【WIRELESS JAPAN 2011】
KDDI田中社長、「なんちゃって」から「真のインターネット」へ


KDDIの田中社長

 「WIRELESS JAPAN 2011」初日の基調講演で、KDDIの代表取締役社長の田中孝司氏は、「KDDI 新たな10年への出発」と題した講演を行なった。

 田中氏は冒頭、「新製品発表会などが行なわれたばかりなので、今日は商売のお話ではなく、KDDIがどう考えているか、というビジョンのお話をする」と前置きをし、まずKDDIのこれまでの10年を振り返ることから始めた。


KDDIの売り上げ比較

 田中氏は、2000年と2010年のKDDIの売上をグラフで示し、「移動通信事業は8000億円ほど成長した。一方、グループ全体が6000億円くらいの成長なので、この10年はケータイ事業、auの事業がKDDIの成長を引っ張ってくれたと思っている」と説明する。

 さらに過去15年の携帯電話契約者数の推移と各時期の特徴的な新サービス・新機能を表わしたグラフを示し、過去の10年は3Gの時代だったと振り返る。

 KDDIは2001年10月に3Gを、2003年11月にはパケット定額を導入しているが、それ以前については「ショートメッセージやカラー液晶、カメラ付きケータイなど、ケータイそのものの形が進化した」とし、一方の3G導入後については、「3Gと定額により、契約者数も増えたが、ケータイ上でのインターネットサービスや付加サービスが開花したかな、と見ている」とし、3Gの登場が重要なポイントだったことを強調する。

ケータイサービスの変遷

 さらに3G以後に導入されたサービス・機能については、「もともとはパソコンやインターネットで使うサービスがほとんどで、それがケータイに流れていった。ケータイのインターネットサービスは、パソコンからケータイへの進出である、と考えられる」と持論を語る。

 田中氏はケータイの流れのグラフに、さらにパソコンの流れを重ねる。パソコンでは、1990年代にインターネットが普及し始め、Windows 95が登場し、1999年にADSLによる定額ブロードバンドが実現した。その後、パソコンのインターネットにはさまざまなサービスが登場しているが、田中氏はそれらのサービスについて「1年から2年遅れて、パソコンからケータイにシフトしている」と分析し、「過去10年、こういった方程式でケータイ上のサービスを提供してきた」と説明する。

 田中氏はこの「方程式」について、「まずインターネット上で流行っている、あるいはこれから流行るかもしれないサービスを見つけ、それを提供している方と協業する。そしてそのサービスを、ケータイの画面や入力方法などに最適化し、あとは低廉な料金を設定して、われわれがプロモーションする。これが過去10年の勝利の方程式」と語った。

 同氏はさらにこの「方程式」について分析を進める。ケータイのインターネットとパソコンのインターネットについて「比較してみると面白いことが発見できると思う」として図を示す。

 まずパソコンは、家やオフィスで使う「制限されたメディア」であり、一方のケータイは、常に持ち歩くデバイスとなっている。さらにユーザー数についても、固定ブロードバンドは3500万契約、ケータイのインターネットは約1億契約であると指摘。田中氏は、「契約数は3倍だが、パソコンのタッチポイント(接触時間)はせいぜい1日4~5時間。しかしケータイは10時間以上、身にまとう。ケータイとパソコンの差は、加入者数×タッチポイントで、さらに大きくなる。価値は10倍と見て良い」と語る。

 また、ケータイ自体の画面の大きさや入力インターフェイスではまだ制約があるとしつつも、この10年で大きく発展してきたことを指摘し、「こんな制限されたデバイスであっても、過去10年で大きく発展した。わたしは改めてケータイの魅力というものを、みなさんとシェアしたい」と語った。


勝利の方程式ケータイとパソコンの比較

 そしてこれまでの10年を総括し、「この10年は、携帯電話の10年だった。また3Gと定額の時代でもあり、その中で、なんとか(パソコン向けの)インターネットの価値を小さなデバイスに取り込む、『なんちゃってインターネット』の時代だった。非常に良い時代だったと思う」と表現した。

これまでの課題は「解決しつつある」

 続いて田中氏は、これからの10年に話題を移す。まず、これまでのケータイが抱えてきた課題である、「ユーザーインターフェイス」と「携帯電話の能力」、「ネットワークの速度」の3つについて、「解決しつつある」と語る。

 1つめの課題であるユーザーインターフェイスについては、田中氏はiPhoneを例に挙げ、「昔はテンキーで文字を打ち、カーソルキーで上下左右に動かすしかなかった。しかしiPhoneを見て感動した。タッチパネルを使うことで、ケータイのインターフェイスの制限を取り払ってくれたと考えている。この発明はとんでもなくすばらしい。われわれにとって最大の制限事項であったケータイのユーザーインターフェイスに革命をもたらしてくれた」と語る。

 2つめの課題であるケータイの能力についても、現在のスマートフォンがほとんどの機種で1GHzを超えるプロセッサを搭載していることや、高精細なディスプレイを搭載していることを挙げ、すでにこの課題も解決した、と指摘する。

 3つめの課題であるネットワークの速度については、2000年当時の64kbpsから現在の9.2Mbps(auの場合)まで急速に進化していること、さらにKDDIの関係会社であるUQコミュニケーションズのWiMAXが40Mbpsまで通信速度を向上させ、KDDI自身も2012年にはLTEで75Mbpsの速度を目指していることなどから、通信速度の課題も解決しつつあることを紹介する。

3つの課題ユーザーインターフェイスの革新
携帯電話性能のアップネットワーク速度の向上

 こうした流れのもと、田中氏は、「過去10年は3Gの時代だったが、制限された通信速度、CPU速度、ユーザーインターフェイスのもと、何とか花開いた『なんちゃってインターネット』だった。ところが、それらの制限はすでになくなっている状態。これからの10年は、パソコンのインターネットでできることが完全にモバイルでもできるようになる、と断言できる。これは真のモバイルインターネットで、パソコンインターネットとモバイルインターネットが本当に融合してくる。何の意識もなく、インターネットがケータイかスマートフォン、パソコン、それらの中間デバイスでできるようになると考えている」と持論を語る。

 さらに昨今のスマートフォンの普及についても、「これからたくさんのスマートフォンが登場する。これは、これからの10年の始まり。これからもっと変化が起きると考えている」として、これからの10年の話題に移る。

スマートフォンへのシフト、新たな課題

 まず田中氏は、「スマートフォンだけでなく、もっと多様なデバイスが登場する。タブレットもそうだが、テレビや車など、マルチデバイスの時代になる」と予想する。

未来予想新たな10年のかたち

 さらに端末上で動くアプリについては、「デバイス間でシームレスにデータや使い勝手が引き継がれる時代になる」とし、ネットワークについては、「3.9Gとかに限定するのではなく、複数のネットワークで最速の環境を提供する時代になると考えている。その意味では、先日発表したau Wi-Fi SPOTが重要な部分を占めると考えている」と語った。

トラフィックの急増

 一方で田中氏は「いいことばかりではない。スマートフォンへのシフトが進むと、LTEだけでは収容しきれないくらいデータトラフィック量が増える。そうなると、オフロード(ほかの手段で通信負荷を分散させること)が必要になる。それは固定網しかないわけだが、そこにオフロードしなくてはいけない。また、新たなビジネスモデルが牽引者として必要になってくるとも考えている」とし、これからの10年の課題を指摘する。

 こうした課題について田中氏は、KDDIでは「マルチデバイス」「マルチユース」「マルチネットワーク」の「3M戦略」を立てていると紹介する。これは、さまざまなデバイスでさまざまなサービスを同じように見えるよう、ネットワークを構成するというもの。田中氏は「国内の事業のベースを3Mに持っていきたい」と語る。

 トラフィックを固定網にオフロードすることを考えると、ビジネスのベースも個人から世帯に変わるとも指摘する。こうした環境が実現するマルチネットワーク環境を構築し、「高速で快適なネットワークをリーズナブルに、シームレスに提供する」という。

KDDの中長期戦略マルチデバイスについて

 マルチデバイスの取り組みとしては、WiMAX対応のスマートフォン「HTC EVO」やスマートフォンからシームレスに使える公衆無線LANサービス「au Wi-Fi SPOT」などを紹介。さらに今後も、「もっともっとみなさんの興味がわくようなデバイスを出していきたい。WiMAX対応などを組み合わせることで、ゲーム機にも入れていきたい」との考えを語った。

マルチユースへ向けて

 マルチユースについては、「キーワードはシームレス。固定環境とモバイル環境をシームレスに使えるサービスを提供していきたい。自社ブランドで提供してきたサービスをマルチデバイスに広げ、これまでにましてオープンコンテンツにも取り組んでいきたい。先日、Facebookとのコラボレーションを発表したが、今後もこうしたことをお披露目できるのではないかと思う」と語る。


新たな10年について

 最後に田中氏は、今後10年の未来予想について、「いまパソコンのインターネットでできることは、完全にモバイルでもできるようになり、それが溶け込むと考えている。シームレスにつながること、これがKDDIの3M戦略」と総括する。

 その一方で田中氏は、「もうひとつ興味深い動きが外の世界で広がっている。それはセンサーネットワーク。いろいろな情報をクラウドにアップロードでき、クラウドに置かれている情報を融合することで、真のユビキタスが新たな形で生まれてくるのでは」との予想も語った。


 




(白根 雅彦)

2011/5/25 20:32