【WIRELESS JAPAN 2009】
データ通信市場はますます拡大する~イー・モバイルのガン社長


イー・モバイルの代表取締役社長兼COOのエリック・ガン氏

 イー・モバイルの代表取締役社長兼COOのエリック・ガン氏は、「イー・モバイルの事業戦略」として、モバイルのブロードバンドサービス事業や、今後のモバイルブロードバンドの可能性を紹介した。

 冒頭、ガン氏は、「いま会場に入ってきたら、多くの人がパソコンにイー・モバイルを接続して使っていただいているのが見えた。ありがとうございます」とお礼を述べた。

 ガン氏は、通信市場の歴史的変化に触れ、1970年代からのNTT中心の固定一般加入電話の普及、1985年からの長距離電話の普及、1994年からの携帯電話の売り切り制度の開始による携帯電話の普及、2000年からはの固定ブロードバンドの普及といったトピックスをあげながら、「1994年当時は、170万人しかいなかった携帯電話人口が、その後8年間で1億人に増加した。私は、ゴールドマンサックスでアナリストをしていたが、1000万台に増えるだろうといっても、誰も信じなかったほど。それも遙かに上回った」と振り返った。

 こうした潮流を説明したあと、ガン氏は、「では、2008年からの8年間はなにが起こるのか。答えは、モバイルブロードバンドの普及の時代がやっていくる。この時代は、携帯電話市場と同じく、1人1回線の市場となるため、固定電話のような1世帯1回線以上の普及が見込める」とした。

同社の加入者数推移

 また、6月末時点でのイー・モバイルの契約者数が167万2300回線に達していることを紹介。「累計契約者数では、市場全体の1%強に過ぎないが、平日では1日2000回線の新規契約、休祭日では1日3000件の新規契約があり、月間8万回線の増加がある。今年度も、年間100万回線の増加を目指しており、第1四半期の実績は26万回線の増加であり、事業計画を上回っている」などと好調ぶりを示した。

 イー・モバイルの純増数シェアは、昨年度上期が19.2%、下期が22.8%。今年度第1四半期は26.7%に達している。「純増数では26.7%のシェアをとっており、そのうち90%以上がデータ通信によるという点が他社とは異なる。市場全体でも、新規ユーザーの4人に1人はパソコンのデータ通信の顧客になっている計算だ。UQコミュニケーションズもこの分野に入ってくるので、データ通信市場はますます増えるだろう」と予測する。

 さらに、解約率の低さについても言及し、「解約率は1%を切る低い水準を維持している。固定ブロードバンドサービスよりも解約率は高いだろうと予想していたが、実際には固定契約の半分の解約率に留まっている」とした。

 同社では、解約率が低い理由として、速度と料金面でイー・モバイルが優れていること、全体の契約のうち、2年の長期契約が大部分を占めていることをあげている。

同社の純増シェア推移同社の解約率推移

 一方、ガン氏は、同社のネットワーク環境についても紹介した。

 現在、基地局はエリクソン(スウェーデン)、ファーウェイ(中国)の2社を利用。東京、名古屋、大阪といった大都市圏ではエリクソンの基地局を使用し、その他のエリアではファーウェイの基地局を使用。40社以上の工事会社と基地局建設体制を構築しているという。

 今年5月時点でのイー・モバイルの人口カバー率は90.5%。

同社の基地局設備

 これだけ短期間に人口カバー率を引き上げることができた理由を、ガン氏は、従来の基地局に比べて10分の1程度のコストで設置できるメリットをあげた。

 「従来の基地局は、土台を作って、階段を作って、キャビネットを作って、そこに収納するという仕組み。これでは、全体の重量が10トン以上になり、1局あたりの設置費用は1億円以上になる。さらに、家賃や電源、専用線維持などのランニングコストが高い。だが、イー・モバイルが使用している基地局は技術革新により、本体は23.9kgとなり、電源などを含めても300~500kgの間で収まる。ランニングコストも少なくて済む。これが、早く人口カバー率を引き上げることができた要素」と説明した。

 今後の課題となっているのが地下街のカバー率引き上げだ。

 「資金よりも、むしろ調査に時間がかかっていることが、遅れている原因」とし、「今年に入ってから、地下街における基地局設置が進捗しており、6月末時点での地下街でカバー率は43%となっている。しかし、東京地区での設置に時間がかかっており、東京地区での地下街のカバー率は23%に留まっている。いまは都営地下鉄、東京メトロの協力を得ており、工事のスケジュールから見ると、9月末には45%、年末には72%、年度末には100%になる」とした。

 しかし、その一方で、「地下街のカバー率向上は、むしろ音声サービスのための先行投資として捉えている」とも説明した。現在、イー・モバイル契約者のうち、約1割が音声利用ユーザーだという。

 同氏は、ネットブック向けに提供している「にねんMAX」についても説明を行った。

 新にねんの料金プランでは、毎月の費用が最低料金が1000円であるのに対して、にねんMAXでは2900円、上限料金が4980円が6880円であることを示し、「2年間で4万5600円回収できるファイナンシングモデルであり、これを利用して4万円のネットブックが100円で購入できるようになる。これは成功している」とした。

 昨年7月に制度をスタートした際には3社5機種に対象が留まり、「売り場を作ることができなかった」(ガン氏)が、現在では15社以上のメーカーから発売されている、50機種以上のネットブックが対象となっており、「ノートPCの3分の1をネットブックが占めており、イー・モバイルとしても売り場を作ることができる規模になっている」という。

 2年契約に加えて、1日630円で利用できるライトユーザー向けのプランも用意しており、これもネットブックユーザーに使われているという。

 一方、今後の取り組みとして、7月24日からサービスを開始するHSPA+への取り組みを紹介した。

ロードマップ

 HSPA+は、最大21Mbpsの速度が出る通信サービス。「当初は8月のサービス開始を計画していたが、予定よりも2週間早くサービスを開始できる。人口カバー率は当初は60%に留まるが、それ以外の地域でも7Mbpsの通信速度での利用が可能であり、最低利用料金は580円から上限額は5980円という柔軟性のある料金体系となっている。ラボでは、最高20.8Mbps、平均でも19.2Mbpsの速度が出ており、フィールドテストでも10Mbps以上の速度が出ている」とした。

 さらに、同社では来年9月を目処に、3.9GのDC-HSDPAサービスを開始する予定であり、42Mbpsの高速データ通信サービスが実現できるとしている。

 3.9Gの免許取得に関しては、現在使用している1.7GHz帯のすぐ横の周波数帯を利用できるようになったことを説明し、「これは大きなメリットがある。既設の場所であれば、現在の設備をそのまま利用して新たなサービス用に改良ができ、設備投資コストを安く抑えることができる。いち早いサービス開始につながる」などとした。




(大河原 克行)

2009/7/22/ 19:49