スマートフォンアプリ開発のツボ

インデックスにiPhone/Androidアプリ開発の実態を聞く


 iPhoneやXperiaが店頭をにぎわし、スマートフォン向けのアプリ市場が急速に拡大している。今までケータイ向けコンテンツを提供してきた会社も、徐々にスマートフォンアプリへのチャレンジを始めている状況だ。iモード開始時からケータイコンテンツを手がけているインデックスも、その1社。受託と自社アプリの2本柱で、スマートフォン市場に取り組んでいる。そこで、同社に、iPhoneおよびAndroid市場への取り組みを聞いた。

 なお、インタビュー中に登場するのは、コーポレートビジネス局 企画営業部の中道寿史氏、坂口誠二氏と、開発制作部 プロジェクトデベロップメント局 PDテクニカルサポート部の黒澤裕之氏および、インデックス・ホールディングス 執行役員 広報IR室の樋口由美子氏の4名となる。

インデックスのスマートフォンに対する取り組み

黒澤裕之氏

――まず、現状、御社がどのようにスマートフォンに取り組んでいるのかをお聞かせください。

黒澤氏
 取り組みとしては、受託と自社で出すものの2通りがあります。第1弾のiPhone向けアプリは、2008年の年末に受託で開発した「北欧のルーン占い」です。これは、ソフトバンククリエイティブさんのiPhoneアプリになります。

中道氏
 その次にリリースしたのが、松井証券さんの「株touch」です。元々、3キャリア向けのケータイに、株や先物取引ができるアプリを提供していましたが、スマートフォンならプロモーション効果が期待できそうだということで、開発に至りました。ですから、まずはライトなところで、株の情報参照だけのアプリから始めています。

黒澤氏
 自社でリリースした最初のアプリは、手持ちの写真に文字を書いていける「bigup(ビガップ)」です。これは、昨年末、iPhone向けにリリースしました。Bluetoothやインターネット経由で写真を共有して、一緒にラクガキできるというのがコンセプトです。最近では、Xperia向けに「TapPhoto」というアプリを出しました。

中道氏
 ややエンタメ寄りのアプリです。ソニー・エリクソンさんがXperiaを発売する際に、端末のイメーにマッチするアプリはどういうものかという視点で開発しています。やや実験的なところもありますが、Android市場を見るという意味で、研究開発することになりました。

北欧のルーン占いbigup

――Android向けには、先日、映画「サマーウォーズ」をモチーフにした「サマーウォーズ花札KOIKOI」をリリースしました。

樋口氏
 「サマーウォーズ花札KOIKOI」はまずXperia向けに出し、6月上旬にはiPhone版の課金も始まりました。

 そもそも、インデックスの場合、受託と自社開発があり、売上の割合は半々ぐらいになります。お客さま向けのものと自社向けのものは、並行して始まっていますが、BtoCで作ったものが、いわゆるショーケース的な役割を果たしています。ここが話題になれば、BtoBやBtoBtoCの発注につながりますからね。AndroidやiPhoneの「サマーウォーズ花札KOIKOI」は良い例ですが、インデックスもこういうアプリを作っているということが他社に伝わって、お声がかかることもあります。

サマーウォーズ花札KOIKOI

――ちなみに、Android版の「サマーウォーズ花札KOIKOI」は推奨機種がXperiaになっています。その理由をお聞かせください。

黒澤氏
 iPhoneとAndroidの一番の違いは、前者がアップルの製品だということです。Androidと一口に言っても、端末ごとの仕様はバラバラです。画面サイズも、CPUも、OSも違います。しかもOSは、バージョンアップしますからね(笑)。国内で出ている端末だけを見てもそうなので、海外まで視野に入れると大変なことになります。何も考えず、全部に対応しようとすると、膨大なコストがかかってしまいます。そこを上手くコントロールすれば、結果的に、お客さまにいいものを届けられることになるのだと思います。

樋口氏
 ただ、PCに比べると、元々ケータイは機種に合わせた対応が大変だったので、予期していたレベルとも言えます。iモード初期の頃に通ってきた道ですからね(笑)。

――スマートフォンアプリ事業を始めて、BtoBの分野で、客層が変わったということはありますか。

中道氏
 一般的なケータイの頃から金融系のアプリに取り組んできましたが、中には「あの小さい画面で、50代、60代の方々が取り引きするのか」という疑問の声もありました。それがiPhoneで少し、iPadでさらに画面が大きくなったことで、かなり食いつきがよくなった印象はあります。

樋口氏
 ファッション系の人たちも、興味を示すようになりましたね。画像のクオリティを気にしている方々でも、iPhoneだと分かってくれることが多くなりました。

スマートフォン市場の見方

中道寿史氏

――現状のスマートフォン市場を、どのように見ていますか? 市場規模を数字で表すと、まだほんの一部という見方もできますが、今後の伸びをどのように考えているのかを教えてください。

中道氏
 現状はまだまだ過渡期ですが、これから伸びていく分野だと思います。

樋口氏
 そこは素直に見ていて、キャリアさんが狙っている市場規模には成長すると考えています。海外の子会社でケータイ向けコンテンツを手がけていることもあり、国外の市場動向も見ていますが、特に、フランスのように全キャリアからiPhoneが出ている国では、スマートフォンへの移行が早いですからね。中国、アメリカ、ヨーロッパなど、ブラウザベースでケータイコンテンツを使うのが主流でない国では、スマートフォンへの切り替えが早く、スマートフォン向けのアプリの売上が、60~70%程度になっています。

坂口氏
 市場規模に関しては、色々な数字が出ていますが、大きく2つの側面があると考えています。1つ目が、国内のBtoB市場です。BtoBのソリューションを担当していると、「iPhoneやAndroidが出てきて、これまでのケータイに投資しても効果がないのでは」という声を聞くことがあるんですね。先駆的で可処分所得が高い、いわゆるアーリーアダプター、インフルエンサーと呼ばれる方々を取り込んでいきたいというお客さまが増えています。

 もう1つはBtoC市場の、ワールドワイドな広がりです。スマートフォン向けのアプリは、もしかしたら、iモードより大きな市場があるのではないかと感じています。iPhoneやAndroidには、このようなチャンスがあると見ています。

樋口氏
 弊社は、iモードなどのケータイコンテンツも数多く展開しています。その方が、スマートフォンに移ったときにも、引き続き弊社の提供するコンテンツを使っていただきたいという思いもあります。

――実際にスマートフォン向けアプリを出して、つかんだ感触を教えてください。成功するには、何か条件のようなものがあるのでしょうか。

中道氏
 Androidアプリは、やはりキャリアやメーカーの制約が少ないという自由度に魅力があります。一方でiPhoneアプリの制約はAndroidと比べると厳しい反面、受託のクライアントにとっては、そこが安心感につながっているようです。

坂口氏
 iPhoneアプリを自社で提供する場合、どこまでリスクを取れば、どれだけリターンが見込めるのかという経験がなかったので、社内で理解を得るのがやや大変でしたね。ただ、BtoCの検討自体は、iPhone 3Gが発売してすぐに開始しています。例えば、私が担当するiPhone向けの「バウリンガル」も、2008年8月にスタートしました。その時点から、アメリカと日本のランキングに入るアプリを定点観測していますが、必ずしもそこに決まった成功法則があるとは限りません。

 ですから、マーケティングの教科書のイロハですが、“自社の強みは何か”“他がやっていないものをどうやるか”ということを徹底的に考えて、展開しなければなりません。さらに言えば、ものすごい強みがなくても、テーマを絞れば成功する可能性があります。例えば「バウリンガル」は犬にフォーカスを当てているわけで、このような展開方法もあるのではないかと思います。あとは、当たり前ですが、人気のあるアプリ、コンテンツの要素を分析することも必要です。単純に真似るというわけではなく、アプリのどういう部分が受けているのかということ、きちんと抽出できれば、自分たちのものにそこだけを取り込むことができると思います。

黒澤氏
 App StoreやAndroidマーケットは、1回埋もれてしまうと、再び上位を取るのが難しくなります。他社とそれほど変わるわけではありませんが、Twitterと連携してバイラル効果を狙ったりすることで、少しずつ認知を広げられます。例えば、単独で遊べるゲームに関しても、完全にスタンドアローンのものはほとんどないですよね? 過去のスコアやランキングを見られたりと、何かしらの形でネットワークと連動させることが必要になっています。

iPhone版「バウリンガル」(開発中の画面イメージ)

端末や課金がコンテンツに与える影響

坂口誠二氏

――iPhoneではアプリ内課金も増えてきましたが、あくまで売り切りが基本になっています。月額課金が主流の日本のケータイコンテンツと、どのような違いがあるのでしょうか。

坂口氏
 そうですね。その影響は非常に大きいです。例えば、今後リリースするiPhone向け「バウリンガル」も、1回こっきりの課金だと、月額課金に比べると、かなりレベニューが落ちてしまいます。そういう意味では難しい市場だなと感じています。もちろん、iPhoneにはアプリ内課金もありますが、そこで上手くいっているところは少ないので、今は広告モデルも考えざるをえません。

 ただ、広告モデルは、国内市場だけを考えると、稼働台数の多いiPhoneですらそこまで大きな収入になるわけではありません。ですから、アドモブさんのようなアド・ネットワークを使ってワールドワイドに展開する必要があります。一方で、簡単にワールドワイドと言いましたが、やはり国ごとに、しっかりローカライズしていくことは必須で、手間はかかります。

中道氏
 ちなみに、Androidマーケットに関しては、有料アプリを配信できる地域が、まだ限られています。自社で独自決済できるシステムを持っていないと、全世界での展開が難しくなります。

――Androidマーケットの場合、有料アプリの“返品”ができますが、その影響はありますか。

中道氏
 ありますね。アプリの作りにも影響してきます。基本的には長く使うことを前提にしているので、直接的な打撃を受けているわけではありませんが、やはり読み物系のアプリは作りづらいですね。

――iPhoneアプリで流行した、ネタ系アプリも、Androidだとちょっと遊んですぐに返品ということがありそうですね。

黒澤氏
 App Storeで流行ったようなものは、出しづらいですね。ゲームのデザインを変え、長く遊んでもらえるような“引き”を作らないと、返品につながってしまいます。そういう意味では、マーケットの特性が、内容にも影響を与えていると言えるでしょう。

樋口氏
 とは言っても、制作側から見るとやりがいはありますけどね。返品されないいいものを作って、しっかりPRしないとダメということなのだと思います。

黒澤氏
 Androidに関しては、ドコモマーケットやau one Marketもでき、デフォルトのマーケットと共存していくことになると思います。

――iPhone以降、タッチパネル搭載がスマートフォンの主流になっていますが、このデバイスがコンテンツに与えた影響を教えてください。

中道氏
 サイバーエージェントFXの「Cymo」は、iモードなどでも使えますが、スマートフォン向けのものは、UIを完全にタッチ対応にしました。やはり、iPhoneを持っているユーザーは、デザインへの感度が高いので、そこにも手が抜けません。

黒澤氏
 スマートフォンに、コンテンツの“中身”を持っていくことはできると思います。一方で見せ方のようなところは、これまでのケータイ向けとスマートフォン向けのもので、出し分けることが必要です。

樋口氏
 ただ、それは、スマートフォンになったからというより、これまでもずっとやってきたことです。例えば、昔のケータイはJavaを搭載していませんでしたし、iモード初期の頃は液晶もモノクロでしたよね? 新しい端末に合わせて、古いコンテンツをアップデートするという作業は、その頃から、常にやっています。その繰り返し、という見方もできると思います。

スマートフォンアプリのグローバル展開

――「バウリンガル」のようなアプリは、グローバル展開も十分狙えると思いますが、その際に気をつけている点などがあれば教えてください。

坂口氏
 iPhone向け「バウリンガル」は当初、世界同時にリリースすることを考えていました。その場合、アメリカが中心の市場になるとも予想していました。ただ、アメリカやそれ以外の国を意識して展開する場合、先ほど申し上げたようにローカライズを相当しっかりやらないといけません。翻訳されるメッセージはもちろん、好まれるインターフェイスも、国によって異なります。あるいは、「バウリンガル」というタイトル自体も、別の言葉に置き換えなければいけないのかもしれません。

 iPhone向け「バウリンガル」は夏にリリースしますが、世界同時展開ではなく、日本で先行することになると思います。幸い、プレスリリースを出した際の反響が大きかったので、まず、日本で話題を作って、海外展開する方向で検討しています。

樋口氏
 iPhone向け「バウリンガル」に限ったことではありませんが、海外の子会社でコンテンツを提供している経験を元に考えると、やはりローカライズは2回しなければ通用しません。1回目が、分りやすい言葉に置き換えること。2回目が、出すコンテンツの世界観に合わせた言葉に修正していくことです。ゲームの場合は特にそうで、直訳すると「その場面でそんな言葉遣いはしないよ」というケースは多々あります。文化の違いもあり、例えば動物を育てるゲームでも、与えるエサが全く違うということが実際ありましたからね。

黒澤氏
 文化が違うと、直訳ではギャグが全く通じないこともありますね(笑)。

樋口氏
 iPhone向け「バウリンガル」は、そこまで複雑ではありませんが、やはり、その土地その土地の方々が使いやすいものを出すというのが、コンテンツプロバイダーの仕事だと思います。

――本日はありがとうございました。



(石野 純也)

2010/6/16 06:00