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気になる携帯サイト制作者に聞く

ケータイコミック最大手が語る電子コミック事情


NTTソルマーレの大橋氏

 iPadやKindleなど、米国発のデバイスをきっかけに、電子書籍に関する議論が話題となる中、数年前から国内の携帯電話向けコミック市場は一定の市場規模を築いてきた。いわゆるスマートフォンではなく、従来からの携帯電話向けコミックが人気となり、iモード公式サイトでは59カ月連続で、EZweb公式サイトでは177週連続で1位を占めるサイトを運営するNTTソルマーレは、業界を牽引する企業と言っていいだろう。

 今回、NTTソルマーレ代表取締役社長の大橋大樹氏に、これまでの事業の取り組みや海外市場への展開、スマートフォンが注目される中での今後の展開などについて聞いた。

 

「これでダメなら会社を解散」

――2002年4月に設立されたNTTソルマーレですが、当初は「Foobio(フービオ)」というキオスク端末を展開していました。

 そうですね。当社はNTT西日本の子会社なのですが、NTT西日本の固定通信事業は、東日本と比べて“赤字体質”と見なされています。というのも、東京のような大都市圏があって、周囲に都市部が点在する、という状況と比べ、関西のような西日本の営業範囲はそこまでの大規模な都市はなく、中規模の都市がいくつも点在します。離島も多いですし、ケーブルの総延長距離はNTT東日本よりNTT西日本のほうが長い。(そうしたインフラを活用する事業として)西日本では新規事業を検討しなければならなかった。そこで街頭にキオスク端末を設置して光ファイバーを巡らせてPDA向けにコンテンツを配信しようと考えました。

 このときの「Foobio」は、事業としてはうまくいきませんでしたが、実際にコンテンツ配信を行ってみると、ゲームやユーティリティ、テキストなどの中でも漫画に対するユーザーからの反応が一番良かったんです。

――なるほど。

 漫画は「絵がある」「誰もが知っている」「映画やテレビの原作になる」ということで、コンテンツとして受け入れられやすい条件が整っているのでしょう。市場としてもPDA自体が失速する中で、当社内の若いメンバーが「携帯電話が絶対にいい」と主張して電子コミック配信事業に乗り出したわけです。当時は、1人1台に携帯電話が行き渡るだろうと見られていた時代で、そうした中でコミック配信を行うと、いつでもどこでも購入できる。ただしパケット通信料がネックでした。当時は高額で、1.5MBもダウンロードさせると高額になる。どう負担していただくか悩んでいたところでしたが、ちょうどauさんがパケット通信料の定額制サービスを導入した。こうなると他キャリアも競争で同様の施策を展開するだろう、ということで公式サイトでコミック配信をスタートすることにしました。

――業界のトレンドをキャッチアップして、という形にも見えましたが、キオスク端末事業の見直しを経て、という流れだったのですか。

 事業があまりうまくいってませんでしたので、僕らとしては「四の五の言わずにやろう」ということで、あんまり(他事業など)選択の余地はなかったというか。モバイルの流行にあわせて、ということは当時あまり考えていませんでしたね。もしダメだったら会社を解散しようとも考えていました。そしてコンテンツを持つ出版社へ交渉を行うわけですが、携帯電話の画面は限られているので、1コマずつ見せるやり方になっていた。しかし「漫画は見開きで見ないとダメ」といった指摘をする出版社さんもあった。一方で、「Foobio」事業でお付き合いのあった本宮ひろ志さん(代表作「サラリーマン金太郎」など)の事務所の社長さんから好感触の返事をいただいたんです。作家さんからすると、見せ方はどうあれ、作品がより多くの人の手にとってもらう方が重要だと。コミックサイトオープン時のコンテンツは20数作品でしたが、ほとんど本宮さんの作品でしたね。

――2005年に小学館とオープンした「コミックi」の記者会見を取材しました。

 小学館さんにも幾度か訪れて、ある役員の方が「面白そうだ」と検討していただき、少年もの、成年もの、女性ものをいくつかという形でスタートしました。リリースしてみると、受けもよかった。それ以前もいくつか取引している出版社さんはありましたが、小学館さんとの事業は1つのターニングポイントだったかもしれません。

――リアルの場で、ユーザーが本を購入するのは書店です。ソルマーレもそうした役割を果たしているのでしょうか。

 そういう意味では当社は、もともと(自分たちのことを)「小売」だと思っているのです。商品を仕入れてユーザーへ販売するということです。ただ、携帯電話向けコミックでは1ページをカットしています。現実では、そういった見せ方は存在していませんでしたが、見せ方を工夫する、加工するという役割はリアルの書店と異なる形でしょうか。

――携帯向けコミックは女性ユーザーに受けていると分析されています。

 当初「北斗の拳」をリリースしたこともありましたが、僕自身は女性より男性ユーザーのほうが利用すると思っていたときがありました。しかし、実際は女性ユーザーのほうが多かった。

 また1話あたり50ページ程度の作品は、結構出版社さんに眠っていることが多く、それを配信しませんかと打診してラインナップを拡充しましたが、こういった作品も人気です。雑誌に掲載されても単行本にするには500ページほど必要ですが、そこまで至らない作品は結構あったのです。

――コミックではなくテキスト、電子書籍のほうは……?

 文字モノも検討しましたが、当初(Foobio事業がうまく立ち上がらなかった反省で)手広くやらず、コミックに集中したいと考えていました。また当社のコミック配信が好調ということで、他社の参入も相次ぎ、競争が激しくなったということも(電子書籍に注力しない背景に)ありました。

 

EMA加入の背景

――アダルト寄りな内容が携帯向けコミックの売れ筋、と見られていました。その中で、NTTソルマーレは昨年、EMA(モバイルコンテンツ審査・運用監視機構、2008年4月設立)の認定を受けました。

 グループインタビューをしたわけではないのですが、「書店で買いづらい作品をケータイで」というのは自然だと捉えていました。ですが、我々としては、「売れれば何でもいい」という考え方はしていませんでした。そこへEMAの設立に繋がる動きが出てきました。その当初からEMAの認定を受けることは考えていましたが、EMA側では最初にSNSなどコミュニティサイト向けの基準を策定し、その後表現系(サイト表現運用管理体制認定制度)ということになりましたので、その一番手に目指そうと考えました。

 認定に向けた作業では、性表現については、ある程度、当社内でも掲げていた部分がありましたが、暴力表現については気づいていなかったところがありました。たとえば「北斗の拳」を読んで育った世代の男性陣であれば普通に思える表現であっても、社会的な影響があるかもしれない、犯罪を助長するかもしれない、ということで、あらためてチェックしなおそうということになりました。

――アダルト作品が売れ筋だった、ということはEMAの認定を受けることで、業績に影響はなかったのでしょうか。

 思ったよりもなかったですね。表現については、1人1人、許容度が異なる部分があります。そこに「ここしかない」という制限を掲げるのは正しくないかもしれません。また、売れればいいという方針ではありませんでしたし、社員が家族や友人に「こういうサイトを運営している」と胸を張れることも考えると、多少業績が下がってもバランスがとれると考えていましたが、実際には、思ったほどの影響はなかった。たとえ売上へ影響があったとしても、売り方で工夫すべきと考えていましたね。もともと18歳未満のユーザーは、あまり大量のコミックを購入していたわけではありませんから、そういった点が背景にあるのでしょう。

 

これからの市場について

――ここまでのお話ですと、予想はしていなかったけれども順調に進んできた、という様子ですね。

 海外展開も少し始めてきていますが、これまでは携帯事業者の公式ポータル内である程度、予定調和的というか、守られた範囲の中にいるという感覚の下での商売というか……表現はきついかもしれませんが、“惰眠をむさぼる中での商売”だったと思います。今後、スマートフォン市場が広がり、公式ポータルではなく、アプリケーションストア経由での市場が広がる可能性はありますが、現実を見るとまだ公式ポータルを利用するユーザーは数多く存在します。しかし、5年後、10年後を考えるとこれまでと同じ形で携帯コンテンツが残るかと言えば疑問です。

 ですから、新しいチャレンジはしなければいけません。スマートフォンのアプリケーションストアは個人開発のアプリが人気を得ることもありますし、キャリアのポータルビジネスと異なる部分があります。iモードに代表されるビジネスモデルは、ワールドクラスのビジネスモデルですし、歴史に名をとどめるでしょうけれども、今までと違うやり方でなければ生き残れないかもしれません。これまで「いいね、いいね」と評価されていたものでも、一瞬にして見向きもされなくなるかもしれません。

――その中で、どう対応するか、答えは見えているのでしょうか。

 それはなかなか難しい。生意気な言い方ですが、「勝利の方程式は誰もまだ持っていない」のだと思います。そこが困るところです(笑)。とにかく出せばいい、というのがあるかもしれませんが……。

――海外市場はいかがでしょう。iPhoneやiPad、Kindle向けコンテンツ配信もスタートしたとのことですが……。

 海外でも配信チャネルをしっかり作っていきながら展開することが肝要です。スマートフォンのアプリケーションストアであれば、世界中に配信できますよね。海外市場というものは、遅かれ早かれ、挑む市場だったと思います。小売である以上、面的な拡がりを求める要素があるのです。ただし、現状は海外の各地で、その地に合わせた商慣習など、実際にやってみなければわからないノウハウがあります。「面的拡大」が必然ならは、そのノウハウはいち早く求めるべきと考えていました。

――どういった点で苦労されるのでしょう。

 海外は、携帯電話のOSが同じでも「この機種では動く」「こちらでは動かない」ということがあります。またKindleは、技術陣も苦労していて結構大変でしたし、感覚的には「Kindleのユーザー層は比較的年齢が高い方、高所得層」という気がします。ビジネス層が多く、文字サイズが大きくなって便利かなと。

――なるほど。

 海外に限らず、これまでの携帯電話が全てスマートフォンに置き換わるとは思っていません。これまでの携帯電話は残るでしょう。エリアとしては、3Gが導入されるところではデータARPUの成長を促すため、マルチメディアコンテンツの拡充が求められますので、当社のビジネスが伸びる機会に恵まれるでしょう。ただ、あとは現地のエンドユーザーがどう反応するか、ということになります。3Gサービスは、中国ではこれから、インドでは周波数オークションを経て、ということになります。NTT西日本の大竹(社長)や、NTTの三浦(社長)らと話すこともありますが、「2〜3年待ってくださいよ」と伝えています。

――日本では5〜6年前にスタートしたコミック事業ですが……。

 データARPUを分析すると、どういった利用スタイルか見えてきます。日本のレベルに達するまで、海外市場はまだ数年かかるでしょう。ただスマートフォン市場では加速度的に伸びる可能性はもちろんあります。スマートフォンでは、アップルのApp Storeのようにコンテンツに関するレギュレーションが存在することもありますが、描写が懸念されてカットされる、というのは、どの市場でもあり得ること、そういうものだと思います。であれば、最初から安心・安全で年齢に関わりなく、使われやすい作品がいいのかなと思います。

――スマートフォン向けのコミック配信は今後も期待できるのでしょうか。国内の携帯電話は、販売数がやや伸び悩んだ時期もあります。

 コミックの売上という点では、従来の携帯向けサービスは微増ですね。海外については、iPhoneの利用が圧倒的に多いですよね。iPhone自体は、iPodから続くビジネスモデルで、ある程度動向はわかりやすい。しかし、その他の携帯電話については、「この国のユーザーだから○○」といった傾向はまだよくわかりません。それ以前に、現地キャリアが「この表現はダメ」「セクシャル過ぎる」といった制限をかける傾向がありますね。

 スマートフォンのアプリケーションストアでは、1作品1アプリではなく、“書店アプリ”を配信して、そこで作品を追加し、アプリ内課金してもらう、という仕組みが出てきていますね。ただ、それでは新作品が追加されたときにストア運営側には伝わらず、(数あるアプリのなかに)埋もれてしまう懸念があります。

――Android向けですと独自マーケットを構築できそうですが。

 Androidは“24時間ルール”(24時間以内であれば有料コンテンツを返品できる制度)がありますので……。

――コミックだと読み終わって返品、になりますね。

 これに対する答えはまだ見つかっていません。やる気は満々ですが、現状では作家さんや出版社さんに「こうすればクリアできます」と説明できません。広告モデルでも難しいですし。

――キャリアによる課金スキームが導入されれば何とかなるかもしれませんね。さて、今後はどう見ているのでしょうか。

 メインは「漫画の小売」ですから、そこはしっかりやります。トレンドとしてスマートフォンというものはありますが、現在の携帯電話が1〜2年で全て入れ替わることはないでしょう。国内キャリアのポータルビジネスはもっともっと積極的にやっていきたいですね。そこで身につけたノウハウをスマートフォンや、今後の海外市場に展開していく。また、社内スタッフがイラストを担当し、恋愛シミュレーションゲームの提供を開始しました。

――内製コンテンツの提供ですか。

 仕入れは行っていませんが、エンドユーザーに提供するということでは「小売」のスタンスに変わりはありません。

――タブレット端末なども登場してきていますが、デバイスごとに変える部分はあるのでしょうか。

 見やすさ、ユーザーインターフェイスという点で、より見やすく使いやすいものを出していくのは基本です。ただ、僕らの都合で作るのではなく、ユーザーの求めるところにあわせて作っていくと。我々にとって、ビューアーアプリは重要な存在ですが、エンドユーザーにとっては「このアプリは○○製」ということは気に掛けない部分ですから、ニーズありきでやっていきたいですね。

――ありがとうございました。

 



(関口 聖)

2010/7/1 11:00