【WIRELESS JAPAN 2009】
モバイルプロジェクト・アワード受賞者のパネルディスカッション


 「WIRELESS JAPAN 2009」のセッション「コンテンツビジネス戦略最前線」で、モバイルプロジェクト・アワード2009の受賞者などによるパネルディスカッション「モバイルビジネスの新たな市場における可能性」が行われた。

MCFの岸原氏

 パネラーはエムティーアイ(MTI)の上席執行役員 MS事業本部 副本部長の佐野勝大氏、サミーネットワークスの執行役員 新規企画本部本部長の倉垣英男氏、ウェザーニューズ取締役の石橋知博氏、COMELの取締役CTO システム本部長の椿野慎治氏で、モデレーターはモバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)の常任理事の岸原孝昌氏。

 冒頭、岸原氏がケータイ市場の状況を2008年度までのデータを中心に紹介した。普及している通信プラットフォームとして、既に3Gが100%近くを占めており、モバイルインターネットユーザーの6割近くが定額制を利用している。市場規模は、引き続き成長を続けており、2008年には全体で1兆3524億円に達している。そのうちモバイルコンテンツは4835億円となっている。

プラットフォームの推移モバイルコンテンツビジネス全体の市場規模

 

コンテンツジャンル別の市場規模
モバイルコマースの市場規模

 

 コンテンツのジャンル別の内訳としては、岸原氏は2007年度と比べながら2008年度の市場規模データを紹介する。それによると、最も市場規模が大きいのは着うた系で、着うた自体は減少していても、着うたフルが前年度比140%と高い成長をし、着うたと着うたフルを合わせて1,190億円市場となっている。

 次に多いのがゲーム市場で、岸原氏は「伸びは落ち着いているが、もうすぐ900億円で、1000億円市場に近づいている」と評価した。

 そのほかのジャンルで伸びが顕著なものとして、岸原氏は電子書籍を挙げる。電子書籍分野は前年度比で179%に成長し、ほぼ400億円市場となっている。新しい市場としては、100億円規模には到達していないものの、2006年からスタートした着せ替え市場が前年度比278%と急速に成長している。SNSなどにおけるアバターやアイテムの販売についても、やはり前年度比262%と急速に成長し、市場規模は157億円となった。このほか成長が顕著なところとしては、実用系情報の中でも交通情報と生活情報の市場が、それぞれ126%と143%と成長している。

 一方、コンテンツではなくコマース系も全体的に伸びており、岸原氏は「巣ごもりの傾向を反映し、できるだけ低価格なものを探すと言うことで、ネット通販全体が伸び、それに引きずられる形でモバイルも伸びた。とくにサービス系はモバイルSuicaが実用段階に入っていることもあり、伸び率が良い。モバイルコマースだけでも8689億円で、もう少しで1兆円市場となる」と紹介した。

 

「感謝のリサイクル方程式」で動く“ゲリラ雷雨防衛隊”

ウェザーニューズの石橋氏
ゲリラ雷雨防衛隊の仕組み

 続いてのパネラーによるプレゼンでは、ウェザーニューズの石橋氏から、同社提供の「ゲリラ雷雨防衛隊」が紹介された。ゲリラ雷雨防衛隊は、MCFのモバイルプロジェクト・アワード2009で最優秀賞に選ばれている。

 ゲリラ雷雨防衛隊は、会員からの情報を元に局地的集中豪雨、いわゆる“ゲリラ雷雨”を予測するというコミュニティサービス。ゲリラ雷雨の疑いがあるエリアがあった場合、そのエリアの「隊長」がエリア内の「隊員」にメールを送る。メールを受けた隊員は、外に出て写真を撮り、方角とともにアップロードする。送られてきた写真の中に、同じ場所で黒い雲が3つくらい写っていれば、そこに積乱雲が発生していると予測でき、その真下の人に予報メールを送る。ウェザーニューズが発表する資料によると、2008年の東京で172回発生したゲリラ雷雨のうち76.7%に対し、平均38分前には降雨の予測メールを送れたという。

 石橋氏は「昨年、死亡事故の際などに、気象庁は予測不可能とコメントしたことがあった。しかし我々は可能ではないか、と考えてチャレンジした結果、76%の確率で予測できるメールサービスを作ることができた」と語る。

 サービス自体はユーザーのボランティア的な活動によるものだが、こうした動きについて石橋氏は「そういった方々の好意が他の人々を救っている。我々は“感謝のリサイクル方程式”と呼んでいるが、人の好意が回るようにしている」と紹介した。

 さらに石橋氏は「天気予報会社が言うのもなんだが、天気予報は変わるべきだと思っている。ただ予測を伝え、外れたら謝るのではなく、情報を細かく正確に伝え、最終的にはユーザーの気象に対するリテラシーを高めることが重要ではないか。異常時や危険を一人一人が察知し、自主的なアクションを取らなければ、災害は減らないのではないか」と提案した。

パソコン向けにも公開されているケータイから天気予報が変わる

 

女性向け特化コンテンツ「ルナルナ★女性の医学」

MTI佐野氏
ルナルナ★女性の医学について

 MTIの佐野氏は、同社が提供する女性向けサービスの「ルナルナ★女性の医学」を紹介した。

 同コンテンツは、生理など女性ならでは体調にまつわる情報に特化したサービス。前回までの生理日をもとに、次回の生理日や排卵日、ダイエットのしやすい時期や肌の荒れる時期を予想するという。

 「ルナルナ★女性の医学」は今年のモバイルプロジェクト・アワード2009で優秀賞を受賞しているが、「新しいサービスと思われるかもしれないが、2001年から開始しているサービス」という。当初はauのみの展開で、2007年から名称変更するとともに他キャリアでも提供を開始し、雑誌やテレビで広告展開することで、直近では会員数80万、3キャリアでの健康ジャンルで1位となっているという。佐野氏は「従来の健康カテゴリーでは、有料課金は難しい分野だったが、新しい可能性を感じる分野でもある」とコメントした。

 今後の展開としては、ユーザー年齢層の移行に合わせ、結婚・妊娠・子育てというところもサポートするように計画しているという。さらに佐野氏は、「ドコモではヘルスケアリンクとしてやっているが、今後は健康器具との連動も見えている。電子カルテとの連携も考えられる。ケータイだけの世界に閉じるのではなく、生活に密着した情報と連携し、生活を便利にすることを目標としたい」と語った。

提供している機能今後の展開

 

中高生向けのエデュテイメントサイト

サミーネットワークスの倉垣氏

 サミーネットワークスの倉垣氏は、同社の中高生向けコンテンツ「uchico」と「こころ部」を紹介した。

 まず倉垣氏は、「もともと着信メロディサービスを提供していて、ヘビーユーザーである中高生へのインタビューも頻繁に行っていた。そのユーザーからの声で、受験などの悩みを抱える子どもが多いという事実にいき当たった。我々の子供時代と変わらず、恋愛友情に加え、勉強でも悩んでいる。それならば、そういった悩みへの対応もケータイでできればいいのでは、としてスタートした」と語る。

 「uchico」は完全無料の学習用サイト。“ウチらの受験コミュニティ”を略して「ウチコ=uchico」となっている。倉垣氏は、「学習と言えば“Eラーニング”と呼ばれる市場があるが、ケータイのユーザーは堅い学習をしたいとは思わない。そこで我々ゲーム企業が、ゲーム感覚で学習できるように、という切り口でやっている。ゲームと学習は密接に関わっている。反復系の記憶学習はゲームが得意とすることなので、そこからやっている」と紹介した。

 倉垣氏によると、現在のユーザー数は46万人。卒業して退会する人はいるものの、今年中に中高生の4人に1人が使うようになるとの見込みを語った。ユーザー年齢比としては中高生が7割強を占め、中には小学校高学年や、大学生が復習のために利用するケースもあり、男女比では女性の方がやや多いという。

 一方、「こころ部」はケータイのいわゆる「ネチケット」を学ぶサイト。倉垣氏は、「掲示板を開始したところ、子どもたちが巻き込まれて社会問題となっているような悩みが月に100件、200件と寄せられるようになった。これには真剣に答えないといけない。なぜケータイの掲示板に悩みが寄せられるかと言えば、子どもたちには相談場所がないから。先生は『わからない』と言い、親は怒ってケータイを取り上げてしまう。そんな中で、このサイトに悩みが寄せられている。事件を未然に防ぐ使命もあり、スタッフチーム全員がネットいじめ対応アドバイザーという資格を取ってオペレーションしている」と説明する。

 倉垣氏は、「現在は無料のサイトとして運営してきているが、ユーザーが集まってきたので、今後はBtoBとBtoCの両方を想定し、パートナーとコラボして新しい事業化を目指したい」とコメントした。

uchicoの概要「こころ部」へ寄せられる悩み
ユーザーの声今後のビジネス展開

 

COMELのデジタルサイネージ「福岡街メディア」

COMELの椿野氏
デジタルサイネージの構成

 COMELの椿野氏は、同社が福岡市で展開しているデジタルサイネージ「福岡街メディア」を紹介した。

 「福岡街メディア」は、店頭や街角に設置する広告用の電子看板、いわゆるデジタルサイネージ。COMELではそれぞれのディスプレイデバイスにHSDPA対応の通信機能を搭載し、リモートで広告内容などを変更できるようにしている。現在、福岡市内のコンビニや商店街、市の施設などに509面のディスプレイが設置されているという。

 こうしたデジタルサイネージにモバイル通信を利用したことについて椿野氏は、「ディスプレイ自体は固定しているので有線でも良いが、設置の容易さを考えると、500面を一気に展開するにはモバイルが不可欠だった」と述べる。

 実績としては、「ユニリーバと協力してドラッグストアで店長が新製品の販促コメントを投稿するという企画を行ったところ、設置エリアでは他エリアに比べ、売り上げが39%上昇した」と語った。

メディアとしてのポジションモバイルの活用

 

 パネルディスカッションの最後に、モデレーターの岸原氏は、「毎年、モバイルプロジェクト・アワードの受賞者でパネルディスカッションを行っているが、毎回違うテーマとなる。これはモバイルコンテンツ市場が動いている証拠。1つ1つのサービスが独自のカテゴリーを作るというような意気込みを持ち、キラーコンテンツを作ることで、相互連携できるようになるのではないか。出版市場などに比べると、まだモバイルコンテンツは産業としては小さな部類かもしれないが、これからは個人が持つインフラとしての責任が増大し、業界で取り組まなければ行けないテーマも増えるだろう」と語ってディスカッションを総括した。



(白根 雅彦)

2009/7/23/ 16:57