気になるケータイの中身

モバイル機器向けの3D液晶を開発したシャープの狙い


 2002年11月、他社に先駆けて3D液晶搭載の携帯電話「SH251iS」を世に送り出したシャープ。映画「アバター」や3Dテレビなどが話題になる中、2010年4月、3.4インチ、480×854ドットのタッチパネル付き3Dディスプレイを発表した。

シャープ 液晶事業本部 ソリューション開発センター 要素技術開発部 参事の今井明氏

 その背景について、同社 液晶事業本部 ソリューション開発センター 要素技術開発部 参事の今井明氏は、「映画『アバター』のヒットが、3Dの追い風になった」と語る。エコポイント特需もあり、各社が3Dテレビを次々に発表。同氏は、当然、この波は携帯電話やゲーム機などのモバイル機器にも押し寄せる、と見ている。

 これまで、国内では、同社の「SH251iS」(2002年11月)、「SH505i」(2003年6月)、さらに日立の「Woooケータイ H001」(2009年2月)と、3D液晶搭載の携帯電話が3モデル登場している。

 シャープとしては2003年以来、久々にモバイル向けの3D液晶に取り組むことになるが、当時はなぜそれが続かなかったのか。今井氏は「輝度や解像度が足りず、表示品質が低かった。つまり、本物感が得られなかった。また、モジュール自体が厚く、携帯電話のようなモバイル機器に搭載すると厚みが出てしまい、デザイン性が損なわれてしまった。さらに、当時は縦画面での3D表示にしか対応しておらず、横画面で表示できないことも大きかった」と振り返る。

 昨今の3Dブームの追い風もあり、同社ではこれらの課題をクリアした新しい3D液晶を開発することにした。輝度は2D時で250cd/m2から500cd/m2に、解像度は2D時で128~166ppiから240~330ppiに、3D時で64~83ppiから120~165ppiに向上。視差バリアの貼り合わせ技術改善により二重写りを低減、さらにタッチパネルと一体化することで薄型化を実現した。

3.4インチの3D液晶での表示イメージ

 視差バリアについては、液晶パネルの前面にもう1枚、スリット状の視差を作る液晶(スイッチパネル)を設けることで実現している。この視差バリア用の液晶パネルを制御することで、縦画面でも横画面でも3D表示できるようになった。

 同社では、今回開発した技術をベースに、タッチパネル非搭載のタイプを2010年度上期から量産を開始し、各種モバイル機器メーカー向けに供給していく。

 現在、リビングなどに置かれる大画面では、専用メガネを用いて3D表示を実現している。今井氏は「視差バリア方式は、3~15インチ程度のサイズを想定しているが、大型のディスプレイでも、技術的にはメガネ無しを実現できる。しかし、視聴場所が限定されるなど、解決すべき課題は多い。将来的にパネルの性能が向上すれば、いろいろ実現できるようになる」と語る。

 また、今回はタッチパネルにも対応しているが、今井氏は「今後は3Dの奥行きを入力インターフェイスとしてどう表現していくかも課題になる」と見ている。

 市場での感触はまずまず。「2002年には、3D液晶で何ができるのか、お客さんに説明して回る必要があった。今は以前と反応が全く異なり、『こんなことは実現できるのか?』『ここのスペックはどうなっているのか?』という風に具体的な質問が多くなった。3Dの時代が一気に来る下地はできている」(今井氏)という。

 同社では、2010年5月に携帯機器向けの3Dカメラモジュールの開発も発表しており、入力・出力の両面で3D表現をサポートしていく。



(湯野 康隆)

2010/6/11 06:00