【Mobile Asia Expo 2013】

新しい市場や技術への挑戦――黒住氏が語る「Xperia Z Ultra」

 既報のとおり、ソニーモバイルは「Mobile Asia Expo」で6.4インチの「Xperia Z Ultra」を発表した。タブレットとスマートフォンの中間的なサイズながら電話もでき、ソニーのディスプレイ技術を惜しみなく盛り込んだ1台となっている。

 この「Xperia Z Ultra」は、どのようなコンセプトで開発されたのか。また、6.4インチという大画面の端末を投入する狙いはどこにあるのか。ソニーモバイルで商品企画やUX(ユーザーエクスペリエンス)を担当する、黒住吉郎氏に話を聞いた。

パスポートサイズの6.4インチ

ソニーモバイルで商品戦略を担当するVice President、Creative Director、Head of UX Product & Portfolio Planning 黒住吉郎氏

――6.4インチというサイズは非常に珍しく、今までになかったジャンルの製品だと思います。このサイズにはどのような意図があったのでしょうか。

黒住氏
 6.4インチというのは、商品カテゴリー的に新しいもので、どのくらいのビジネスサイズがあるのかまだ分からないところがあります。一方でリアリティを言うと、競合製品(サムスン電子のGALAXY Note、GALAXY Note II)があり、彼らは新しいエクスペリエンスに膨大なマーケティング費用もかけ、市場を作ってきました。

 市場としては、アジアを中心に大きなディスプレイに対する需要が急速に高まっています。背景はいろいろありますが、使い方が違ったり、考え方が違ったりで、そういうトレンドはどう化けるのか分かりません。急速に日本やアメリカ、欧州に広がるかもしれないですし、局所的なものかもしれない。でも、僕たちはそれが広がると思っています。市場としては魅力的で、可能性もあります。そういうこともあって、今回、「Xperia Z Ultra」を中国で発表しました。

6.4インチのディスプレイを採用した、「Xperia Z Ultra」

 Xperiaのファミリー感を出しながら、次をやるなら大きいものというのはありましたが、やるなら実用性を兼ね備えたスマートフォンを、ちゃんと作りたかった。どこまでディスプレイを大きくできるか、アイディアを出したあとはモックアップを何個も作りました。ディスプレイを大きくしつつ、片手持てる、この2つのせめぎあいでした。

 プレゼンでもデザイナーがパスポートケースを紹介していましたが、「Xperia Z Ultra」の横幅は、パスポートとまったく同じ横幅です。パスポートと同じということが、6.4インチにした最後の決め手になっています。

 よく何cm、何mmが最大なのかと聞かれますが、物理的にあるもので常に持っていてサイズ感を覚えているものがパスポートです。ソニーモバイルはグローバル企業なのでスウェーデン人もいれば、アメリカ人も、中国人も、日本人もいます。彼らや僕らのパスポートを見ると、大体サイズは同じです。ワイシャツやスーツのポケットに入ることと、なくしてはいけないものなので片手で必ず持てること。また、検査官が調べるときのポータビリティも必要ということで、このサイズに落ちついたようです。たとえば、これがA4ぐらいのサイズだと、大きすぎるし片手では持ちにくいですよね。「Xperia Z Ultra」をこのサイズにしたのも、理由は同じです。

Bluetoothユニットとセットで

――結果として6.4インチになったのであって、このサイズありきではなかったわけですね。

黒住氏
 もっと新しい商品を作りたいという機運は社内にもありました。一方で、「トリルミナスディスプレイ for mobile」という技術があって、スマートフォンをどこまで大きくできるのかにチャレンジしたいというのも、同時にありました。

――このサイズでも、あくまでタブレットではなく、スマートフォンなんですね。

黒住氏
 大きいは大きいですが、ちゃんと電話はできます。モックアップを作っているとき、必ずみなさんがやることがあります。この商品を渡すと、大体みんな耳に当てるんですね(笑)。鈴木(国正社長)も、同じことをやっていました。

 ただ、使いやすさにつなげたいと考え出したのが、このBluetoothユニット(SBH52)です。これまでもやや短いサイズのものはありましたが、これは縦に長く、そのまま電話ができます。瓢箪から駒ですが、弊社EVPのボブ・イシダ(石田佳久氏、ソニーモバイルのDeputy CEO)に、「Bluetoothのイヤホンがあるけど、なんでこれで電話できないの?」と言われたのが、開発のきっかけです。僕自身もBluetoothヘッドセットで話すのが苦手なので、なるほどと思いましたね。

 なぜ苦手かというと、やはり気恥ずかしい。電話するイコール、耳電話機を当てるというジェスチャーがあるからです。もしかしたら、ものの1年、2年で変わるかもしれませんが、過渡期には過渡期なりのやり方があります。ミニチュアライゼーションした子機ではなく、Bluetoothとしての役割もする。苦手ではない人はイヤホンを挿して普通のBluetoothヘッドセットして使えるものにしました。このヘッドセットは、「Xperia Z Ultra」とのコンビネーションで成り立つもので、全体のストーリーを伝えられると思っています。

テイストを合わせたヘッドセットも発売される

新たなディスプレイ技術

――今回は薄さやディスプレイの技術も売りになっています。

黒住氏
 「Xperia Z」や「Xperia Tablet Z」もそうですが、Xperiaだから絶対にこだわりたいというところはあります。たとえば、それが薄さで、今回、我々の商品が一番です。もちろん数字上はさらに薄いものもありますが、フルHDのディスプレイやLTEなどをきちんと備えたものの中では一番です。5mm台のものも出てきますが、LTEがなかったり、防水がなかったりしますからね。Xperiaなら、この薄さにすべてを入れようというのはありました。

 防水に関しても、今回はIP55/IP58に対応しています。日本では当たり前ですが、これはグローバルで大きなマイルストーンにもなっています。また、防水をキャップレスにするのも積年の課題でした。やはりキャップがあるのはうっとおしいですからね。これは、デバイスをやっているパートナーを含め、がんばって実現できたことです。

 もう1つ防水に関係しますが、「Xperia Z Ultra」では、充電器の接点もマグネット式になっています。かなりデザインのいいチャージャーに、近づけるだけでカチャっと止まる。サイズもいいですし、チャージもしやすいんですね。もちろん普通のmicroUSBもついていますが、ここまでやったので、ふたを開けずに充電する方法を提案したかったというのがあります。ここにセットするとどう見えますか?

展示会場には、防水をアピールするコーナーも設けられていた
充電台にセットした姿は、まるでテレビのようだ

――テレビっぽいですね。

黒住氏
 そのとおり! インスピレーションをどこから得たのかというと、4KのBRAVIAです。「Xperia Z Ultra」は、これまでのXperiaの中でも一番きれいなディスプレイを搭載しています。テクノロジーとしても、IPS方式で視野角は格段に広くなりました。また、トリルミナスを採用したことで、色域も格段に広がっています。

 UX戦略商品本部(ソニーグループの商品戦略をジャンル横断的に策定する部門で黒住氏も所属)の中での会話が、このディスプレイを採用することにつながりました。UX戦略商品本部には、隣にテレビの商品企画もいますが、彼らから「色域を広げることをやっている」と聞き、今度見せてよという話になりました。実はテレビはあまり先の商品を見せないのが通例です。情報に対してセンシティブとういのはありますが、「One Sony」で見たとき、情報はシェアすべきという慣行も普通になってきました。

 テレビの部門は大崎にありますが、一目見てやはりすごかった。すぐに「これをやりたい」と言ってしまいました。ユーザーにとって、モバイルでも色域が広がるのはすごいことですからね。物理的に色域を広げるなら、根幹の部分のことで、絵作りに関しても一緒にやろうということになりました。

――色域も広いですが、「X-Reality for mobile」の効果にも驚きました。本当に映像が鮮明になりますね。

黒住氏

高い画像補正効果を得られる「X-Reality for mobile」

 レンダリングをリアルタイムでかけているので、パワーは必要になりますが、エンジニアのおかげでバッテリーにインパクトがないレベルまでオプティマイズ(最適化)できました。よく我々は「秘伝のたれ」と言っていますが、持っている技術をどう使うかが重要です。モバイルはそこに気をつけないと、いい技術でもバッテリーを食ってしまったり、熱がこもってしまったりします。X-Reality for mobileは長く使っていきたい技術なので、中途半端な形ではできませんからね。

 最新のクアルコムのチップセット(Snapdragon 800)も、省電力に貢献しています(※筆者注:X-Reality for mobileは、Snapdragon 800のGPU部分で処理を行い、省電力化につなげている)。

 おそらくこのチップセットを採用するメーカーでは、ファーストリーグの1人だと思いますし、ちゃんとした形で商品をお見せしたのは初めてだと思います。クアルコムとも、これまでに以上に戦略的な関係を築くことができました。

 このように性能が上がったことも、X-Reality for mobileを採用した理由の1つです。720pの映像が1080p相当になるのはすごいことです。なぜ、これができるのかというと、世の中にある写真や映像を、何千、何万と低い画質、高い画質の両方で用意して、両方を結ぶところをデータとして抽出しています。その過程のアルゴリズムを考えたものが、X-Reality for mobileなのです。

鉛筆も認識する手書き入力

――手書きを提案していますが、そこについての考え方を教えてください。

黒住氏
 せっかく手書きにちょうどいい形になったので、スタイラスはどうしようという話になりました。そんなとき、エンジニアが「スタイラスありきでいいのか」と言い出しました。彼が、鉛筆なりのメタルが入っている細いものなら、スタイラスと同等のことができると言うんですね。自分にとっては目からうろこで、一気にスタイラスはなくてもいいというマインドに変わりました。鉛筆は大抵の人が持ってますし、持ち歩いている人が多いのであれば、無理にスタイラスを本体に入れてサイズなどを犠牲にする必要はないですからね。もちろん、スタイラスも一番いいものは提案していきますが、持っているものを使えればいいという判断です。

手書きに対応した。タッチパネルの感度を上げ、鉛筆などの細いペンも認識する

 ただ、鉛筆や通常のペンをディスプレイにこすりつけると、傷がつく心配もあります。ここで役に立ったのが、飛散防止フィルムです。飛散防止フィルムにはいいところ、悪いところありますが、ソニーモバイルではユーザーの安全を配慮するとつけるべきと判断しています。この飛散防止フィルムはXperia Z Ultraにも張られていますが、今回は手書きを考え、硬度が一段高いものを使っています。結果として、書くときだけでなく、通常利用しているときの小さな傷もつきにくくなりました。

日本での展開は……

――日本での展開が未定となっていますが、出ますよね?

黒住氏
 日本については、オペレーターとの協議もあり、まだ未定です。新しいカテゴリーの商品なので、日本に限らず、グローバルでも傾向はばらばらです。我々と同じように見ている方もいますし、どうなるか分からないと見ている方もいます。ただ、これは新しいジャンル、カテゴリーをやろうと思ったときに、当然出る反応だと思っています。

Xperia Z Ultraは挑戦だと語る黒住氏

 「Xperia Z」も防水をやりましたが、商品を提案していた去年の今ごろは、世界の各オペレーターから呆れられました。多いのは、コストも増えるし、その意味でお客様の不利益につながるのではないかという意見でしたね。ただ、やってみると、非常におもしろかったと評価されています。防水という文脈を突然持ってきたのは、(海外では)ゲームチェンジャーだったんですね。

 サイズに関しても同じで、似たフィードバックはあります。一方で、我々はテクノロジーやデザインにおいて妥協せず、果敢に挑戦することを評価しています。土俵からはみ出したことをやらないと、ソニーらしくないですからね。

――本日はありがとうございます。

(石野 純也)