion」などが有名だが、Leap Motionは手のひらを立体的に認識するために複数の赤外線カメラを高速駆動し、さらに赤外線LEDの投光も行うため、消費電力が高く、さらに手のひらの形状を画像認識にするためプロセッサー側の負担も大きく、GearVRのようなモバイルタイプのVRには不向きだ。

 RINKは省電力性とコストパフォーマンスを両立させた技術となっており、ヘッドマウントディスプレイ部に磁気を発生させる機器を設置し、手のひらには磁気センサーと指の動きを検出する赤外線センサーを装着する。

 磁気を測定することでヘッドマウントディスプレイと手のひらの相対位置(距離と方向)がわかる。画像処理ではないため計算能力は少なめで済み、消費電力も少なく、カメラのように検出できる範囲(画角)や遮蔽物の問題もない。

GearVRの上に磁気ユニットを装着するが、重さの変化は気にならないレベル
手のひら側のユニット。絶妙な柔らかさで手の甲を挟み込むので、安定性も装着感も良好

 デモでは、照準に手のひらを使うGearVR向けシューティングゲームが使われていた。現状ではレイテンシーや精度が若干低く感じられたものの、開発開始から6カ月のデバイスとは思えないほどの完成度とも感じられた。手のひら側のセンサーユニットも装着感がよく、本当にVR空間内に手のひらを没入させる感覚が得られた。

 このRINKはGearVRと接続してデモが行われていたが、開発においては特定のプラットフォームに限定されることなく、別のVR環境、たとえばOculus RIFTなどにも対応させたいとのことだ。

スマートフォン連動する時計用ベルト

TIPTALK。時計部分ではなくベルト部分がTIPTALKである

 「TIPTALK」は腕時計の汎用交換ベルトの形状をしたスマートフォン連動デバイスだ。18/20/22/24mmのバンドサイズに対応する。連動するスマートフォンはGalaxyシリーズやAndroidだけでなく、iOS機器にも対応する。

 すでに持っている好きな時計と組み合わせることが可能というのが一つの特徴になっているが、もっともユニークなのは、通話時の音声を出力するレシーバーがバンドの内側に搭載されていること。TIPTALKを装着した状態で指を耳の穴に入れ、ツメを外耳穴の固い部分に接触させることで、骨伝導のような形式で通話音を聞けるようになる。

通話時のイメージ。筆者は指を外耳穴に入れないと聞こえなかった

 同様の技術は日本でもNTTドコモが指輪型デバイス「指話」などを技術開発していたが、製品として採用されるのは非常に珍しい。

 スマホアプリからの各種通知に対応するほか、アクティビティトラッカーとしての機能も搭載している。microUSB経由での充電式で、防水はIP56準拠。連続稼働時間は7時間となっている。

 製品化の具体的な時期は不明だが、すでにサムスンから独立した会社として事業を展開しているという。

白根 雅彦