【WIRELESS JAPAN 2010】
スマートフォンやMediaFLO……KDDI雨宮氏、今後の展開を語る


 「WIRELESS JAPAN 2010」の2日目に開催されたセッション「モバイルキャリアのコンテンツビジネス戦略」で、KDDIのグループ戦略統括本部 新規ビジネス推進本部長の雨宮俊武氏は、「KDDIのコンテンツビジネス戦略」と題した講演を行った。

ジャンル別の有料コンテンツ売り上げ

 まず雨宮氏は市場の動向として、純増ペースは鈍化傾向にあっても、IP接続は増加傾向にあるとデータを説明。その上で「純増を期待してサービスを作るのではなく、使い続けてもらうことを考えないといけない時代になった」と解説した。

 一方でデータARPUとコンテンツの流通額も伸び続けているデータを示しつつ、有料コンテンツの中でもSNSにおけるアイテム課金が伸びていることを紹介する。これについて雨宮氏は、「ユーザーをとにかく集め、入ってもらった人に有料コンテンツを使ってもらう、というのが最近の傾向」と分析した。

有料コンテンツのユーザー分析

 ユーザー層の分析では、有料コンテンツの利用者は、男女ともに10代・20代の若年層の利用者が多く、全体で見ると半分以上が有料コンテンツを利用していないとのデータをあげつつ、「未利用の人をどうやって取り込むか。40代・50代の人にどうやって使ってもらうかが、これからのポイントになる」との考えを示した。

 雨宮氏はKDDI自身が提供しているコンテンツサービスについても言及する。まずは同社の「LISMO」について、「昨年度、ブランド統合をして、音楽のLISMO、映像のLISMO Video、書籍のLISMO Bookとして、トータルでお客さまに楽しさを提供している。たとえば映画コンテンツであれば、映像だけでなく関連した音楽や書籍がある。ブランド統合により横のつながりを持たせることで、お客さまにそうした関連コンテンツに触れるきっかけを与えられると考えている」と紹介した。

 音楽・映像については、ケータイで直接ダウンロードするだけでなく、パソコンでダウンロードしてケータイに転送したり、セットトップボックスでダウンロードするなどのマルチデバイス展開をしていることもアピール。映像分野ではLISMOオリジナルのドラマを毎月1本の割合で提供しているとのことで、「ドラマを作るときには、そのときどきで旬なキャスト、気鋭な監督、話題の音楽を起用するようにしている。ベテランではなく、これから来るであろう人を使うことで、先進感を出している」と説明した。

電子書籍配信事業会社について

 電子書籍における最新の取り組みとして、KDDI、ソニー、朝日新聞社、凸版印刷が電子書籍配信事業会社を設立したことに触れた雨宮氏は、「電子書籍は注目されているが、なかなかサービスが立ち上がっていない。コンテンツを持っている人が安心して、作品を提供できる市場が必要。そのためにこの4社が集まった。日本の出版社が納得できるビジネスモデルを作るのが、この会社の役割」と説明する。

 新会社の位置づけとしては、「この4社でやっていこう、とはまったく考えていない。オープンな会社としてやっていく。賛同いただける人とプラットフォームを作り、コンテンツを出していければ、と考えている」と語った。

 一方、LISMOの今後の展開については、「音楽・映像・書籍の3つをどう繋いでいくかが非常に大事。この3つを連携させ、お客さまのベネフィットを追求したい」とし、とくに書籍については「すべてが電子化するとは考えていない。付加価値が必要になる」との考えを示した。

LISMOのブランド統合LISMOの今後の展開
au Smart Sportsのコンセプト

 続いてのKDDIの取り組みとして、雨宮氏はau Smart Sportsを紹介する。まずau Smart Sportsのターゲットとしては、「ファンスポーツ層とスポーツエントリー層、そして健康のためにスポーツをする層、これらに向けている」とし、それぞれの層に向けたサービスを展開していることを紹介する。サービスの状況としては、「2010年7月に200万人を突破し、次のビジネスも考えられるようになった」と述べた。

 さらに今後の展開としては、「au Smart Sportsでアプリを提供し、ユーザーに使ってもらっている。これからはリアルとの連携として、ユーザー使える施設や参加できるイベントを提供し、ユーザーのスポーツをサポートしたい」とし、先頃、都内にオープンしたランナー向け施設「Run Pit」や講演当日に開催が発表されたauとadidasが主催する駅伝大会「EKIDEN GRAND PRIX」を紹介した。

au Smart Sportsの展開方針au×adidasのEKIDEN GRAND PRIX
au Smart Sportsのコンセプト

 ベーシックなサービスとも言える、EZwebのポータルについても説明する。雨宮氏は、「もともとau oneポータルという公式ポータルが中心となり、コンテンツが集まっていた。しかし2006年にGoogleの検索機能を導入し、この検索が大きな動線となった。我々としては多様化するニーズに対応する新たな接点を強化していく」と方向性を語る。

 その中で雨宮氏は、KDDI自身が提供するサービス「EZニュースEX」を紹介する。EZニュースEXは、同報送信機能であるBCMCSを使い、ケータイの待受画面にニュースなどの情報を提供するサービス。雨宮氏は、「世代別に見ると、ポータルに比べて上の年代の人たちに使っていただいている。EZニュースEXは、そういった層にコンテンツサービスに触れるタッチポイントとなり、ユーザー層の幅を広げる役割を果たしているのではないか」と分析した。

EZニュースEXの概要EZニュースEXの今後
端末市場のパラダイムシフト

 続いて雨宮氏は、KDDIによるスマートフォンへの取り組みも紹介する。まずは市場動向として、「いままではフィーチャーフォン(いわゆる一般的な携帯電話)だけだったが、これからはオープン端末やデータカードが増えていき、新しいステージに移っていくと考えている。多様な端末の登場は、ビジネスモデルの消失ではなく、新たなチャンスと考えている。オープン端末に対し、フィーチャーフォンのサービスを持っていくこともできるし、オープンプラットフォーム上で新しいサービスを作ることも可能」とし、スマートフォンに代表されるオープンプラットフォームが市場を変えていくと分析した。

 そのような状況でのauの取り組みとしてISシリーズを紹介。「日本のケータイユーザーにあったUIを搭載」「日本の定番機能を搭載」「auのサービスにも対応」などの特徴を紹介しつつ、「海外端末をそのまま持ってくるのではなく、日本のユーザーが使いやすいスマートフォンとして出した」と語った。

 さらに将来の可能性として、Androidを使ったセットトップボックス(STB)などの機器を紹介。雨宮氏は「さまざまな機器でAndroidをプラットフォームとして動かせないか、研究している。こういったものが登場すれば、機器間連携がより簡単になると考えている」と語った。

ISシリーズの特徴Android STB開発について

 新たな取り組みとして、他社とより深い連携をする「Link au」の紹介も行われた。これは、他社が独自に端末の企画販売をし、KDDIは通信サービスだけを提供するというシステム。雨宮氏は「これまでauではリーチできなかったお客さまに製品・サービスを提供できる。今後、このアライアンスが重要な領域になると考えている」と解説。その第1弾としてナビタイムが提供する「CAR NAVITIME」を紹介した。

Link auのアライアンスについてCAR NAVITIMEについて
シームレスなブロードバンド環境

 J:COMとの関係については、「CATVのスケーラビリティでシナジー効果を業界全体に波及させたい」と語った。さらに関連会社を含めた目指す環境として、「LTE、FTTH、CATV、WiMAX、MediaFLOなどさまざまなインフラを使い、いろいろなコンテンツを提供するのが目指す姿」と語った。

 このほかの取り組みとしては、金融サービスとして提供している「じぶん銀行」に加え、携帯電話向けの損保会社を設立したことも紹介した。

マルチメディア放送への取り組み

 そして最新の話題として、携帯端末向けマルチメディア放送として子会社が申請中のMediaFLO方式について、「昨日(7月14日)、電波監理審議会が開催され、周波数割り当ての方向性が決まる予定だったが、延期された」と紹介しつつ、MediaFLOについて解説する。

 まず雨宮氏は、MediaFLOの開設計画概要を示し、「屋外で95%、屋内で90%を目指す。カバーエリアの設計思想は、“放送”ではなく“携帯電話”。テレビのアンテナは屋外にあることが前提となっているが、ケータイは家の中で使うもの。テレビのカバーエリアでは受信感度が変わってくる。それを前提とし、設置局数も865局としている。インフラを安く作ることではなく、屋内利用などを重視する」とし、MediaFLOのエリア思想がモバイルに最適であるとの考えをアピールした。

出資戦略

 海外を含め、MediaFLO対応機種としてさまざまな端末が発売済であること、南米・欧州・アジアでもMediaFLO導入に向けて動いていることなどを紹介しつつ、「多様な端末の普及やインフラコスト低減にも期待が大きい。世界標準を使うことで、端末を安く提供することも重要。事業者としてではなく、ユーザー目線でサービスを提供することが大切」との考えを語った。

 最後に雨宮氏は、KDDIによる出資戦略にも言及。「もうau単独でいろいろなことをやる時代ではない。強みを持った企業と一緒にやるのが基本になるのではないだろうか。出資を含め、いろいろな形で連携したサービスを考えていきたい」と語った。

 



(白根 雅彦)

2010/7/16/ 07:00