【WIRELESS JAPAN 2009】
UQ田中社長、二段階定額制導入の可能性を示唆


UQコミュニケーションズ 代表取締役社長の田中孝司氏

 初日に行われた基調講演「移動体通信ビジネスと端末開発の将来ビジョン」の最後に登壇したのは、今年7月から、日本初のモバイルWiMAXサービス「UQ WiMAX」の商用サービスを開始したUQコミュニケーションズ 代表取締役社長の田中孝司氏だ。「いよいよ本格スタート UQ WiMAX~真のモバイルインターネット時代の幕開け~」をテーマに講演した。

 講演の最中、何度も「携帯電話によるモバイルインターネットは、真のモバイルインターネットではない」といった言葉が繰り返されたのが印象的だった。

 7月1日からの商用サービス開始にあわせて、「GET SPEED」、「GET FREEDOM」をキーワードとした広告展開を開始したことを示しながら、田中氏は「第3世代陣営からは、次世代ネットワークはキャパシティが重要であるという声があがっているが、我々はキャパシティよりも、スピードを求めていくことが大切だと思っている。むしろ、スピードを求めないといけない時代になっていると認識している」と切り出した。

 「携帯電話の回線はパイプが細い。そのため、遅い回線でも早く見せるためのユーザーインターフェイスの工夫を行っている。しかし、PCによるインターネット利用では、アプリケーションもデータも、ネットの向こう側に置かれ、それを利用する世界になっている。これを実現しようとすると、スピードは大変重要になってくる。PCを利用した真のモバイルインターネット環境を実現するには、やはりスピードが必要である」と語った。

 そして、モバイルWiMAX規格を、「IEEE802.16WGおよびWiMAX Forumが標準化を推進する無線MAN(Metropolitan Area Network)方式」とする一方、「モバイルでも、インターネットをちゃんと使えるようにするための規格である」と定義。「携帯電話で動いているのは、ちゃんとしたインターネット環境ではない」などとした。

WiMAXの特徴

 田中氏は、モバイルWiMAXの特徴を、「高速・大容量」、「常時接続」、「世界標準」、「かんたん加入手続き」、「いつでもどこでも」の5つのポイントから説明した。

 「高速・大容量」では、下り最大40Mbps、上り最大10MbpsというモバイルWiMAXの特性を生かして、スピードテストサイトでは下り16Mbps、上り3Mbpsという速度が出ていることを提示。「1700局にまで基地局が増えてきたこともあり、かなりの場所で10Mbpsのスピードが出るようになってきた。PCで利用していると、5Mbps以上の速度が出ていないとストレスを感じる。最低でも下り5Mbpsは維持しなくてはならない。ダイヤルアップからADSLに変わった時には、世界が大きく変わったように感じたはず。WiMAXによって、モバイルでも同じような体験を味わってほしい」とした。

 「常時接続」では、モバイルWiMAXでは接続、切断を意識せずに利用が可能であり、LANと同じ環境であることを強調。「この点でも、3Gの世界と比べられるのは嫌だ。古いものから、新しいものへと移る段階にある」として、携帯電話のネットワークとは異なることを訴えた。

 「世界標準」では、世界各国で導入されている規格であること、さまざまなメーカーから多様なデバイスが登場することで、日本の企業が世界に打って出られるようになることを指摘。「モバイルWiMAXによる経済効果は1兆円に達するものになる」と予想した。

 「かんたん加入手続き」では、店舗にいって申し込むのではなく、WiMAXの電波を経由して、加入手続きが可能になる手軽さを紹介。「WiMAXのチップが内蔵されたPCであれば、ポータルに接続して、そこからサインアップするだけで使えるようになる」という契約方法が実現できることを示した。

 そして、最後の「いつでもどこでも」では、「カバー範囲は、これから急速によくなっていく。外で使えるようになり、ビルのなかでも使えようになり、地下でも使えるようになるというに、順を追って広がっていくことになる」とした。

 一方で、インターネットが75.3%の人に広がり、さらに73.4%に家庭にブロードバンドが広がっている現状、また、企業においてクラウドコンピューティングに関心が集まっている現状を示しながら、「モバイルインターネットにおいては、2つの課題がある。ひとつは、モバイルPCに対する小型・軽量などへの要求。そして、もうひとつはネット接続に対する、いつでも、どこでも、高速接続ができる要求である」と指摘した。

 モバイルPCの要求に対しては、ネットブックの登場によって解決され、今後も改善が図られていくが、ネットワーク接続に対する要求では、現状では厳しいとし、これを解決するのがモバイルWiMAXになると説明。「そもそも3GとWiMAXは生い立ちが異なるものであり、3Gでモバイルインターネットを行うのは厳しい。高速化するにはリソースを食い過ぎ、高速化が限定されるものである。また、次世代となるLTEは、キャパシティの拡大に対応したものであり、どこでも使えるという点では難しいものだと認識している」とした。

 ここで3Gは音声通話の上に、デジタル化、ネット接続対応、高速化を無理矢理積み重ねたものであるという絵を見せながら、「携帯電話のインターネットは、なんちゃってモバイルインターネットである」と説明。

モバイルインターネットの課題3GとWiMAXの違い

 サービスエリアについては、7月1日の商用サービス開始時点で首都圏、中部圏、関西圏をあわせて1600局だった基地局が、今月だけで数100局増加する計画について改めて言及。「この会場(東京・有明のビッグサイト)にも基地局を設置し、展示会場では利用できるようになっている。展示会場から離れている講演会会場では3Mbps程度しか出ていないのが残念」などとしたほか、「山手線内ではかなりのところまできた。来年の今ごろには国道16号線内はほぼ使えるようになるだろう。同時に全国の制令指定都市もカバーする。イー・モバイルと比べられることが多いが、来年には追いつける」とした。

サービスエリア展開計画

 さらに、モバイルWiMAXの世界がオープンの世界であることについても、携帯電話と比較しながら言及。「携帯電話は通信事業者がサービス、製品、流通を統合し、高い参入障壁がある。それに対して、モバイルWiMAXは、インターネットの世界そのもののビジネスが通用する世界であり、多様なデバイスが用意され、製品やサービスを自由に組み合わせて新たなビジネスチャンスが生まれる世界である」と述べた。

 現在、PCだけでなく、カーナビやデジタルサイネージ、テレメタリング、監視カメラ、スマートメーターといった分野に向けたデバイスの開発が、パートナーの間で検討されており、「来年夏にはネットワーク環境も整ってくるだろう。こうしたデバイスがWiMAX対応となって広がっていく」と予測した。

 一方で、今年2月から行っていた試用ユーザーの声を積極的に聞いてきたことに触れ、「モニターユーザーの最大の関心は、新たな通信技術に触れたい、という点。そして、WiMAXは、速度が一番の魅力であるということがわかった。また、不満な点では、エリアが狭い、屋内で希望する場所で使えないことが多いなどの声があがっており、これを最優先の課題として改善していく」とした。

 また、「携帯電話は音声がつながればいいが、WiMAXでは最低でも1Mbps程度の速度でデータ通信ができなくては、つながったと思ってもらえない。薄くカバーエリアを作ろうと思っていたが、それが間違っていたと反省した。いまは密度を濃くすることに取り組んでおり、基地局と基地局の間を、さらに基地局で埋めようという取り組みを行っている。山手線内はそれなりにできている。現在ホームページでは、住所を入力すれば、そこでどんな状態で使えるかを○、△、×で表示するようにしている。これで判定してほしい」と語る。

 さらに、「ビルの陰やトンネルのなか、超高層ビルといったところにカバーエリアを増やすには特別な技術はなく、基地局を増やすしかない。屋内にも小型基地局を設置して広げていくほか、WiMAXの電波をリレーするレピーターを開発して、屋内にも利用範囲を広げる。フェムトセルも有効な手段だと考えている。これは時間をかけてやっていくしかない」とした。

 一方で、今後の取り組みについて、いくつかの興味深いコメントもあった。

 現在、フラットな定額制料金プランについては、「シンプルで、縛りのない料金であり、明確なものになっている」としながらも、「使った分だけ払いたいという要求もあり、ダブル定額プランをやったら面白いとは思っている」としたほか、「2台目は月200円で利用できるが、これは電波使用料というものがあるため。無料にして欲しい、安くしてほしいという声もあるので、利用者数が広がれば制限を取り払いたい」とした。

 また、「海外ローミングについては、他のキャリアと始める考えで、サービス開始は時間の問題」とコメント。さらに、「64ビットOS対応についても、いま検討しており、通信カードが認識しないなどの問題を解決している」などとした。

 最後に、田中氏は、「基地局は最終的には2万局にまで拡張する予定で、まだ1割程度しか設置していない。モバイルWiMAXは、まだ子供の段階。だが、WiMAXを見ると、未来が見える。ビジネスモデルがオープンなので、当社がコントロールできるとは思っていない。お客様の声をまとめるのが、UQのスタンスである。インターネットと同じビジネスモデルのなかで、ビジネスを広げていきたい」とした。

(大河原 克行)

2009/7/22/ 22:14