【Mobile World Congress 2010】
小野寺氏に聞くKDDIのモバイルブロードバンド戦略


 既報のように、KDDIの代表取締役兼会長、小野寺正氏は「Mobile World Congress 2010」でキーノートスピーチを行った。そこで、キーノートでの発言の真意や、KDDIの今後の戦略を、講演後に改めてうかがった。

――講演ではLTEのコストやキャパシティを強調していましたが、導入によってケータイの環境はどのように変わるのかを教えてください。

KDDI小野寺氏

小野寺氏
 LTEを入れたからといって、何かが劇的に変わるわけではないと思います。LTEでよりハイスピードになるのは確かですが、今はトラフィックもどんどん大きくなっていますからね。ユーザー1人あたりの通信量が増えているので、デマンド(需要)にどう申し出るのかが非常に大きな問題になるわけです。

 ですから、まず“快適に使えること”が最大の目標です。ほかの国のように、フィーチャーフォン(いわゆる一般的な携帯電話)とスマートフォンのトラフィックが明らかに違うわけではないので、今でもかなりのことはできていると理解しています。

――WiMAXはPC、LTEはケータイに、とのことですが、両者の棲み分けは今より明確になっていくのでしょうか。

小野寺氏
 今はWiMAXのカバレッジが必ずしも良いわけではなく、EV-DOとのデュアル端末を出す予定ですが、将来的にインビルディング(屋内)をカバーできれば、むしろ(WiMAXとLTEを)別のサービスとしてやっていった方が、お客様のためになると思っています。

――現状でも音声ARPUは漸減傾向ですが、LTEなどの導入でVoIPが入り、その状況が加速する可能性はあるのでしょうか。

小野寺氏
 「ガンガントーク(指定通話定額)」などを入れてから、むしろMOU(Monthly minutes of use、ユーザーあたりの月間通話時間)は増えていますけどね(笑)。ああいうサービスを入れると、トラフィックは増えます。

 LTEが始まれば、技術的にはVoIPも検討しなければなりません。ただ、今までの音声サービスをできるだけのカバレッジやクオリティを、どの時点で達成できるのかが問題になると思います。

 今のLTEのネットワークは、基本的にデータ通信に特化する形で作ってあります。もちろん、レイテンシー(遅延)が低いのでVoIPに適してはいますが、技術的な検討は別にして、どういう形で入れるのかは全く見当がついていません。

――冬春モデルの発表会では「スマートフォンはまだ早い」とおっしゃっていましたが、本日の講演ではAndroid端末の投入も宣言されました。

小野寺氏
 早いというより、お客様にどこまで受け入れられるのか。やはりファーストフォンとして使うことを考えると、日本のお客様が今のスマートフォンに満足しているわけではないと思うんですね。

――たとえば、ソニー・エリクソンの「Xperia X10 mini」が片手での使いやすさを重視しているように、AndroidがフィーチャーフォンのOSの1つになってくるような気がします。KDDIの目指しているスマートフォンも、そのように既存の使い勝手やサービスなどを取り込んだものになるのでしょうか。

スマートフォンについては、時期尚早ではなく、現状に課題があると指摘

小野寺氏
 それは当然、想定しています。“素”のAndroidやWindows Mobileが、なぜ日本であまり受け入れられないのかは、十分考えなければいけないと思います。

―― 一方で日本のモバイルサービスは進んでいると言われています。これを海外に展開させる方法などはあるのでしょうか。

小野寺氏
 色々考えています。ただ、著作権に対する考え方が海外と日本では大きく違います。特にアメリカの場合、ビジネスになると思えば強引にサービスをスタートして、リーガルイシューはそのあとについてくるという考え方がありますよね。日本の場合、それはやりにくいですし、我々オペレーターにやれといわれると困ってしまいます。

 世界各国のリーガルイシューや、カルチャーに合わせた形にしなければ、その国で受け入れられないのではないでしょうか。例えば、我々の着うたフルは、かなりDRMがしっかりしてますが、あれをそのまま海外に持っていってもだめでしょうね。

――講演では“モバイルの次のステップ”としてKindleを挙げていましたが、その意図をもう少し詳しく教えてください。

小野寺氏
 誰がそのサービスをオファーするのかということも関係しています。もちろん我々自らがオファーするなら、色々な考え方があります。逆に、MVNOの仕組みを作ってあるので、それを使って出すこともできるでしょう。

 ただし、ああいう、コンテンツを限定してダウンロードできるサービスの料金をどう考えるのか。これに関しては、まだ見えていません。ダウンロードする時間帯はだいたい限定されるでしょうし、ボリュームも決まってきます。こういうサービスに対する料金が、ケータイと同じでいいのか。バンドルという言葉を使いましたが、特定用途向けの端末については今までの仕組み自体が合わないのだと思います。

――では、最後に「Mobile World Congress」に来場されての印象をお聞かせください。

小野寺氏
 日本が成功しているのは間違いないですね。ガラパゴスと言った人もいますが、実は先行していただけということが理解されてきたのではないでしょうか。(展示されていた)端末のほとんどがスマートフォンですが、世界でも、我々のように端末とインフラが同時に動き始めたというのが正しい見方だと思います。

――本日はどうもありがとうございました。

 



(石野 純也)

2010/2/17/ 16:38