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山崎社長に聞く、NECカシオのこれから


 2009年9月、NECとカシオ計算機、日立製作所は、各社の携帯電話事業を統合すると発表した。2009年12月には新会社の母体として「NECカシオモバイルコミュニケーションズ」が設立されており、NEC執行役員兼モバイルターミナル事業本部長の山崎耕司氏が新会社の代表取締役社長に就任した。山崎氏に、国内外を含めたNECカシオの戦略を伺った。

NECカシオモバイルコミュニケーションズ 代表取締役社長(NEC 執行役員 モバイルターミナル事業本部長)の山崎耕司氏

 

――まず、現在の携帯電話市場について、どのような感想をお持ちですか?

 市場にプレイヤーが増えてきた、という印象です。また、従来の視点ではプレイヤーすべてを把握することが難しくなっています。

 国内の大手3キャリアについてコメントすると、まずドコモは海外に注力し始めています。また、ソフトバンクも従来以上にアジアを重視する路線を打ち出しています。KDDIについては、当社から端末を納めていないのでコメントしづらいですが、最近はややおとなしい印象を受けます。ただ、どのキャリアも、今起きている大きな変化に対応しようとしています。

 一方、市場というのはキャリアの意向とは関係なく動いている部分もあります。私たちは、企画・製造した携帯電話をキャリアに納入しているので、直接はキャリアとやりとりするわけですが、やはり実際に購入して使っているエンドユーザーに近い市場が、戦いの舞台だと思っています。

 その市場で今、大きな変化が起こっていると感じています。電話機や通信機器事業の視点だけで捉えようとすると、正しく認識できなくなる状況です。海外を含め、市場ではさまざまな可能性が広がっており、多くのプレイヤーがその可能性を探っています。そうした中で、我々が従来の延長線上で行動していると、あっという間に「one of them」(その他大勢)になりかねない。焦りはありますし、選択と集中をさらに進めていかなければならないでしょう。そしてそれは難しい課題である、というのが今の心情です。

――カシオ日立との統合で新たな取り組みも加速すると思いますが、これまでのNECの取り組みで、弱いと認識している点はありますか?

 iモードの普及に伴って当社のシェアがトップだった頃は、自分たちのいる場所がすべてだと思っていました。「井の中の蛙〜」だったということです。ところが、少なくとも5年くらい前からは市場に変化が起き始め、携帯電話は通話・通信機能が中心のテレコムビジネスから、ミュージックプレーヤーやワンセグ、カメラなどのAV機能が重視されるコンシューマービジネスに変わりました。それは、エンドユーザーが商品へ素直に反応し、それが反映される市場です。また、携帯におけるコンテンツの重要性が増し、テレコムビジネス以外の領域からたくさんのプレイヤーが参入し、コンテンツ市場が成長してきました。NECの携帯電話事業は、長い歴史を持つ通信機器事業のひとつとしてテレコムビジネス中心に育ってきたこともあり、そういった変化に弱い。

 しかし、携帯が多機能化しユーザーの利用の仕方も変わってきましたが、そこで使われている技術を見ると、我々が強みを持っているものも多いのです。使われ方、ユーザーへの見せ方をもっと工夫していく必要があると思います。そして、その中の何かをトリガーにして、殻を打ち破っていかなければいけません。

――カシオ日立の魅力について、どのように捉えていますか?

 カシオ計算機として見ると、デジタルカメラや(音楽用の)キーボード、腕時計、電卓と、まさにコンシューマービジネスそのものを事業ドメインとしています。携帯電話と比べれば単価の安い商品ですが、そこで競争し、利益をきちんと出しているところは立派だと思います。

 また、カシオの製品には、ひとつひとつに必ず楽しさが入っていると、ある人から聞かされて、なるほどと思いました。楽しさを商品に詰め込むのは、技術がないとできない。カシオ日立にはそれがあると思います。楽しさの見せ方、それがNECに足りなかった点なので、今回の統合でそれを取り込みたいと思います。

――逆に、カシオ日立の弱い点はどうでしょうか。

 独自に海外展開も行っていますが、日本ではほぼKDDIにしか納入していない点です。年間約3000万台の国内市場で、さらにその3割弱のフィールドだけで戦っているのでは、シェアをとっても数量は限られます。それでは利益は出しにくい、と想像できます。

――統合後のNECカシオとして、実現したいことは何でしょうか?

 日本市場でシェア1位になることです。これは素直な気持ちです。会社を統合して、その結果シェアが2位だった、というのは少し釈然としないですし。

――出荷台数で1位ということでしょうか?

 そうです。さらにいうと損益ベースですが、損益にはさまざまな要素が関わってきます。年間約3000万台の市場ではありますが、台数シェア1位は分かりやすい指標ですし、組織として仕事を進めていく上で目標は重要です。なるべく早い時期に実現したいですね。

――シェア1位獲得のため、これまでにない製品が出てくるのでしょうか?

 シェア1位の目標は、現時点では具体的な製品ラインナップを想定したものではなく、あくまで数字としての目標です。

 スマートフォンも検討していますが、スマートフォンでは、アプリの自由なインストールと、アプリ開発などでエコシステムを形成できているかが重要なポイントになると思います。ただ、アプリの自由なインストールを喜ぶユーザーもいれば、必要なアプリは最初からすべて入っていて欲しい、というユーザーもいると思います。日本市場の現在の規模では後者が多いのではないでしょうか。いずれにせよ、製品としての広がりを考えると、世界市場と何らかの形でつながっていなければいけないと思っています。

――ネットブックの市場でも言えることですが、OSや製品仕様にバリエーションが出せない場合、残るはコスト競争だけになってしまう気がします。

 そういった市場では、ミラクルは無いでしょう。EMS(受託製造業者)やデザインハウスを使ってコストを下げ、利益を出していく。それでは、同様の手法をはるかに大規模で行えるノキアやサムスン、LGなどのメガサプライヤーには勝てません。

 そこで強みとなるのは、独自性ということになると思います。カシオ日立は米ベライゾンにタフネスモデルを納入していますが、ああいった製品のバリエーションをもっと増やすのがポイントになるでしょう。例えば、薄くてタフネス、という路線を加えてもいいかもしれません。カメラとタフネスを組み合わせてもいいでしょう。スマートフォン+タフネスも、市場にはまだほとんど無いのではないでしょうか。こういった内容を、設計・開発、製造の一連の工程が国内にあり、機動的に行える利点を生かして戦えるのでは、と思います。もちろん必要であればEMSも使いますが、小さなサプライチェーンで作っていくということです。

 製品には、商品競争力と原価の側面がありますが、商品競争力はボリュームの問題ではなくクリエイトする部分です。一方の原価は手がける数量に依存します。個人的な経験からも、原価(での優位性)だけに依存して進めていくと、失敗すると考えていますし、いきなり原価競争から始めたくはないですね。

 NECとしてAndroid技術センターも立ち上げており、2010年度は積極的に開発投資を行っていきます。ただのAndroid端末ではなく、タフネスとか、いろいろ考えていきたいですね。

 

北米を中心とした海外戦略

――カシオはすでに北米のベライゾンに納入していますが、NECとしての海外戦略はどうでしょうか?

 まずはベライゾンで、次にAT&Tでしょうか。リスク分散の意味でも、北米と流通がつながっているメキシコや、現地法人やキャリアがしっかりとしているオーストラリアにも展開できるでしょう。

――中国やインドなどは?

 北米の先については、具体的に決まっていません。社内では議論をしていますが、北米を攻めるだけでも大変です。サムスンやLGと競合しますし、新規の開発もある。我々の戦力を横に並べてもしかたがないでしょう。もちろん、中国やインドの市場は観測していきますが、現時点で何年後、という具体策は決まっていません。

――欧州、南米は魅力的ではない?

 そんなことはありませんよ。北米の次は南米も検討していますが、関税などの問題を含めて、よく見えていない部分があるのも確かです。

 ただ、まずは日本と北米に注力していることになるでしょう。国内市場が縮小している中、海外展開を語ると「なにを脳天気なことを」と思われるかもしれませんが、文化の違う会社が一緒になるには、いろんな夢が必要です。そういった夢を、しっかりと見せなければいけないと思っています。

 

国内市場での展開とAndroid

――国内市場についてですが、NECグループであるBIGLOBEからAndroid端末が発表されています。NECグループとしてもモバイル端末を中心にした連携が図られているのでしょうか?

 BIGLOBE(NECビッグローブ)とは頻繁に情報交換や議論をしていますね。BIGLOBEというのはアカウント情報を持っており、ユーザー一人ひとりと対話できる。これは大きな財産です。ある意味ではキャリアに近い存在ですね。なので、BIGLOBEにとってメリットのある話というのは、キャリアにとってもメリットがある話になると考えて、アイデアを出し、検討しています。お互いNECグループだからということでの特別扱いはせず、商売としての面ではドライな関係を保っていますが、技術トレンドや事業アイデアなどについてはよく意見を交換しているということです。

――ハードウェア面での連携はどうでしょうか。

 NECのネットブックのような商品に、携帯の技術を組み合わせてバッテリー駆動時間を長くしても、それだけなのか? となるでしょう。サーバーとの連携やクラウドの展開、あるいはLTEへの対応といったことになると、キャリアとの連携という意味でも我々の領域になる。しかしそれでも足りない。情報を公開するタイミングが難しいのですが、NECらしい製品を検討しています。

――NECの携帯は、グループで積極的に連携しているイメージは薄いのですが……。

 カシオは、さまざまな製品において、カシオというブランドをどう高めていくか、という一本の筋が通っている。NECはパソコンの事業でブランドを構築していますが、我々においては、NECというブランドをなんとしても高めていく、という意識は薄かったと感じています。ブランド戦略室が(本社だけでなく)我々にもあってもいいわけで、ブランドを軸にしていくことも重要だと思います。

――NECカシオとして、Android端末も作り、やがてはPDAやかつてのモバイルギアのような製品も展開されるのでしょうか?

 Android端末に関しては、パーソナルソリューション事業開発本部のAndroid技術センターが担うことで、AndroidのエコシステムをNECのハードウェアに展開します。NECカシオはキャリア向けの市場に製品を展開していきますが、キャリアと関係しない製品は(パソコンを開発している)NECパーソナルプロダクツということになります。

――Androidの市場についてはどう考えていますか?

 Androidは標準化されていて、アプリも増えていますが、マストではありません。多数のアプリとエコシステムはAndroidの特徴ですが、クラウドとしてのクライアントなら、Androidだけにこだわる必要はないでしょう。

 ただ、当初の予想からすると、Androidのエコシステムはきちんとしているなという印象です。

――iPhone、Windows Mobile、Symbian、LiMO、Androidとあるわけですが、どれが有望だと思いますか?

 どれも併存すると思いますが、ここ1年の加速度からするとAndroidでしょうか。グーグルには、情報が素直に開示されているという印象を持っています。

――本日はどうもありがとうございました。

 



(編集部)

2010/1/22 14:12


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