【Mobile World Congress 2010】
ソニー・エリクソンに聞く「Xperia X10」からの商品戦略


 「Mobile World Congress」で、「コミュニケーション・エンターテインメント」を旗印にした「Xperia X10 mini」「Xperia X10 mini pro」「Vivaz Pro」の3機種を発表したソニー・エリクソン。同展示会に先駆けて開催された報道関係者向けイベントの来場者から大きな歓声が上がるなど、手ごたえも十分な様子がうかがえた。では、同社はどのようなポリシーでラインナップを展開しているのか。また、新たに投入した端末には、どのような戦略があるのか。スウェーデンのルンドでこれらの端末ポートフォリオ(主に金融用語で分散投資を指す用語)を担当し、現在は商品企画を統括する伊藤泰氏に、お話をうかがった。

ソニー・エリクソンで現在、Head of Product Planningを務める伊藤泰氏

――昨年まで「Head of Proposition Planning」という肩書きでお仕事をされていたとうかがいました。あまり聞きなれない言葉なので、まずは、今回のラインナップとの関係を中心に、どのような役割を果たしているのかを教えてください。

伊藤氏
 昨年までは、ラインナップの戦略立案と設計をしていました。あとは、個々の商品のハードウェアとソフトウェアの価値を一緒に作りこむこと、簡単に言うとユーザーエクスペリエンスを組み立てます。もちろん、個々の商品には、競争力があって、お金になることが求められます。そのためには、グローバルのケータイの場合、マーケットとオペレーター(キャリア)、それぞれに対するバリューが求められるんですね。この戦略を立てるのがプロポジションの概要です。このプロポジションを、ラインナップ全体と個々の商品に行うのが、私の仕事です。8年間スウェーデンにいて、ずっとこの仕事をしていますが、昔と今では、考え方もだいぶ変わってきてますね。

――たしかに8年前だと、だいぶ今とは違いそうですね。ここ最近の大きな変化には、何があったのでしょうか。

伊藤氏
 一番大きな判断は、ハードウェアのエボリューションをやめましょうということです。その代わりに、2008年12月に、ユーザーエクスペリエンスのエボリューションを考えていくというプレゼンを初めてしました。2008年の12月ですと、当時はCyber-shotケータイやWalkmanケータイがほとんどでしたが、ひとりの人間が、1日中カメラや音楽機能だけを使っているかというと、そんなことはありません。カメラも使えば、音楽も聞く。その人にどちらかを選ばせるのはかわいそうだよねということで、コミュニケーションを中心にすえ、テーマの切り替えを行いました。

――昨年、「Satio」を発表された際には、「エンターテインメント・アンリミティッド」というテーマを掲げていましたが、これとコミュニケーション・エンターテインメントの関係を教えてください。

伊藤氏
 実は、エンターテインメント・アンリミティッドはコミュニケーション・エンターテイメントに続くステップだったんですね。当時はAndroidも商品化の段階にありませんでしたからね。

――企画と技術的な流れがマッチして、今の端末があるということですね。

伊藤氏
 はい。そこが最終的なゴールでした。内製OSで5年間作ってきて、最終的に「Aino」や「W995」を出しましたが、そこからコミュニケーション・エンターテインメントに切り替えるのは、そう簡単なことではないんですね。元々、OS、ミドルウェア、アプリまで特化する形で作り上げてきたので、複合的にアプリがインタラクションできないというテクニカル的な問題がありました。一方、Symbianは市場で実績のあるOSであり、社内にも培ってきた資産がありましたが、カスタマイズの自由度という意味では制限もありました。そこで、エンターテインメント・アンリミティッドという1つのステップを置いて、できるところまでやるということにしました。

――ということは、やはりXperia X10などを実現するにあたっては、Androidの登場が大きかったのでしょうか。

伊藤氏
 Androidは私たちがほぼゼロから作りこむことができるので、そういう意味では、リソースも含めて効率がよくなります。

――では、今回発表されたラインナップの意味合いを教えてください。

伊藤氏
 2010年のポートフォリオを考える際には、まずタブレット中心の世界がありました。それは、時代の流れです。タブレット中心でシンプルにして、それにプラスして、必要な価格帯と時期にはQWERTYキーを出しましょうということになりました。

 ポートフォリオの基本にはリスクヘッジがあるので、どの価格帯にも均等に端末を置いていきたいんですね。なぜなら、価格帯はイコールでマーケットです。グローバルで見ると、どこのマーケットで、どの価格帯の端末がヒットするかというのは、まちまちです。ですので、たとえば300ユーロ帯、400ユーロ帯、500ユーロ帯があったとすると、どこかにスポットがなくならないよう均等に製品を置いていきます。なくなると競合に市場を取られてしまいますからね。均等に置く理由はもう1つあって、下の価格帯があれば、上の価格帯の商品が値崩れを起こしにくいというのがあります。

 今回のX10 miniとX10 mini proは、シンプルにマスマーケットを狙い、サイズを落として、タブレットとQWERTYキーの2つを出しました。一方、実は上の価格帯だと、QWERTYキーはビジネスユーザー限定になってしまいます。ポートフォリオの安心感を考えると、当然置いた方がいいわけですが、それだと開発費もかかってしまいます。Windows MobileでQWERTYキーの商品があるので、それである程度はカバーできるというのもあります。X10に加えてX10 mini、X10 mini proを出したのは、価格帯を広げるという意義があり、下の価格帯についてはより幅広い層を狙えるよう、今回発表した2機種をラインナップしたというわけです。

――Xperiaシリーズより下の価格帯は考えているのでしょうか。

伊藤氏
 それも当然あります。ただ、Androidの商品は、機能を最大限使うためにハードの制限があります。カメラがオートフォーカス対応でなければだめだったり、センサーが搭載されている必要があったりとして、それを守ろうとすると価格帯がある程度決まってしまいます。そうなると、Androidは使えないので、今までどおり内製のOSでやっていくつもりです。

――ただ、X10 miniやX10 mini proは、今までのAndroidとは仕様が少し違いますよね。価格帯もXperia X10よりは抑えられるとうかがっています。

伊藤氏
 これは、グーグルとの“初めてのコラボ”ということになります。AndroidにはQVGAのプロファイルがなかったんですね。UIのデザイナーが頑張ったかいもあって、小さい画面でもタッチ端末ができることが分かったので、グーグルに提案しに行ったんですね。最初は信じてもらえませんでしたが、動いているものを見せたら「できるよね」となり、その時点で初めて正式なプロファイルに入ることになりました。時代には逆行しているプランですが、それが差別化になると思います。グーグルの許可が下りなければ端末自体が出せなくなるので、毎日胃が痛かったですけどね(笑)。

――ユーザーインターフェイス的な部分も、ほかのAndroid端末とは異なっています。

伊藤氏
 「4コーナーUI」(四隅にアイコンが置かれたUI)は、元々完全にソニー・エリクソンのデザインです。ここにアイコンがあるので、画面の中央はウィジェットを1つだけ配置できるようにしました。逆に、プロファイルとして、グーグルと一緒に共通化したのは、メニューを開いて横にスクロールさせる部分などですね。メッセージングアプリ、Eメールアプリなどは、Android共通になっています。

――このタイミングでQVGAという発想になったのも、面白いですね。その辺りのエピソードを聞かせてください。

伊藤氏
 マーケットの逆を行こうという発想です。ソニー・エリクソンは元々小さいものが好きですからね(笑)。エンジニアも燃える文化があります。「小さいものには価値がある」とずっと思っていて、それは世界的に共通な要素でもあります。大きなものにもいいところはありますが、小さいことで別の価値が出てきます。持ち運びやすさは、世界共通ですしね。

 こういった文化は日本の「premini」から始まっていますが、実はX10 miniとX10 mini proは、スウェーデンのルンドが中心に企画しています。伝統的な技術と企画の気持ちが、グローバルに浸透したんですね。元々、海外のチームにはミニチュアライゼーションという考え方がありませんでした。その意味では、日本で起こったことが、海外のエンジニアや企画担当にものすごくいい影響を与えていると言えます。

――X10は東京が中心ですが、普通に考えると逆だという気もします。

伊藤氏
 小さいもの、薄いものは東京という考え方があって、それを過去4年ぐらいやっていましたが、知識だけでなく、気持ちも共有できてきているのだと思います。

――個人的な印象ですが、この端末は日本でも受けそうな気がします。

伊藤氏
 私もそう思います(笑)。ただ、そこはオペレーター次第ですので、ぜひ出したいですね。世界のオペレーターからの評価が高ければ、日本でも可能性がないわけではありませんから。

――日本でも間もなくXperiaが発売されます。最後に日本のユーザーに向けてメッセージをお願いします。

伊藤氏
 Xperiaは、正直なところ、iPhoneのようなケータイに慣れている方以外には、もしかしたら少し敷居が高いかもしれません。UIの構造も全く違いますし、ビジュアルも違います。使い始めのころは、戸惑いがあるのではないでしょうか。ただ、ぜひそこを超えて、ソニー・エリクソンの作り上げたユーザーエクスペリエンスを体験してみてください。そうすれば、我々が目指しているコミュニケーションの楽しさが分かるので、絶対に手放せなくなると思います。

――本日はどうもありがとうございました。



(石野 純也)

2010/2/18/ 16:25