キーパーソン・インタビュー

NECカシオ田村社長に聞く、スマートフォン時代の戦略


 スマートフォンの夏モデルが各キャリアから発表される中、スリム、タフネスで独自色を出してきたのがNECカシオモバイルコミュニケーションズだ。北米市場でVerizon向けにタフネスモデルを供給するなど、海外展開にも積極的な姿勢を見せている同社だが、夏モデルでは北米で展開する「G'zOne」シリーズ初のスマートフォンを日本国内に投入するなど、スマートフォン時代を迎えて端末プラットフォームのグローバル化が進んでいる。また、薄型のスマートフォンとして注目を集める「MEDIAS」シリーズは、防水性能も加わり、ラインナップの独自色を強めている。

 5月に社長に就任したばかりの、NECカシオモバイルコミュニケーションズ 代表取締役 執行役員社長の田村義晴氏に、同社の戦略を伺った。

 

開発リソースはスマートフォンにシフト

NECカシオモバイルコミュニケーションズ 代表取締役 執行役員社長の田村義晴氏

――社長に就任されて間もないですが、「ここから変えていく」といった目標や課題はありますか?

 前社長の山崎が掲げた方針、数値目標などは変えないでいこうと考えています。しかし、多少なりとも変わったぞというメッセージは、外にも、従業員に対しても必要だと思っています。まず、商品にこだわりを持ち、それを見せていきたいと思っています。

 NECカシオとしてスタートしてから約1年が経過しましたが、社員の持てる力がすべて発揮されていないのではないかと感じています。私がこれまで、開発、生産、資材、保守といった業務で推進してきたことを、社長の立場として推進していくことになります。4月の組織改正で社内の開発体制をまとめましたし、今後はもっと、我々の力を発揮できるよう、より改革を推進していきたいと思います。

――市場はスマートフォンへのシフトが鮮明になっていますが、事業をどう進めていきますか?

 スマートフォンに集中します。開発リソースなどもスマートフォンにシフトしていきます。フィーチャーフォンは、既にさまざな技術アセット(資産)を持っているので、これらを効率的に活用し対応していきます。海外についてもスマートフォンが中心になります。

――スマートフォンがフィーチャーフォンより売れる状況は、何が理由だと考えますか?

 iPhoneの登場をきっかけに、スマートフォンに対する心理的な障壁や、金銭的負担が少なくなり、ほかのキャリアも同等の戦略をとって、スマートフォンへのシフトが加速しました。また、あるところまで普及すると、周りに持っている人がいるのを見て、次の買い替え時期にスマートフォンを選択する、ということも、特に若い人には多かったのではないでしょうか。

――投入機種におけるスマートフォンとフィーチャーフォンの比率はどうなるのでしょう。

 NECカシオとして、下期はスマートフォンが逆転し、年間を通してもスマートフォンが多くなるでしょう。

 フィーチャーフォンの販売台数については、最終的に、全体の何割位になるか予想は難しいですが、無くならないと考えています。ただ、フィーチャーフォンのハイエンドモデルを求めていたユーザーは、スマートフォンを選択されるのではないでしょうか。将来的なフィーチャーフォンは、これまで以上に長く、簡単に使えるということが重視されるでしょう。とはいえ、現状でここまで進化しているので、通話とメールだけでいい、というわけにはいかないでしょうから、ハイエンドでないもののちょうどいい機能や性能に落ち着くのではないかと思います。

――今年の夏モデルですが、他社ではスマートフォンでテンキーを装備した折りたたみ型も出てきました。「N」ではフィーチャーフォンでそうした時代を作ってきたわけですが、NECカシオとしてはどうでしょうか?

 Android=フルタッチ、とは考えていませんし、折りたたみ型のように一世を風靡した形のスマートフォンを開発するかどうかは分かりませんが、いろんなバリエーションがあると思います。ユーザーはAndroidか従来のOSかどうかは求めておらず、それは作る側の選択ではないかと思います。

 例えば今回の夏モデルの「N-05C」は、スマートフォンライクに仕上がっています。従来のOSでもできるし、Androidでもできる。アセットの活用という意味では、従来のOSに乗せたほうが安く、早くできるのでこうなりましたが、Androidのほうが安く早くできるようになれば、そういう開発の方向になるでしょう。

――2月のMobile World Congressの頃を境に、Androidのタブレット型端末が増えてきました。先日はGoogleからAndroid 3.1も発表されました。NECとしては「LifeTouch」シリーズなど製品化されているものもありますが、NECカシオとしてどう取り組むのでしょうか。

 NECカシオとして、Androidタブレットをやってはいけない、ということにはなっていません。仮に手掛けるにしても、LifeTouchで培ったアセットを使うことになるでしょう。7インチ(液晶)前後の商品をどう考えるかですが、5~6インチなら、スマートフォンの延長線上として捉えられるでしょう。事業体としては、無駄なことはしないようにしていきたいですね。どちらかというと、売り方が焦点になるでしょう。我々の基本的なスタンスは、BtoキャリアtoCですから。

――他社では、AV機器の連携などでグループ企業のメリットを出しているところもありますが。

 我々は「クラウド」ということになるでしょう。クラウドとエンドユーザーの接点が端末である、という意味では、強みを出していきたいと思います。

――御社の基本的なターゲットユーザーですが、軸はコンシューマでしょうか? 法人も見込んでいますか?

 数がないといけないので、基本はコンシューマです。法人でも大口顧客は千、万の単位になりますが、何十、何百といった規模での導入も多く、これらを一度に対応することは難しいと思いますので、個人ユーザーを基本に拡大を図り、法人にも対応していくことになります。また、法人には社内システムとの連携なども必要で、セキュリティがより重視されるようになります。

 

「余裕が出たところに、ほかのものを入れていく」

――カシオブランドの端末は、今回の夏モデルで変わったという印象を受けました。

 持っているものを全部使おうじゃないかと取り組みました。「EXILIMケータイ CA-01C」の外見はカシオらしい商品ですが、中の部分はNECのLinuxです。変わったというよりは、使っていかざるをえない、結果として変わったように見える、ということでしょう。

――日立ブランドがありませんでしたが、今後はどうなりますか?

 最近のモデルでは「beskey」が結構売れました。今後、日立ブランドが出ないということではありません。

――スマートフォンの開発について、今後どのような方針で進めるのでしょうか?

 当面は、薄型やタフネスなどユーザーに支持されたものを進化させていきたい。例えばLTE対応で最薄とか、防水最薄とか、いろいろ形はあるでしょうが、いろんな方向で進化させていきたいですね。

 ただ、形だけだと飽きられる。(すでに十分に薄い)7.7mmが仮に6mm台になっても、「それはそうだけどね……」ということになるかもしれません。その余裕が出たところに、ほかのものを入れる。ほかと同じ大きさだけど、(余裕が出た部分に)バッテリーを入れて、ほかより倍は持つ、といった商品を開発していきたい。

防水性能を備え最薄部7.9mmとした「MEDIAS WP N-06C」スマートフォン版「G'zOne」は兄弟モデルを北米でも展開

 

――Androidなどスマートフォンでは、フィーチャーフォンと比較してバッテリーが持たないですね。

 私もスマートフォンを使っていますが、画面は大きいですし、面白いと遊んでしまう(笑)。フィーチャーフォンと同じ使いかたならそこそこ電池が持ちましたが、実際は(頻繁に使うので)宿命として電池が持ちません。

 我々は「3S」を提唱し、スーパースリム、スピード、スタミナに注力してきました。スリムや、スピードの「さくさく」「瞬撮」、通信速度などはスマートフォンに移行させてきましたが、スタミナだけはまだ移行できていません。

 例えば、スリムに作る技術を利用し、倍の容量のバッテリーを搭載し、回路技術も入れて消費電力が半分になれば、電池の持ちは元の4倍になります。今の状態から10%、20%程度の向上ではだめで、2倍、4倍の向上でないと。今のスマートフォンは(仕方なく)毎日充電しますが、これが週2回なら許せる範囲でしょう。

――au向けだったEXILIMケータイがドコモに提供されました。今後、G'zOneシリーズをドコモに提供するといった、これまでの垣根を越えた展開はありますか?

 越えていきたいと思っていますが、トータルとして数が増えるようにしなければいけないので、慎重に検討しています。ただ、今の形にこだわってはいないつもりです。

――WiMAX対応スマートフォンを展開する可能性はありますか?

 可能性はありますが、現在検討している段階です。

 

「タフネス、スリム、それらの良い部分を兼ね備えた、3つの柱で」

――海外市場での展開ですが、北米以外はどうなるのでしょうか?

 まずは北米です。グローバルベンダーの主戦場ですし、グーグル、クアルコムなどテクノロジーの側面でも北米は無視できない。Verizon以外にも、北米の大きなキャリアを次のステップとして考えています。W-CDMAベースなら周波数対応で地域にも展開しやすい。

 オープン市場では、(メーカーブランドで販売すると独自に流通網などを整備する必要があることから)スモールスタートになってしまう。キャリアに販売してもらうほうが、チャネル整備、保守網の整備などを任せられますし、W-CDMAを中心に、欧州ではキャリア向けの提供を考えています。

――北米市場での評判はどうですか?

 Verizonに提供した中で一番売れたタフネスモデルは100万台以上売れています。一定のユーザーがいて、北米ではこの(タフネス)路線がいけるのではないかと思います。法人の需要が多いのも特徴ですね。

 スリムなモデルは、スリムだけではだめですが、防水を組み合わせて持っていくと、キャリアも関心持ってくれます。日本ではすでに防水が当たり前のようになっているので苦労せずにできますが、海外ではまだまだ珍しい。タフネス、スリム、それらの良い部分を兼ね備えたモデルの、3つの柱でいきたいですね。

――御社の夏モデルの発表会では、海外展開に関連しコスト削減についても触れられましたが、もう少し具体的に教えていただけますか?

 JDM(Joint Development Manufacturer/Joint Design Manufacturer)というやり方で、コスト削減ができると思っています。現在のコストが高いのは事実ですが、要素を分けていくと、日本向けのワンセグ対応などは完全にプラスアルファのコストの部分です。また、日本市場向けの品質として、質のいい部品を使っている点もあります。カメラのスペックも、800万画素はハイエンド向けで、コストとしては高い部類です。こういった部分がコストアップにつながっている。また、数量の要因もありますが、日本で製造される部品は品質のこともあり、相対的に高い傾向にあります。

 このようにコストアップの要因はいくつかあります。もちろん、(生産する)数を増やさなければいけませんが、そのほかの領域は、適切な設計をすればそれほど差は出ない。JDMでコスト見積もりをすると、数以外のファクターは埋まります。これは早急にやっていきたいと思います。

――グローバルモデルが、SIMロックフリーの端末として出てくることもあるのでしょうか?

 これまでは(キャリアから)引き合いがあって開発していた面がありますが、これからは、それだけではいけない。スマートフォンが主流になってからは、ひとつの統一的な設計で開発すれば、いろんなところに向けて出していけます。ベースは“グローバルモデル”で統一し、それをもとに国やキャリアごとに商品を提供する、それが我々の考えるグローバルモデルです。

――基本的にキャリア向けに提供する方針ですよね。

 はい。海外市場におけるサムスンやLGなどのように、SIMロックフリーの端末を小売の流通に乗せて大々的に販売するという方法は、体力的にも今はできませんから。

――本日はありがとうございました。

 




(編集部)

2011/5/23 19:50