「G'zOne ROCK」開発者インタビュー

“リアルラグドホン”の地位を確立したG'zOne最新モデル


 今回は11月20日に発売されたベライゾン向けの端末「G'zOne ROCK」(以下、ROCK)について取り上げる。MIL規格に準拠し、防水・耐衝撃性能を備えたコンパクトな端末で、海外向けのG'zOneシリーズとしてはすでに4モデル目となる。

 この「G'zOne」の北米における位置づけや開発の苦労、海外進出の手応えなどについて、カシオ日立モバイルコミュニケーションズ 海外事業部 海外企画課の酒井健一氏、同社開発設計本部 ソフト設計グループの深澤一哲氏、カシオ計算機 デザインセンター プロダクトデザイン部 第四デザイン室の室長 奈良勝弘氏、同デザイン室の神出英氏、日立アドバンストデジタル 情報映像システム本部 第一設計部 モバイル構造グループ 主任技師の渡部賢司氏にお話を伺った。

「G'zOne」の北米における位置づけ

酒井健一氏

――まずはこれまでの北米向けのモデル「G'zOne」シリーズの初号機からの発売の経緯を教えていただけますか。

酒井氏
 海外進出に目を向けたとき、少々機能がいい程度では太刀打ちできないと考えておりました。そんな中、他社にはない弊社オリジナルで、これだったら海外市場でもやっていけるだろうと結論づけたのが2006年に国内で発売した水や衝撃に強いモデル「G'zOne TYPE-R」(以下、TYPE-R)でした。アメリカは大自然が多いことから、日本以上に「G'zOne」のコンセプトがマッチしていると判断しまして、TYPE-Rをベースに「G'zOne TYPE-V」(以下、TYPE-V)を開発し、北米をカバーするキャリアとしてはトップシェアを誇るベライゾンさんから参入させていただくことになりました。

奈良氏
 酒井も申しましたが、アメリカはいろんな国のメーカーがそろっている激戦区ですから、その中で生き残るには「G'zOne」ぐらいのパンチ力というか、インパクトがないとなかなか勝ち残れないんです。

――「ROCK」の特徴について教えてください。

酒井氏
 コンセプトは「No.1アウトドアラグドホン」です。Military Standard(MIL規格)というアメリカ軍用規格に基づいた耐ショック性能を備えた端末は「ラグドホン」と呼ばれておりますが、その中でも今回はアウトドアに特化した機能、使い勝手を備えたモデルになっております。

 具体的な特徴としては、まずスピーカーです。大きなスピーカーを前面に2個つけて、音量は前モデルよりも大幅に向上にアウトドアでも使いやすくしています。通話のしやすさという面でもマイクを2つつけたノイズキャンセル機能を搭載し、周りの騒音のうるさい中でも自分の声だけをクリアに聞かせるこができます。

 また、W62CAのときに日本モデルでも搭載した「G'zGEAR」という地磁気・加速度・温度センサーを使ったアウトドアツールが入っていますし、外でパッと着信できるようにワンプッシュボタンで簡単に通話に切り替えられるようにしています。これは防水のラグドホンという意味では初めてということで特徴的だと思います。

歴代の北米版G'zOne

――今回の「ROCK」は北米で4モデル目ですよね。これまでの「G'zOne」の北米での売れ行きや手応えはいかがでしょうか。

酒井氏
 初号機の「TYPE-V」ではまずインパクトをということで、基本的には国内モデルを流用しました。それなりに数は出ましたが、当時はまだ海外のマーケティングが不足していたこともあって、スペック的には過度になっていた部分がありました。

 初号機で勉強させてもらい、2号機の「TYPE-S」ではアメリカの当時のスペックやサイズ感、機能トレンドを意識し、ターゲットももっと一般的にしてリリースしました。こちらは初号機に比べ販売数量も大幅に伸ばすことができました。

奈良氏
 アメリカの端末って日本の端末に比べて圧倒的に小さいんですね。初号機は「TYPE-R」ベースですが、「TYPE-R」って日本でも大きいですよね。それがアメリカにいくとさらにとんでもなくデカイと。それで「やはりアメリカでやっていくにはサイズ感は重要だ」ということで改良を加えたのが「TYPE-S」になります。それでも厚みはありますが、縦横寸法としては一回り小さくなりました。

 しかしまだ厚みに関してこれではいけないということで、縦横寸法、厚みともにそれなりに許容できる範囲に収めたのが3号機目の「G'zOne BOULDER」(以下、BOULDER)です。こちらはさらに販売数量を伸ばして、倍・倍・倍と順調に増やすことができました。

――ということは、4号機はさらにその倍の可能性も?

奈良氏
 そう行くとうれしいのですが(笑)。

酒井氏
  3号機の「BOULDER」では、ベライゾンの新サービス「Push to Talk」(以下、PTT)にも対応していたので、「TYPE-S」に比べるとキャリア側からもかなり大々的に宣伝していただけたという効果もありますね。日本ではあまり注目されないPTTですが、アメリカでは工事現場などの規模が違うので、トランシーバー機能へのニーズが非常に高いです。

北米ではスピーカーとバッテリーの性能が重視される

奈良勝弘氏

――ステップアップのきっかけとなった2号機を出す際に意識された点を、もう少し詳しく教えてください。

奈良氏
 2号機目からはサイズを相当重視しました。アメリカは幅に関しては許容度はあるんですが、長手方向に対する許容度がかなりシビアなんです。今の日本の端末は100mmを超えて、110mmくらいになってますよね。それがアメリカでは100mmを切る。90mmぐらいをメドに考えていかないと商品力としては難しいものがあるんです。

 さらにニーズの高いPTTサービスも意識すると、重要なデバイスというがスピーカーの音圧とバッテリーの容量なんですね。PTTは非常に電力を食ううえに、トランシーバーのように使いますから、当然大きな音で鳴らないといけない。ですからサイズを小さくしながらもバッテリーは大きくなくてはいけないし、スピーカーも大きくなくてはいけない。サイズとスペックのせめぎ合いは相当苦労したところですね。

酒井氏
 初号機を出してから、さまざまな市場の声がサイト上にあがりました。そこで一番言われていたことが「スピーカーの音が小さい」ということでした。防水モデルということでハンデを背負っている部分はありましたが、改めてアメリカでのスピーカーのニーズというのを気づかされました。日本で市場調査しても次に求める機能として「スピーカー」なんてほとんど出てこないと思います(笑)。

 バッテリーの大きさに関しても、PTTは常にネットワーク上でユーザー管理しているサービスのため定期的に通信を行っています。そのため電力の消費が激しくなってしまうので、それなりのバッテリー容量が必要になります。

――スピーカーについては、エンターテインメント系で音質にこだわる方はいるかもしれませんが、たしかに音量という発想はあまりありませんね。マナーモードにしてる人が多いくらいですし。

酒井氏
 それが要望の上位に出てきます。

奈良氏
 やはり車社会なので、運転しながらBluetoothのヘッドセットでハンズフリーとして聞くとか、そのままスピーカーホンにして通話するとか、そういうニーズがすごく高いようですね。

――「BOULDER」では後からかなり目立つスピーカーを追加したモデルも登場してますが、反響はいかがでしたか。

酒井氏
 日本モデルでしたらあり得ないと言われそうなスピーカー凸量なのでデザイン的な懸念がありましたが、むしろよく聞こえそうだという安心感が生まれたようで、お客様には非常に評価をいただきました。

深澤一哲氏

深澤氏
 あちらの方は閉じて使うシーンが結構多いんですよ。PTT使用時も開かないんですね。基本的にトランシーバーを閉じて使うので、外側で聞こえないともう全然お話にならないわけです。

――スピーカー以外で日本の端末とハード的に大きく違うところはありますか?

酒井氏
 レシーバーですね。日本モデルに比べたらかなり大きくなっています。補聴器をつけている方がハウリングを起こさない、Tコイルレシーバーを採用しています。

――機能的にみて、日本の「G'zOne」あるいは他の端末でもいいんですが、日本のモデルにはないような何か特別な機能は載せられていますか?

酒井氏
 日本モデルとの違いを挙げるとすれば、海外版の「G'zGEAR」です。これは国内モデルの「G'zGEAR」を改善し、W62CAのときはメイン液晶でしか表示できなかったものをサブ画面でも表示させ、閉じた状態で起動できるダイレクトキーや、サブ画面でも操作できるタッチセンサーも用意するなど、アウトドアにおける閉じた状態での使いやすさを進化させました。

 センサーデバイスとしては日本モデルと同じく、地磁気、加速度、温度の3つのセンサーですが、北米向けに色々アレンジしております。例えば温度計では摂氏と華氏の両方を表示します。新たに加速度センサーを利用した見やすい歩数計機能も用意しましたが、それとは別にお客様が楽しく続けてもらえるように「バーチャルトレック」という擬似的にトレッキングを楽しめる(ある程度歩き続けるとグランドキャニオンなどのアメリカの有名なトレッキングロードに生息する動植物が表示されるなど)モードも用意しました。これに関しては全てのロードをクリアすると隠しロードを出てくるようなお楽しみ機能もあります。

 また、米国100箇所の海岸の潮位を表示する「Tides」というツールではSurflineという世界で最も有名なサーフィンサイトのリンクを貼っており、潮位だけでなく当日の風の向きや波のうねりなど、サーファーが知りたい情報を観に行くことができる点が違います。ユニークなところでは、着信を簡単に止めたいときに端末をひっくり返すと着信音が止まるという加速度センサーを使った機能も入っています。

 それから日本とは違う点としては2.5φのイヤホンジャックの対応です。これまでは充電コネクタから変換コネクタで対応しておりましたが「アメリカ人は変換コネクタなんて面倒くさいもの持ち歩かないし、なくしちゃうんだよ」という話がありましてキャリアで販売している2.5φのイヤホンジャックに対応致しました。アメリカではよほど薄型化に特化しているモデル以外は大体ついてますので、日本でも今一度そういったところを見直す必要性はあるのかもしれないと思ったりします。

渡部賢司氏

――「ROCK」では卓上ホルダを同梱されてるそうですね。これも珍しいのではないでしょうか。

渡部氏
 一部を除き、このシリーズはみんな卓上ホルダを同梱しています。テーブルタイプではなく、上からストンと差し込んで使えるというスロットインスタイルにこだわっています。後ろから見てもカッコイイようにデザイナーがこだわってるんですよね。

――スロットインにこだわってきた理由というのは見た目のかっこよさだけですか?

酒井氏
 アメリカ人の性格もあります。1回1回カッチリはめ込むベッドタイプよりも、手軽に抜き差ししやすいスロットインタイプの方が使われるようです。

神出氏
 卓上ホルダを同梱させておかないと、毎回コネクタを開けて充電しなくてはいけないんですが、そうすると閉め忘れる危険が生じます。さらには頻繁に開閉を繰り返すうちにフタをちぎってしまう恐れもありまして。閉め忘れたり、ちぎったりしたら防水機能が死んでしまいますから、その辺りも考慮して卓上ホルダを同梱することにしました。

「G'zOne」をデザインする面白さや苦労

神出英氏

――ここまで来ると同じ「G'zOne」でも日本のそれとは相当違うものに進化してきてるという感じです。デバイスやサービスが異なり、ワンセグとかおサイフケータイとか、カメラに対するニーズの差があるなど、日本と求められるものもかなり変わって来ると思いますが、デザイン面についていかがですか。

神出氏
 私は「BOULDER」から担当させていただいてますが、「G'zOne」のデザインは面白いですね。海外は個性が重視されるので、「TYPE-R」のアイデンティティを正常的に進化させ、「G'zOne」らしさをストレートに表現できるところがあるので楽しいです。

 この「ROCK」からはちょっと都会的というか未来的な表現を入れてみようかということで、単純に丸ベゼルを表現するのではなくて、ちょっとアクリル板の後ろに沈めて表情を変えたり、「G'zGEAR」を起動すると赤い3つのセンサーが見えるなど、未来感の演出を加えています。

 背面のデザインにもこだわっています。このそり上がった形状は、握った時に良く手に馴染み、落下防止に役立ちます。カメラの位置も手触りだけで分かるので、レンズを指で覆ってしまうことも防止します。また、カメラと画面が同じ角度なので自然な撮影を可能にして、カシオの特長である「使い易さ」も進化させています。

奈良氏
 日本ではメインディスプレイが3.5インチのフルワイド液晶などになってきてますが、アメリカモデルではまだ2インチ台前半のQVGAサイズが主流です。これを我々は非常にポジティブに捉えているんです。その分コンパクトなサイズで、「G'zOne」らしいフォルムが再現できますから。これはデザイナーにとっても大きなメリットです。

 実際デザインを進めるうえで通常はスケッチを描きますが、「G'zOne」の場合はちょっと違ってまして、いきなりクレイを削り出すというところから始めているんですよ。スケッチのような平面的な物ではなく、彫刻を削りだすような立体的な表現ができる。アメリカのモデルに関してはまだそういう作業ができるというところでは、デザイナー冥利に尽きます。

 日本の開発の仕方というのは何mmを切るぞということが大目標になって開発が進んでいるところがありますよね。アメリカでもないことはないですが、ざっくりとした印象です。キャリアさんからも「結果的に使いやすく、デザイン的なまとまりが取れていればその辺りの制約はそんなに気にすることない」という見方をしていただけますので、非常にありがたいです。

 キーに関しても、アメリカのモデルはユーザビリティを落としてまでも薄くすることはないんじゃないかという考え方なので、多少厚くなっても使いやすいキーを入れようという考えで進めています。アメリカだから実現できたというところはあるかもしれないです。

渡部氏
 アメリカではまだまだサイズの大きい部類に入る「G'zOne」ですが、実は箱は小型化してるんです(笑)。「BOULDER」と比べると体積比でだいたい半分になってます。輸送効率を上げてCO2削減に貢献していると言うわけです。

パッケージにはスロットインタイプの卓上ホルダを同梱パッケージのサイズは従来モデルと比べて半分程度になっている

――機構設計上のこだわりなどはいかがでしょうか。

渡部氏
 機構設計としては、デザイナーと企画が練ったアイデアをいかに忠実に実際の製品として形にするか、電話として仕上げるかという点で苦労しますね。電話の基本性能は通信なので、通信に影響を与えない素材の選定や、防水タフネスなど弊社が一番ウリにしている機能をきちっと作り込むか。例えば「ROCK」の場合、パネルの下に落ち込んで見えるアルミのようなスピン加工をどうするかで悩みました。金属物を入れると通信に影響があるということで金属は使えない。最終的にはアルミっぽく見える特殊な印刷を施しています。なるべくアンテナに近いところは金属使わないで、金属に見える素材や表面処理を使うなどかなり工夫しました。

 内部構造的にはマグネシウムのフレームを使用したり,特殊なエンジニアリングプラスチックで筐体を構成するなど,厳しいMIL規格を満足させるための技術が盛り込まれています。

 今回新しい取り組みというか、従来と違うのはヒンジの分割です。「BOULDER」では強度的な配慮などいろいろあって5分割だったのですが、今回はデザイナーからの「シンプルにしたい!」という強力なプッシュもあり3分割に挑戦しました。強度だけではなく、通す信号線の処理やチューニング、屈曲特性とか耐久性などは非常に苦労した点ですね。

 それから、これはバッテリーのフタのロックを開閉するツールで、同梱されている物ですが、このように小さな物にまできちんとロゴも入れて「G'zOne」テイストを貫いているところも我々のこだわりですね。

奈良氏
 北米モデルは、国内のモデルと開発の順序が違うところがあります。先にスタイリングイメージや機能が決まってから開発に降りていくんですね。デザイン優先で行くので、デザイナーや企画のわがままを開発の方々に聞いていただいて本当に助かっています。

深澤氏
 ですから初めからキーの数が決まってたりするんですよ。閉じて使う他のモデルが右も左もキーだらけなんですが、それを4つでやってくださいと。いろんな機能をどう落とし込むかみたいなのは結構苦労します(笑)。

――塗装などに使われる素材は国内モデルと海外モデルで違ったりするんですか?

神出氏
 ほぼ同じですね。ボディの塗装は我々「良触感塗装」と呼んでいるんですけど、これが評判がいいんです。「BOULDER」から採用していますが、アメリカで調査をかけたらかなり評判いいんですよね。

酒井氏
 さわった感じがゴムっぽいので、しっかりグリップができそうなイメージがあるようです。落としづらいというメリットのほかに、落下したときクッションにもなってくれそうと思われているようです。

――実際にクッションになるわけではないですよね。

渡部氏
 もちろんクッションにはならないですが、ゴムっぽいということでいいイメージで受け取られているようですね。

――ソフト面でこだわった部分や苦労されたところはありますか。

酒井氏
 日本のものをアメリカに持って行く上で、まず避けて通れないのがパテントです。何百もの特許を回避できているか調査するのが大変でした。

深澤氏
 ベライゾンさんは小さい文字を非常に嫌います。日本ではかっこよければ多少文字が小さくても許されるような部分はありますが、あちらでは大きくて見やすくないとダメなんです。「G'zGEAR」は日本版の時点でわりと英語化されていたのでそのまま流用できると思っていたのですが、文字サイズやUIを修正しました。UIにもいろいろルールがあったので、独自アプリなら自社の世界観できるのかと思いましたが現地キャリアのルールにあわせて変更しました。

 センサー周りも国内用はある程度KCP+に頼っている部分もあったので、上から下まで全部作り込みました。ドライバ、ミドルウェア、BREWの層からアプリケーションまでかなり参加者が多かったので、まとめるのにも苦労しましたね。

北米におけるカラーバリエーションの考え方

――カラーバリエーションですが、「ROCK」はこの黒一色だけですか?

奈良氏
 そうです。日本なら多色展開しますが、「ROCK」は1色だけです。この点も日本と大きく違う点ですね。日本では白やピンクの支持が高いと思いますが、日本とは色の嗜好が違っていて、女性の方も黒を支持する率が非常に高いんです。

神出氏
 本当は毎回何色も提案するんですが、やっぱり選んでいただけるのが黒やシルバーなどのモノトーンになりますね。

――黒1色ですと購入比率はいかがですか。男性のほうが圧倒的に多いんでしょうか。

奈良氏
 日本ですと男:女=9:1くらいの比率ですが、アメリカでは男:女=6:4くらいで女性も多いんですよ。というのも、あちらの女性はあまり色の優先度は高くなくて、まずは機能、使い勝手、安心して使えるかどうかを優先するからですね。色はこれしかないんだったらこれで全然いいよ、というような感じなんです。形状に対しても特に違和感はないようですね。

――日本では女性向けではピンク系が欠かせない感じですが、あちらの女性にピンクは人気がないんでしょうか。

奈良氏
 人気はあるんですよ。ただ商戦期ごとに新機種が出ると端末が入れ替わる日本と違って、アメリカの場合、店頭で1年もしくはそれ以上売っているので、キャリアさんの考え方として、限られた販売スペースをカラーバリエーションで埋め尽くすよりは、機種を豊富にそろえたいという意向が強いんです。ですから展開するとしても黒かシルバーかネイビーくらいですね。我々からすると長く売ってもらえるし、我々のモデルは色展開はなくても違うところでちゃんと特色を出せてるので、いい方針になっているのかなと思ってます。

日本のメーカーとして、海外進出で感じたこと

――ここ2~3年くらい海外と日本のケータイの話がよく話題になり、日本のメーカーは海外を見習うべきだと言われることもあるようです。実際に海外に進出されている経験から、どのようにお感じになりますか。

深澤氏
 日本では格好よさが求められ、北米ではいかにも頑丈で、わかりやすさが重要視されるといった違いがありますから、日本の流用や日本の延長のすべてやればいいかというとそうでもないんですよね。例えば二軸ヒンジなんかは「これはほんとに大丈夫なのか?」と逆に不安がられますし、ワンプッシュで開けられるボタンについても「こんな頑丈なものにこんなものがついてて本当に大丈夫なの?」って心配するくらいなんですよ。本当に単純明快さが求められる。やはり向こうの嗜好を理解しないと難しいですね。

酒井氏
 弊社では国内でもこれまで使いやすさに重点をおき開発してきた実績がありますので、形は違ってもそのノウハウは十分通用していると思いますね。キーの押しやすさひとつにしても、むしろ他のメーカーには負けてないところだと自負しています。初号機からアメリカにおいても機能のしやすさというのはしっかり踏襲していて、実際にユーザーの声としてもかなり高評価をいただいている部分です。日本版の使いやすさというのはしっかり受け継がれていると思っています。

――むしろ日本での経験がベースに活きていると。

奈良氏
 実はベライゾンさんにも我々の端末以外のラグドホンはたくさんあるんですよ。落下性能に強いものはたくさんあります。しかし防水は非常に少ないんですね。その点ベライゾンさんからも「リアルラグドホンは君らのところだけだ」という高い評価を受けております。使いやすさとブランドが放つ世界観、ジャパニーズクオリティの3本柱が我々のウリなんだなと実感しました。

神出氏
 デザインもベライゾンさんからかなり評価をいただいています。それはやはり国内で培ってきた、形状だけじゃない、職人的な細かい処理へのこだわりや、クオリティの高い塗装への評価だと思いますよ。

「G'zOne」の今後について

――北米以外への進出の可能性はありそうですか?

酒井氏
 可能性はありますね。我々ももっとエリアを広げていきたいと思っています。ただ、地域ごとにまた文化が変わって来ますから、このモデルを丸々流用することは難しい部分もあると思います。

――ちなみに「ROCK」は今北米でおいくらですか?

酒井氏
 ベライゾンショップで149ドルです。いわゆる2年縛りでの価格です。アメリカだと200ドルを超えると高くて売れなくなってしまう傾向があるようです。

――iPhoneが99ドルですから、少々高いですよね。これはある程度高くても売れるモデルのポジションを確立されてるんでしょうか。それとも本当はもっと下げなきゃだめよといわれているとか?

酒井氏
 それは言われてますね(苦笑)。やはりiPhoneの影響がかなり大きいです。あのマーケットにはない特色を出さないと、こういった価格帯では勝負はできないと思います。

奈良氏
 我々の高付加価値の部分を認めていただいているので、他国のメーカーさんよりも少々プライスアップを認めてもらっているというのはありますけが、もうちょっと頑張れよとは言われていますね。とはいえある程度控えめな数のところで高付加をキープして、ブランドやクオリティを軸にして訴求していくやり方自体はいいのかなと思いますね。そうしていかないと、国内メーカーが海外で成功するというのは今のところなかなか難しいのではないかなと思います。

――北米で「G'zOne」というブランドは定着してきていると思われますか?

酒井氏
 まだまだですね。毎回調査しておりますが、なかなか上がらない部分があります。ただ「G-SHOCK」ブランドの認知度は高いので、「G-SHOCK」のケータイ版が「G'zOne」というイメージで認知度を上げていけたらと思います。ちなみにあちらでは「ジーズワン」とはなかなか言ってもらえなくて、「ジーズィーワン」という発音になってしまうようです。

――今後はどのような方向に進んでいく予定でしょうか。

酒井氏
 具体的なお話はまだできませんが、アメリカ市場はスマートフォンとフィーチャーフォンの二極化が進んでおります。そういった市場動向を視野にいれながら「G'zOne」のラグド性能を軸に多方面化していけたらと考えています。

――本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。




(すずまり)

2010/1/14 11:00