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スマートフォンアプリ開発のツボ

「Androidにも本気で取り組む」、ヤフーのスマートフォン戦略


 携帯各社が本格的に注力しはじめ、一般への普及に期待がかかるスマートフォンに対し、日本のインターネットサービス事業者の雄、ヤフーがこれまで以上にスマートフォン市場へ取り組む姿勢を打ち出してきた。

 iPhone向けサービスの最新状況と、他のスマートフォンへの取り組みについて、ヤフーR&D統括本部 フロントエンド開発本部Everywhere開発部部長の村上臣氏に聞いた。

iPhone向けサービスの現況

4月にリニューアルしたiPhone向けYahoo!JAPAN

 いつでもどこでも、さまざまな機器に応じて同社サービスを利用できるようにする「Yahoo! Everywhere構想」を掲げる同社では、グループ会社であるソフトバンクモバイルとアップルが国内で展開するiPhone向けに、Webサイトを最適化するだけではなく、各種サービスのアプリ版を提供している。iPhone版Yahoo!JAPANの月間ページビューは約2億6800万PV、ユニークユーザー数は約254万人(どちらも今年3月)で、毎月増加している状況だ。利用者の属性を見ると、3/4が男性で、女性は1/4。PC向けサイトでは5割強が男性、5割弱が女性という状況で、iPhone向けサービスは男性ユーザーのほうが多く、一般的なスマートフォンユーザー層と同等と見られる。またユーザーの約5割が首都圏ユーザーで、東名阪だけで約8割を占める。

 1日のアクセス状況を見ると、朝9時頃からアクセス数が上がり、昼休みの時間帯にピークを迎えるPCサイトと比べると、iPhone向けサービスは一般の携帯電話と同じ動向を示しており、昼休みと21時過ぎがピークとなり、平日に学校や業務がある時間帯の利用は落ちる。平日と休日では、休日のほうがよく利用されており、外出先から利用されている状況を示唆する。サービス別に見ると、最もよく利用されているのはオークションで、全体の33.7%を占める。以下、トップページ(13.2%)、ニュース(11.8%)、検索(11.7%)、メール(10.0%)となる。また、ユーザー間で質問しあうQ&Aサービス「知恵袋」は、コミュニティのように利用されている側面もあるとのことで、挨拶だけ行う雑談コーナー、恋愛相談などが人気という。

 2010年6月時点のアプリダウンロード数は、約850万に達した。今年2月時点では100万ダウンロードだったが、「ドラえもん」アプリや「エヴァンゲリオン」アプリで爆発的に増加したという。

 またiPhone向け広告サービスについては、iPhone版Yahoo!JAPANの下部にオーバーレイ広告を設置するという取り組みを開始した。5月よりテスト販売をスタートし、9月から正式展開する方針だが、その一方でアップルでは「iAd」という新しい広告プラットフォームを立ち上げ、iOS 4向けに展開する方針だ。村上氏は「現状では、デバイスを手がけない当社はiPhone向け広告プラットフォームを展開できると見ている。iAd以外のプラットフォームを求める事業者からニーズはあるだろう。ヤフーとしては、“できるプラットフォーム”“乗れるプラットフォーム”は使わせて欲しい、使えるものは使いたいというスタンス」と語り、幅広く展開する方針を示す。ヤフーでは、スマートフォン向け広告としてこれまでに検索連動やインタレストマッチを既に展開している。今回新たにグラフィカルな広告表示にチャレンジすることになるが、スマートフォン向けの見せ方という点では、トライアルという側面もある。

Androidにも本格展開

――ソフトバンクと資本的関係があるヤフー、という観点からすると、iPhone向けサービスに注力するのは当然のように思えます。

ヤフーEverywhere開発部部長の村上臣氏

 当社の立場からすると、Androidにも当然取り組む、ということになります。iPhoneはクローズドな世界で、Androidよりも最終的にはパイが小さくなるのではないかとも思っています。特にストアやDRM、SDKが完全に非公表で、プラットフォームビジネスが展開できず、1アプリを提供するコンテンツプロバイダという立場にならざるを得ません。

 一方、Androidについては、指定されたDRMがあるわけではなく、キャリア独自のマーケットが存在するように、独占的な世界ではありませんので、究極的には「Yahoo!マーケット」のようなサービスを作ることもできます。形としては、PCにかなり近く、今のヤフーのPC上の強みが活かせる良い場だと考えています。インターネットはオープンな場ですので、“よりオープンな場に展開する”という考え方です。

――なるほど。

 今後のスマートフォン市場シェアがどうなるかわかりませんが、現状の各キャリアのシェアを参考する考え方もあります。

――母数の大きな市場に向かうというのは自然ですね。

 もちろん“血の繋がった仲”だからこそ実現できる機能やサービスもあります。端末のより深い部分を利用するような、たとえばID連携のような機能ですね。その一方で、インターネットサービスは広く、あまねく展開する方が望ましい。ヤフーは基本的にアグリゲーターで、コンテンツプロバイダさんからコンテンツを預かって配信する以上、“面”は広いほうがいいということです。

――このタイミングでAndroidへの取り組みを本格化するというのは、端末が揃ってくる時期だから、ということでしょうか。

 そうですね、考え自体は以前からありましたが、いよいよ端末が登場してくるということで、ジャンプする準備ができてきたかなと。

――スマートフォンへのコンテンツ配信については、従来の携帯電話よりも、機種ごとの差違が少なくなって開発コストの低減が見込める、といった期待があったように思えますが、実際は差違はそれなりにあるという状況になりそうです。

 確かにその通りですが、携帯向けサービスを手がける以上、今までもそうだったじゃないか、ということですよね(笑)。これまでも当社では、3キャリアで400以上の機種をサポートしています。“うなぎのたれ”のような端末データベースがあって、ある程度グループ化して、最適化しているわけですが、それと比べると(スマートフォンは)数機種程度ですから。

 またiPhone、Androidのどちらにおいても、WebKit(アップルが主導するオープンソースのブラウザエンジン)のおかげで、Webアプリケーションの土壌が整ったことは嬉しいポイントです。

――HTML5に期待するところが大きいと。

 そうですね。(現状のスマートフォンで主な使い方である)アプリをダウンロードするというのは、このまま進むとコアなユーザーが使うもの、あるいは尖った機能ということになるのかなと。おおむねWebアプリで大丈夫ではないかと見ています。このあたりは、現時点では賛否両論あるでしょうが……。

――ということは、ヤフーとしてHTML5へ大きく舵を切ることになるのでしょうか。

 結構(大きく)舵を切ると思います。アプリはアプリで出しますが、大部分のサービスはHTML5になるのではないでしょうか。既にiPhone向けYahoo!JAPANのトップページはHTML5で構築しています。写真もフリックで操作できますし、動きのある仕組みを取り入れており、ノウハウを蓄積しているところです。また、iPad向けに提供している地図サービス「yubichiz(ゆびちず)」もHTML5で構築しています。指で地図に触れて、地図を操作したり、地点情報にアクセスしたりできますし、道を指でなぞって距離を測定できます。あれはまさにHTML5によるWebアプリケーションです。

 App Storeでは審査がありますので、配信スケジュールが把握しづらかったり、突然配信が中止になったりすることがあります。「Yahoo!地図」というアプリもある朝、一通のメールとともに非公開になっていたこともありました。また、スマートフォンの世界は試行錯誤が続いていて、何が受けるかわからないところあります。機能面ですぐ改善しようというときもWebアプリケーションのほうが手軽に行えます。

Androidへ注力する方針を語った村上氏

――従来型の携帯電話で培ったノウハウで、スマートフォンにも活用できるものはあるのでしょうか。

 画面上に表示する要素、でしょうか。ユーザーインターフェイスもそうですし、Yahoo!JAPANのトップページに表示するニュースなどの編成もそうでしょうね。個人的には、ユーザーインターフェイスを左右するのは、ディスプレイサイズと入力デバイスの“かけ算”だと思っています。パソコンは大きなディスプレイに、大きなQWERTYキーです。これまでの携帯電話は3インチ超のディスプレイにテンキーという構成で、スマートフォンは3〜4インチと携帯電話に近い画面サイズで、タッチパネルという操作になります。

――携帯電話とスマートフォンは、利用シーンだけ見るとほぼ同じ使い方になりますね。

 スマートフォンは、パソコンのように使えるところもありますので、まさにハイブリッドですね。Yahoo!JAPANのニュースやトピックスは、時間帯にあわせて編成を変えていて「この時間帯にはこのネタを」という形で運用しています。そうしたノウハウは携帯電話の考え方を応用できるでしょう。Yahoo!モバイルを一般サイトで展開してきたことで培った部分と、パソコンでの強みをうまくスマートフォンでは融合できると見ています。そうしたことも当社が今後スマートフォンへ力を入れる背景にありますね。

――現在、スマートフォンユーザーは、ITリテラシーが高い層が多いように思えますが、その一方で、Yahoo!JAPANは、もっと幅広い層に利用されていると思います。スマートフォン向けサービスの拡充は、「スマートフォンがもっと一般に広がる」と見ているからでしょうか。

 これまで高機能な携帯電話を使っていた方々がAndroid端末へ移行する動きも出てくるでしょう。フィーチャーフォンとスマートフォンの境界がなくなってくるだろうとも思いますので、そうしたところのユーザーは当社既存ユーザーと重なるだろうと。

――これまでの携帯電話向けサービスでの取り組みと同じようにスマートフォンでも展開されるのでしょうか。

 根本で変えるということも考えています。Yahoo!モバイルは、いわばPC向けサービスのサブセットというか、よく利用される機能を切り出して提供してきました。そのため、携帯だけを使うユーザーの獲得に出遅れてしまい、競合他社、とくにソーシャルゲーム分野において(他社が)伸びるのを許してしまったのは1つ反省する点です。見やすくする、ユーザーインターフェイスを最適化する、というのはおもてなしの領域で、当然対処すべきことです。

 またYahoo!モバイルでも、パソコン向けサービスの軸をそのまま持ってきたのは「ダメだったかな」と、大いなる反省点かなと実は思っています。生活の流れを考えると、「Yahoo!スケジューラー」を見て、トップページに戻ってニュース見て、天気を見て……という導線はおかしいだろうと。それらをワンパッケージで、一画面で済ませられる要素は当社内にあるわけです。そうした視点が今まで足りなかった。素材はあるけれども、うまく提案できていなかったところが反省すべき点で、現在、頭がちぎれると思うほど考えていますね。

――スマートフォン向けの展開で「特にここへ先に展開する」という方針なのかと思っていましたが、全方位で展開する構えに思えます。

 今年は“確変の年”だと思っているんですよ(笑)。

――大当たりする可能性があると。意気込みを感じる一方で、強い危機感を持たれているように思えます。

 この動きには乗っていかないとダメだと思います。パソコンはやがて使われなくなるかもしれませんから。最初にiモードが登場したときと同じと言うべきでしょうか。普段はパソコンでメールをしていて、急いでいるときにiモードメール、という形だったのが徐々に逆転してきたわけです。そうした流れが続くと、動画編集するときだけパソコンを使う、というように、生活の中で“尖ったところ”だけをパソコンが担うという使い方が5年後くらいに普及している可能性がありますよね。

――なるほど。ありがとうございました。

 



(関口 聖)

2010/6/23 12:47