「モバイルプロジェクト・アワード2009」受賞者に聞く

ケータイで楽しく受験勉強ができる「uchico」


 サミーネットワークスの運営する「uchico」(うちこ)は“学習”や“受験”を武器に、中高生の支持を集めている。ユーザー数も順調に推移し、今では50万人を超えた。また、同社ではuchicoの姉妹サイトとして「こころ部」を立ち上げ、中高生の悩みに真っ向から取り組んでいる。両サイトとも、エンターテインメント系のコンテンツが中心のケータイサイトの中では、異色の存在だ。そこで、これらのサイトを立ち上げた経緯や、成長の理由、今後の展開などを、サミーネットワークスの紙本亜矢美氏に聞いた。

エンタメコンテンツのノウハウが活きる勉強コンテンツ

サミーネットワークス、新規企画本部、エデュテイメントチーム、紙本亜矢美氏

 uchicoは“受験”や“勉強”がコンセプトの、コミュニティサイト。“ウチらの受験コミュニティ”の略称がサイト名の由来で、「えもじ模試」や「ガチンコ★暗記デコ画」「歴史deラップ」など、中高生の勉強を支援するコンテンツがずらりと取り揃えられている。例えば、えもじ模試では、問題に答えることでデコメ絵文字がダウンロードできるといったように、ケータイコンテンツで勉強のモチベーションを高められるような工夫が凝らされている。

 元々、サミーネットワークスは、着メロやパチンコアプリなどのエンターテインメント分野に実績のあるコンテンツプロバイダーだ。勉強や受験をテーマにしたサイトを作ったのも、「着メロサイトのコアターゲットである中高生と話す機会が多く、彼女たちの悩みは昔とさほど変わらず、友達関係や恋愛関係、勉強にあることが分かった」(紙本氏)という経験があってこそ。もちろん、着メロサイトなどで培ったエンターテイメントコンテンツのノウハウも活きている。

「参考書や塾でできることはやらない。弊社ならではの切り口を大切にして、家に帰ってまで勉強を強制されるコンテンツにならないように気をつけている」(同氏)

楽しく学習できるコミュニティサイトの「uchico」

 歴史の年号をラップに乗せて動画で配信したり、“暗記モノ”の図をかわいいイラストや書体で飾り待ち受け画面にしたりと、学習コンテンツに、ケータイ世代が親しみやすいエンターテインメント要素をふんだんに盛り込んでいる。ただし、内容そのものはいたって真面目で本格的。「学習参考書を作っている編集プロダクションさんがパートナーで、ケータイならではの部分を出す企画を弊社が担当している」(同氏)というように、双方の得意分野を活かす形でコンテンツが作られている。受験シーズン直前には「英語のリスニングや面接シミュレーションのページビューが伸びた」(同氏)というエピソードからも、中高生がuchicoを頼りにしている様子が見て取れる。

 こうしたコンテンツの数々は、狙い通りユーザーに受け入れられた。実際、同社にも「歴史のラップを友達と歌ってます」といった感想を述べたメールがたびたび届くという。その結果、ユーザー数は開始3カ月で10万人を突破。冒頭述べたように、現在では50万人もの会員を抱えている。元々のメインターゲットは中学生だったが、「受験に受かって中学を卒業したユーザーからの『高校に入っても使いたい』という要望が多かった」(同氏)ことを受け、現在は高校生向けのコンテンツを拡充中だ。

模試の内容は本格的で大人でも苦戦するラップで歴史の年号を覚える「歴史deラップ」

ユーザー同士のコミュニケーションでテストを乗り切る!?

 “ウチらの受験コミュニティ”というだけに、サミーネットワークスが送り出すコンテンツだけが、uchicoの売りではない。同サイトは「ウチらのベンキョー委員会」という有料の公式サイトが前身だが、「コミュニティ要素を導入しづらい」(紙本氏)という理由で、あえて勝手サイト(一般サイト)にシフトしている。それだけに、掲示板でのコミュニケーションは大きな売りの1つだ。サイト内には、「みんなのキモチ掲示板」などが設置されており、中高生が活発なやり取りを交わしている。先輩に受験のことを尋ねたり、勉強を教えあったりと、学習系サイトならではの書き込みが目立つ。

「高校生が中学生に勉強を教えていることもある。最初は共存できるか不安だったが、意外といい動きをしている(笑)。中学生はお兄さんやお姉さんに聞いてみたいという気持ちなのではないか」(同氏)

掲示板のカテゴリー分けも中高生中心のサイトらしい

 掲示板のカテゴリーも、「英語」や「数学」のように分かれている。mixiならマイミクシィに当たる友達同士の相互リンクも、uchicoでは「勉とも」と呼ばれており、あくまで勉学で切磋琢磨する仲間という位置づけだ。コミュニティの中では「勉とも募集のコーナーが人気」(紙本氏)で、「同じ時間一緒に勉強する人を募ったりしている」(同氏)という。形は違うが、友達の進捗状況を聞き、それを励みにテスト勉強に打ち込むというのは、今も昔も変わらないようだ。

 中高生が全ユーザーの7割を占めているというだけ、安全対策が気になるところだが、今のところ大きなトラブルは起きていない。EMA(モバイルコンテンツ審査・運用監視機構)の審査も通っており、24時間365日の監視体制もしいている。また、学生主体のコミュニケーションが生み出す“サイトの雰囲気”が、SNSを出会い系代わりに使う大人を遠ざけているようだ。紙本氏は次のように分析する。

「制限をかけているわけではないが、掲示板を見ている限りでは中高生しか会話していないので、悪い大人が入りづらいのではないか」(同氏)

 今後は、ユーザーの成長に合わせて高校生向けのコンテンツを徐々に充実させていく予定だ。大学別の入試問題なども「検討している」(同氏)という。将来的には「中高生ターゲットの商品やサービスのタイアップ広告や会員へのリサーチを始める」(同氏)ことで、収益を出す方針。特定の年齢層のユーザーが多く、志望校などの情報が充実しているだけに、広告以外にも、さまざまな事業展開が考えられそうだ。

ケータイのトラブルに正面から取り組んだ「こころ部」

ケータイのルールやマナーを学べる「こころ部」
コンテンツはマンガ形式で気軽に読むことができる

 一方、姉妹サイトのこころ部は、勉強だけでなく「中高生の心の部分までサポートする」(紙本氏)ことを目的としている。ケータイを利用する上でのマナーやモラルを主にマンガで解説しているほか、ユーザーからの投稿も受け付けている。迷惑メールやチェーンメール対策などのテクニカルな話から、架空請求や出会い系サイトなどの危険性を解説する話まで、内容は幅広い。いずれのコンテンツにも、「大人が一方的に説教するような形にしないため」(同氏)という方針が貫かれているのが特徴だ。

 ユーザーの人気が高いのはお悩み相談のコーナーで、「多いと1日20~30通、平均でも10通程度のメールが届く」(同氏)という。原則的に、寄せられた悩みに回答するのは「Dr.ロココ」というサイト上のキャラクターで、対応はuchicoと同じメンバーで行っている。「デリケートな悩みが多く、外部の業者には委託しづらい」(同氏)ためで、運営メンバー全員が「ネットいじめ対応アドバイザー」という資格を取得したという。ただ、中には緊急を要するメールもあり、それに対しては直接返信を行っている。

「架空請求に振り込みそうになっていたのを止めたこともある。自分たちだけで回答できない場合は、消費者センターなどの外部の専門機関を紹介する」(同氏)

 今はケータイの中で起こっていることが中心だが、将来的にはより身近な悩み相談に踏み込んでいきたいという。紙本氏は「本当の意味での心のケアをしていきたい。いじめなども取り上げられれば」と話す。「大人の方にも、このサイトを知ってほしい」(同氏)というのも、目標の1つだ。こころ部では子どもたちの悩みをアンケートにまとめ、大人たち向けの講座などで積極的に発信をしているが、こうした動きが認知されれば、親子のケータイに関する知識のギャップは埋まってくるのかもしれない。




(石野 純也)

2009/8/18 15:51