気になるケータイの中身

デジカメ並画質を実現したシャープのCCDカメラモジュールの秘密


 最近のケータイに搭載されているカメラは、そのほとんどがカメラにCMOSを使っている。しかしシャープだけは2008年の秋冬モデルからハイエンドモデルにCCDカメラを搭載し始めた。今季は、発表した14機種中10機種にCCDを搭載、ハイエンドモデルのAQUOS SHOTでは12メガのCCDカメラを搭載している。

 どうしてシャープはケータイにCCDカメラを搭載しているのか、ケータイには不利とされるCCDカメラをどうやって搭載できたのか。今回はシャープの電子デバイス事業本部 システムデバイス第一事業部 副事業部長兼企画部長の井内徹氏に聞いた。

――まずはシャープがケータイ向けの12メガCCDカメラを作られた経緯をお聞かせください。

シャープの井内氏

井内氏
 当社は元々ケータイ向けにはCMOSカメラモジュールとともにCCDカメラモジュールも開発していました。2006年には5メガのCCDカメラモジュールも手掛けています。しかしその後、時代の流れで安い部品を求められ、CMOSカメラモジュール中心にシフトしました。

 ただ、CMOSカメラモジュールは静止画の画質ではCCDカメラモジュールにはやはりかないません。リサーチをすると、カメラの画質を重視するというユーザーニーズが一番になります。そこでもう一度気合いを入れ直し、2008年に8メガのCCDカメラモジュールを作りました。その後、10メガCCDカメラモジュールになってデジタルカメラ並の写真を撮れるようになったことから、AQUOS SHOTとして売り出しました。この10メガCCDカメラモジュールを経て、現在12メガCCDカメラモジュールになった、という流れです。

――12メガのCCDカメラモジュールとはどのようなものなのでしょうか。

モジュールの特徴(1)
モジュールの特徴(2)

井内氏
 デジタルスチルカメラ用のCCDセンサーをモディファイしてカメラモジュールに搭載しています。センサーサイズは同じ1/2.3インチですが、若干駆動方法などを変えています。

 CMOSセンサーからCCDセンサーにしたからといって大きくて高価なものにするわけにはいきません。高密度実装技術をかなり駆使し、業界トップクラスの小型カメラモジュールを作り上げました。12×12mmのサイズで、高さも8.6mmに抑えています。ちなみに10メガCCDカメラモジュールと12メガCCDカメラモジュールはモジュールサイズが同じで、互換性があります。

 CMOSセンサーと異なりCCDセンサーではスミア(強い光が入射すると白い線が画像に入る現象)が発生しますので、それを防ぐためにNDフィルター付きのメカシャッターをカメラモジュールに搭載しています。メカシャッターの分、厚みが増しますが、当社ではレンズ部分も自社で設計をしているので、オートフォーカスレンズユニットの形状をシャッターユニットに合わせて設計しはめ合わせることで、厚みを抑えています。

 このほかにも、通常はセンサーチップをガラスエポキシの基板に載せるのですが、その基板を省き、センサーチップを直接フレキシブルプリント基板に直づけすることでも薄型化をはかっています。

CCDカメラモジュール各製品のスペックモジュールの構造。基板部とシャッター・フィルタ部で薄型化が図られている

――暗い場所で撮るとCCDカメラとCMOSカメラの差が歴然とわかりますね。

CCDとCMOSの特性比較

井内氏
 信号の読み出し方式の違いから、CMOSセンサーではノイズが乗りやすくなっています。また、CMOSセンサーは配線の層が多く、受光面とマイクロレンズ(画素ごとに光を集める小さなレンズ)の距離があるため、集光率が下がっています。これらのことから、CCDセンサーの方が圧倒的に感度が高くなっています。

 このため、暗い室内で撮影すると、CMOSカメラでは苦しいところがあります。明るさを十分に確保しながらノイズを抑えて撮影するには、CCDカメラでないと難しいです。

――画質や感度ではCCDカメラが有利ですが、コストや大きさ以外にCCDカメラだと不利な点はありますか?

CCDとCMOSの原理の違い。シャープのケータイ向けCCDはさらに一工夫を加えられている

井内氏
 一般的に消費電力はCCDカメラモジュールの方が大きくなります。CCDセンサーはすべての画素からの信号をバケツリレーのように一列にして読み出すので、複数の電源が必要で駆動電圧も高くなっています。しかし当社は読み出しを複数の列に分割することで、駆動周波数を下げ、省電力化しました。

――HD動画の世界だと読み出しの速いCMOSセンサーの方が有利と言われていますが。

井内氏
 今回は静止画を優先してCCDセンサーにしました。しかし動画ではCMOSセンサーも検討しないといけないと思っています。1080pのフルHDを撮影するのは、CCDセンサーでやるのは大変です。しかし720pならばCCDセンサーでも可能だと考えています。CCDセンサーで720pを実現することは、我々の使命だと考えています。

 先ほどご説明した省電力化のための分割読み出しですが、分割することで読み出しの高速化も可能になっています。分割数を増やせば速度はどんどん増やせるのですが、分割しすぎるとほかの問題が生じるので、まだ1080pは難しい状態です。

――センサーの画質が向上すると、レンズの性能も向上する必要があるかと思いますが、こちらはどうなっているのでしょうか?

井内氏
 レンズの枚数は4枚です。しかし10メガCCDカメラモジュールと12メガCCDカメラモジュールでは、8メガCCDカメラモジュールと比較して、レンズのうち1枚をプラスチックからガラスに変更しています。ガラスレンズの採用により小型で高性能なレンズユニットが作れます。

――そういえばシャープのケータイはインカメラもフルワイドVGAのものを搭載していますね。

井内氏
 他社のインカメラは普通のVGAカメラなのですが、当社はフルワイドVGAカメラになっています。最近は若い女性を中心に自分撮りをデコレーションして送ることが流行っていますが、VGA解像度の写真をフルワイドVGA液晶に表示する場合、引き延ばして表示する形になります。それが嫌、ということで、フルワイドVGA液晶に合わせフルワイドVGAカメラにしました。

――CCDカメラを搭載することで価格差が生じると思いますが、それでもCCDカメラを搭載する価値はあると?

井内氏
 多少の価格差があっても差別化にはCCDカメラが必要だと考えています。お客さまは安くて高品質を、ともおっしゃいますが、高品質なものにはコストがかかるとも認識いただいているかと思います。

シャープのカメラモジュール変遷

――今後も画素数は増えるのでしょうか?

井内氏
 ニーズによります。エンドユーザーの方は、画素数が上がればいいものだ、という感覚を持たれているかと思います。画素数を上げないと差別化できないと判断されれば、画素数が上がっていくと思います。

 技術的には16メガまでは可能性があると考えています。20メガとなると、技術的に解決するべき課題が残っています。

――画素数がさらに上がると、レンズの描写に限界が来るのではないでしょうか。

井内氏
 この先はプラスチックレンズをもう1枚ガラスレンズに変える必要があるかも知れません。

――レンズを4枚以上に増やす可能性は?

井内氏
 レンズの枚数を増やせば、とくに四隅のひずみなどの画質が向上します。いまは大きさの問題でレンズを増やせませんが、こうやれば枚数を増やせるのでは、という理論はあります。それを実現できれば、レンズ枚数の多いカメラモジュール開発が可能になります。

――逆に画素数を減らして感度を上げるという方向はないのでしょうか。

井内氏
 画素数を減らしピクセルサイズを大きくして、さらに高画素化で培われた技術を組み合わせれば、感度は上げられます。しかし画素数を減らすことのメリットをエンドユーザーに認識してもらえるか、ケータイでそれが望まれるか、ということを考えると、そこまでは考えていません。

――シャープは以前、光学ズームをケータイに搭載されていましたが、もうやらないのでしょうか。

井内氏
 光学ズームを入れると、カメラモジュールが大きくなります。これをお客さまがどう考えるかによります。当社は光学ズームの技術自体は持っているので、もっと小さくできる技術が出てくれば、可能性は十分にあると思っています。

――シャープのケータイ向けCCDカメラモジュールは外販はされていないのですね。

井内氏
 引き合いはあると言えばあるのですが、他メーカーさんには「シャープと同じことをやるのか」という考え方が強いようです。また、当社としても自社製ケータイの差別化が重要ですので、内需を先行させています。

――ケータイ以外も含め、カメラモジュールの外販というのは?

井内氏
 当社はイメージセンサーを中心にしたシステムソリューションとして考えています。デバイスだけを売るのではなく、絵を売る、ということに重きを置いています。同じモジュールを使っていても、調整によって最終的な絵が異なります。たとえば色合いの好みは文化や民族によって異なります。そこを調整した画像処理エンジンを含め、ソリューションとして販売します。一番の思いは、冷たい部品デバイスを売るのではなく、暖かい絵を売りたい、ということです。

――本日はお忙しいところありがとうございました。




(白根 雅彦)

2010/1/13 11:28