【IFA2012】
グループ一丸となって進化したXperia


ソニーモバイルコミュニケーションズ Vice President Head of UX Product Planning 黒住吉郎氏

 既報のとおり、ソニーモバイルコミュニケーションズは8月29日(現地時間)、ソニーのプレスカンファレンスでXperiaシリーズの新モデルを発表した。フラッグシップの「Xperia T」とその派生モデルである「Xperia TX」に加え、LTE対応の「Xperia V」やミドルレンジの「Xperia J」まで幅広いラインナップを取りそろえた。いずれのモデルにもソニーのメディアアプリケーションを搭載。プレスカンファレンスではタブレットにもXperiaブランドを冠することが明かされるなど、グループ間の連携がさらに進んだ印象を強く与えた。

 このXperiaシリーズはどのようなコンセプトで開発されたのか。また、ソニーの100%子会社化が完了してから約半年が経ようとしている中、この体制変更が、ソニーモバイルや同社の開発する端末にどのような影響があったのか。Xperiaシリーズの商品戦略を担当するVice President、Head of UX Product Planningの黒住吉郎氏に、新Xperiaの狙いや100%子会社化後の変化を聞いた。

新機種群のコンセプト

――プレスカンファレンスでは「Xperia T」「Xperia TX」「Xperia V」「Xperia J」の4機種が発表されました。まずは、それぞれの位置づけや特徴を教えてください。

黒住氏
 今回は「Xperia T」と、日本市場での「Xperia GX」にあたる「Xperia TX」を発表しています。グローバルモデルとして通信方式はHSPA+ですが、どちらもクリスマス商戦に向けたフラッグシップモデルという位置づけです。TとTXを分けているのは、市場によって好みが違うからです。両モデルともソリッド感や高級感を押し出していますが、TXはよりシャープ感や軽さが強調されています。Tについては欧州市場を中心に訴求していき、アジアにも展開します。ただ、アジアの嗜好性を考えるとこの市場はTXが強いと思います。それもあって、「Xperai GX」は日本で先行して発売しました。TとTXの2機種には、このような緩い住み分けがあります。

フラッグシップの「Xperia T」LTEを搭載したハイエンドモデルの「Xperia V」

 同じラインに、「Xperia V」があります。T/TXとの大きな違いは、ディスプレイでT/TXが4.6インチなのに対し、Vは4.3インチです。逆にVは防水モデルで、ここには日本で培った技術をふんだんに盛り込むことができました。Vは(「Xperia acro HD」などと異なり)バッテリーを取り外すこともできます。これは小さな改善ですが、ユーザーにとっては大きなことですよね。オペレーター(キャリア)からも、サポート面を考えると着脱式の方がいいと言われます。また、VはLTEにも対応しています。クリスマス以降という時期には、各国のマーケットでLTEが立ち上がります。日本と比べるとネットワークの普及はまだ遅いですが、たとえば欧州だとドイツはカバレッジがいいほうです。本格的なLTEの立ち上がりは2013年ということもあり、Vの発売はやや遅くなっています(2012年第4四半期)。

普及価格帯にプレミア感を出した「Xperia J」主にアジア市場を狙う「Xperia TX」

 ただ、我々にはXperia普及のために価格を抑えたところを攻めたいという思いもあります。「Xperia arc」を出した時からアークラインは伝統的にフラッグシップだけにしていましたが、普及価格帯のモデルでこのプレミア感をキープしたのが「Xperia J」です。ディスプレイサイズも4インチと小さく、解像度もフルWVGA。チップセットも1GHz駆動のシングルコアです。一方で同一価格帯の(他社)モデルと比べると、カメラ機能は充実しています。これにプラスして、arcのデザインを踏襲してイルミネーションも光ります。上のラインで培ってきたことを、どう普及価格帯にまで落とすか。使える材料も限られる中で、プレミア感を出すことにチャレンジしたのがJになります。T/TXやVにとってリスクになるのではという意見もありますが、ディスプレイ、プロセッサ、カメラなど、スペックの差があり、これが最終的にはユーザーエクスペリエンスの差にもなると思います。

統一感のあるデザインの背後にあるもの

――以前に比べ、シリーズのデザインが統一されてきた印象を受けました。単独で写真に撮ってしまうとサイズの違いが分からないので、あとで整理する時に混乱してしまうぐらいです(笑)。この統一感は意図的なものですか?

黒住氏
 確かに、デザインに統一感を出したことで、個々の個性は丸まってきます。それをどのくらいのさじ加減でやればいいのか、ずっと模索してきました。おっしゃるように、正面から見ると区別がつきにくいのは確かです。一方で「Xperia NX」(グローバルでは「Xperia S」)については、正面にフローティングプリズムのベルトがあるので、一目で違いが分かります。ただ、デザインの“あく”が強いのは事実ですね。結果として、リーチできない層も出てきてしまった。バランスを上手く保ちながら、ユニークなデザインにしたい。アークラインのデザインを横展開することで印象に残るので、それはとても良いと思います。また、シリーズごとに発売するマーケットが異なるので、店頭に並んだ時にはそれほど違和感は出ないのではと思います。

――確かに、シリーズをまとめて見るのはIFAのような展示会や記事の中ぐらいですからね。ところで、今回はなぜアークラインにしたのでしょうか。

黒住氏
 NXTシリーズ(「Xperia NX」など)を出した時にも言ったことですが、ヒューマンセントリックデザイン(人間を中心に据えたデザイン)というフィロソフィー(哲学)自体は変わっていません。常に人の視点からデザインするというアプローチを取っています。「Xperia NX」は中央部分がやや盛り上がっていて手にフィットしますが、アークデザインでも同じことを言われます。つまり、デザイン的には表裏一体なんですね。ヒューマンセントリックの解釈の仕方で、どちらかの形になったということです。また、チップセット、バッテリー、ネットワークによって技術的にできること、できないこともあり、これらの世代によっても見せ方は変わってきます。一方で、今回はフラッグシップではないところまで、アークラインを入れています。ここまで来ているので、次の展開に向けた助走は考えてもいい頃かなとは思っています。

最新チップ、最新OSへの取り組み

――ちなみに、「Xperia V」にはSnapdragon S4の「MSM8960」を採用していますが、供給体制は大丈夫でしょうか。

黒住氏
 事実として、日本市場ではお客様にご迷惑をおかけしていて(「Xperia GX」および「Xperia SX」の品切れ)、そこに対してはお詫びするしかありません。メーカーの立場からすると、「MSM8960」はプロセスの世代が1つ進んでいることもあって、業界全体が厳しい状況に置かれています。ビジネスももちろんですが、業界全体でユーザーの方々にモノが届かないというインパクトは大きいですね。ただし、ソニーモバイルとしては、クアルコムとの長い関係を作ってきましたし、今後も良い関係を継続していきたいと思っています。

――Android 4.1(Jelly Bean)への対応はいかがでしょう。

黒住
 スピードは早くなってきていますが、まだ他社に劣っている部分があるかもしれません。実際、最新OSに近づけるのは、まだ時間がかかっています。もちろん、オペレーターによって違いがあり、日本ではNTTドコモ、KDDIがいて、彼らがどのような意向を持っているかにもよるところもあります。それは海外でも同じです。ただ、これはユーザーが求めていることでもあるので、できる限り早く対応していくつもりです。

ソニー100%子会社になって

――今回は「Xperia Tablet S」にも、同じメディアアプリや壁紙が入っていて、グループでの統一感が出てきたように感じます。

黒住氏
 スマートフォン、タブレット、VAIOでほぼ統一することができました。見た目もそうですが、使い勝手や機能としても近づけられたと思います。これまで、いい意味でソニーは各事業部が好き勝手にやっていたところがありました。それはそれでいいのですが、今の時代は色々なものが繋がっていくのが自然ですし、繋げるための技術もあります。そうなった時に、ここまでバラバラだとユーザーに対しても失礼になります。ソニー・エリクソン時代にはその敷居を越えられませんでしたが、100%子会社化して一体になったことで初めて統一感を出せました。

 具体的には、UX戦略商品本部という各事業部が集まる部署ができました。そこで話し合った結果、ソニーモバイルはやはり端末も多い。スマートフォン、タブレット、WALKMANの一部は同じAndroidを使っています。せめて、ここでは統一感を出そうということで、メディア系アプリのプランニング担当が、タブレットやWALKMANの企画設計と協力しながら推進してきました。

初のXperiaブランドで発売されるタブレット「Xperia Table S」XperiaシリーズやVAIOなどには、共通のメディアアプリケーションを搭載

 普通の会社だと当たり前のことかもしれませんし、小さな一歩かもしれません。ただ実際にそろえてみると、この“普通”はあっていいものに見えますし、“普通”ができなかったことが、これまでのソニーの問題だったと思います。自分ですらそうなので、ユーザーの方はもっとそう感じていたのではないでしょうか。企業として、ほかの会社がやっていることは真剣に見習わなければいけません。アップルやサムスンがやっているのにソニーがやらないというのは、単なるエゴですからね。もちろん、我々流のやり方はありますが、いいところは見習う。共通化することで効率化もできますし、余力が出ればそのぶんいいものが作れます。ただ外面だけをそろえても意味がないので、そこで生まれた余力を使うべきところに使っていければと思います。

――やはり、ソニーの100%子会社になって、大きく変わりましたね。

黒住氏
 100%子会社化はソニーとって、大きな判断だったと思います。買い取ること自体が大きなリスクであり、チャレンジですからね。それだけモバイルに対して賭けたいという思いがあり、平井のスピーチやIFAの展示の仕方、お見せしている製品や内容にも現れています。もちろん、ただのギャンブルではなく、ユーザーの嗜好性を考えると、どうしてもその方向になるのだと思います。

――NFCでの連携という打ち出しも、製品ラインナップの広い会社ならではという気がします。

NFCでヘッドホンやスピーカーと簡単にペアリングできる

黒住氏
 ソニーならではの一番簡単なやり方で、いかにリッチな経験を提供できるかを考えました。単純かもしれませんが、NFCを入れるのは各製品にとって追加のコストになります。ソニーにとっても投資になるので、おそらく1年前(ソニー・エリクソンだったころ)にはできなかったでしょう。

 NFCのいいところは、セットアップやペアリングといった作業が要らないところです。パッと触るだけでワイヤレスの接続が始まり、20ぐらいあったプロセスが1になります。ユーザーにとっての飛躍的な進化になる、そういう可能性を持っています。

――ただ、日本ではFeliCaが主流です。両対応チップの搭載もあるのでしょうか。

黒住氏
 日本市場でもNFCに対する需要が高まってきていて、ソリューションとしても実現可能な時期が近づきつつあります。確約はできませんが、コンボチップの対応は検討すべき課題としてとらえています。

――連携が進む一方で、まだプロダクトデザインという観点では、統一感が取れていないようにも感じます。

黒住氏
 実は「Xperia Tablet S」のデザイン責任者は、ソニー・エリクソンの2代目のデザイン責任者だった人物です。ですから、彼が監修したデザインはよく分かりますし、今のXperiaスマートフォンにも彼の培ってきたランゲージやフィロソフィーは生きています。タブレットは偏重心を打ち出していますが、ユーザーとの距離を近づけ、持ちやすさ、置いた時の美しさを出すのかという背景の部分はスマートフォンとも共通しています。タブレットはあの大きさなのでスマートフォンのようなデザインにはなっていませんが、根底に流れているものは一緒なんですね。ただ、そうは言っても見え方としてアークデザインと偏重心は異なりますし、共通性は今後もっと強く意識してもいいかもしれません。

 ソニーは事業部が分かれていても、クリエイティブセンターがあるので、ある程度の意思統一ができています。技術も重要ですが、商品企画とデザインはソニーの両輪ですからね。このように、これまでデザインには統一組織がありましたが、企画はバラバラでした。先ほどお話ししたUX戦略商品本部は、そこを統一しようという動きです。結果として同じAndroidのスマートフォン、タブレット、WALKMANだけではなく、WindowsのVAIOにも同じアプリを載せることができました。これも、商品企画が互いにやり取りをしている中でできたことです。

――Windowsにもメディアアプリが載ると聞くと、どうしてもWindows Phone 8も期待してしまいます(笑)。

新Xperiaの狙いを語る黒住氏

黒住氏
 突っ込んできますね(笑)。今置かれているソニーモバイルの環境や条件、リソースやバジェット(予算)、オペレーターとの関係を考慮し、ベストなものを提供しようとすると、今はAndroidになります。

 ただ、元々OSにこだわるつもりはありません。Xperiaも初代(海外で発売された「Xperia X1」)はWindows Mobileでしたからね。Xperiaという名前は、ユーザーが色々なことをできる“場”として定義したものです。ですから、質問にはYESともNOとも答えられません。環境やニーズが変わり、ベストなものが提案できる場がととのったら、Windows Phoneもやることになるかもしれません。むしろ、そのタイミングではやるのは自然なことです。マイクロソフトとは過去の経緯もあるので、定期的に情報交換はしています。副社長(Deputy CEO)の石田も、元々VAIOを立ち上げた人間ですからね。検討しているというより、同じ業界にいる仲間として定期的に情報交換はしていますし、マイクロソフトが進もうとしている方向性は理解しています。

 また、Windowsだけではなく、Vita OSもありますし、HTML5ベースのOSもあります。そういう意味では、あまりOSにはこだわりたくないというのが正直なところです。

――最後に、今後の方針や意気込みを教えてください。

黒住氏
 IFAで発表した製品では、ソニーモバイルの強みが徐々に出てきたと思います。今回はソフトでの統一感や、NFCを使った機器間の連携ができました。また、「Clear Audio+」での圧倒的な音質や、カメラの「Exmor R for mobile」、ブラビアエンジンでの画質のよさも実現しています。ただ、これは悪く言えば、まだソニーのものを寄せ集めているにすぎません。その意味では、これからようやく連携が加速し、他社を凌駕するところに来たのだと思います。素直なことを言うと、まだまだ伸びしろはありますし、そこをどうするかというソニーの真価が問われているのだと思います。

 Xperiaも単体ではなく、ソニーと一緒にやったからよかったと言われるものにしてきます。少なくとも、それはアップルやサムスンがやれていること。ソニーにできないはずはありませんし、生き残るために、そしてベストなものを提供するためにやらなければいけないことです。ぜひ今後に期待してください。

――本日はどうもありがとうございます。




(石野 純也)

2012/9/3 12:29