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ドコモに聞く

大震災で初めて公開した「復旧エリアマップ」の裏側


 東日本大震災の発生を受け、NTTドコモは3月20日に「復旧エリアマップ」を公開した。パソコン・携帯電話・スマートフォンから確認できる、この地図は「どこで携帯電話が使えないのか」という情報が掲載され、拡大していくと、移動基地局の設置場所や無料の携帯電話サービス/充電サービスの場所も案内されている。

 その後、類似の取り組みは各キャリアでも行われたが、他社に先駆けて提供された「復旧エリアマップ」について、情報システム部 ネットワーク情報システム担当 課長の里見昌樹氏、同担当主査の上原良明氏、同担当の堂前秀之氏、無線アクセスネットワーク部品質技術担当 担当課長の清本幸宏氏に聞いた。

初めて公開したサービス

――20日に公開された「復旧エリアマップ」ですが、これは事前に提供されることが決まっていたのでしょうか。提供の経緯から教えてください。

里見氏
 「復旧エリアマップ」というサービスそのものは、今回、初めて公開したものです。日頃から、「お客様目線で、欲しい情報を常にオープンに公開する」ということを心掛けていますが、今回は被災地域が非常に広範囲にわたり、非常に多くの中断エリアが発生して、ご迷惑をおかけしています。そこで、「使えるところ」「使えないところ」を示して提供しよう、ということになりました。

4月11日時点の宮城県沿岸部石巻市周辺における復旧エリアマップ。濃いグレーは4月中旬、次いで濃いグレーは4月中旬〜下旬、薄いグレーは5月以降に復旧予定のエリア

――いつ頃から取り組まれていたのでしょうか。

里見氏
 経営幹部から「こうしたサービスはどうか」と連絡があったのは3月17日の夜、21時頃でしたね。そこから検討を始めて、既存のシステムをどう改修すれば実現するのか、決まったのは翌18日の朝8時頃でした。その18日10時から開催された当社の災害対策本部で「復旧エリアマップ」について実行することが決まりました。

――そして公開が20日ですから……。

里見氏
 実質2日ほどで開発したことになります。

――ユーザーからはどういった反響があるのでしょう。

上原氏
 社内の別部署からは肯定的な評価をいただいていると聞いていますが、そもそも今回は、評価は気にせず取り組んでいます。復旧状況の情報を公開するのは、通信会社として義務ですから、「復旧エリアマップ」の公開もそれに付随する義務的なもの、と捉えています。

――当初公開した地図から、どういった変化が加わっているのでしょうか。

堂前氏
 4月からは復旧の目処を追加しました。また、無料の充電サービスなどはアイコンで表示していますが、同じ場所に複数のサービスを展開している場合、アイコンが重なってしまいますので、重なって見づらくならないよう、少しずらして見えやすくなるよう工夫しています。

上原氏
 使える場所と使えない場所をハッキリさせるため、エリアを示す色を変更し、使える場所は目立つピンクにしました。FOMAとFOMAプラスのエリアの色は、通常は違いを出しているのですが、まとめて同じ色にしています。使えるのか、使えないのか一瞬で判断できるようにして視認性の向上に努めました。パソコン、携帯、スマートフォンに提供していますが、画面サイズは違えども、提供する情報は全く同じにしています。デバイスの差違を追求するよりも、情報公開までの時間を最優先で進めました。

NTTドコモ情報システム部の堂前氏(左)と里見氏(右)

――「復旧エリアマップ」では移動基地局車の場所なども明らかにされていますが、更新はどういったタイミングで行われているのでしょうか。

里見氏
 19時時点の情報を19時半までにまとめ、翌朝3時〜4時に公開しています。運用側としても、輪番で夜勤を行っています。

――担当されている方々は、どの程度の人数になるのでしょうか。

里見氏
 現在は4人ですが、先々週〜先週は6〜8人でした。もちろん初期は部署全員で取り組みました。

上原氏
 これは情報システム部だけです。ネットワーク部門の担当者もいますので、当社全体での規模はもっと大きいですね。

――今回の復旧作業において、エリアのシミュレーションはどういった形で進められているのでしょうか。

清本氏
 基地局の場所、装置の種類、出力といったものから、アンテナから装置までの長さなども個々に違います。こうした情報に基づいて、地形データも加味した上で、「この程度の出力であれば、どの程度の伝搬になるか」ということを算出します。山あいかどうか、といったところも含めてシステムに入力します。

 特に今回は「使えます」としながら、実際は使えないというケースが一番いけませんから、移動基地局車を設置したところでは避難所の隅々まで使えるか、周辺でエリアになっているところも含めて点検し、問題ないことを確認してから報告していました。

被害状況の把握、復旧までの流れ

――当日の被害は、どのような形で推移していったのでしょう。設備の被害状況は東京ですぐ把握できたのでしょうか。

里見氏
 基本的に「一瞬」でした。停電も含め、一瞬にして、何千局も動かなくなりました。その後、当社のネットワーク部門が現地の全ての基地局を確認しました。場所によって、電力が戻れば復旧できるところ、あるいは設備全てが根こそぎ破壊され復旧まで相当時間がかかるであろうところ、といったことが徐々にわかってきました。

――復旧エリアマップは、市町村などの行政区域、あるいは単純な塗りつぶしではなく、具体的に示されていることが特徴に思えます。被災地のエリアはどういった流れで復旧が進められているのでしょうか。

情報システム部の上原氏(左)と無線アクセスネットワーク部の清本氏(右)

清本氏
 まずはどこから復旧していくか検討するわけですが、当然のことながら、避難所を優先することにしました。しかし、一気に全ての避難所で作業はできません。そこで優先度を決めたリストを作成し、そこに移動基地局車などを設置していくことになりました。設置する場所の自治体にも許可をいただき、場所を決めるとアンテナをどの程度まで高くできるか検討しました。そして装置の周波数種別などでシミュレーションを行い、実際に電波を発してから現地の避難所で利用できるかどうか調査する、といった流れで作業を進めていきました。

――なるほど。たとえば停電で止まっている基地局の場合、復旧するまでどういった流れになるのでしょうか。

清本氏
 停電した時間や基地局にある非常用電源の規模などによってまちまちですが、停電した後、装置を動作させるための必要なデータはあらかじめ入力しています。もしデータが消失されていれば、そのデータをあらためて作成し、基地局装置へ送ります。送るための伝送路が繋がっていなければ現地に行くことになりますので、長ければ1日かかることもあります。一方で、電気が復旧すれば1時間程度で復旧して、品川にある当社の設備から遠隔で起動させる、といったことも可能ではあります。ただ、後者のケースは少ない。どうしても局データを作成する、といったことが必要なことが多いです。

「使えない場所」「復旧予定時期」を示す

――以前からドコモでは、利用できる場所を紹介する「エリアマップ」を提供していますが、そのシステムが利用されているのでしょうか。

上原氏
 そうです。そうした仕組みでエリア管理のノウハウを蓄積していました。ただし、今回は通常と大きく違う点として「使えないエリアを明示する」という点がありました。普段ですと、“使える”と示した場所で“使えない”となれば、ユーザーから怒られますが、今回はその逆です。通常は実際よりも余裕を持って小さく見せているものを今回は逆の考え方で、どこまで“使えない”と公表するか。データはあっても、どう運用するか、検討を重ねました。

――ユーザーからすれば、「使えないエリア」という情報は、“あと1km歩けば使えるのか”とわかりやすいです。

上原氏
 そうですね。ただ、それだけでは充分ではありません。これから現地へ趣く方にとっては「どこまでならケータイが使えるのか」という現在の情報が必要でしょうが、既に現地にいる方からすれば「いつ復旧するのか」という将来の情報が求められると考えました。

里見氏
 3月までは「使えないエリア」を示す形でしたが、4月に入って復旧予定も追加しています。この復旧予定の時期を明示するという構想は最初からありました。具体的に時期を公表できるだけの精度になったことで追加したことになります。

――3月30日の会見で、復旧手段として大ゾーン方式などが紹介されました。ユーザーからすると「利用できる」ということに変わりはありませんが、意地悪な見方をすれば、1つの基地局でカバーする人数が増える大ゾーン方式は、通常とサービス品質に違いがある、とも言えると思います。そうした品質の差は「復旧エリアマップ」に反映されていません。

里見氏
 非常時ということもありますが、使えるか使えないか、ということを重視しています。

清本氏
 実際の利用傾向としても、現在は短時間の通話が多かったり、楽曲コンテンツのダウンロードはほとんどなかったりする状況です。トラフィック(通信量)自体が、「長く占有する」という形ではありません。

――フィーチャーフォン(従来型の携帯電話)からスマートフォンへの移行が増えつつありますが、そうした動向は、今回のような状況において何らかの影響はあるのでしょうか。

清本氏
 スマートフォンであっても、災害時の使い方は(フィーチャーフォンと)同じ形になるのではないかと推測しています。

普段からの取り組み

――他社に先んじて情報を提供する形となりましたが、それを実現できた理由はどう捉えていますか? ドコモとしてはここ数年、エリア拡充は大きく注力してきた施策ですが。

里見氏
 普段から1局1局、正確にエリアを管理できていたことが大きいと思います。

上原氏
 社内システムとして、実測値やシミュレーションのデータを保有していると先ほど申し上げましたが、さらにこの情報を社内で情報共有できるよう、“エリア情報のインフラ”として、利用できるようにしていたのは大きいと思います。社内のどの部署からもエリア情報を入力できるようにしており、全国の支社からそうしたデータが更新され、普段から比較的正確なデータが揃っています。こうした取り組みで早期に「復旧エリアマップ」が提供できたと思います。

清本氏
 他社さんの具体的な状況はわかりませんが、エリアを作る担当としては、当社の人数の多さや能力の高さも貢献できたと思います。被災した広いエリアをカバーするためには、やはりある程度人数が必要で、全国の支社から応援に来てもらいました。

上原氏
 応援を得る、という面では、情報システム部では、新たに入力しなければならないデータがありましたので、そうした応援は得づらい状況でした。

――「新たに入れなければいけないデータ」とは何でしょう。

堂前氏
 「復旧エリアマップ」では、無料で利用できる充電サービスなどの場所もアイコンで表示しています。この場所の情報は、「住所」として関連部署から報告してもらうのですが、情報システム部では住所情報から緯度経度に変換しなおして入力しています。これまでに約1000カ所の情報を登録しています。

上原氏
 情報システム部では、もともと緯度経度で基地局の情報を管理しています。エリアの表示は、塗りつぶしているのではなく、そうしたデータ(緯度経度とポリゴンデータ)を元に自動的に表示するようになっており、今回は移動基地局車による復旧見込みエリアを登録するために関連データを直接作成して入力しています。また通常のサービスエリア図では、無料サービスの場所を示すアイコンの表示はサポートしていません。ところが今回は、そうしたサービス提供箇所をアイコンで表示する必要がありましたので、システムを改修して、別途、新たに入力しているのです。

4月4日時点の復旧エリアマップ。気仙沼市の南にある、宮城県南三陸町の歌津駅周辺を拡大したところ。パラボラアンテナは無料の衛星携帯電話サービス、アンテナを伸ばした携帯電話は無料の携帯電話サービスを提供している場所。他に移動基地局車や無料充電サービス、ドコモショップのアイコンもある

――今回の経験は、今後、どういった形で活かされることになりますか。

里見氏
 「復旧エリアマップ」は、開発自体が2日程度とはいえ、地震から9日後の公開でした。もしこうした情報が今後必要とされることになれば、災害用伝言板にあわせて、すぐに公開したいですね。日本は毎年台風がやってきますし、こうした取り組みは早急に対応できるようにします。

――なるほど。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。

 



(関口 聖)

2011/4/14 06:00