【WIRELESS JAPAN 2010】
KDDI小野寺氏、MediaFLOのメリットやインフラ展開を紹介


KDDI小野寺氏

 ワイヤレスジャパン2010の基調講演、「移動通信ビジネスの将来ビジョン」において、KDDIの代表取締役社長兼会長の小野寺正氏は、「心地よいICT環境を目指して-KDDIの取り組み」と題した講演を行った。

 まず小野寺氏は、KDDIが提唱する「アンビエント社会」について、「ユビキタスネットワークはバーチャル・シングル。それに対してアンビエント社会はリアル・ソーシャル」と説明する。

通信インフラを駆使できるオープン性

アンビエント社会について
モバイルサービスの課題

 小野寺氏は、アンビエント社会に対するプライバシーへの不安などのネガティブなイメージもピックアップしながら、「ユビキタス社会の楽しさや広がり、透明性によって、これらネガティブなポイントをどう解決するか、ということが我々の役割」と語る。そしてアンビエント社会を実現するためのモバイルサービスには、リッチコンテンツやデバイス連携、レコメンド機能、高度なユーザーインターフェイスといった要素が必要になるとし、それらを実現するため、オープンプラットフォームの重要性を訴えた。

 オープンプラットフォームの意義については、WiMAXや3G/LTE、FTTH、CATVなど、さまざまなアクセスインフラを挙げつつ、「これらのアクセス系を、ここで『総合的FMBCサービス提供プラットフォーム』と呼ぶAPI(サービス提供インターフェース)でオープンに公開し、さまざまなサービスプロバイダがサービスを提供しやすいプラットフォームを作ること、いままでのEZwebのような垂直統合プラットフォームだけではなく、オープンなプラットフォームを作ることが、われわれの大きな役割になると考えている」と説明した。

 小野寺氏はこうしたオープンプラットフォームの一例として、Androidを使ったセットトップボックス(STB)を紹介する。家庭に設置するSTBがAndroidを採用することで、ケータイとSTBでアプリケーションの共通化が可能となり、連携もしやすくなる。そして、さまざまなプレーヤーがアプリを開発できるようになるなどのメリットがあると説く。

 さらにAndroidのSTBは、固定回線と無線回線を連携させる「FMBC」環境において、「STBを家庭内のハブとして、家庭内機器のシームレスな連携が可能になる」とし、重要な役割を果たすと予測した。

 また小野寺氏は、「大画面テレビは、家庭内でもっとも接する時間の長いスクリーン。一方のモバイル環境では、ケータイのスクリーンがもっとも接触時間が長い。これらの間をどのようにつなぐか。パーソナルサーバー群を使う」とし、ケータイと大画面テレビの連携に話を進める。その例として、テレビショッピングの放送を見ながらケータイで購入・決済まで行う、といったような機能を紹介し、「家庭の大画面テレビとケータイの結びつきは今後ますます強くなるだろう」と語った。

 ケータイの機能のうち、エージェント機能についても、「すでに位置情報を使った天候情報、交通情報などのサービスはあるが、それら個別のサービスをインテグレートし、ユーザーに自動で送る機能が必要になる。プル型からプッシュ型へ、そういった情報配信が今後は増えていくと見ている。ユビキタスは『何処でも、誰でも』だが、アンビエントは『ここだけ、あなただけ』。まさに個々人に適した情報の時代になる」とアンビエント社会の実現にエージェント機能が一定の役割を果たすことを説明した。

解決手段も提示APIの提供を行う
セットトップボックスについてパーソナルナビ

スマートフォンでの取り組み、MediaFLOの真髄

一般ユーザー向けのスマートフォンについて

 続いて小野寺氏は、KDDIの現在の取り組みについて、まずはスマートフォンから紹介しはじめた。小野寺氏は、「普通のケータイから乗り換える際に、スマートフォンのユーザビリティを満喫しつつも、できるだけいままでのサービスを継続して使えるようにする。ワンセグやデコレーションメールといったものも載せないと、従来のケータイから乗り換えてもらうのは難しいだろう。我々はコンシューマ向け製品では、こういったところを重視している」と同社の方針を語った。

 さらに小野寺氏は、MediaFLOについても言及する。MediaFLOは一般にはモバイルマルチメディア放送として扱われているが、小野寺氏は「『放送』という名前が付いているので、(一般的なテレビ)放送と混同されがち。そうなると、ワンセグに加えてなぜ必要なのか、という議論になってしまう。海外でもケータイ向けの有料放送サービスはあったが、それらでうまくいった例はない。日本でも失敗例はある。だがMediaFLOが狙っているのは、単純な放送ではない。むしろ我々は、個々の端末に対して多種多様なデジタルコンテンツをどう効率的に届けるか、という観点でMediaFLOを考えている。『放送』ではなく、『モバイルマルチメディア同報送信』と考える」と解説した。

 具体的には、MediaFLOには最初からIPデータキャスト機能があり、登録したユーザーにだけデジタルコンテンツを届けられることを紹介。この機能により、「ケータイのトラフィックが増加し、混雑度が上がっているが、そのトラフィックをMediaFLOで一斉配信することで混雑度を緩和し、より良いサービスが提供できる」との考えを述べた。

 また、J:COMとの連携により、「よりサービス性の高い、かつコストの低いプラットフォーム提供が可能になる」との考え方も披露する。具体的には、J:COMの音声通話サービスをKDDIで巻き取ること、電話以外のインフラもKDDIのものを利用することなどで、ユーザーにもメリットがあるという。逆にKDDIがJ:COMのCATVネットワークを使ってフェムトセルを展開する考えも示した。

 今後のモバイルサービスにおける課題についての話題に移ると、小野寺氏はまず課題としてインフラを挙げる。「ユーザーにとって、いつでもサクサク使えれば、インフラは何でも良い。その中で解決するべき技術としては、高速大容量無線や同報送信、固定ブロードバンド回線との連携などがある。この中でもMediaFLOは同報送信として重要」とし、将来の課題解決のためにMediaFLOが重要な位置を占めることもアピールする。

MediaFLOの良さは同報性にあるとするJ:COMとの提携について
モバイルにおけるKDDIの取り組みインフラへのニーズに対する解決手段

フェムトセルの重要性を説明、再びMediaFLOの有用性も

トラフィックの増加
周波数利用効率などについて

 増加するトラフィックに対し、どのようにネットワークのキャパシティを増やすかについては、小野寺氏は「周波数帯域を増やす、周波数利用効率の良い無線方式を導入する、周波数の繰り返し利用する、この3つの方法しかない」と語る。

 まず周波数帯域を増やすことについては、700MHz帯、900MHz帯、2.6GHz帯などが現在審議中となっていることを紹介。しかし小野寺氏は、「現在KDDIでは45MHz幅を上下で2本持っているが、新規に割り当てされる予定なのは1社あたり10MHz幅の上下2本のみ。いまの45MHz幅に10MHzを足しても、とてもではないがトラフィック増に対応できない」とし、現行の周波数割り当て計画だけでは不足との考えを述べた。

 より周波数利用効率の良い無線方式を導入することについては、KDDIがLTEを2012年に導入する予定であるとする。しかしこれについても、「LTEはEV-DOに比べ、周波数利用効率は約5倍にしかならない。しかも、通信方式は一気には更新できず、当面は併存する。混在すれば通信効率も按分するので、当面(の周波数利用効率)はせいぜい3倍程度にとどまる」と語った。

 最後に周波数の繰り返し利用、1つの周波数を使ってカバーする領域を狭くする、つまりセルサイズを小さくすることについて言及。「これがネットワークキャパシティを増やすための大切な要素になる。セルを小さくすればキャパシティは増える。しかし東京のようなビル街では、セルサイズをこれ以上小さくしても効果はあまりない。セルサイズを小さくするには、フェムトセルを使わざるを得ない」とし、フェムトセルが鍵となるとの考えを明らかにした。

 また無線方式強化の一環として、再びMediaFLOにも言及する。KDDIがすでに提供しているBCMCSやBroadcastSMSといった同報送信機能を例に挙げ、「MediaFLOは放送とは言っているが、携帯電話に採用してきた同報送信機能の延長として考えている。そうでなければ、モバイルと謳う必要がない」とし、MediaFLOが携帯電話のネットワークを強化するものだという考えをアピールする。

 その中で小野寺氏は、「MediaFLOはケータイと同じように屋内で使えないといけない。放送ではなく、携帯電話のシステムとして考えている」と、MediaFLOのエリア設計について話を進める。まず、現行の地上波放送では地上高4mにあるアンテナを想定していることを指摘。その一方で「我々がMediaFLOでは携帯電話のようなエリア設計を考えている。局数は増え、コストも増えるが、そうしないと屋内でも受信できず、受信できなければ意味がない」とアピールした。

 続いてフェムトセルについても言及する。auにおける時間別のトラフィック傾向のグラフを示し、「電話は終業時刻周辺のトラフィックが多く、データ通信は深夜22時以降、0時頃までトラフィックが多い。つまり、自宅で使われている。自宅利用に対応するためには、住宅街に基地局を建てる必要があるが、それは難しい。そうなると考えないといけないのは、屋内対応のフェムトセル」とし、実際の利用傾向に対応するためにフェムトセルが最適であるとの考え方を示す。

 フェムトセルについては、「我々は2GHz帯に屋内のフェムトセル用の帯域を確保しているので、屋外との干渉はない。家にいるときは、Rev.Aの3.1Mbpsをフルに使うことができる」とし、その有効性をさらにアピールする。

 一方、無線LANについても、「将来的には無線LANにもキャパシティの問題が出てくると思われる。しかし当面の間は、無線LANが大きな要素であり続けるだろう」と述べた。

無線通信は着実に進化モバイルWiMAXについて
MediaFLOでは携帯電話のような置局を目指す携帯のトラフィック
フェムトセル高速通信手段
無線で固定の置き換えは難しいと指摘固定網での取り組み
FMBC

社会貢献

 最後に小野寺氏は、KDDIが果たすべき社会的責任についても言及する。まずは再生可能エネルギーとして、ソーラー発電を活用しつつある事例を紹介する。現在10局近くが設置されている、ソーラーと夜間電力を組み合わせた基地局では、電気の使用量もCO2排出量も2~3割の削減につながっているという。

 また、社会的責任というと観点では、災害時の通信インフラとして対策についても説明する。災害時、稼働できる基地局数が少なくなるとも考えらるが、それを補うため、ワンセグを使って使える基地局を案内するシステムを開発しているという。また、他キャリアのケータイを借りてメールを送るシステムなども開発しているという。これらの取り組みについて小野寺氏は、「災害時、多くの人がケータイを頼りにするだろうと考えている。たとえ一部で通信できなくなっても、それでも通信を確保できる方法を研究開発している」と語った。

 さらに教育関連としては、同社の児童向けケータイ「mamorino」が高い評価を受けていることやKDDIケータイ教室を述べ40万人が受講したことを紹介。さらに新たな取り組みとしては、ネットいじめを防止するツールの研究開発を行っていることも紹介しつつ、小野寺氏は「より心地よいICT環境、より安心安全なICT環境、それを我々はアンビエントと呼んでいるが、それを実現するために研究開発に取り組んでいる」と語り、講演を締めくくった。

環境に配慮した取り組み太陽光発電などを用いる基地局
災害時の対策青少年への対応

 

(白根 雅彦)

2010/7/14/ 22:15