「N-03B」開発者インタビュー

NECが目指したロングユースの集大成端末


 N-03BはNECの端末としては初めて防水処理が施され、ボディは飽きの来ないデザインに、スクラッチシールドやハードコートでコーティング。デザイン、機能、端末塗装などあらゆる面でロングユースを意識した端末となっている。特に防水機能とスクラッチシールドは大きなトピックだ。

 スクラッチシールドを採用した理由やその効果、なぜ防水端末リリースまでに時間を要したのかなどを、NEC モバイルターミナル事業部 田井隆輔氏、同社モバイルターミナル開発本部 主任の荒巻千年氏、システム実装研究所の研究マネージャーである三上伸弘氏に伺った。

「スクラッチシールド」を採用した理由

――「スクラッチシールド」と「防水」と、今回のN-03Bには御社として初の試みが2つありますね。まずは開発コンセプトを教えてください。

田井氏
 N-03Bの大きな売りの一つに防水機能がありますが、もはや防水というだけでは訴求力に欠けると思いまして、防水にどういったエッセンスを付加していくかというのを企画段階で非常に考えていました。現在、ケータイの買い換えサイクルが長期化しています。長期化している中で、ユーザーがどういった点を重視されているかというのを調査したところ、長く使うことで塗装が剥がれたり、傷がついたりしてみすぼらしくなるということがありました。そこで弊社として何か新たな価値を提供できないか、特に塗装を剥がれにくくできないかと考えました。

 いろんな技術を考えていたところ、先行的に取り組んでいた「スクラッチシールド」という技術がありまして、これをN-03Bに適用しようということになりました。

――「スクラッチシールド」とは具体的にはどのようなものなのでしょうか。

田井隆輔氏

田井氏
 日産自動車さんの技術を応用した特殊塗装です。元は車の塗装技術がベースなんです。従来の塗装に特殊な樹脂を配合して、弾力性、柔軟性に富んだ塗装膜を実現しています。これでコーティングすることで塗装が剥がれにく、美しさが長持ちします。

 また今回は持ったときにすべりにくくなる効果もプラスしています。元は自動車の塗装として最適化されたものだったので、それを弊社で携帯電話用に最適化したものというのがN-03Bの「スクラッチシールド」です。構造としては、ケータイの本体の上に色のついた層があって、その一番上に透明な「スクラッチシールド」をコーティングするつくりになっています。

三上氏
 我々の他にNTTドコモさん、日産自動車さん、アドバンスト・ソフトマテリアルズ(ASM)さん、武蔵塗料さんの5社で先行開発をしていきました。

田井氏
 今回いろいろご協力いただいた東京大学さんには特設ホームページがありまして、その中に非常に学術的な説明があります。かなり読み応えのあるホームページになっていますよ。

――車用とケータイ用ではどのような部分で差があるんでしょうか。

荒巻氏
 ケータイと車では利用シーンが違うので、求められているものが大分違うんです。車の場合は小石が飛んできたときや洗車のときを想定した判断基準に最適化されている様ですが、ケータイの場合はかばんの中にあるペンやストラップなどの金属からのダメージを想定した判断基準になっています。

――「スクラッチシールド」の効果というのは実際どれくらいあるものですか?

三上伸弘氏

三上氏
 剥がれにくさを予測するための試験として、プラスチックのバレルの中にプラスチックのメディアと呼ばれているものと、若干の研磨材のようなものを入れて、従来塗装のケータイと、「スクラッチシールド」を施したケータイを入れてガチャガチャと攪拌して確認してみました。従来の塗装では背面にハッキリ目立つ傷が残った上に、塗装が剥がれてツヤがなくなり、薄くかすんだ感じになっています。一方「スクラッチシールド」を施したケータイはほとんどダメージがありません。使い方にもよると思いますが、実際の用途としては購入から2年くらいをイメージしています。

――先行開発とおっしゃいましたが、着手されたのはいつ頃からでしょうか。その頃からこういう技術が将来必要になるだろうという予測されていたということでしょうか。

荒巻氏
 開発をスタートしたのは2007年ですね。当時から塗装については、市場からの声として長期に使用していると剥がれが気になるといった声が上がっておりましたので、塗料の長持ち化にはどうしたらいいかと社内でもいろいろと検討をしていました。そこへタイミングよく日産さんからドコモさん、ドコモさんから弊社へと紹介があったというのがきっかけですね。

――携帯電話用に最適化するにあたって、どんな苦労がありましたか。

荒巻氏
 企画を実現できる塗料会社や塗装会社を探すのに苦労しましたね。車なら小石が飛んだことを想定した試験があるんですが、ケータイ向けの評価方法がありませんでした。それすら自分たちで開発しなくてはいけない状況でしたので、そのあたりも苦労しました。

スクラッチシールド有り(左)と無しの端末

三上氏
 長持ちを謳う反面、開発期間自体はそんなにあるわけではないので、長持ちをいかに検証するかも苦労しました。コスト的にも制約はありますので、機能面でのバランスも工夫する必要がありました。

――カメラのレンズ面には使っていないんですね。

田井氏
 そうですね。背面パネル、ディスプレイ、各種ボタン、端子部には「スクラッチシールド」を用いていませんが、背面パネルには従来比約5倍の硬度「ハードコート」という擦り傷に強い塗装を施してあります。

荒巻氏
 カメラについては塗装すると光学的に問題があるので「スクラッチシールド」は使用していないんです。

――ボディ表面への塗装だとすると、すでに販売されているケータイに対してもコーティングできるものなのでしょうか。御社で言えば、マイセレクトモデルのユーザーにオプションでスクラッチシールドのコーティングサービスを提供する、といったサービスも考えられると思うのですが。

三上氏
 下の層に合わせたプロセスで塗装を実施すれば可能です。

田井氏
 マイセレクトモデルについては、N-03Bでの評判を鑑みながら検討していきたいと考えております。

NEC初の防水ケータイ

荒巻千年氏

――N-03Bは御社初の防水ケータイです。他社が先行する中、登場までにかなり時間がかかりましたが、なぜでしょうか。

田井氏
 我々の中では、防水機能より端末のデザインやサイズ感が重視されていると判断していたところはありますね。防水そのものは検討していたんですが、弊社としては、N-08AやN-01Bでご好評いただいている薄さとサイズ感を大切にしたいと思いました。

 ただ、防水モデルについて、弊社のお客様センターに入る声はだんだん増えていきました。「Nはなぜ防水を出さないんだ?」「防水が欲しい」という声が多かったんです。ですから、薄さをキープしつつ防水対応端末を、と判断したわけですが、防水でなおかつ薄型を実現する部分に時間がかかりました。

三上氏
 N-03Bの長く使うというコンセプトとしては、やはり防水機能というのも入れておいたほうがより安心して使えるだろうという判断ですね。

――卓上ホルダも同梱されましたね。

田井氏
 防水モデルの場合、故障の原因として外部接続端子のキャップから水が入ったというのが多いそうですので、やはり基本的には卓上ホルダでの充電をお勧めしたいですね。

荒巻氏
 充電する際に卓上ホルダを使わない場合はキャップを開ける必要があります。キャップ自体も実際には相当数の開閉試験を行っており、大丈夫なことは確認しているのですが、キャップを何かに引っかけて取ってしまったり、閉め忘れたり、もしくはきちんと閉めていなかったりというケースもあり得るので、そういったことを防止するためにも卓上ホルダをお使いいただきたいです。

――そういう意味では、充電だけではなく、イヤホンマイクの端子にもなってると思うのですが、Bluetoothには非対応ですよね?

田井氏
 そうですね。N-03Bは、N-01B、N-02Bと比べて少し安い値段で出したいという企画でスタートしました。そこに防水ですとか塗装といった付加価値を付けて、かつ値段を下げて出すためには、心苦しいですが、ある程度機能の割り切りというのはやむを得ないところでした。

電池も長持ちに

――N-01BやN-02Bの話が出ましたが、機能面でいうと、それらとの差分はどのような部分でしょうか。

田井氏
 N-03Bは長持ちとシンプルというコンセプトから基本機能に重点をおきました。N-01Bは、イルミネーションに重点をおいており、N-02Bは、カメラ機能に重点をおいています。N-03Bのエコモードは他の2機種と比べて電池残量によって2段階で自動切替することが可能なんです。まだ電池が十分ある状態ですと、画面の明るさだけをセーブして省電力に努めます。電池残量が残り一つになると画面の待受画面もセーブし、あらかじめ設定されていた静止画に切り替えて最小限の表示にし、できるだけ長持ちさせるようにします。

――どの程度の効果が期待できますか。

田井氏
 トータルで実使用時間が約10%長くなるという効果があります。ただ、初期設定ではオフになっていますので、ご購入された方はぜひオンに切り替えていただきたいですね。5キーを長押ししていただくと、簡単に設定と解除を行えます。エコモードにしていても電池の目盛りが2から満タンの段階では待受画面も変わりませんし、機能もほとんどセーブしません。あ、ちょっと変わったな、と思うのは、目盛りが一つになった段階のみですね。

飽きの来ないシンプルなデザイン

――端末としては見た目もすっきりしていますし、機能的にとんがってるわけでもなく、非常にスタンダードな印象があります。

田井氏
 まさにその通りです。防水機能、スクラッチシールド、ハードコート、ECOモードなど、ハードとソフトの両面でさまざまな要素を盛り込んでいます。その上、デザイン的にもシンプルに仕上げているので、飽きが来なくて長く使っていられる。長持ち機能の集大成のような端末になっていると思います。

 長く使うとなれば中のソフトも使い勝手がよくなければいけないと考えていますので、例えばメールの機能一つとってみても文字変換でデコメ絵文字を呼び出せるとか、最初から1500種類のデコメ絵文字を搭載するなどしています。ユーザーがよく利用するハートの絵文字だけでも100種類は用意してあります。さらに待受画面では「neco」という弊社の新しいキャラクタがアニメーションでいろんなストーリーを見せてくれるとか、コンテンツ面でも長く楽しめるようこだわりました。

 カメラも手ブレ補正付きの8メガのオートフォーカスで、「スピードムービー」や「スマイルモード」をサポートしていますし、画面も3.2インチの高精細な大画面液晶です。ボタンも大きく、押しやすさに配慮しました。ただ単に防水ケータイというわけではなくて、基本機能を非常に充実させていますから、塗装、防水、コンテンツ、メール、カメラ、デザイン、画面といったすべての要素で長く使っていただける端末に仕上げています。

――最先端の機能を求めている方というよりは、できるだけ端末を長持ちさせたいという方向けという感じですね。

田井氏
 最先端の端末を求められるお客様にはN-01B、N-02Bをぜひお勧めしたいですし、基本機能を重視する方にはN-03Bをお勧めしたいですね。

――ちなみにこの背面パネルの波形のデザインにはコンセプトというか、意味があるんですか?

田井氏
 防水と合うモチーフとして、波や水面をイメージした模様にしています。

――ところでメーカーの立場としては、買い換えサイクルが長くなってしまうとビジネスとしては厳しいと思うのですが、そのあたりはいかがですか。

田井氏
 確かにそういった議論は社内で何度となく繰り返されています。だからといって長持ちしないもの、壊れやすいというものを世に出すというのはあり得ない選択です。弊社としては、お客様が求められているものを提供したいというのが一番です。長持ちはするけれども、それよりも次に手に取りたくなるような、もっと良いものをどんどん出して行くということですね。

荒巻氏
 長く安心してご利用いただいた後に、また次も弊社の端末を選んでいただければこんなに嬉しいことはありません。

――では、最後に読者に一言お願いします。

田井氏
 「スクラッチシールド」はケータイでは日本でも初めての塗装なので、この技術をこれからも大事にして、これだけで終わらせることがないように進めていきたいです。

――本日はどうもありがとうございました。




(すずまり)

2010/2/10 09:00