キーパーソン・インタビュー

富士通の大谷氏が語る東芝との事業統合の狙い


 10月より携帯電話事業を統合した富士通と東芝。富士通が80.1%、東芝が19.9%を出資する新会社が10月1日付けで発足し、同社に東芝の携帯電話事業が移管された。実質的には、富士通が東芝の携帯電話事業を傘下に収めた形だ。伸び悩む国内市場やスマートフォンへのシフトといった動向への対応、そして今後避けられないグローバル市場への進出といった課題に対して、東芝のリソースを得た富士通はどのような戦略を描くのか。富士通の携帯電話事業を統括する執行役員常務の大谷信雄氏に聞いた。

なぜ、東芝との統合なのか

富士通 執行役員常務の大谷信雄氏

――事業統合の相手として東芝を選んだ理由をあらためて教えてください。

 富士通はもともとNTTドコモ向けの携帯電話端末のみを作っていて、一方の東芝はau向けを軸足に、加えて一部ソフトバンクモバイル向けの端末を作っていました。また、富士通は「らくらくホン」や国内のフィーチャーフォンに力を入れて開発していたのに対し、東芝は昨年くらいからグローバル市場を含めたスマートフォンへのシフトをしているというように、事業領域がきれいに分かれていました。逆に共通点としては、富士通はドコモの(Symbian)、東芝はauの(KCP+)プラットフォームを開発しているという点があります。このような現状での両社のビジネスは非常に良い組み合わせだと考え、市場が厳しい状況の中、一緒にやりましょうということで、年明けごろからトントンと話が進んだというところです。

――直近では、NECが携帯電話事業を分社化し、カシオ日立モバイルコミュニケーションズと統合しました。今回の場合、富士通の携帯電話事業は本体に残したまま、東芝の事業を取得するという形ですね。

 富士通本体の携帯電話部隊は残り、従来通りドコモ向けのビジネスを推進します。そして、新会社がau向けのビジネスを行う。その中で、開発部隊の統合などを行ってパワーを得ていきます。また、スマートフォンに関してはより早期に統合を図っていくことになります。

 当社の新社長である山本(正己氏)はPCも携帯も経験しており、もともとコンシューマー市場をよく知っています。また富士通は「ヒューマンセントリックなインテリジェントソサエティ」、すなわち人間を中心とした新しい情報化社会の実現を今後のビジョンとして掲げています。その中で携帯電話を「ユビキタスフロント」と呼んでいますが、人間や社会の一番前面にいて、人の行動をセンシングしたり支援したりできる機器と位置付けています。つまり、富士通が目指すこれからの情報社会の中で、携帯電話は非常に重要なものであり、核になる事業であるという認識を持っています。そのため、富士通本体の中に事業部を置き、しっかり取り組みたいと考えています。

東芝のブランドや技術を活かしながら段階的に統合を強化

――ユーザーとしては、これまでの東芝ブランドの携帯電話がこれからも出てくるのか、あるいはそれらも富士通ブランドに統合していくのかという点が気になるところです。

 もちろん現在の東芝のお客様、東芝のファンの方々がいらっしゃいます。コンシューマー向けの商品ですから、今日明日ですぐにバサッと(ブランドを)変えるというわけにはいきません。東芝の事業に関して、別会社に出資する形でビジネスを続けていくのはそのためで、まずは東芝ブランドで製品をご提供していきます。そして、ビジネスを進めながら、富士通と人の交流やシナジーを高めて、1年、1年半といった時間をかけて次のステップを目指していく。お客様が本当に納得できる形で着替えていく必要があると考えています。

――家電メーカーとしての東芝は、「レグザ(REGZA)」をはじめとする強力なAV機器の製品・ブランドを持っていますが、そのような東芝が持っている“武器”は今後どう使っていくのでしょうか。

 新会社で出す東芝ブランドの製品では、au向けには引き続きレグザの名前を冠した携帯電話も出していきます。また、ドコモ向けに出す秋モデルでは、レグザのエンジンを使ったAndroid端末といったものが出てくるでしょう。しかし、その先どうするかはまだ何とも言えないです。富士通の機種に「レグザ」ブランドというのはどうか。ただ、ブランドはともかく、我々にない技術を持った技術者が東芝から来るので、そういった部分は大変勉強になります。違う血が混じり合えばより強くなると考えています。

――東芝側の企業文化やビジネスのやり方などは、富士通から見てどうお感じですか。

 東芝も当社も同じ日本の電機メーカーとして近いところにおり、似たような文化を持つ人材を擁してきましたので、統合にあたって問題になることはないと思います。その一方で、商品自体についても、ものづくり(製造プロセス)についても当然違う部分はありますので、そこはお互いに良いところ取りをしていけばいいと思います。例えば、これまでお互いに工場の中は秘密でしたし、どこまで品質を求めるかという考え方などについてもそうです。

 富士通にはない部分として、東芝にはEMS(受託製造サービス)を使ったものづくりの経験もあります。いまの日本の携帯では、出荷の直前までソフトの開発を行っていますし、数量も変わるので、EMSが向いているかという問題はありますが、グローバルのメーカーと競争するにはものづくりをシンプルにして、品質についての考え方もある程度変えていかなければいけない部分があるでしょう。

スマートフォンへの取り組み

――この冬商戦ではスマートフォンが盛り上がりそうですが、これはどちらかと言うと東芝が力を入れてきた分野です。富士通としてはどう取り組んでいくのでしょうか。

 富士通自身としてはフィーチャーフォンがうまくいっていたこともあり、スマートフォンでは確かに出遅れた部分もあります。コンシューマー商品(のトレンド)はじわじわとではなく、我々の想像を超えて思い切り変わってしまうこともあるので、それは懸念していました。今回の買収のひとつのねらいは、東芝のスマートフォン事業を統合して遅れを取り戻そうというところにもあります。

 もちろん冷静になってみると、スマートフォンとは何かという議論はあります。現在のiモード端末をスマートフォンではないと定義するほうが難しい。その意味では、日本国内においては「スマートフォン」への移行は比較的ゆるやかだと思います。しかし、グローバルで見ると、携帯でゲームができる、好きなアプリをダウンロードして使えるということでスマートフォンが盛り上がっています。日本では何年も前から実現していたことですので少し悔しい部分もありますが、グローバルに攻める時代には、いわゆる「スマートフォン」と呼ばれているオープンプラットフォームにはしっかり取り組んでいかなければなりません。

――ドコモ向けのビジネスは引き続き富士通本体で行うということですが、東芝の開発リソースを活用したドコモ向けのスマートフォンを富士通から出す、という可能性はあるのでしょうか。

 もう少し整理してご説明すると、フィーチャーフォンについてはドコモ向けの部隊、au向けの部隊を富士通と新会社それぞれに置きますが、スマートフォンに関してはより早い段階で富士通に統合し、従来の東芝の部隊と共同で開発します。プラットフォームはAndroidを中心とした世界になるでしょう。

 今年の冬モデルでは、東芝がドコモ向け、au向けそれぞれにスマートフォンを出しますが、プラットフォームはAndroidで共通ですから、ドコモ向け、au向け、グローバル向け、それほどの違いはありません。スマートフォンではグローバル向けのモデルが日本にも入ってきているように、どのオペレーター用の専用モデルでなければならないという時代ではなくなっています。むしろオペレーターからも、オープンなプラットフォームを利用したコスト効率の良いものを求められるため、その意味でも開発の共通化は進めやすい。ですので、スマートフォン開発の統合はなるべく早く行いたいということです。

――東芝の夏モデルのスマートフォンでは、ドコモ向けの「T-01B」とau向けの「IS02」という“兄弟モデル”がありましたが、今後は別のプラットフォームでも同じような機種が出てくるということですね。

 Androidでも同じようなモデルが出てきます。年内については富士通ブランドでの展開は予定しておらず、まずは東芝ブランドで出しますが、早い時期にその後をどうするか判断します。また、スマートフォン、フィーチャーフォン含め、海外を攻めるとすれば富士通ブランドで、東芝の人材も活用しながら一緒になってやっていくことになるでしょう。

――スマートフォンでは、マイクロソフトの「Windows Phone 7」がRTM(Release To Manufacturing:製造工程向けリリース)版になりましたが、それについての取り組みは。

 東芝がマイクロソフトのパートナーベンダーでしたので、今後は一緒にやっていくということになりますが、富士通としてはまだWindows Phone 7を見ていないので、現在のところコメントしかねます。もちろんマイクロソフトは力のあるベンダーですし、Windows Phone 7ではコンシューマー向けにかなり工夫をされていると聞いていますので、良いものであれば選択肢のひとつになると思います。

「らくらく」「防水」など富士通の強みを活かす海外戦略

――ドコモ向けの機種では「らくらくホン」が非常に強力ですが、それを今後他のオペレーター向けに提供する可能性はあるのでしょうか。

 らくらくホンは、ソフトウェアの構成に始まりかなりの部分を当初からドコモと共同開発してきた商品です。また、例えばauでは京セラさんが似たようなコンセプトの機種をご提供されていますし、オペレーターによって向かう方向も違うと思いますので、我々としては、らくらくホンの他社への提供は考えていません。それ以外の、富士通や東芝が持っているオリジナルの技術を早く一本化して商品を出していくことを目指します。

――らくらくホンには海外からも引き合いがあるという評判を聞いたことがありますが、海外展開はあり得るのでしょうか。

 海外でしたら、(ドコモと共同開発した)らくらくホンの技術を差別化に使うことも「あり」だと考えています。

――「防水携帯」も富士通の強みですね。

 2年ほど前、海外に防水携帯を紹介したときは、誰もが最初「いらない」という反応を示しました。なぜなら、海外では防水というと、ごつい、でかい、厚い、高い、というイメージしか浮かばないので、一部の用途のための特別なモデルだと思われてしまう。ところが、防水携帯の実物を見せた途端「素晴らしい。これが防水なのか」となりました。

 日本のメーカーはこのようないろいろな取り組みをしていますね。例えば、この携帯電話(F-06B)の中に何種類のアンテナが入っているでしょうか。8種類です。3G、GSM、無線LAN、Bluetooth、FeliCa、ワンセグ、GPS、FMトランスミッター、これだけのアンテナが、こんな薄い筐体にピシッと入っている。しかも防水。こんなものは世界中探しても日本にしかありません。それがガラパゴスと言われてしまうゆえんでもありますが、無線、小型化、防水といった技術をうまく活かしながらグローバルに出て行けば負けるはずはないと考えています。

 もちろん、そのような技術が活かせるのはどうしても上位の機種になるので、安価な“たたき売り”の機種は日本メーカーには無理でしょう。しかしスマートフォンの普及は、ある意味で高級機がどんどん普及する時期と言えます。以前らくらくホンを持ってヨーロッパのオペレーターを回ったことがありましたが、「こんな大きな画面は不要だ」と言われました。あのころは通話にしか使わないわけですから。もちろん今はそんなことを言う人はいなくて、画面が大きいほうがいい。つまり、液晶やカメラ、オペレーターのサービスとの連携など、日本で培ってきたいろいろな技術が、スマートフォンという切り口の中で、ようやく世界でも理解されるようになった。チャンスはもう一度あると思います。

――富士通はPCでも大きなシェアを持っていますが、一方で最近ではタブレット型の端末、従来のノートPCともスマートフォンとも違う領域の製品が出てきています。

 富士通のPC事業では主に米国でタブレットPCを出しており、高いシェアを有しています。それがどこで使われているかというと、主に企業、医療、文教の分野です。「iPad」が出てきたことでタブレット型の端末が話題になっていますが、従来そのようなペン型コンピューターが使われた分野に入ってきているように思います。対抗する手段として、もともと得意としていた富士通としてはタブレット型端末をやっていかなければならないでしょう。

 ただ、アプリ販売ストアのようなサービス抜きで、タブレット端末だけを出したところで売れるかという問題があります。また、誰もがあの板を外へ持ち歩いてカバンから出して使う日が来るのか、それとも家庭の中だけで使えればいいのか。単品のハードウェアだけを出せば良いのではあれば、ODM生産などでAndroidタブレットをすぐにでも出すことはできるでしょうが、どういうサービスが必要なのか、どんな形がいいのか、きちんとした戦略が必要になると考えています。

――事業統合の正式発表時、目標として「国内シェアNo.1を目指す」が掲げられていましたが、今回のお話ではその先のグローバル展開も強く意識しているように感じられました。

 戦略なく海外へ出て行っても負けてしまいます。グローバルに認められる強みをきちんと発揮しなければ、きっと価格競争になって帰ってくることになってしまうでしょう。どういう戦略で行くべきかマーケティング活動をしているところです。ただ、国内シェアNo.1にならないと外に出て行けないということではないので、来年度にも海外を目指した展開はしていかなければならないと思っています。国内を固めてからさあ次に海外、というイメージではなく、国内をやりながらグローバル展開も加速していかなければならないと考えています。

――本日はお忙しい中、ありがとうございました。



(日高 彰)

2010/10/1 06:00