【Mobile World Congress 2013】

東京-パリ、シニア向けスマートフォンで世界に飛び立つ富士通

 富士通は、仏通信事業者France Telecom-Orangeに対し、Androidスマートフォン「STYLISTIC S01」を供給する。富士通の本格的な海外展開について、同社のユビキタスビジネス戦略本部長代理 商品企画・プロモーション担当の松村孝宏氏に話を聞いた。

富士通の松村氏

 「STYLISTIC S01」は、ドコモの「らくらくスマートフォン F-12D」をベースにしたシニア向けのAndroidスマートフォン。「らくらくスマートフォン F-12D」は、Android OSをベースとしながらも、Google PlayやGmailなど、Googleの各サービスには非対応となっている。

 その一方、「STYLISTIC S01」は、Google PlayやGoogleマップなどに対応したスマートフォンで、「らくらくスマートフォン F-12D」とは端末機能が少し異なっている。富士通のブースでは、「STYLISTIC S01」にスポットをあてるとともに、同社のセンシング技術などが紹介されている。

Orangeへの端末供給、海外ビジネスに新たな局面

――今回の出展のテーマは?

 これまで何度か出展してきたが、今回は商談にも力を入れている。去年までは技術やラインナップを海外に知ってもらうことがメインだった。しかし、いくら商談してもほかのメーカーが同じように持っているものでは次に進めない。

 今回は、海外のオペレーターに採用してもらうための展示にこだわった。我々の売りたいものを見せていく。Orangeとのビジネスが始まったので、ほかの地域のOrangeや、ほかのオペレーターに一緒にやらないかとメッセージを出しているところだ。

 また、国内についてはフルラインナップで攻めるが、海外はシニア向けのセグメントを徹底的に攻める戦略でいる。ブースでは、らくらくスマートフォンの海外版となる「STYLISTIC S01」をアピールしている。

STYLISTIC S01

――STYLISTICは国内のらくらくスマートフォンのように展開するのか。

 国内では、NTTドコモさんがサービスを担っているが、海外のオペレーターはそうはいかない。富士通がサービスもやることになる。シニア向けのハードウェアと、それに対応するサービスを一式そろえていることを紹介し、国内でのノウハウをアピールしていきたい。

 日本のシニア向け市場も海外の市場も、共通した点が多い。オペレーターはシニア向けをやりたいし、やらなきゃいけないと思っている。その反面、うまくビジネスができていない。

 富士通には、過去十数年のノウハウがある。そうした付加価値を認めてもらえる成熟した市場に展開していきたい。これは周囲から言われることだが、富士通の本格的な海外展開がパリ(Orange)からスタートするとは考えにくかったのではないか。

――イベントは始まったばかりだが、去年と比べて感触はどうか。

 これまでまともに取り合ってもらえなかったところと、具体的な商談がはじまった。やはりOrangeとビジネスを開始したのが大きく、「あなたも売らないか?」と話ができる。

 我々はシニア向けに数多くのノウハウはある。しかし、これまでは海外との商売に慣れていない面があったと思っている。Orangeとのやりとりの中で我々(の製品)は複雑だと言われた。富士通は長くシニア向けに展開しているので、日本人には理解できることかもしれないが、慣れていない海外のユーザーが全て理解するまでには、次の製品が出てしまう。

――国内ではフルラインナップであることをアピールしているが、フィーチャーフォンもある。海外でこれをアピールしないのはなぜか?

 それは海外のオペレーターは、日本のフルラインナップのスマートフォンにはほとんど興味を示さないからだ。ブースではもちろん展示はしているが、1つのコーナーに抑えている。

 また、フィーチャーフォンについては今のところ海外ではやるつもりはない。というのも、50ユーロ(約6000円)も出せばフィーチャーフォンは買えるからだ。それでは部品代も出ないので、我々は商売にならない。ちなみに、富士通のらくらくホンは、海外のフィーチャーフォンと比較すれば高機能でシニア向けの携帯電話ではない。「STYLISTIC S01」をきっかけに認知されたあとに、フィーチャーフォンを展開する可能性はある。

カーナビ、パソコンなどさまざまな連携

――スマートフォンと車の連携なども期待されるところだが、富士通テンのカーナビはどういう方向に向かうのか。

 スマートデバイスが車の利便性を高めていく。そのためにやることは想像がつきやすい。しかし、モバイルと車では開発サイクルが大きく異なる。自動車業界の方針が定まるにはまだ時間がかかると思っている。もしかして将来、車の中にはディスプレイだけがあり、スマートフォンと連携した使い方になるのかもしれないが、おそらく自動車メーカーの純正ナビもなくならないだろう。

 携帯電話は、企画段階で部品が決まるが、車は商品コンセプトが発表されてから部品が決まっていく。車は携帯電話と比べものにならない歴史があり、半年に1度プラットフォームが変わる携帯電話と一緒にやっていくのは相当時間がかかるはず。ただ、自動車業界も、車がもっと楽しくなるようなことをどんどんやっていかなければならないとわかっているようだ。

――富士通はパソコンも展開しているが、タブレット端末などの普及拡大による影響はないか。

 歯を食いしばってパソコンをやっている。パソコンでなければダメな世界があり、我々はパソコンとタブレット、スマートフォンのどれか1つでも欠けると成り立たないと考えている。ラインナップの見直しはあるかもしれないが、タブレットの登場でこれまでなかった商談にもこぎ着けるようになった。バランスを見ながら旬なものを提供していきたい。

――モバイルを展開しているメーカーの多くは家電メーカー。各社が家電連携をアピールしている。家電のない富士通はどうするのか。

 富士通は基本的に情報屋だ。企業やコンシューマーに関係なく商売が可能な状況になり、いよいよ活躍できる。正直言うと、家電メーカーのブランドを冠した携帯電話には焦ったところもある。しかし、そうしたブランドの多くは今では消え去った。人は情報をサービスされることで幸せになる。富士通の垂直統合モデルを世界にアピールしていきたい。

端末OSに新興勢力

――Firefox OSやTizen、Ubuntuなど、AndroidやiOSの第3極を狙うプラットフォームに動きがある。富士通はどこを主軸に考えて行くのか。

 富士通は以前からマルチプラットフォームで展開している。ビジネスの主体は当面Androidになるが、Tizenには腰を据えて取り組んでいこうと思っている。それは、市場を動かす力のあるプレーヤーたちが参加しているからだ。

 Tizenの技術開発を進めて、やがて花が開くときに乗り遅れないようにしたい。竹しか食べられないパンダになってしまうと、竹が不作になれば死んでしまう。携帯事業は雑食でないといけない。AndroidとWindows Phoneは異なるビジネスだが、FirefoxはTizenと重なる部分も多く、難しいだろう。ただ、個人的な好きだが、ビジネスを考えるとなかなか難しい。

 らくらくホンについては、引き続きSymbianを使う。Symbianのプラットフォームで現在もある程度の数を売り続けているメーカーは数少ないのではないか。Symbianは相当長く使えるものであり、我々は開発にも携わっていたので、コードも書ける。

――ありがとうございました。

津田 啓夢