「N-08B」開発者インタビュー

iモードが使えるフルキーボードケータイの魅力


 NECの夏ドコモラインナップを見ると、なんといってもN-08Bが異彩を放っている。フルキーボードを搭載するモバイルノートパソコンのようなデザイン。しかし中身はというと、スマートフォンではなく、iアプリや着うたにも対応するiモード端末だ。

 今回はこのN-08Bについて、NECカシオモバイルコミュニケーションズのNTTドコモ事業部 マネージャーの渕澤敬氏、同事業部 主任の藤原望氏、第一商品開発本部 エキスパートエンジニアの細見孝大氏、同本部 主任の安井賢一郎氏、同本部 主任の藤野昭三氏、第一ソフトウェア開発本部 マネージャー 國枝和彦氏にお話を伺った。

N-08B

 

――まずはN-08Bの商品特徴からご説明をお願いします。

NECの藤原氏

藤原氏
 N-08Bはiモードが使えるフルキーボードケータイとしてデザインしました。機能面では普通のケータイに近いのですが、形状はパソコンやスマートフォンのようになっているのが特徴になります。キーボードにはパンタグラフ構造を採用し、タッチタイピングできるようになっています。

細見氏
 キーボードは、タッチタイピングできるサイズにしつつ、できるだけ小型に抑えました。N-08Bの肝であるタッチタイピングを可能とするにあたって、まずはパンタグラフ構造を採用し、押しやすさやキーストロークにこだわりました。また、キートップは押しやすい凸型デザインになっています。このあたりはNECのパソコンで培ったノウハウを盛り込むとともに、何度も試作とユーザー調査を行い、調整しながら作り上げました。

前面にマウスの左右ボタンにあたるキーがある
NECの安井氏

藤原氏
 ポインティングデバイスについては、NECのiモード端末ではニューロポインターを搭載していましたが、N-08Bではスティックポインタを採用しています。こうしたアナログのポインティングデバイスは、昨今いろいろなものがありますが、それらを比較した上で、スティックポインターを選びました。このスティックポインターは、圧力をかけて操作するので、決定キーは前面に設けています。

安井氏
 キーボードだけでなく、ディスプレイやバッテリーも大きくなっています。しかし基本的には、従来のケータイの延長線上としての使い方、デザイン、品質を持ち込みました。ユーザー視点で考え、検証と見直しを繰り返しました。たとえばヒンジはノートパソコンのような構造なのですが、開閉した時の感触や耐久性をケータイN-08Bとして最適化しています。構造面では、こうした細かい部分で苦労しました。

 またデザイン面ではメカっぽくさせないように心がけました。たとえば、折りたたんだときにディスプレイがキーボードが触れないように、ノートパソコンでは部分的にゴムをつけますが、それをN-08Bでは外周に這わせるような細長いゴムフレームにすることで、よりスタイリッシュに仕上げています。

――形状はノートパソコンのようですが、デザインの細かい要素はケータイ的な面もありますね。

数種類の「黒」が使われている表面
凹凸のあるシボ加工の背面

藤原氏
 デザイン面では、サイズ感がおかしくならないようにデザインを心がけました。見る・使う・持ち運ぶの3つの観点でどのようなデザインが良いのかを検証しながら作っています。

 カラーは見ていただければわかるとおり、黒の中でも場所ごとに質感を変えています。ヘアラインや光沢仕上げ、シボ加工、マットなど、豊かな表現を加えました。

 また、ポケットに自然に入る大きさにもこだわっています。機能性と携帯性、そのどちらも損なわないようにしました。

安井氏
 ノートパソコンだと、端子にカバーが付いていなかったり、ネジが露出していたりしますが、N-08Bではそういったところには配慮して仕上げています。

――ストラップ穴のようなものがありますね。

藤原氏
 こちらはストラップ穴ではなく、セキュリティワイヤーの取り付け穴です。N-08Bをストラップでぶら下げることもないだろう、ということで、あえてストラップ穴とはしていません。

――搭載されているテキストエディタについてご紹介をお願いします。

パソコンライクなテキストエディタ

國枝氏
 iモード端末でもメモ機能を搭載していましたが、それはテキストファイルが使えるわけではなく、本体内に短いメモを保存するためのものでした。それに対してN-08Bでは、全角5000文字を編集でき、パソコンなどとも文章のやりとりできるテキストエディタを搭載しました。カットアンドペーストやファンクションキーでのカタカナ変換など、パソコンライクなショートカット操作にも対応しています。作ったテキストファイルは、本体内だけでなくmicroSDにも保存でき、メール添付も可能です。

藤原氏
 iモードメールの制限が5000文字なので、メールと連携しやすくするために、テキストエディタもそれに合わせました。

――iモードメール以外にも、パソコンと同じような汎用メーラーを搭載されていますね。

國枝氏
 N-08BではPCメール機能を搭載しています。やはりユーザー調査をすると、スマートフォンのメリットとして、PCメールが使えることが挙げられます。しかし、スマートフォンだとPCメールが使える代わりにiモードメールが使えないものがほとんどです。どちらも使える端末があれば便利なのでは、と考え、N-08Bではiモードメールだけでなく、PCメールにも対応させました。同じ端末上でPCメールとiモードメールで使い勝手があまりに違っていても困るので、操作性も混乱がないように統一して作っています。

――iモードメールやiモードブラウザ部分もQWERTYキーボードに最適化されているのでしょうか。

國枝氏
 ブラウザ部分にはQWERTYキーボード向けに手を入れていませんが、文字入力に関わるところはQWERTYキーボードに最適化されています。たとえばブラウザ上でも、文字入力フィールド内はカットアンドペーストなどのショートカットが使えます。もちろんiモードメールについては、カットアンドペーストのショートカットが使えます。

藤原氏
 フルブラウザでは数字キーで表示の拡大・縮小ができるといった、これまでのiモード端末で搭載していたショートカットは引き続き搭載しています。

――日本語変換の部分を見ると、変換候補が画面の下に表示されるあたりも、パソコンよりもケータイに近い形式ですね。

國枝氏
 N-08Bではケータイ的な見せ方をしています。ファンクションキーによるカタカナ変換など、パソコン的な使い方もありますが、基本的な使い勝手はケータイとほぼ同じものとして感じていただけるかと思います。絵文字も普通のケータイのように使えます。

藤原氏
 予測変換機能は、ケータイで培ってきたものを使っています。逆にパソコン的に使うというのであれば、予測変換機能は切っていただくことも可能です。ここは議論があったところですが、今回はケータイ的に使っていただくために、デフォルトで予測変換機能をONにしています。

 このあたりは好みの問題もあり、ユーザー調査をすると両方の好みがでてくるので難しいところです。今回はケータイならではの良さを残しつつ、パソコンの良さを取り込む、という方向性で取り組みました。

――普通のケータイに比べると、画面も大きく、従来とは異なる使い方ができそうですね。

藤原氏
 4.6インチの大画面を搭載しています。従来のiモード端末でも搭載していた極小フォントは、N-08Bでは視認性を損なうことなく、情報量を増やすことができます。

NECの國枝氏

國枝氏
 デスクトップも改良しています。従来の端末は画面が縦長なので、デスクトップに設定できるショートカットアイコンは、横に5個くらいでしたが、N-08Bでは横に12個並べられ、さらにそれを2ページ登録できるようになっています。ユーザーカスタマイズという点でも向上していると言えるのではないでしょうか。

 また、iコンシェルの「ひつじのしつじ」が出てくると、画面の一部が占有されるのですが、そのときも待受画面に表示されているほかの情報が見えなくならないように調整しています。ちなみに「ひつじのしつじ」が動く範囲も広くなっています。画面解像度自体は普通のiモード端末と変わらないのですが、大きさが変わったことで、画面の使い方が変わっています。

 画面を使った機能としては、ワンセグは60フレーム補間に対応しています。4インチや5インチのディスプレイを搭載しているワンセグ専用デバイスもありますが、それに匹敵する見応えがあるかと思います。

 あと、N-04Bで撮影したHD動画をN-08Bで再生することもできます。N-08B自体にバックカメラは搭載されていませんが、ほかの端末との使い分けができるかな、と考えています。

――デフォルトで画面が横長なiモード端末というのも珍しいと思いますが、iアプリなどはどうなるのでしょうか。

藤原氏
 そこは従来と同じで、ドコモからコンテンツプロバイダーに情報を提供しています。やっていることは普通の横画面iアプリなので、横長フルスクリーンのアプリも作れます。スマートフォンだと、新しいOS上でコンテンツを最初から作り直す必要がありますが、N-08Bはiモード端末のプラットフォームなので、従来のコンテンツがそのまま使えるというメリットがあります。

――画面が大きいとバッテリーの持ちも気になるところですが。

NECの細見氏

細見氏
 N-08Bでは連続待受1000時間を実現しました。これは大容量バッテリーを搭載するとともに、そのほかの省電力技術を組み合わせることで実現しています。

藤原氏
 1000時間を待受するだけ、という人はいないと思いますが、実際にいろいろなパターンで使っても、丸一日使い続けられるように設定しています。

 実際にどういった使い方を想定しているかというと、例えばビジネスマン、それも比較的ハードに使う人、出張する人などのパターンを想定しています。具体的な内訳としては、メール作成やテキスト編集で7時間、ブラウザで2時間、やワンセグ、Luiを1時間、そして待受を13時間としても、電池が持つようになっています。

 また、ワンセグだけを使い続けても5時間持ちますし、通信するような作業でも5時間使えるというデータも得られていますので、ほとんどの利用シーンに耐えられると考えています。さらにヘビーに使うためにも、省電力なecoモードの切り替えを簡単にしています。

――バッテリーの容量も大きいのでしょうか。

バッテリーの端子部分

安井氏
 1600mAhのものを搭載しています。これまで10年以上ケータイの開発をしてきましたが、ここまでの容量のものはなかったかと思います。またその実装についても、形状が形状だけに、ケータイと同じような搭載方法で良いのか、と考え、ノートパソコンの開発部署とも相談しました。電池の端子部分などにノートパソコンの要素を取り入れ、外れにくいようにしています。

藤原氏
 バッテリー部分にはFOMAカードへのアクセスもあるので、ただ頑丈に固定するだけでは使い勝手が悪くなってしまいます。ここの開発にも苦労しました。

――無線LAN機能も搭載されています。

NECの渕澤氏

藤原氏
 NECとしてはN900iLから数えて7機種目の無線LAN対応機種になります。歴史があるので、「かんたんWi-Fi設定」など洗練された機能になっています。機能面では、VoIPはもちろん、ホームUを使うことで爆速でiモードも使えます。

 昨今、ポータブルゲーム機やタブレット型端末など様々なデバイスが登場してきているので、N-02BやN-04B同様にアクセスポイントモードも搭載しています。N-08Bではとくにバッテリーが長持ちするので、一緒に使うゲーム機などに負けないくらい、長く使えるようになっています。

――ネットワークを使ったパソコンとの連携としては、Lui機能に対応されていますね。

N-08Bでパソコンをリモート操作するLui機能

藤原氏
 こちらはネットワーク経由でパソコンを操作する、いわゆるリモートデスクトップのような機能になっています。3G経由でも使えますが、速度的には無線LANでの利用を推奨しています。

 まずLui機能を立ち上げ、パスワードを打ち込んで接続すると、数秒でパソコンに接続され、Windowsの画面が縮小されて表示されます。この表示で見にくいようでしたら、フィット機能を使うことで、アクティブになっているウィンドウを液晶の解像度に最適化して表示できます。

 この機能により、N-08Bから会社や自宅のパソコンにアクセスし、パソコンのソフトウェアを使ったり、ブラウザ上でフルFlashのコンテンツを確認することもできます。

 N-08Bからのアクセス専用のLuiサーバーソフトウェアは、NECカシオモバイルのホームページからダウンロードできます。対応OSはWindows 7以降になりますが、Homeエディションにも対応しています。

――どのくらいの通信速度が必要なのでしょうか。

藤原氏
 公称では1.7Mbpsが必要とアナウンスしています。3Gで700kbpsくらいになっても、画面の書き換えが少ない場面ならば大丈夫ですが、ダイナミックに画面が書き換わる場面では、描写が追いつかなくなることがあります。

NECの藤野氏

藤野氏
 転送モードを手動で切り替えることで、圧縮率を変えたりもできるようになっています。また、使い勝手を考慮してファンクションキーによるショートカットキーも準備しました。

――Windowsの上位エディションならば、リモートデスクトップ機能は標準搭載されていますが、そちらではなくLuiを使った理由は?

藤原氏
 NECとしてはLuiを2年前からやっていて、いろいろな技術的な資産があった、ということがあります。

――Luiサーバーのパソコンからファイルをダウンロードすることは?

藤野氏
 メールでやるしかありません。実は試作段階ではファイル転送機能も付けていたのですが、実際の利用シーンでダウンロードしてN-08B側でファイルを扱うのが主な使い方になってしまうと、安全性などの面で問題があると考えました。

――Windowsを操作するとなると、マウスも使えると便利になりそうに思えますが。

Windowsの操作にはスティックポインタを利用する

藤原氏
 企画段階ではあったのですが、マウスを本体と別に持ち歩くのは面倒と考え、今回は対応していません。ですが、ユーザーの声が大きければ、検討しなければいけないポイントとは考えていますが、一体型になっているメリットのが高いと思っています。

――タッチパネルディスプレイについては?

藤原氏
 そちらも検討しました。NECのほかのiモード端末では、すでにタッチパネルを採用していますし、対応は難しくなかったのですが、そうすると、UI全体をタッチパネルに最適化させないと使いづらくなってしまいます。せっかく画面が大きいのに、タッチパネルに対応させることで画面に表示される情報量が減ったりしては意味がないので、ここは割り切りました。

――そもそもプラットフォームとしてiモード端末を採用されているのはなぜなのでしょうか。

iモードサイトも普通に閲覧できる

藤原氏
 長時間使いたい、というニーズを考慮しました。スマートフォンのプラットフォームを採用し、高速なプロセッサを搭載しても、電池が気になって使えないのでは意味がありませんので、電池の持ちが良いiモード端末のプラットフォームを採用しました。また、現状ではiモードの各サービスが使えることで、たとえば認証系の機能などで利便性があります。

 あとは、パソコンの持ち出しに厳しい企業などでも、iモード端末ならば安全にデータの遠隔消去もできます。また、スマートフォンはなんでもできるけど、いろいろなものを自前で作り込む必要があります。それに対してiモード端末ならば、既存のものが利用できるというメリットがあります。

――通常のiモード端末に比べると、GPSやおサイフケータイに対応していませんね。

藤原氏
 これは利用シーンを考えました。まずこの大きさなので、そのまま通話はしないだろう、と考え、通話はスピーカーホンかヘッドセットで行うようにしています。おサイフケータイについても、N-08Bはちょうど長財布の大きさですが、タッチしての利用を推奨できるものではないかな、と考えました。あとGPSについても、N-08Bを歩きながら使うのはどうかな、と考えました。またカメラも、この端末で写真を撮ることはないだろう、と思い、テレビ電話や顔認証用にインカメラのみとしています。

――しかし赤外線通信は搭載していますね。

藤原氏
 赤外線は写真転送などの用途があるので、ディスプレイ背面に搭載しています。見た目では隠していますが、送受信時の画面上で赤外線通信ポートの位置を示すようにして、使うときに困らないようにしています。

――本日はお忙しいところありがとうございました。



(白根 雅彦)

2010/8/19 16:39