【CTIA WIRELESS 2010】
MediaFLO担当者に聞く、「携帯マルチメディア放送」の展望


 2011年7月の地上デジタル放送完全移行により、総務省からは、それまでアナログテレビで利用されてきた周波数帯が空き、新たな用途に利用される方針が示されている。そのうちの1つが「携帯端末向けマルチメディア放送」だ。

 総務省では、2007年夏頃から有識者による議論を進め、関連事業者も前後して参入への準備を進めてきたが、空き予定の周波数帯のうち、VHF帯のハイバンドと呼ばれる帯域を使った事業へ参入できるのは、事実上、1社になるという方針が今年2月に示された。

 この帯域で利用できる技術は、米クアルコムが開発し主導している「MediaFLO」と、国産技術でワンセグの技術を発展させた「ISDB-Tmm」の2種類。どちらも、仕様としては放送サービスのほか、映像のオンデマンド型サービスを実現できる機能、電子書籍などデジタルコンテンツを一斉配信できる機能などが実装されている。「MediaFLO」は、放送サービス限定ながら米国で既に実用化されており、沖縄や島根でのユビキタス特区の実験でも実績を着々と積み重ねている。

 免許割当が年内と目されている中、Qualcomm FLO Technologiesのシニアバイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーのNeville Meijers氏と、アジア担当ディレクターのAli Zamiri氏に、日本国内の動向に対する考えなどを聞いた。


――日本での携帯向けマルチメディア放送は、1社へ割り当てられる見込みとなりましたが、どう捉えていますか?

Meijers氏

Meijers氏
 日本で免許を獲得できるよう、KDDI、メディアフロージャパンという重要なパートナーとともに活動しています。MediaFLOはグローバルなエコシステムが確立されていると思いますので、日本企業が海外展開する機会に繋がると考えています。2月に「FLO-EV」という技術を発表していますが、これは現行のMediaFLOよりも周波数利用効率が35~40%向上します。ISDB-Tmmと現行のMediaFLOの周波数利用効率は同程度ですので、「FLO-EV」のほうが効率的ですね。

 サービス面についても、沖縄で披露したように、インタラクティブなサービスが可能ですし、車載端末も可能です。島根で行っているようにデジタルサイネージも利用できます。MediaFLOは、拡張性に優れ、競争力の高いプラットフォームだと思います。映像だけではなく、音楽、ニュース、ゲームなども配信できます。

――日本でMediaFLOを展開すると仮定した場合、米国との違いとして、周波数帯があります。マルチメディアのコンテンツ配信を行うのであれば、放送サービスだけ手がける米国とノウハウが異なるのではないでしょうか。

Meijers氏
 米国で放送サービスのみとしているのは、ホールセールビジネスということもあり、サービスを採用している通信事業者の決定によるものですが、MediaFLOとしては将来的に、端末側へ先に映像をダウンロードしておく蓄積型サービス(「タイムシフト」と呼ばれているという)などを導入するといった戦略を掲げています。周波数帯に関しては、ワンチップでUHF帯、VHF帯のハイバンド/ローバンドに対応しています。ただ、先述の「FLO-EV」は今後チップセットを開発する必要があります。

 ちなみにMediaFLOの米国における視聴時間は1日25分程度、月間750分程度となり、月間通話時間よりも多いのです。

――沖縄など、日本での実験によって、地形など日本特有の事情で培われたノウハウはどういったものがあるのでしょう。

CTIA WIRELESS 2010のクアルコムブースでは、車を置いて、後部座席で利用できるMediaFLO端末のデモを披露

Zamiri氏
 実験によって今後へ役立つ、さまざまなデータが得られました。サービス面でも、蓄積型配信や車載向けの実験を行っており、いずれも将来的な事業展開で参考になります。また、日本での実験では、沖縄はVHF帯、島根はUHF帯ですが、どちらも同じチップセットを用いています。周波数帯の違いは、さほど意識していません。

 これらの実験はKDDIとともに進めていますが、過去の「BREW」などと同じように、我々が開発したものをKDDIが実際のサービスとしてレベルを上げ、それを世界に展開できますので、KDDIとのパートナーシップは非常に重要です。たとえば沖縄の実験で用いられている京セラ端末は、グラフィカルなユーザーインターフェイスとなっています。米国でのテキスト中心のユーザーインターフェイスとは異なる、先進的なユーザーインターフェイスが実現されており、日本におけるKDDI、京セラ、ソフトウェア開発会社といったパートナーがユーザーインターフェイスのレベルを上げていただいたと言えます。

同社がスマートブックと呼ぶノートパソコン上で動作していたMediaFLOのデモでは、Twitterなどのコンテンツもあわせて配信していた

――バルセロナで披露されたTwitter配信のデモンストレーションは、非常にユニークでしたね。MediaFLOは映像やデジタルコンテンツを配信するプラットフォームですから、ユーザーは受け手になるわけですが、MediaFLOがコミュニケーションのきっかけになるといった点で、クアルコムがコミュニケーションを促進するような、何らかの環境作りを行う考えはあるのでしょうか?

Meijers氏
 3G対応のデバイスへMediaFLOが統合されることで、上りの通信を利用して双方向のやり取りできるといった点が重要で、パーソナルな端末である携帯電話だからこそ実現できます。KDDIはそういった革新的なサービスを常に考えており、双方向性の高いサービスについて、MediaFLOを使って実現することを考えているのではないでしょうか。また、自分が見たいコンテンツだけ選別して表示するといった機能が搭載されれば端末側がスマートになり、統合的なサービスが実現できるでしょう。

――日本に関してですが、ライバルのISDB-Tmmは国産技術です。「国産技術のほうが日本のためになる」という考え方をする人もいます。そういった人々へ、どうアピールしたり説明したりするのでしょうか。

Meijers氏
 日本企業がグローバルなエコシステムを活用することは、大きなビジネスチャンスに繋がります。特に端末の世界では、日本メーカーは日本市場へ注力してきました。しかしMediaFLOによって、米国などで展開することが可能になるわけです。

――日本にもメリットがあるという説明ですね。さて、国内では「マルチメディア放送」という名称で検討されていますが、放送といえば、日本では有料サービスの利用よりも「無料で利用するもの」という意識が強いです。仮にMediaFLOを日本で展開するとして、ビジネスとして成り立つほどユーザーを獲得できるのでしょうか。

Meijers氏
 MediaFLOは広告モデル、ペイパービュー、月額課金など柔軟に対応できます。肝心なのは、コンテンツにどれだけの価値があるかということです。たとえば携帯向けコミックなどは有料でも人気です。無料のテレビに慣れていても、コンテンツの価値次第というところはありますので、そのあたりは懸念していません。つまり、「放送型のネットワークで、効率よく配信できる」というところがポイントなのです。

――ただ、デジタルコンテンツを配信するIPデータキャスティングのようなサービスは、一定のリテラシーが求められるように思えます。

Meijers氏
 確かに、そのあたりはインターフェイスをシンプルに見せる必要があるのでしょうね。裏の仕掛けはいろいろあったとしても、ユーザーの使い勝手はシンプルにする。KDDIは、そういった面でも非常によく分かっていると思います。

――なるほど。ありがとうございました。

 



(関口 聖)

2010/3/25/ 10:30