「943SH」「942SH」「840SH」開発者インタビュー

進化したAQUOSケータイとコンパクトなラウンドフォルム端末


左から942SH、943SH、840SH

 シャープは今春、ソフトバンク向けとして943SH、942SH、840SHの3機種を発売した。943SHはサイクロイドスタイルを採用するAQUOSケータイ、942SHはスタンダードな折りたたみモデル、840SHは廉価モデルと、3機種のみながら幅広いラインナップとなっている。

 今回はこの3機種について、シャープの通信システム事業本部 パーソナル通信第二事業部 商品企画部の吉高泰浩氏と奥田計氏、安井輝美氏に聞いた。

進化したAQUOSケータイ 943SH

――まずは943SHのご紹介をお願いします。

943SH
943SHのサイクロイド機構(特別なスケルトンモデルを撮影)

奥田氏
 943SHは昨年の932SHの後継機種にあたる、サイクロイドスタイルを採用するAQUOSケータイになります。

 昨年発売した前衛モデルの932SHではユーザーの要望にお応えし、ディスプレイ回転機構部分の段差をなくしましたが、まだ若干サイズが大きいというお声もいただいていました。そこで今回の943SHでは大幅に薄型化を図り、サイクロイド史上で最薄のモデルとなっています。943SHは最厚部でも18.6mmと普通のクラムシェル端末並に抑えられています。

 実際に手にとっていただければ実感いただけるかと思いますが、「回転する機構のせいで分厚い」といった感じはなく、普通のクラムシェル並のサイズ感に収まっています。このサイズ感でありながら、画面を回転させて、横画面でテレビやムービーが見やすい、というのが943SHの特徴となります。

 サイクロイドは画面が横に倒れるだけでなく、実は倒れつつ下方向にスライドするようになっています。今回のモデルでは液晶の大型化もしているので、移動距離が短いと画面側とキー側の間に隙間ができやすいのですが、サイクロイド機構の設計を見直すことで、この隙間をなくしました。

 回しやすさについては、心地よく操作できるように意識しつつ、さらに操作しやすさにもこだわりました。

 このほかにも、932SHではサイクロイド機構を被う金属パーツに直接、色を塗ることが難しく、外側に1枚パネルを貼っていましたが、今回は金属パーツに直接色を付けることでパーツを減らすことができました。さらにカメラの8メガCCDは、薄型のモジュールを採用し、部品の配置を工夫することなどで薄型化をしています。

 またデザイン面では、画面側はAV機器的な印象を表現し、ユーザーの手が触るキー側の裏面は丸みを帯びたフォルムに仕上げました。

――デザイン面以外での特徴機能はどのようなものがあるのでしょうか。

932SH(左)と943SH(右)の液晶比較。

奥田氏
 AQUOSケータイということでテレビ機能をメインにしていますが、今回はWi-Fiを搭載するので、Wi-Fi接続時のYouTube再生機能を新たに搭載しました。画面を横にしたサイクロイドスタイルで、滑らかで高解像度なYouTubeの動画を視聴いただけます。

 943SHのYouTube再生機能は、320×240ドットのソフトバンクモバイル様の端末向けの専用ファイルをプログレッシブダウンロードする仕組みになっています。943SHの画面解像度に合わせ拡大をしますが、その拡大にはリニアエッジ補正などAQUOSケータイの技術を使っています。

 また、11月の発表時点ではスペックが未確定で公表できなかったのですが、LEDバックライトの効率アップにより、従来と同じ消費電力で液晶の明るさは33%向上しています。具体的には、前機種が最高300カンデラだったところが、943SHでは最高400カンデラになっています。これにより、たとえばワンセグの画質であれば、より明るく自然な映像を楽しむことが可能となっています。

 また、従来機種同様にダブル・ワンセグに対応し、裏番組の視聴や録画が可能です。新機能としては、従来は文字のみだった裏番組表が、他チャンネルの映像サムネイル表示付きになりました。これは液晶テレビ「AQUOS」の機能をAQUOSケータイに取り込んだ形になります。

943SHの底面。バッテリ側(写真右上側)のエッジが大きく丸みを帯びている

――940SH/941SHで搭載された「スピンぐるメニュー」(カーソルキーを回すようになぞることで操作する独自のランチャーメニュー)も搭載されていますね。

奥田氏
 スピンぐるメニューは初搭載だった昨冬モデル940SH/941SHの発売から3ヶ月程しか経っていませんが、さらにバージョンアップさせています。

 大きな新機能としては、「スピンぐるログカレンダー」があります。これはスピンぐるメニューのようにベクターパッド(カーソルキー)を回転操作すると現れる螺旋状デザインのカレンダー機能で、左に回すと過去、右に回すと未来のカレンダーを見ることができます。スピンぐるログカレンダー上には自分で入力したスケジュールの項目だけでなく、発着信やメールの履歴、撮影した写真、ワンセグの視聴・録画履歴なども自動的に記録、表示されるようになっており、大切な思い出として楽しんでいただけます。そもそもスピンぐるメニューには「時間や日付に合わせたものをお薦めする」というコンセプトがあったので、カレンダー機能への応用はどうしても実現したかったことの1つです。

シャープの奥田氏

 スピンぐるメニュー自体も強化されています。従来機種ではオススメ度順に上から50個までの項目しか表示されなかったのですが、943SHではスピンぐるメニュー上に、本体に搭載されている約400の機能のほぼすべての項目が表示され、その時々のオススメ度合いに応じて表示される順番が変わるようになっています。

 また、スピンぐるメニューには「お客様が使ったことのない機能、気付いていない機能を知っていただきたい」という狙いがあります。従来機種でもお買い上げいただいた直後には新機能を中心にお薦めするといったことをしていましたが、今回は様々な機能をまんべんなく機能をお見せできるようにしました。具体的には1年365日すべてについて、その日に絡んだ機能をお薦めするようになっています。たとえば2月23日は税理士記念日なので、「撮って家計簿」という機能をお薦めするようになっています。

――この「撮って家計簿」は新機能ですか?

奥田氏
 新機能になります。このあたりの機能は942SHと共通なので、942SHとご一緒にご紹介します。

コンパクトながらハイスペックな942SH

――では続いて942SHのご紹介をお願いします。

942SH

安井氏
 942SHはハイスペックなクラムシェルデザインのモデルとして、ソフトとハードの両面を強化しつつ洗練されたデザイン、使いやすい形を目指しました。

 ただ薄型化するのではなく、手になじむ形状ということで、理想的な曲線にこだわっています。デザインとしては直線要素を最小限とし、視覚的にも触ったときにも柔らかく感じられるような、曲線がもたらす優しさを感じられるヒューマンラウンドフォルムを追求しました。

 具体的には942SHで2つの曲線の要素があります。まず使うときに手が触れるバッテリー側の面は、手のひらに沿うような緩やかな曲線になっています。これが使いやすさの一番のポイントになるところですが、設計上も難しいポイントでした。断面を見ていただくとわかりますが、中心部分がいちばん厚くなっています。両端は薄く、背の高い部品は中心部にしか配置できないようになっているのは、設計上、効率が悪くなるのですが、フォルムにこだわり、この裏面の曲面を実現しました。

奥田氏
 握ったときに薄さを感じられるフォルムになっています。デザイナーに聞くと、実は側面なども曲面になっているとのことです。

シャープの安井氏

安井氏
 もう1つの曲線の要素は、表の面です。使うときに目に触れる面ですが、こちらは裏面の柔らかさに対して、シンプルな心地よさを感じさせる曲線としました。わずかなところですが、面にハリを持たせることで、見る角度によって光の反射が異なるようにしています。

 このように裏の面は使いやすさ、表の面はデザイン性にこだわっています。何度も削りだしのフォルムサンプルを作って検討し、それに合わせて内部を設計しました。シャープのデザイン部門と設計部門の信念がこもっているデザインです。もちろん、サイズが大きくなってはせっかくのラウンドフォルムもダメになってしまうので、その部分にも力を入れています。

――カラーバリエーションはどのように選ばれたのでしょうか。

安井氏
 表の面は余分なものが何もないプレーンなフォルムなので、カラーに関してもそのフォルムを際立たせる、シンプルで飽きが来ず、さらにビジネスでもプライベートでも映えるような色を採用しました。

光沢塗装のレッド(左)とマットなピンク(右)

 全部で6色のカラーバリエーションがありますが、2種類の仕上げに分かれています。

 まずピンクとブルー、ゴールドの3色は、「柔らかい金属質感によるカラー訴求」をテーマに、金属質でマットな塗装に仕上げました。こちらには柔らかく高品位な色を採用しています。

 ラグジュアリーレッドとブラック、ホワイトの3色は「ラウンドフォルムが生える光沢品位塗装」をテーマに、贅沢なツヤがラグジュアリー感を演出するようにしました。こちらは存在感のある色を採用しています。特にレッドの下地にはメタリック塗装を施し、細かな粒子感により奥行きも出しています。

 また、レッドは着信LED部分でも苦労しています。レッドは色味が強く、着信LEDを透過させると、どの色も赤に見えてしまうという課題がありました。その部分に穴を開ければ解決するところですが、そうするとせっかくプレーンで何もないように仕上げた表の面が表現できなくなってしまいます。そこで、レーザー加工で微細な穴を多数開けることで、LEDの光を透過させるようにしています。

シャープの吉高氏

吉高氏
 当初のコンセプトでは金属質感でマットなイメージでデザインしていました。しかしラウンドフォルムのシンプルな美しさを表現するため、光沢を見せても良いのでは、ということで光沢とマットの両方を採用しました。

――表の面はなにもないように見えますが、サブディスプレイも内蔵されているのですね。

安井氏
 イルミディスプレイも光っていないときは何も見えないようにデザインしています。こちらに表示されるコンテンツにもこだわっていて、標準では実際の日時に連動し、閉じたときのアニメーションが変化するようになっています。たとえば春であれば桜が散るイメージだったり、七夕やハロウィンなど特定の日付では独自のアニメーションも表示されます。また、固定パターンだけでなく、パターンを組み合わせることでオリジナルのパターンを作ることも可能です。

デコレメールなどを強化

――先ほどお話にありましたが、家計簿機能も新しくなっていると言うことですが。

奥田氏
 「撮って家計簿」は名刺読み取り機能を応用、進化させ、レシートをカメラで読み取って、手軽に家計簿がつけられるという新機能になります。これはすでに本格的な家計簿を使っている人だけではなく、今は家計簿をつけていないといような人のための、入門的なところも狙っています。名刺と一緒でしわくちゃだったりすると読み取りが難しいこともありますが、コンビニやスーパーなどの一般的なレシートが読み取れます。

吉高氏
 以前のモデルでも「マネー積算メモ」という家計簿機能を搭載していましたが、それにレシート読み取り機能を加えることでさらに使いやすく進化させた形です。手入力の手間がだいぶ軽減できるかと思います。

――このほかの新機能は?

楽デコの例。「次へ」を押すと異なるバリエーションを提示してくれる

安井氏
 メール作成の新機能として「楽デコ」を搭載しました。装飾のないプレーンのメール文章を、自動でデコレメール化するというものです。デコレメール化する度合いは「ハデめ」「ふつう」「ひかえめ」の3段階に加え、自分で細かい設定を選ぶ「オリジナル」の4種類から選べるようになっています。こちらも撮って家計簿同様に942SHと943SHの共通の新機能になります。

奥田氏
 こちらの機能、たとえば本文に「動物園」と書いておけば、楽デコで自動に象などの動物が追加されたりします。一方で人名に対してネガティブな印象の絵文字を追加しないといったことにも気を遣っています。

安井氏
 あとは女性ユーザーからの要望が強かったところとしまして、受信したデコレメールからマイ絵文字を一括や選択で一気に取り込み、保存できるようになりました。

 また、942SHと943SHには赤外線によるプロフィール交換という機能を新たに搭載、送信するプロフィール項目を自分で選べるようになりました。今までは住所や誕生日といった送りたくない情報まで送られてしまう、ということがありましたが、こちらの機能では送りたい情報だけを送ることができます。また、待受画面でカーソル下を長押しすることで、プロフィール交換機能がすぐに立ち上がるようになっています。

――最後に840SHについてもご紹介をお願いします。

840SH

奥田氏
 お菓子のジェリービーンズをモチーフとした端末になります。機能面ではワンセグなどはありませんが、PCサイトブラウザなどのベーシックな機能を搭載し、2.9インチのディスプレイを搭載していますが、手頃な価格帯を狙っています。

吉高氏
 このクラスはPANTONEケータイこと812SHをお使いいただいているようなユーザー層にお使いいただきたい端末なので、サブディスプレイなどの基本要素をしっかり搭載しています。

奥田氏
 辞書やマルチタスクなど上位機種にある機能の一部には対応していませんが、たとえばカレンダーとブックマークに専用ボタンを設けるなど、簡単に便利にお使いいただけるように工夫しています。

――本日はお忙しいところありがとうございました。



(白根 雅彦)

2010/3/17 11:48