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英BBCの動画配信サービス「iPlayer」が目指すもの


 スマートフォンの登場によって転換期を迎えている日本市場。コンテンツ販売の現場においても、ネイティブないしWebベースで提供されるアプリにこれまで以上の注目が集まるなど、大きな変貌を遂げている。

 この傾向はヨーロッパとて例外ではない。iPhoneやAndroidを意識したコンテンツが増加。英国の公共放送局「BBC」でも、制作したテレビ放送用コンテンツをモバイル向けに配信するサービスに取り組んでいる。同局フューチャーメディア&テクノロジー部 モバイル事業 ヘッドのニック・ギャロン氏に、BBCのモバイル市場戦略を伺った。

無線LAN限定でテレビ番組を再配信、端末ごとに人気番組も変わる

BBCのニック・ギャロン氏

 BBCでは現在、「iPlayer」というVODサービスのモバイル版に取り組んでいる。もともとはIPベースのテレビ番組再配信サービスとしてPC向けに始まったが、その後iPhoneにも対応。AndroidやBlackBerryへの対応も2010年から本格化している。

 ギャロン氏は、テレビ局がモバイルへ進出することに対して疑問を持つ人が多かったとしつつも「スマートフォンが市場で大きく伸び、消費者がその素晴らしさを認める以上、このチャンスを活かさないのはある意味で愚かなこと」と説明。利用者の声に応えることは必然であると語る。サービスの拡張も継続的に続けており、直近ではiPad、Androidにも対応した。

 BBCといえば、日本国内でも国際ニュース番組がよく知られているが、それら報道番組のモバイル向け配信サービスは別途運営されている。iPlayerでは、現地BBCで放送されているドラマやバラエティ番組など、娯楽性の高い番組が数多く配信されている。現地の若者に人気という自動車情報番組「Top Gear」もモバイル向けiPlayerから楽しめる。

 iPlayerのもう1つの魅力は無料である点だ。BBCは、英国民が支払う「受信許可料」をもとに運営されている公共放送局。このため、iPlayerを利用するために特段の追加負担を必要としない。

 iPlayerが多端末対応を進める中で、視聴傾向にも変化が見られるという。「スマートフォンを利用しているのは多くの場合、若い男性なので、Top Gearなどの人気がある。しかしiPadなどのタブレットは家族全体で利用されるケースが多いらしく、児童向け番組などが見られている」とギャロン氏は語る。端末のバリエーションが広がったことで、従来とは異なる視聴スタイルも生まれているようだ。

 現在、iPlayerのモバイル版サービスは無線LANでのネット接続が前提となっており、3G環境では視聴できない。ギャロン氏はこの仕様について「英国の3Gは日本と比べて電波もエリアも弱い。現状ではBBCとして満足いく映像の品質が3Gでは確保できない」と、おもに品質上の理由を挙げた。とはいえ、英国では都市部を中心に無線LANスポットの配備が進んでいるため、iPlayerを外出先でも比較的容易に楽しめるという。もちろん、3Gについても将来的な検討は進めていくとした。

 また、ギャロン氏は「iPlayer」のグローバル版にも意欲を見せている。「英国外向けには有料サービスとなるか、あるいは広告付きになるかはわからない」としたものの、実現すれば放送局の国際化について注目すべき事例となりそうだ。

コンテンツのストーリー、品質がカギに

 英国では、BBC以外の放送局もモバイル向け動画配信を実施している。「Sky」はサブスクリプション型の有料サービス、「ITV」では広告を挟み込むことで無料配信を行っているという。一方でワンセグのような放送波ベースのサービスはない。「テレビ局が多く、周波数を奪い合っているような状況で、とてもその余裕がない」とギャロン氏はその内実を苦笑混じりに語った。

 IPベースの動画配信サービスが普及することによって浮上してくる問題の1つに、トラフィックがある。日本国内でも、動画配信サイトなどががインフラ投資を進めることなく帯域を占有することについて、“ただ乗り”との批判も出ている。

 英国でも同様の問題が噴出している。プロバイダーからは、iPlayerのサービスが拡張する以上、BBCもインフラに投資すべきだという主張が現に出ているという。随時交渉なども行っているが「終わりなき論争であることは間違いないだろう」とギャロン氏も認める。

 一方、日本の映像コンテンツを英国で配信する場合の有望株となりそうなのは、やはりアニメだという。米国の「シンプソンズ」が放送されたことにより、大人でも楽しめるエンターテインメントという価値観が生まれたとギャロン氏は説明する。

 ギャロン氏は「まず求められるのはストーリーの良さ」であるとし、アニメか否かに関わらず、上質な作品であれば国情や文化的な背景などを越えて受け入れられるのではないかとの考えを示した。無料の動画サイトが数多くある現状でも、一定の映像品質を確保された作品であれば、課金も十分に可能だとしている。

 また日本国内では、番組内でQRコードを表示し、関連するモバイルサイトへ視聴者を誘導する取り組みが一般化しているが、英国ではほとんど利用されていないという。テレビとWebの連動サービスは、BBCが「Audio Watermarking」などの技術にも取り組んでいるが、日本にも一定のアドバンテージがあると言えそうだ。



(森田 秀一)

2011/3/9 06:00