スマートフォンアプリ開発のツボ

Androidアプリ登場、ACCESSのNetFront Life戦略


ACCESSの石黒氏
NetFront life Screen

 ACCESSは、Android端末向けに「NetFront Life」シリーズというアプリ群を発表した。組込機器向けブラウザ「Netfront」を中心に、これまでB to B向け製品を投入してきたACCESSがエンドユーザー向けに直接アプリ配信することになった。

 11月15日より提供が開始されたアプリは、「NetFront Life Browser」「NetFront Life Documents」「NetFront Life Screen」の3つ。「NetFront Life Browser」は、さまざな実験的に試みが盛り込まれたAndroid向けのフルブラウザ、「NetFront Life Documents」は、携帯電話向けドキュメントビューワーを提供してきたい同社が手がけるAndroid向けのビジネス文書閲覧アプリとなる。「NetFront Life Screen」は、Androidのホーム画面となるべく開発された、片手操作を想定したメニュー画面アプリとなっている。

 今回、ACCESSの取締役 常務執行役員 兼 最高技術責任者 兼 最高情報責任者である石黒邦宏氏に、ACCESSの新たな取り組みとその戦略を聞いた。

Lifeに込めたメッセージ

――NetFrontに“Life”という言葉がつきました。どういったメッセージを込めたのでしょうか?

 コンセプトとして、生活を便利にしていこうと考えました。ACCESSはこれまで、ネットに繋がっていなかった携帯電話をネットに繋げよう、ネットに繋がっていなかったテレビをネットに、電気メーターをネットにと、機械をネットに繋げていこうと展開してきました。こうした中で、多くのものがネットに繋がるようになり、次は生活を豊かにしていこうと、少し会社の軸足を移そうとビジョンを変更することになりました。ソフトウェアで生活を豊かに、便利な暮らしができるように、そういったことからLifeという言葉をつけました。

――その中でまずAndroidを採用されました。

 はい、すごい勢いで普及しているプラットフォームですから。それにiPhoneよりAndroidの方が自分色に染めやすく、自由度のあるプラットフォームということも理由の1つですね。

 ACCESSはこれまで、どちらかというとキャリアやメーカーとビジネスする機会が多かったのですが、直接エンドユーザーに我々が持っているものを提供する場合に、Androidが最適だと考えました。iPhone向けにも予定していますが、ホームスクリーンやブラウザなど、やはり全部を配信することは難しい状況です。ほかのアプリについてはいくつか提供します。Window Phone 7向けは現在検討段階ですが、正直言って様子見です。

――ACCESSと言えば組込用ブラウザとして業界でも名前が知られていたかと思います。エンドユーザー向けの直接配信は、素直にコンシューマー寄りにシフトされたと受け取るべきでしょうか?

 そうですね。実はACCESSは長い歴史のある会社で、20年前はTCP/IPスタックを箱に入れて売っていたなんて社員もいますが(笑)、少なくともここ10年はB to B向けが多かったのは事実で、今回の取り組みは我々としては大きなチャレンジです。

――Android OSを供給するグループであるOHAへ参加されていますが、Androidアプリ開発にも有利に働くものでしょうか。

 OHAに入っていたからと言って特別なことがあるかと言えば、正直ありません。Androidをやっているアンディ・ルービン(Andy Rubin)とは近い関係にあり、ACCESSはAndroidがAndroidに取り組む際に会社として取り組んでいるという姿勢を見せる意味があったんです。今回のアプリ提供は、複数のアプリケーションをまとめてsuiteのような形で提供し、エンドユーザーの皆さんに試していただきたいという思いを込めました。

NetFront Life Browser

NetFront Life Browser
斜めモード

――個々のアプリついて伺います。まずはブラウザからお聞きすべきですか?

 これまでのACCESSのビジネスはブラウザ中心でしたので、やはりブラウザですかね。Androidには標準のブラウザも用意されていますし、各社がブラウザを出しています。ここで普通のモノを出しても面白くないかなということで、今回のブラウザは良い悪いは別として、いろいろなアイデアをぶち込み、ユーザーさんの反応を見ながら展開していこうと考えています。アイデアが詰まったごった煮のようなアプリですが、ACCESSはいろいろ面白いことを考えているんだと伝わればいいなと思っています。

 実は社内では、Windows Mobileでコンシューマー向け製品を出していたとはいえ、我々はいわば若手芸人みたいなものだと言っています(笑)。若手芸人には、やはり“ツカミ”が大切かなと思っています。

 今回、良いか悪いか別として「斜めモード」という変わった機能も用意されています。社内でアイデアが出てきた際にいぶかる声もあったのですが、最終的に面白いから入れることになりました。

――この斜めモードはどういった利用を想定したものなのですか?

 実はそこに大きな野望がありまして……、ハードウェアがそこまで進化していないため実現されてはいないのですが、ハードが進化しリアルタイムに斜めの傾きが取得できるようになれば、縦と横に画面が切り替わるのではなく、端末を回転させても常に画面上のコンテンツが水平になると考えました。

 実際にやってみると、ハードウェアがそこまで進化しておらず、斜めモードは暫定解といった感じになっています。しかし、デバイスのオリエンテーション(方位)に関わらず常にコンテンツが見えているということは考えており、上を向けたら上にあるものが見える、そんな仕掛けも野望として持っています(笑)。



――ほかにも、ハサミのアイコンをクリックしてからWebページの一部を囲むと、囲んだ部分がクリップされる機能も面白いですね。

 スクラップブック機能です。これも切り取ったものをクラウド側に持って行こうという野望がありまして、最初のバージョンでは見送ったのですが、今後、切り取ったものを、例えばEvernoteのようなクラウドサービスに持って行けるような仕組みを用意する予定です。クラウドに置いておけば自分が切り取った内容をデバイスフリーで利用できますから。

――クラウドサービスをACCESSが用意するのではなく、そこを他社のサービスに預けるような形になりますね。

 はい、クリッピングについてはさまざまなサービス提供者さんと連携してやりたいと思っています。野望としては、クラウドサービス全般をACCESSがというのはもちろん考えているのですが、今回その前段階として、広告配信用のインフラを作りました。広告サービス向けのクラウドの仕組みは用意するつもりです。

――広告システムを作ったということは、この仕組みを企業向けに提供するような方向なんでしょうか。

 日本ではヤフーと提携しており、他の国では検索ベンダーやポータル会社と組んでいきたいと思っています。ACCESSならではのものを提供していきたいですね。


ホームスクリーン提供

――続いて「NetFront Life Screen」について伺います。

 「NetFront Life Screen」では、Androidのホームスクリーンを提供しているのですが、もう少し便利な形にしながら、コンテンツプロバイダーのサービスを前に出していけるようにしたいと思います。

 実はこうしたアプリのエンジンは、新規に開発したものではありません。ACCESS Linux Platform(ALP)で開発したユーザーインターフェイス(UI)エンジンを切り取ってAndroidに対応させました。パフォーマンスも含めて、これからどんどんアップデートしていきたいですね。指1本で操作できるUIにしていこうと考えています。理想としては、アプリを意識しなくても利用できるようなUIを目指しています。

――カスタマイズされたホームスクリーンとなると、メーカーやキャリアさんと組んで実装を検討していくというやり方もありそうです。

 これまではキャリアやメーカーがプリインストールして、エンドユーザーに届けられるという流れになっていました。それがここ最近、ユーザーの間でデファクトになり、それがメーカーやキャリアが採用する流れが出ており、そういった方向になっていくのだろうと考えています。まずはユーザーに使ってもらい、そのあとビジネス展開していくことになるかと思います。



タブレット向けはiPadをお手本に

――Androidのタブレット端末向けの戦略はいかがでしょうか。

 もちろん提供を考えています。スマートフォン版のように片手で使えるコンセプトではないため、UIを変える予定です。このほか、Lifeシリーズではないものの、電子書籍向けビューアーなども開発中です。

――タブレット向けのお手本となるのはアップルのiPadになるのでしょうか?

 まずはそうなると思います。プログラムを作っている側から見ると、標準で用意されているウィジェットやエフェクト、UIのコーポネントが非常によくできており、正直なところiPadのようなコンポーネントをAndroidで作るとなれば3倍ぐらい大変だと思います。

 そうしたコンポーネントを入れるといったことはOHA側での取り組みとなりますが、まだまだそこまで手が回っていないのが実情です。大変ですが、自分たちでウィジェットを開発してやっていくことになるでしょう。

 またテレビ向けの展開なども想定しており、これは想像ですが「NetFront Life for TV」といったものも可能性があるかなと思っています。

テレビ向けにもNetFront Life

――テレビ向けの取り組みというのはいつ頃になりそうですか?

 まだわからないところではありますが、CES(2011 International CES)に出せるよう開発していますが、できる限り早い時期に出せるようにしたいと思っています。我々としては従来型のテレビサービスというより、最強のコミュニケーションデバイス、最強のコンテンツ視聴デバイスという位置付けで、テレビというものを何もないところから考えてみようと考えています。

 我々はAndroidのIPフォンやテレビ電話の技術を持っているので、そういったものもどこかのタイミングで連携させながら、テレビやスマートフォンなどを検討しています。スマートフォンをテレビと連携させてリモコンやDLNAをもう少し使い易くするようなことも検討しています。

エンドユーザーに早く届けたい

「開発したものをすぐにエンドユーザーに使ってもらいたい」と石黒氏

――ACCESSのビジネスの柱は今後、従来の組込用途と今回のようなエンドユーザー向けの展開、どちらが中心になっていくのでしょうか?

 現時点はビジネスの基盤はB to B向けで、それは従来同様、そして従来以上に大切にしていきたいと思っています。しかし、B to B向けではエンドユーザーに届くまでに、しっかりとしたテストがあるため、短くて半年、通常1年~1年半がかかっていまいます。

 エンジニアとしては、作ったものをすぐにエンドユーザーに届けたいし、現在のビジネスのスピード感からしても半年、1年も粘っていられません。まずはエンドユーザーに提供し、いろいろ試してもらって鍛えられたものをメーカーやキャリアに採用してもらえるようになればと思います。

 B to B向けの開発をしていると、どうしても供給側の都合が出てきてしまいがちで、自分も含め、最終的に使ってもらう人の気持ちを考えて開発に当たらなければワクワクするものは生み出せませないと思います。

 また、ビジネス環境がすごい勢いで変わってきており、エンドユーザーにしっかり支持されるものを提供していかなければ生き残っていけません。今回、そこをちゃんと見直そうと、原点に立ち戻りやっていかねばという思いがありました。

 3つアプリケーションを出しましたが、アプリケーション毎の連携もまだまだこれからという状況です。今後、ブラウザという枠をはみ出し、ブラウザ自体の存在感が薄れていくようになればいいと考えています。Lifeというパッケージで、今後も便利なアプリをどんどん提供していきます。ご期待ください。

――お忙しい中ありがとうございました。

 



(津田 啓夢)

2010/11/19 13:43