【Interop Tokyo 2010】
KDDIが描く、固定・携帯・放送を融合させた「FMBC」の将来像


KDDI取締役執行役員常務の嶋谷吉治氏

 ネットワーク関連の総合イベント「Interop Tokyo 2010」で10日、KDDI取締役執行役員常務の嶋谷吉治氏による基調講演「アクセス技術の多様化とFMBCの進展」が行われた。固定通信、移動体通信、放送を融合させた「FMBC(Fixed Mobile and Broadcasting Convergence)」を提唱する同社の戦略、携帯電話の実情などが解説された。

2年でトラフィックは2倍~SNS人気で増加傾向に拍車

 KDDIの主要サービスである、au携帯電話の加入者数は、2009年度末時点で約3200万件。そのうち88%が、EZwebもしくはモジュール系のIPデータ通信サービスを利用している。これにもなってトラフィック(通信量)も増加、2007年から2009年の2年で約2倍に達した。

 増加ペースそのものは近年さらに高まっており、YouTubeなどの動画配信サービスが普及したことが大きな原因だ。また、ゲームやコミュニケーションを楽しむためのSNSが、トラフィックを押し上げる傾向にもあるという。嶋谷氏は「データ系トラフィックが急増する時間帯は、従来なら22時~深夜にかけてだったが、近年は夕食の直後にSNSを楽しむことが多いのか、19時ごろから増加している」と、その変化を説明する。

 また、一部のヘビーユーザーがトラフィックの大半を占めるという状況も続いている。auでも、約3%のユーザーが、全トラフィックの45%を発生させている状況だ。2015年には、トラフィック量が現在の10倍におよぶとする社内試算も出ている。

 SNSに限らず、インターネットでは新種のアプリケーションが次々と誕生している。トラフィックの増加はほぼ必至とみられるだけに、嶋谷氏は「次世代のネットワークには、(新しいアプリケーションにも対応できる)柔軟さが必要だろう」と解説する。


利用されているアプリケーションの比率。2008年ごろを境にSNSが急速に増加したKDDIによるトラフィック増加ペースの予測。直近の実績をベースとした場合、ITU(国際電気通信連合)の予想を超えるという

アクセスの多様化でトラフィック分散~LTEも万能ではない?

 トラフィック需要に応えるために、ネットワークへのアクセス技術も発展している。au携帯電話は2002年に3G方式のCDMA2000 1x(CDMA 1X WINサービス)をスタート。その後も2003年のEV-DO Rev.0(3.5G)、2006年のEV-DO Rev.Aと進化させ、今年2010年秋にはEV-DO Rev.Aマルチキャリア対応を実施する予定。2012年以降にはLTE(3.9G)を見据えるなど、着々と高速化・高容量化を進めている。

 しかし、携帯電話をベースとした通信サービスには限界もある。LTEでは周波数利用効率の向上や周波数帯の広範化が進むため、現在の3Gサービスと比較してビット単価が5倍近く改善するとみられる。それでも、FTTH(光ファイバー)の代替をLTEだけで行うには限界があるという。

 ここで嶋谷氏は、東京都中野区の全世帯でLTEを使用するケースの試算値を紹介。利用可能な周波数帯域を226.7MHz幅と想定し、同区の全17.5万世帯に割り当てると、1回線あたりのスピードは279kbps程度にとどまる。逆に、FTTH並みの30Mbpsを実現しようとすると、48.8GHz幅もの周波数帯域が必要となり、現実的には困難だ。

 このため、膨張するトラフィックを支えるためには、さまざまなアクセス手段を用意する必要がある。フェムトセルやWi-Fi対応ケータイも、携帯電話網を使わずに固定系通信サービスへトラフィックをシフトさせるための施策だ。また、KDDIではグループ会社を通じ、UQ WiMAXなどの無線サービス、FTTHサービス「auひかり」など別種の回線サービスも手がけている。


高速化が期待されるLTEだが、FTTHを完全に置き換えることは難しい「auひかり」はギガ得プランが好評。年間50万加入のペースで利用者が増加しているという

FMBCではAndroid搭載STBがキーに

Fixed、Mobile、Broadcastingを融合させる「FMBC」の概念図

 KDDIでは、CATV業界第1位のJ:COM(ジュピターテレコム)、第2位のJCNいずれにも資本参加するなど、CATV事業者との連携を強めている。FMBCの構成要素である「Broadcasting(放送)」の担い手であるだけに、将来的にはコンテンツの共用なども視野に入れている。

 また「Fixed(固定回線)」と「Mobile(移動体通信)」の融合では、おもにサービス面が先行している。身近な例としては料金の一括請求サービス「KDDIまとめて請求」や、無料通話サービス「auまとめトーク」などがある。また「じぶん銀行」もその1つだ。

 そして、嶋谷氏が「FMBC連携のキーになるのでは」と語るのが、現在開発を進めているFTTHサービス用のSTB(セットトップボックス)だ。スマートフォンで実績のあるAndroidを採用することで、開発効率を高められるだけでなく、関連アプリケーションの実装も容易になる。家庭内に設置したSTBを中核にすることで、他のサービスとの連携が考えられる。CATV用STBへの応用も検討していくという。

 携帯電話、WiMAX、FTTHなど複数のアクセス手段と、それに対する多種多様なサービスを用意し、その間をつなぐ共通基盤「FMBCプラットフォーム」を構築するのがKDDIの大きな目標だ。嶋谷氏は「三社合併で誕生したKDDIも、今秋で設立10周年の節目を迎える。次の10年を考えたとき、やはり重要になってくるだのがFMBCだ」と語り、その重要性を改めて強調した。

 一方、FMBCに続く大きなテーマとしては、エコロジー問題も挙げている。基地局の消費電力低減を図るだけでなく、環境にまつわるさまざまな情報を収集し、一般顧客に提供していく必要もあると説明。FMBCプラットフォームは、情報収集用のセンサーをネットワークに統合するためのインフラとしても期待されるという。


AndroidベースでSTBを開発中「FMBCプラットフォーム」を構築し、さまざまな分野への応用を検討していく


(森田 秀一)

2010/6/10/ 16:36