ドコモに聞く

「オートGPS」に対応したiコンシェル、どう便利になったのか


 NTTドコモは、2009年秋以降に発売する新機種で、自動的に現在地を測位する「オートGPS」機能を搭載することにあわせ、情報配信サービス「iコンシェル」でもオートGPSを利用したコンテンツの提供を開始する。位置情報と連動することで、iコンシェルはどう進化するのか、NTTドコモコンシューマサービス部 ネットサービス企画担当部長の前田義晃氏に聞いた。

オートGPSとは

 「オートGPS」は、現在地を自動かつ定期的に測位する機能のこと。移動中は、おおむね5分間隔で測位する。初期状態ではオフとなっており、ユーザーが設定を変更することで利用できるようになる。

 バッテリーへの影響が気になるところだが、オートGPSを利用しない状態と比べればどうしても待受時間は短くなる。ただし、今回の新機種では加速度センサーが搭載されており、携帯電話が動かない、すなわちユーザーが移動していない状況を検知する。ユーザーが動き出せば、測位を開始するということになり、オートGPSが動作する状況を自然と制限するようになっている。

iコンシェル新機能の仕組み

 iコンシェルでは、ユーザーの現在地にあわせた情報配信を実現するため、オートGPSを利用することになる。なお、iコンシェルで位置情報連動コンテンツを利用する場合、測位した位置情報は、コンテンツプロバイダへ直接送信されるのではなく、ドコモのiコンシェルサーバーで保有する。コンテンツプロバイダから対象ユーザーや配信対象エリア、時間帯などが指定されれば、そこに該当するユーザーのみ、コンテンツが届く、という仕組みだ。

 これにより、コンテンツプロバイダは「東京の新宿周辺だけ」「大阪の梅田周辺だけ」とピンポイントで情報配信できるようになる。対象エリアは、半径50m~10kmで指定でき、一度に100エリアに配信できる。配信のタイミングは、コンテンツプロバイダがドコモへ依頼した日から最大93日間。24時間のうち、分単位で指定できる。「マイメニュー登録しているユーザー向け」「特定のトルカを保有しているユーザー向け」「特定のiスケジュールを持っているユーザー向け」といった情報配信ができる。

オートGPS対応コンテンツの仕組み

 各種コンテンツプロバイダから対応サービスが提供される見込みだが、ドコモからは終電間近になると通知してくれる「終電アラーム」、出張など外出先でも利用できる「オートGPS気象情報/地震情報」、スケジュールを入力すると、鉄道の経路検索ができる「おでかけナビ」、おでかけナビで目的地周辺に近づくと近くの駐車場情報を提供する「駐車場満空情報」といった対応サービスが提供される。

 また「オートGPSリマインド」と呼ばれる機能も提供される。これはユーザー自身が「お知らせして欲しい場所、内容を設定すれば、近づいたときに通知する」というもの。テレビ番組で飲食店が紹介されたときに番組サイトへアクセスし、「今回紹介したお店はこちら」といったコンテンツでオートGPSリマインド用のリンクをクリックすると、お店に近づいたときに通知が届く、といったこともが実現できる。

ドコモ前田氏に聞くiコンシェル新機能と今後の展開

――オートGPSが搭載されることで、iコンシェルの利用スタイルも広がるとのことですが。

NTTドコモの前田氏

 オートGPSを設定していただくことで、位置情報がドコモのサーバーに通知され、さまざまな情報配信が実現できるようになります。特定のイベントや一定のエリアでトルカを持っている人だけに配信するといったことが可能になります。わかりやすい事例として、航空会社さんのオートGPS対応コンテンツを紹介しましょう。たとえばフライトの予定がある日に、空港の近くまで来ると、ユーザーの位置情報を検知して、「本日はご搭乗ありがとうございます。搭乗ゲートは○番です」といった情報が降ってきます。国内の目的地に降り立つと、キャビンアテンダントお勧めの飲食店や、付近の交通機関情報などが入手できるというわけです。

 また、タワーレコードでも渋谷店、新宿店で行われるキャンペーンが近くにいると配信されるようになる、といったサービスも登場します。
――今夏、本誌のインタビューにおいて位置情報との連動機能を導入することを明かされていましたが、GPSとの連動は、「iコンシェル」にとって当初から想定していた機能だったのでしょうか。

 そうですね。1年のタイムラグはありましたが、「iコンシェル」はユーザーの情報を預かることで実現するサービスであり、“誰が何を持っているのか”というのはコアの部分です。適切なマッチングがどの程度実現できるか、という点で位置情報は必然の流れの中にあると思っていました。

航空会社のコンテンツの利用イメージ

――では、今回のオートGPS連動は予定通りと。

 これまでは、ユーザーが自発的にトリガーをひかなければ利用してもらえないサービスでした。「店の近くにくればクーポンが手に入る」というサービス像は、昔から描かれていましたが、実現するような機能は搭載されてこなかった。今回のオートGPS連動は「iコンシェル」の破壊力がだいぶ増すと思います。

――位置情報との連動は、ユーザー側に受け入れやすい、使ってもらいやすい機能と言えるのでしょうか。

 そのあたりは、いろいろな要素があるため、結構悩みました。あまりにも多く機能が導入されるとわかりづらくなりますので、適切なタイミングでサービスと機能を提供すれば徐々に浸透するだろうと。

――位置情報の取り扱いですが、ドコモ側のサーバーで保管され、コンテンツプロバイダには渡らないということで対策がとられています。しかし、どうしても不安視されやすい部分です。

 たしかにその通りです。オートGPS機能自体はユーザー自身の手でONにするものとは言え、きちんとメリットを訴求できなければいけないでしょう。そのためにドコモから各種コンテンツを提供し、メリットを提供するわけです。仕組み上、ユーザーの現在地を知り得るのはドコモだけという形にしていますが、そのあたりが理解されるよう努めていきます。

――機能が高度化するには、開発側だけではなくユーザー側も使いこなせる状況になってくる必要があると思います。このタイミングで位置情報連動を導入するきっかけ、裏付けとなるデータなどはあったのでしょうか。

 いえいえ、ユーザーの動向から何らかの自信、根拠を得たわけではありません。端末販売数が伸び悩む状況ではありますが、対応機種を持つ方のうちiコンシェルの利用率は65%、解約率は7%程度で推移しており、それなりに利用していただいています。「iコンシェル」が提供する生活行動支援、ユーザーにあわせた情報配信、といった部分への素地ができあがりつつあり、今後理解が深まっていくだろうという段階でしょう。

――オートGPS対応により、場所ごとに異なる情報が得られるようになりますが、地域性は考慮すべき要素なのでしょうか?

 そのあたりはファジーな判断で情報を配信していくのがベストですね。たとえば気象情報ですと、コンシェルの初期設定では、警報のみ通知するようになっています。たとえば関東圏ですと、冬場になると毎日、乾燥注意報が出るんです。ところが、雷雨ですと注意報でも知りたいというニーズがある。

 そうなると「注意報」の重みが違うわけです。このあたりをシームレスに切り替えられれば良いのですが、来店時の説明などをも含め、難しい部分やジレンマ、悩みがある。(iモード開発に携わった)夏野氏にも「どうしたもんですかね」と相談したりして、「最初のコンセプトとして、“うざくない”というのが最初の着地点だったんじゃないのか」って言われ、そりゃそうだと。“今”にあわせた形でマッチした情報を提供し、位置情報をストックして、判断する。そこまで高められればと思いますが、ユーザー数を踏まえるとデータが膨大になりますので、そこまで駆使するにはどれだけコストがかかるのか、わかりません(笑)。

――ライフログのように情報が集積しても、その次のステップに進むには、課題があると。

オートGPS対応が可能性を広げると指摘

 蓄積したとしても、多くの人は通勤・通学に同じルートを通るなど、大部分は同じ行動です。その行動範囲の中で、店舗情報やイベント情報について必要か不要か調べた上で、不要と判断している情報があるかもしれない。そこに配信していくのは、情報過多になってしまうかもしれない。どっちかと言えば、イレギュラーな場所にいるときのほうが情報を求める傾向が強まるのではないかと。まぁ、いろいろと考え出すとキリがないのですが、今回のオートGPS対応で、さまざまな可能性が広まると考えています。

――iコンシェルでは、交通情報や気象情報が役立つと思う一方、その他の情報で登録したいと思うものがなかなかありません。

 高速道路の渋滞情報は提供したいですね。何時に出れば、いつ着くのかわかる、といった形ですとか。トルカ系でいけば、クーポンは相当数ダウンロードされています。プレミアクラブで提供したものや、ファミリーマートさん、モスバーガーさんのトルカは人気でした。

 スケジュール情報でいくと、実は「Gガイド」が一番使われているんですよ。現状は、「格闘技」で検索すると、「太極拳講座」も含まれてしまうので、細分化は必要だと思っていますが、テレビ側でもメタ情報が充実してきていますし。

――なるほど。

 iコンシェルで配信するインフォメーションは、契約者情報に紐付いて提供しています。きちんと細分化せずに配信しすぎると、ティッシュ配りになってしまう。CDの新譜情報にしても、J-POPや洋楽、といったざっくりしたくくりではなく、好みのアーティストごとに情報が手に入るといった細分化が必要です。マチキャラにしても、今の「ひつじのしつじ」はユーザーとの会話もなく、秘書・執事と比べるとそのほんの一部分でしかない。情報のインプットを徐々にサービスへ入れ込んでいかなければいけないと思っています。やはり端末内でお預かりできるデータには限りがありますから、そこからわかる部分も限りがある。嗜好性などを取り込んでいくためには、もっとさまざまなものを取り込んでいけるようにしたいですね。

――ありがとうございました。

 



(関口 聖)

2009/11/10 13:09