BlackBerry Bold 9780インタビュー

新たなOS、細かなスペックアップで利便性を向上


BlackBerry Bold 9780

 6月29日に発売された「BlackBerry Bold 9780」は、QWERTYキーボードが特徴となるNTTドコモの2011年夏モデルだ。1年前に登場した「BlackBerry Bold 9700」のマイナーチェンジモデルながら、新たにBlackBerry OS 6.0を搭載するなど、さまざまな改良が加えられ、利便性の向上が図られている。

 今回は、「BlackBerry Bold 9780」のほか、リサーチ・イン・モーション・ジャパン(RIM)の今後の展開について、マーケティング部担当部長の小林盛人氏と、キャリア・マーケティング・マネージャーの松井崇氏に話を聞いた。

 

進化したポイント

――先代モデルの「BlackBerry Bold 9700」から進化した点を教えてください。

松井氏
 OSを刷新し、BlackBerry OS 6.0を搭載したことが大きなポイントです。また内蔵メモリは512MBで、「9700」の倍になりました。カメラの画素数も320万画素から500万画素へパワーアップしています。外観はほぼ変化していませんが、OSのバージョンアップは、特にコンシューマーにとって使いやすくなったと思います。操作感も、追従性を高めて“ぬるぬる”とした、滑るような感覚をできるだけ体感していただけるように仕上げています。そして、利用が広がるソーシャルサービスにあわせ、TwitterやFacebookのアプリをプリセットして、それらの最新情報を一覧できるソーシャルフィードアプリを用意しました。

小林氏
 画面の切り替えも、従来よりスムーズになり、使い勝手の部分を洗練させていますね。

――OS 6.0で大幅に変更された点は?

松井氏

松井氏
 見た目ですぐわかるような大きな変更はありません。これはいわばRIMの文化かもしれませんが、そうした“派手な進化”ではなく、反応速度をチューニングしたりするなど、これまでBlackBerryを使ったことがある方にとっては、過去のバージョンに戻れないような心地良い操作性を実現させています。いわば利用者目線のアップデートといったところでしょうか。BlackBerryが提供するユーザー体験のコンセプトも大きくブレていませんし、実際に日本のユーザーさんに触っていただくと、高く評価されます。ただ、トレンドとしてタッチパネルなどのニーズはありますので、今後、より良い製品を提供したいですね。

――海外ではさまざまなモデルが登場していますが、今回も“Bold”シリーズとなった理由は?

松井氏
 日本市場では、NTTドコモさんと協力して展開していますが、「BlackBerry」に対しては、ハードウェアキーボードを搭載していること、法人で長く販売できるような商品が期待されており、「9700」から1年を経た今回はそのリファイン版と言うべき「9780」が発売されることになりました。これまでBlackBerryはビジネスユーザーが主なターゲット層でしたが、コンシューマー市場も含めて展開すると、外観を気に入って購入される方もいます。海外ドラマや映画によく登場しますので、“セレブが使っている機種”と認知されることもありますね。そうした方々にとって「BlackBerryはビジネス向け」とカテゴライズされると、「では私が使うケータイではないのか」と感じて、利用されないこともあるのではないか、と個人的には思います。そうした点は、今後解決したい部分ですね。

――そうしたユーザーに向けて、今回工夫したところはありますか?

TwitterやFacebookのアプリをプリセット

松井氏
 日本市場向けに特化したアプリはまだありませんので、今後検討しなければいけません。海外の動向を見ても、たとえばタブレット端末の「PlayBook」は新たなプラットフォームを採用しましたので、開発者の方々に向けたメッセージが必要です。一方、「9780」を見ると、先述したようにソーシャルサービスのプリセットアプリがありますので、積極的にアプリを取り入れるような方以外でも、すぐ利用していただけます。

――OS 6.0になって、ブラウザはWebKitベースで、トレンドを踏襲する形になりました。たとえばWebアプリもおおよそ動作するのでしょうか。

松井氏
 かつてのBlackBerryのブラウザは、「WAP」に機能を加えたような形でしたが、WebKitベースのブラウザによって、Webサイトの描画という基本的なところ、そしてスピーディな操作感といったところで改善が図られています。Webアプリについても100%とは断言できませんが、過去と比べれば再現性は高まり、スピードも高速になりました。Webブラウジングでは、ローカルのブラウザでの改善に加え、サーバー側での処理も関係してきますので、そちらの高速化も含め、全体のスピード感を向上させています。WebKitの脆弱性の可能性など、セキュリティに関する部分は基本的にすぐ対応する方針です。過去には、ある脆弱性に対し、発見から2~3日で修正したこともあります。

――スマートフォンでは、ソフトウェアプラットフォームのアップデートが注目される傾向にあります。今回搭載されたBlackBerry OS 6.0は、旧来の機種で搭載されるのでしょうか。また、過去のバージョンに対応していたアプリはBlackBerry OS 6.0で動作するのでしょうか。

小林氏
 ドコモさんとも検討を進めています。全ての機種ではなく、一部機種に限定されるかもしれませんが、タイミングなどを詰めているところです。ただ、グローバルで実施したから日本でも、というものでもありません。

松井氏
 過去バージョンに対応したアプリについては、たとえば「BlackBerry Bold 9700」で動作したアプリは「BlackBerry Bold 9780」でも動作します。ただ、「BlackBerry Curve 9300」など、解像度が違う機種に最適化したアプリは、画面解像度の違いで、レイアウトが崩れることがあるかもしれません。

――海外では先日BlackBerry OS 7が発表されましたが、「9780」が将来対応する、ということはあり得るのでしょうか。

松井氏
 実はBlackBerry OS 7は、現在のところ、同時に発表された「BlackBerry Bold 9900」のみに対応しています。「9900」では、クアルコム製チップセットのSnapdragon(CPUは1.2GHz駆動)を搭載していますが、従来モデルとチップセットが異なります。そうしたハードウェアの要件もあって、旧機種のバージョンアップは難しいのです。

日本市場での取り組み

――過去1年、spモードに対応するなど、日本向けカスタマイズに注力されてきたようですが、今後は。

松井氏
 まだ明らかにできない部分はありますが、ユーザーが使いたい、というサービスは類似の形であっても提供したいですね。たとえば、アドレス帳のバックアップサービスなどです。英語版ですが、盗難・紛失対策となる「BlackBerry Protect」というサービスがあり、何かあればGPSを活用して現在地を確認したり、強制的に着信音を鳴らしたりできます。こうしたサービスは、サーバーと連携するBlackBerryならではのプラットフォームを活かして増やしたいところです。またメッセージングサービスのBlackBerry Messengerも利便性は高いのですが、利用できるのはBlackBerryユーザー同士だけに限られています。BlackBerryプラットフォームの枠組みを拡大するのは、海外でも取り組んでいるところで、たとえばfourSquareとの連携などもあり、今後日本での展開もどう訴求しようかと考えています。

――3月の東日本大震災では、他のスマートフォンより一足早く、BlackBerryは災害用伝言板サービスが利用できるようになっていましたね。

松井氏
 そうしたサービスは、ドコモさんとの協力関係で実現させていくところもあります。ただ、いわゆるキャリア独自のサービスは数多く存在しています。BlackBerryプラットフォームとの整合性を含め、どういったサービスに対応していくか、ユーザーさんから声をいただければ、ドコモさんとの協議を今後も進めたいですね。

小林氏

小林氏
 緊急地震速報には非対応ですが、ある個人開発者によるアプリで類似の機能が実現されています。

――スマートフォン全般で、バッテリー消費が大きいと指摘する声があります。BlackBerryはいかがでしょうか。

松井氏
 数値以外で表現するのは難しいところですが、ソーシャルフィード対応ながら、データを逐次ダウンロードするのではなく、サーバーである程度処理りして、必要な分だけダウンロードするような仕組みですので、通信も最小限に抑えられています。またディスプレイサイズはバッテリー消費に大きく影響を与えるところで、「9780」の2.4インチディスプレイは、ビジネス用途に限らず、やりたいことをきちんと実現しつつ、バッテリーライフを確保していると思います。

――スマートフォン関連では、クラウドとの連携も注目される分野の1つです。

松井氏
 現在のRIMにとっても他社のクラウド系サービスとの連携は重要と考えています。海外では、グーグルさんの「Google Contacts」との同期などが実現されていますが、日本市場についてはドコモさんと検討していきたいですね。

――たとえば家庭内でも無線LANが普及してきましたが、法人メインで展開してきたBlackBerryは、今後個人ユーザーのニーズにどう対応していきますか。

松井氏
 たとえばネットワーク関連機能ではDLNA対応を視野に入れています。過去のBlackBerryは法人向けでしたが、競争が激しくなった現在、法人市場だけではなくコンシューマー市場でも展開していく必要がありますので、ARやNFCなども今後の検討課題です。ただ、海外ではBlackBerryのNFC対応についてはおサイフケータイのような決済サービスではなく、周辺機器とのBluetoothペアリングの時に利用するといった形が想定されています。

――法人メインで展開しながら、見た目で購入した個人ユーザーがいるとのことで、ユーザー層が幅広くなっているようですが、今後はどういった訴求を重要視していきますか?

松井氏
 個人的には、他のスマートフォンと同じようなアプリの数、カメラのスペックといった部分よりも、「BlackBerryのほうが友だちと繋がりやすい」といった部分が重要ではないかと考えています。現在のトレンドからすると少数派かもしれませんが、実際にBlackBerryユーザーは満足度が高く、その魅力をいかに伝えてユーザーを増やすかといったところでしょうか。

小林氏
 もう1つ付け加えるならば、「BlackBerryを持つ人が魅力的だよね」といったところも訴求したいポイントです。ビジネス層だけではなく、魚屋さんがいるかもしれないし、保母さんがいるかもしれないし、いろんな業界のプロがBlackBerryユーザーです。そうした個性的な方々がユーザー、という点はうまく表現して伝えていきたいポイントですね。

――海外でリリースされたタブレットの「PlayBook」は今後、日本でも提供されるのでしょうか。

松井氏
 Androidアプリの対応という話がありましたが、これはAndroidユーザーにも利用しやすい環境を整える、つまり間口を拡げる、といった観点の取り組みで、アプリプラットフォームの中心に据えるものではありません。ただユーザーが体験できる世界が広がるというメリットがあると思います。

PlayBook

小林氏
 日本市場にも「PlayBook」を発売できれば、とは考えており、現在は助走の段階でしょうか。PlayBookに関連して、アドビさんと、協力関係について検討が始まっています。AIRというアドビさんのプラットフォームを利用し、1つのアプリを開発すれば、iOSやAndroidに加えて、BlackBerryにもアプリを開発できる仕組みが整っています。こうした開発ツールを利用すると、日本はAIRの開発者コミュニティが世界最大ということもあり、北米で既にいる50万人のPlayBook市場をはじめ、グローバルでトップを狙えるアプリ開発環境になると思います。

松井氏
 ただ、まだAIRアプリケーションの開発者の方々にとっては「PlayBook」の認知度は高くありませんから、そのあたりの取り組みも必要でしょう。

――BlackBerryにはさまざまなモデルがある一方、日本で発売されるモデルはBoldシリーズが中心で、シルエットも似た機種ばかりというのは、やや不思議に思えますね。

小林氏
 RIMにはRIMなりの製品ポートフォリオはありますが、もちろんキャリアさんにもそうした製品ラインナップの考え方があり、ドコモさんのラインナップでは、BlackBerryは「ストレート型のQWERTYキーモデル」という位置付けになるわけです。もっとも、そうしたラインナップに重複があってもいい、という考え方も確かにあるのでしょう。たとえば自動車の世界を見ると、ある輸入車ディーラーが「A社の3リッターセダンを用意した」からといって、「B社の3リッターセダンを販売しない」ことは考えにくいでしょう。BlackBerryについても、ユーザーによってはタッチパネルや大画面を求める方がいらっしゃるでしょうから、既にそうした製品を持つRIMにとっては選択肢は提供できます。最近では、SIMロックフリー製品も登場しており、これまでキャリアさんにお願いしてきたユーザーサポートの部分など、いくつかの課題がクリアになるのであれば、販売の形にも何らかの変化は出てくるのかもしれません。

松井氏
 海外で発表した当社製品を日本で展開するためのスピードについては、課題の1つです。日本語化を含めたさまざまな工程があるため、ある程度時間がかかりますので、こうした仕様をグローバルモデルの仕様に入れるなど、RIM本社側での取り組みで短縮できる可能性はあると思います。ただ、LTEなどへの対応については、まだグローバルでも今後の取り組みを明確にしていませんので、日本市場ですぐ登場する、というレベルではないですね。

小林氏
 SIMロックについては、「9780」はSIMロックを解除できますが、サーバーとの連携が重要なBlackBerry端末にとって、日本国内でそうした仕組みを活用するのは難しいかもしれません。ただ、BlackBerryの国内女性ユーザーの75%が海外へよく渡航するとのことで、海外で現地の安い回線を調達して使う、といったニーズはあるのかもしれません。

――なるほど。今日はありがとうございました。

 




(関口 聖/湯野 康隆)

2011/7/1 15:35