「Xperia X10」開発者インタビュー

ソニー・エリクソンが提案するコミュニケーション新時代の旗手


Xperia X10

 ソニー・エリクソンがグローバルモデルとして海外で発表した「Xperia X10」は、日本を含む世界での発売が予定されているフルタッチ操作のAndroid端末だ。4インチのフルワイドVGA液晶や1GHz駆動のCPU、810万画素カメラなどスペック面で注目を集めるが、ソニー・エリクソン独自のユーザーインターフェイスを搭載しているのも特徴となっている。

 本誌では、ソニー・エリクソンのグローバル部門でXperia X10を開発している担当者に、インタビュー取材を行う機会を得た。Xperia X10をコンセプト段階から担当しているマーカス・加藤氏と、プロダクトの企画を担当した安達氏の2名に、開発の背景や特徴的なユーザーインターフェイスを中心に、話を伺った。

 なお、Xperia X10は日本での展開が明らかにされているものの、詳細は現在未定。インタビューでお答えいただいた内容は、海外市場向け端末の仕様が基本になっていることに注意していただきたい。


Xperia X10の開発を担当したマーカス・加藤氏(左)と安達氏(右)

――ソニー・エリクソンとして初めてOSにAndroidを採用した端末です。どのような理由でAndroidを選んだのでしょうか。

マーカス氏
 Androidの立ち上げに際してグーグルから連絡があり、一緒にプラットフォームを育てていかないかと誘われました。XperiaというブランドはOSなどのプラットフォームに依存するものではありませんし、Androidのポテンシャルは高いと感じました。

安達氏
 Androidはコンシューマー市場向きという趣きでしたし、開発しやすいツールが揃っていました。これらを利用すれば、ソニー・エリクソンとしての独自色を出しやすく、我々の意思を伝えやすいと考えました。

――初めてのAndroid端末ということで、実験的な意味合いが強いのでしょうか。

マーカス氏
 ソニー・エリクソンとして大きなプロジェクトですし、Xperia X10は2010年上半期のラインナップでフラッグシップモデルに位置づけています。

安達氏
 Android搭載端末に関しては、X10だけでなく順次展開していく方針です。

――グローバルのソニー・エリクソンとして、既存のシリーズとの棲み分けはどうなるのでしょうか。

マーカス氏
 ポートフォリオでは、Xperia X10はずば抜けたトップエンドのモデルです。既存のシリーズであるWalkman Phone、Cyber-shot Phoneの要素といったものを取り込んだ内容になっています。

安達氏
 ソニー・エリクソンの新しいプラットフォームを打ち出す最初の機種ということになります。

――訴求ポイントはグローバルで共通ということでしょうか。

安達氏
 訴求ポイントも基本的に各国で同じですね。

 

「人とのつながり」を軸に、端末内のデータをシームレスに扱う

――Xperia X10の特徴を教えてもらえますか?

Xperia X10のホーム画面。フルワイドVGAの解像度にあわせてグラフィックが独自に刷新している

マーカス氏
 OSとしてのAndroidの機能を壊すことなく、ソニー・エリクソンのUIを載せたものです。Androidの特徴的なアップトレイ(待受画面下部のアプリ一覧を表示するトレイ)や画面上部の通知エリア、グーグルのサービスを利用するアプリなど、標準的なAndroid端末の機能はすべて搭載しています。

 ベーシックなAndroidの上に、我々が「UXプラットフォーム」と呼ぶものを搭載しています。洗練されたグラフィックが特徴のひとつで、ダイヤル画面からメッセージングアプリ、文字入力まで幅広くカバーしています。

 「UXプラットフォーム」では大きな特徴として、ユニークなアプリ「タイムスケープ(Timescape)」「メディアスケープ(Mediascape)」を用意しています。

 「タイムスケープ」は、さまざまな人のステータスやメッセージを、時間軸で整理して表示するものです。見た目も楽しく、新しい情報は画面の上から降ってくるイメージです。すべてを表示するメインスプライン画面のほかに、メールだけ、メッセージングサービスだけなど、画面下部のタブで内容をフィルタリングして表示することも可能です。

タイムスケープの基本画面であるメインスプライン画面。上下にスクロールでき、左右の移動が可能。新規の情報は上から重ねるようにして追加される。人を基準にしており、通話履歴、メッセージ履歴、返信などさまざまに展開できる

 タイムスケープで非常にこだわったのは、「インフィニットボタン(infinite button)」の機能です。例えば何かの情報が更新され、ある人がメインスプラインに表示されたとします。そこに表示されるインフィニットボタンを押せば、その人に関連したメールのやりとりの履歴、メッセージングサービスのやり取り、通話履歴、顔写真など、端末の中のその人に関連する情報がすべてシームレスに見られ、扱えるようになっているのです。人とのコミュニケーションを軸に考えたアプリですね。

安達氏
 これまでなら、複数のサービスを使う場合、アプリを立ち上げて使い、一度アプリを閉じて、また別のアプリを立ち上げて……という風に流れが分断されていました。タイムスケープとインフィニットボタンでは、ユーザーが何を知りたいのか、ということに対し、その「人」に関わる“つながり”を横断的に見せるのです。

マーカス氏
 タイムスケープでは常に新鮮な情報を表示できますし、無限につながっていく様子からインフィニットボタンと名付けました。タイムスケープは待受画面に設定することも可能で、ウィジェットも用意しています。

――「メディアスケープ」も同じ考えでしょうか。

マーカス氏
 「メディアスケープ」もタイムスケープと同様のコンセプトです。コンテンツにフォーカスしながら、関連する音楽、ビデオ、写真を横断的に表示でき、簡単に切り替えられます。また、ローカルとネットの境目を無くし、例えば楽曲再生中にインフィニットボタンを押せば、インターネット上の関連コンテンツをシームレスに表示できます。

安達氏
 タイムスケープ、メディアスケープは、Xperia X10の大きな特徴として訴求するポイントになると考えています。

Androidでおなじみのアップトレイ。ホーム画面の下から呼び出すのもベーシックなAndroid端末と同じ画面上端の通知エリアから通知画面を呼び出している最中。こういった基本仕様はほかのAndroid端末と共通だ
スリープを解除すると表れる画面ロックを解除する画面左手で操作しにくいのでは? と聞いたら、ロックのスライド表示を反転して見せてくれた
「タイムスケープ」で、特定の人との通話履歴だけを表示させたところ。画面下部ではさまざまにソートして表示できることが確認できるこちらはタイムスケープで特定の人とのメッセージ履歴を表示したところ。ここから返信も行える

 

――カメラは810万画素とハイスペックですが、ソフトウェア的にも最新の機能が搭載されるのでしょうか?

カメラのファインダー画面。画面右下のサムネイルが、直近に撮影した画像を確認できるカメラロール

安達氏
 UIはもちろんですが、新しい機能もいろいろ搭載しています。「カメラロール」は撮影するとすぐに保存し、サムネイルをファインダー下部に表示する機能で、何枚か撮影してからいらないものを後で削除する、という使い方を提案します。静止画と動画の切り替えもボタンひとつで簡単ですし、タッチ操作のUI、顔認識、笑顔検出などソニー・エリクソンが先行して提供してきた機能を搭載しています。

マーカス氏
 今回は、ネームタグの付いた写真からコミュニケーションが行えるようになっています。アドレス帳に顔写真が登録してあると、撮影した写真の中の顔を認識し、顔にネームタグを重ねて表示できます。ネームタグを押せば、その人が写っている写真の一覧を表示させることもできます。

 このように、タイムスケープ、メディアスケープは相互に連携して、それぞれのアプリに付加価値を与えています。現時点ではこれらの機能だけを切り出して提供することは難しく、Xperia X10で実現できる機能です。アプリの表層的な部分ではなく、人とのつながりと、インタラクションに結びつく点を重視しました。使ってもらえれば、その良さをかみしめてもらえると思います。

撮影した画像は、顔認識機能を使ってでまとめることが可能。アドレス帳に登録した顔写真を元に照合し、自動的に振り分けられる特定の人物が写っている写真だけを自動的に抽出することも可能
顔認識機能により写真にネームタグを表示できる。

 

コミュニケーション自体をエンターテイメントに

――話を伺っていると、思想や発想の軸が違うと感じました。携帯電話というより、新しい時代のための道具という印象です。

安達氏
 発想の根源から違うという部分はあると思います。実は、開発には多くの日本人が関わっていますが、スウェーデンやカリフォルニアのオフィスとも相互に緊密に連携し、発想やアイデア、コンセプト段階からグローバルな体制で開発しています。そういった新しさもウリの部分かもしれません。

 音楽やビデオなどは重要なエンターテイメントであり続けると思います。しかし、私たちが携帯電話を通して楽しいと感じるのは、思いがけず久しぶりにメールをもらったり、新しい情報に出会えたり、メッセージをやり取りする際の“間”であったりするのではないでしょうか。Xperia X10は、そういった人とのコミュニケーション自体をエンターテイメントにしようというものなのです。

――機能からアクションを起こすのではなく、コミュニケーションからアクションを起こすという発想だと思うのですが、いつ頃から出ていた考えなのでしょうか。

マーカス氏
 社内でキーワード自体は昔からありましが、とてもよく表現できたのがこの端末ということになると思います。Androidというプラットフォームが登場したタイミングも最適でした。

 社内では、ケータイの進化を語る上で、音声、(音楽・動画などの)メディア機能ときて、次はWebコミュニケーションが来ると考えていました。それがうまく形になったのがXperia X10ではないでしょうか。

――TwitterやFacebookなど世界的に広がっているサービスに対応していますが、各国それぞれで人気のローカルサービスには対応するのでしょうか。

マーカス氏
 端末の発売時期にはTwitterやFacebookのほか、ロシアや中国などではローカルサービスへの対応を進める予定です。タイムスケープなどは、閉じたアプリではないので、キーとなるパートナーと協力してプラグイン形式で機能を追加できるようにします。

――日本では絵文字への対応が課題とされることもありますが、そういったことに象徴されるように、各国の市場にはそれぞれ流行のサービスや土着の文化があると思います。Xperia X10はこの中でどのユーザー層をターゲットにしているのでしょうか?

安達氏
 あらゆるユーザーに届くわけでないかもしれませんが、ターゲットとしたユーザーには国境を越えて端末の良さを訴求していけると思います。

 また、ローカルな文化としてのコミュニケーションの形態には、時期やタイミングをみて対応していきたいですね。

 一方で、Androidのプラットフォームとしての進化もあるので、あまり手を加えすぎると、進化のスピードに追いつけなくなる可能性があります。ローカルに特化してプラットフォームの進化に追いつけなくなれば、我々の表現したいメッセージが伝わりにくくなりますし、そうなれば本末転倒です。

――OSを含め、タイムスケープ、メディアスケープといった機能も必要に応じてアップデートされ、提供されるのでしょうか?

マーカス氏
 基本的には、キャリアを通じてアップデートを随時提供していく予定です。

――日本の携帯電話市場、とりわけ端末の進化をどのように捉えていますか? 特殊な進化のように揶揄されることも増えていますが、個々の内容は間違っていないと感じています。

安達氏
 日本の市場は、ハードウェア、ソフトウェア、サービスの対応など、さまざまな観点から品質に対して非常に厳しいですね。ソニー・エリクソンは日本に開発拠点を持っていますから、そういったさまざまな品質の高さを、日本からグローバルの担当者にフィードバックできています。

マーカス氏
 Xperia X10はグローバル市場をターゲットにした端末ですが、日本人のメンバーが大きく関わっています。安達はハードウェアをの中心に商品企画を担当しましたし、端末デザインも日本主導で行なったプロジェクトですよ。

 ソニー・エリクソンが日本に開発拠点を構えているからこそ培うことができたものがあり、それをグローバルに持ち込み、各国のメンバーが良いところを持ち寄ってできたのがXperia X10なのです。

――本日はどうもありがとうございました。

外観写真

 



(太田 亮三)

2009/12/21 12:00