「S003」開発者インタビュー

防水対応“Cyber-shotケータイ”進化の方向を聞く


Cyber-shotケータイ「S003」

 ソニー・エリクソン製「S003」は、1209万画素のCMOSセンサー「Exmor」を搭載する“Cyber-shotケータイ”だ。スライド型ながら防水仕様をサポートするなど、特徴的な機能を備える。

 商品企画担当の柏原氏、機構設計担当の安藤氏、電気設計担当の柏崎氏、デザイン担当の兼田氏、ソフトウェア担当の田中氏、ユーザーインターフェイス担当の松島氏に「S003」のコンセプトと開発の経緯を聞いた。

 

利用シーンの拡大を図る

――「W61S」「S001」に続き、今回で“Cyber-shotケータイ”3代目という「S003」ですが、当初から“Cyber-shotケータイでいこう”と決まっていたのでしょうか。

柏原氏
 はい、そこは最初から決まった形でした。「Cyber-shot」という冠が付くとおり、ソニー製のCMOSセンサーなどで圧倒的なフォトクオリティを実現しようと考えていました。大きな特徴としては「スライド形状で防水」「PLASMAフラッシュ」の搭載、「GSM/CDMA対応により世界中で使える」ということになります。

――そうした機能の進化で、ユーザーにもたらしたかったモノとは何なのでしょう?

「S003」開発陣

柏原氏
 “ユーザーの利用シーンを拡げたい”ということですね。防水にするとアウトドアの水辺で、フラッシュ搭載で暗い室内、GSM対応により多くの国で利用できるようになります。

――スライド型を採用した理由は?

柏原氏
 過去のCyber-shotケータイでもスライドを採用しており、ある程度「Cyber-shotケータイ=スライド」と認知されてきたと思います。そういった経緯もあり、形状そのものを変更する考えはありませんでしたね。

兼田氏
 デザイン面では、「Human Curvature(ヒューマン・カーヴァチャー、人間的な曲線の意)」「Precision by Tension(プレシジョン・バイ・テンション、緊張感による精密さの意)」という、グローバルでも展開しているデザイン・コンセプトを最近の当社端末でも導入うしています。「S003」では、背面の曲線あたりがわかりやすいでしょうか。人間の体のような流れる線で、側面もやや盛り上がった形状で手で描いたような有機的な曲線を付けています。

デザイン担当の兼田氏(左)と商品企画担当の柏原氏(右)

――なるほど。

兼田氏
 側面には、透明なパネルを用いていますが、そのパネルの裏面(筐体内部に面している部分)は蒸着処理を施して、金属調に仕上げています。この蒸着処理も、パネル裏面が凸凹があってはうまくいきません。ツルツルじゃないとダメなのです。

柏原氏
 先日、電車内で「S003」を使っている方を見かけました。そのとき、見えたのは「S003」の側面だけだったんですが、側面を見ただけで「あ、あれは」とわかったんです。

 

防水で苦労したポイントは?

――防水対応とのことで、ユーザーのニーズは大きいのでしょうか。

柏原氏
 そうですね。先代モデルの「S001」のユーザーからも防水を求める声が強かったですね。もちろんタイミングとして、夏モデルでの投入を目指していました。

――スライド型で防水というのは、非常に珍しいと思うのですが、仕組みはどうなっているのでしょうか。

安藤氏
 ディスプレイ側ボディと、キー側ボディという2つの箱をそれぞれ防水にして、2つを繋ぐ部分は非防水エリアになっています。(ディスプレイとキーを繋ぐ)フレキシブルケーブル自体は水に濡れても問題がないもので、そのフレキシブルケーブルがボディに入る部分に防水用コネクタを用いています。スライド機構ですから、ボディとボディを繋ぐ隙間が狭いこと、また全体的な厚みに制約があることは課題となりました。

――苦労したポイントは?

安藤氏
 バッテリーカバーを2枚構造にしたり、外側にロック機構を設けなかったりしたこと、あるいは全体的な厚みを防水でありながら従来通りにするという点ですね。

――スライド機構の防水化よりも、防水でありながらサイズアップしないという面のほうが苦労した、ということですか。つまり小型化しなければいけなかった、ということだと思いますが、従来より小さな部材を採用することで実現したのでしょうか。

安藤氏
 小さな部品を採用するということに加え、配置を工夫してデッドスペースをなくすということですね。

 

カメラ機能について

――機構を見るとカメラ部のレンズカバーは縦スライドになりました。

柏原氏
 「S001」で横スライドのカバーでした。その後、「カバンに入れるとカバーが開いたり、カメラが起動したりする」といった指摘をいただきました。そこで縦スライドを採用し、なおかつ機構設計側にも頑張ってもらい、開いたときでも閉じた時でも、段差がない仕組みを採用しました。

兼田氏
 デザイン面でも従来と同じものを採用するのではなく、別の形状を採用することで進化した印象を与えたいという狙いもありました。

――カメラカバーのスライド機構も、これまで目にしたことがなかったのですが……。

兼田氏
 この構造自体は、当社が1年ほど前にグローバルモデルとして発売したCyber-shotケータイで採用されていたものをベースにしています。今回は、異なる素材で、新規に設計しなおしたものです。

――カバーを開けると、自分撮り用のミラーとPLASMAフラッシュがありますね。

柏原氏
 スライド機構で自分撮りをするなら、ミラーがあったほうが便利だろうと考えて備えることにしました。「S003」としては男女を問わず、幅広いユーザーに利用して頂きたいと考えていますが、“自分撮り”という使い方は、20代~30代の女性、あわよくば10代女性がメインユーザーになると見ています。カップルでの利用や友達同士での撮影、といった形ですね。

柏崎氏
 携帯電話に搭載されるフラッシュには、さまざまな種類がありますが、今回はLEDを光源にして、スーパーキャパシタ方式(電荷を貯めてLEDへ放電)を採用しています。たとえばキセノンフラッシュと比べると、体積が小さくできます。「S003」では防水仕様していますので、「S001」と比べると電気設計で利用できる構造は限られ、“いかに太らせずに”設計するかという方針で、なるべく小さくすることを目指していました。

――フラッシュが小型化する、ということであれば明るさにも影響しないのでしょうか。

柏崎氏
 光源が小さくなれば、明るさも減少します。ただし、従来の当社フォトライト搭載端末と比べ、PLASMAフラッシュでは照度換算で48倍の明るさになりました。消費電力もそこまで費やしません。

――小型化が求められていた、ということであればフラッシュそのものを搭載しない、という選択肢と採らなかったのはなぜでしょう?

柏崎氏
 そのあたりは、企画担当者など全チームと話し合って、「これほど明るく撮影できるものであれば搭載する価値があるよね」と。意志統一はできていたかなと思います。実際に撮影してみましょうか。

 (部屋を真っ暗にしてW61SとS003で撮影、撮影後の画面を見比べながら)W61Sもフォトライトがありますので、ある程度は映りますが、S003では明るさが違います。

W61Sで撮影(縮小加工済み)S003で撮影(縮小加工済み)

――暗い場所で撮影するときのコツはあるのでしょうか?

柏崎氏
 ほぼ初期出荷の設定のままで大丈夫ですが、オートフォーカス設定は「コンティニュアスAF」にしていると、真っ暗闇の中で被写体を探し続けピントが合いにくくなりますので、「マルチAF」を選択していたほうがピントが合いやすいですね。

 

ソフトウェアについて

――今回、同時期に発売された「S004」では、ソフトウェアプラットフォームが「KCP3.0」です。そういった意味でいくと、「S003」は従来通りのプラットフォームですが……。

田中氏
 「S001」から継承できた部分はありますが、カメラ関連では進化させた部分もあります。また同時期の機種である「S004」と文字入力(POBox Pro 4.0E)など一部は同じものを搭載しています。

――カメラ関連の機能では「個人検出」が興味深いですね。

田中氏
 これまでは顔を検出して、フォーカスをあわせていましたが、撮った後に検索しやすいよう検索機能で“個人”というものを取り入れようと。大きな進化かなと思っています。

――登録した“個人の顔”のデータは、機種変更したときなど引き継げるのでしょうか。

田中氏
 登録した名前や優先度は、機種変更後に引き継ぐという機能は現段階ではありません。今後検討の余地がありますね。

――カメラ機能の操作メニューはいかがでしょう。

松島氏
 大きく変わったのは、メニューアイコンを大きくするなど、表示する情報に強弱をつけてわかりやすくしています。機能面では、「おまかせオート撮影モード」を用意し、被写体にあわせてモードを切り替えています。機能設定の必要がなくなったことで、表示する必要がなくなったアイコンも一気に減らして、画面表示をスッキリさせました。

電気設計担当の柏崎氏(左)とUI担当の松島氏(右)機構設計担当の安藤氏(左)とソフトウェア担当の田中氏(右)

――「おまかせオート撮影モード」搭載ということですが、シーンの自動識別といった機能は従来もあったように思えます。

田中氏
 最も大きく異なるのは、「コンティニュアスAF」に対応したことです。被写体に対して自動的にフォーカスをあわせるようにしました。

松島氏
 何らかの設定変更を行う際も、アイコンの背後は透過するようにして、設定しながらでも、すぐに撮影へ戻れるような安心感を演出しました。また、設定メニューを出した後、これまでは「閉じる」と表示されたソフトキーを押す必要がありましたが、今回はシャッターボタンを押せば閉じるようになっています。これはデジタルカメラのような操作感に近づけた結果ですね。

――なるほど。

松島氏
 方向キーの下でフラッシュのON/OFFを切り替えられますが、この際も設定値を示すアイコンを大きく表示して、わかりやすさの向上をはかっています。もう1つ、ユニークな機能として「マジカルショット」という機能があるのですが、ミニチュア風の撮影を手軽にできたり、顔写真を撮影すると目を大きくしたりできます。

――初代Cyber-shotケータイから搭載されている「デコフォト」はずいぶん雰囲気が違いますね。BGMや操作方法は、いわゆるプリントシール機のような演出です。

柏原氏
 デコフォトは“完全に別モノ”として開発されています。初代から搭載されていることもあり、認知度があがって反響も大きい機能ですね。

田中氏
 顔写真から似顔絵を作成できる機能もあるのですが、これは顔認識を元に、プリセットのイラストから似ているものを選びだし、似顔絵を作成するというものです。

松島氏
 顔認識時に、顔の特徴点が抽出され、それを元に似たイラストを選ぶ、という流れですね。

――なるほど。ありがとうございました。

 



(関口 聖)

2010/6/17 13:54