「MEDIAS PP」開発者インタビュー

フルワイヤレスでG-SHOCK連携が可能な高機能モデル


 NECカシオのAndroidスマートフォン「MEDIAS PP N-01D」がNTTドコモからこの冬登場する。1700mAhの大容量バッテリーと防水・防塵対応のほか、ワイヤレス充電機能、国産のAndroid端末としては初となるBluetooth Low Energyへの対応、カシオ計算機が発売する腕時計「G-SHOCK GB-6900」(2012年発売予定)との連携機能を備えるなど、先鋭的な機能の数々が魅力の端末である。

 今回はこの「MEDIAS PP」を世に送り出した、同社商品企画グループ マネージャーの松川裕雄氏と、Bluetooth周りのソフトウェア開発などを担当した第一ソフトウェア開発本部の奥田晋也氏、NTTドコモ事業本部の寺尾晃一氏に加え、Webサイト「MEDIAS.net」の企画運営を担当する事業戦略本部 ブランド&プロモーション戦略グループ マネージャーの森山祐助氏に話を伺った。

ユーザーの意見をふんだんに取り入れた新端末

――まずは「MEDIAS PP」の名前に付いている「PP」について、由来を教えてください。

松川氏
 「PP」は「Power Plus」の略です。当社では、これまでフィーチャーフォンなどで「長持ちバッテリーケータイ」を多数リリースしてきましたが、その技術をベースにしつつ、1700mAhという大容量のバッテリーも搭載しました。長時間利用に耐えるパワフルさとスタミナを備えるとともに、基本性能の向上を図った、という意味で、「Power Plus」と命名しました。

 当社の従来のスマートフォンに比べると、バッテリー容量の分だけ若干厚みは増しましたが、端末全体を丸みの帯びたフォルムとすることで、より持ちやすい、スタイリッシュなデザインになっています。

――カラーバリエーションはブラック1色で少し寂しいような気もしますが。

松川氏
 絶対に外せないカラーとして、当初はホワイトとブラックのいずれかで検討していました。しかしながら、高機能を前面に押し出すドコモのNEXTシリーズとして位置付けられるにあたり、女性向けという印象の強いホワイトよりは、ブラックの方がふさわしいだろう、という判断に落ち着きました。とはいえ、単なるブラックではなく、背面にブルーのグラデーション処理を施すことで、非常に美しい、上質感のあるデザインに仕上げています。

松川氏

――開発にあたって、力を入れたところはどのあたりでしょうか。

松川氏
 まず、色の再現性が非常に高く、美しい表示が可能なスーパー有機ELディスプレイを採用した点です。それから、「高感度タッチ」のタッチパネルにも注目してほしいと思います。特に冬場など乾燥するこれからの季節は、通常の静電容量式のタッチパネルは反応が悪くなりがちです。「高感度タッチ」の本製品であれば、軽く触れるだけでも操作できるほどです。

 反応し過ぎる場合は、「高感度タッチ」を設定でオフにすることもできるようになっています。

――有機ELは、美しい表示が可能な反面、屋外での視認性や電力消費面での課題もあります。それでもあえてスーパー有機ELディスプレイを採用した理由はどこにあるのでしょうか。

松川氏
 これまでに当社がリリースしたAndroid端末のユーザーからは、きれいなディスプレイを望む声が大変多かったんです。ユーザーの声に応えられるディスプレイを、と考えた結果、スーパー有機ELディスプレイという結論に至ったわけです。

 視認性はもちろん、バッテリーの持続時間も意識したところです。たとえば、わかりやすいところで言うと、従来の機種では背景を白ベースにしていたところ、今回の「MEDIAS PP N-01D」では背景を黒ベースに変更し、電力消費を抑えています。

――ディスプレイ以外はどのあたりがポイントになりますか。

松川氏
 これも、もっと長持ちしてほしい、というユーザーニーズを拾い上げた結果でもあるのですが、大容量バッテリーであることはもちろんウリの一つです。そして、防水・防塵対応であること、CPUをSnapdragon 1.4GHzとして性能アップを図ったところ、などがポイントでしょうか。後ほどご説明するBluetooth 4.0対応も注目していただきたい部分ですが、基本的には、従来機種のユーザーが不満だった部分をクリアにする、という方向性で開発を進めました。

 また、従来の1GBという内蔵メモリサイズは、プリインストールアプリの占有分を含めると不足がちになることもあったようですが、本製品では倍の2GBに増加しましたので、その点で不満を感じられることは少ないだろうと思っています。

進化した「ecoモード」で、より長時間の利用を可能に

――連続待受時間は、現在販売されているAndroid端末の中でも最長に近い数字です。

松川氏
 単純に比較すると、「MEDIAS WP N-06C」の340時間から630時間へと、連続待受時間はおよそ倍近くに達しています。スペック上の数字と思われるかもしれませんが、電池の持ちについては実使用時も十分に体感できるものと自負しています。これは、バッテリー容量の増加や、背景色を黒ベースに変更したことによる消費電力の抑制に加えて、「ecoモード」の存在も大きいのです。

――これまでの端末にも「ecoモード」が搭載されていましたね。

松川氏
 それをより進化させたバージョン、ということになります。従来の端末に搭載されていたものと同等の「お好みecoモード」と、「しっかりecoモード」の2つのモードを利用できます。「お好みecoモード」は、バッテリー残量が一定の値になったときに、端末の機能の一部をオン・オフするもの、「しっかりecoモード」は、同じくバッテリー残量が一定の値になったときに、端末の大部分の機能を強制的にオン・オフするというものです。

 たとえば、バッテリーがあらかじめ指定した閾値まで減少したときには「お好みecoモード」が働いて一部の機能がオフになり、さらにバッテリーが減ると「しっかりecoモード」により大部分の機能がオフになる、という2段構えになっています。もちろん、「しっかりecoモード」は利用しないようにする設定も可能です。

――「ecoモード」は使わずに、ユーザーが好きなタイミングで節電したいというニーズもあるのでは?

松川氏
 その点については、端末の機能をまとめて手動でオン・オフできる「一括設定ウィジェット」を用意しています。ホーム画面に配置した3つのウィジェットを使って、Wi-Fiなどがオフになる外出時に最適な設定と、ほとんどの機能が使える在宅時に最適な設定、必要最小限の機能に絞る就寝時に適した設定を、それぞれワンタッチで切り替えることができます。各設定内容は自由にカスタマイズできますので、ユーザーのライフスタイルにあわせた設定切替が可能となっています。

――時間帯や現在地によって、自動で設定を切り替えるといった機能も考えられますが、対応は可能なのでしょうか。

松川氏
 それはもちろん実現したいと考えている機能です。残念ながら現在は対応していませんが、将来的にはぜひ対応したいと思います。

“フルワイヤレス”化でさらなる拡張を目指す

――バッテリー絡みでいうと、ワイヤレス充電に対応しているのは大きな特長ですね。

松川氏
 “フルワイヤレス”であることも「MEDIAS PP」のアピールポイントなのですが、そのうちの一つの要素が、同梱の充電台に置くだけで充電が可能な「おくだけ充電」です。最近はドコモさんがカフェなどにワイヤレス充電器を設置し始めていることもあって、今後はワイヤレス充電が次第に広まってくだろうと予測しています。今後の当社のラインナップでも、徐々に「おくだけ充電」対応機種は増えていくことになるでしょうね。

――ワイヤレス充電について、工夫したところがあれば教えてください。

松川氏
 本製品では端末本体側に充電コイルを内蔵しています。こうすることで、バッテリーパック単体では充電できないことになりますが、端末の厚さを抑えられることのメリットの方が大きいと判断しました。

――ワイヤレス充電ということで、別売りの端末カバーやジャケットを装着する際にも気をつける必要がありそうですね。

松川氏
 そうですね、金属製のジャケットは熱をもってしまう可能性があるので、避けなければなりません。ただ、一般的なシリコンやプラスチックが素材のジャケットであれば大丈夫だと思います。

――“フルワイヤレス”としては、他にどんな要素があるでしょうか。

松川氏
 Wi-Fiネットワーク経由で、Windows PCと端末間のファイル転送や同期が可能な「PC Link」があります。PC上でのドラッグ&ドロップ操作で、端末で撮影した写真や動画ファイルをバックアップしたり、PC側にあるデータを端末に保管するといったことが、ケーブル接続することなく行えるものです。

 「おまかせコピー」機能を利用すれば、端末を充電台に置くだけで、写真などをPCへ自動的にバックアップすることも可能です。ご家庭などにWi-Fi環境がない場合でも、USB接続で同様の機能を利用できるようになっているので、ぜひ一度試してほしいですね。

――データのバックアップ以外の用途に使えるようにする予定はありますか。

松川氏
 「PC Link」自体は、APIとして公開すれば一般の開発者の方に連携アプリなどを作って頂く事も可能になるかとは思います。「MEDIAS WP」で初めて搭載した「PC Link」機能ですが、当初からAPIを公開したいという社内要望はあったものの、残念ながらいまだに実現できていないというのが実情です。

 今後は、充電を契機にオンラインストレージやフォトサービスといった各種クラウドサービスと連携するような機能も盛り込んでいく、という方向性も考えられそうです。

使い勝手が大幅にアップしたカメラ機能と文字入力機能

寺尾氏

――御社としては、カメラの画素数にもこだわりがあるのでは?

松川氏
 ハードウェアについては、カメラの画素数が800万画素になったことが大きなポイントかと思います。

寺尾氏
 それに加えて、機能面の向上も図っています。たとえば、一度に3枚の写真を連続撮影し、その中から最もきれいに撮れた1枚を自動で保存する「ベストフォト」ですとか、雪が降っている風景や夜景など、さまざまなシーンを自動で判別して適切な設定で撮影できる機能を搭載しました。使い勝手の面でもかなりパワーアップしているはずです。

――文字入力については、従来からの「ATOK」+「T9」に加えて、手書き入力も可能になりました。

寺尾氏
 手書き文字入力機能については、当社とジャストシステムさんとの共同開発になります。他の手書き文字入力アプリの中には、文字を横に続けて書いていくタイプのものもありますが、本製品が搭載しているものは、ひらがな・カタカナ・英数字を1文字ずつ書いていくタイプです。

松川氏
 一定の領域で続けて書けるようにしたのは、端末を片手で持って操作するユーザーを想定したからです。文字のつながりを意識せずに、片手でどんどん書いて行けるはずです。

最新ガジェット好きのユーザーに使ってほしいG-SHOCK連携

奥田氏

――新しいもの好きにとっては、カシオ計算機とのコラボレーション企画であるG-SHOCKとの連携機能が非常に気になるところです。具体的に何ができるのか教えていただけますか。

奥田氏
 あらかじめ説明しますと、「MEDIAS PP」は、Bluetooth 4.0、すなわち「Bluetooth Low Energy」に対応しているのが特長でもあります。Bluetooth4.0のうち、5つの標準プロファイルに対応することで、G-SHOCKとの連携を可能にしました。

 まず「PXP(Proximity Profile)」というプロファイルは、端末とG-SHOCKが一定以上の距離まで離れたときに、G-SHOCKに振動で通知するというものです。端末を置き忘れそうになったときなどに使えますね。

 また、「ANP(Alert Notification Profile)」というプロファイルでは、端末に電話やメールの着信があった際に、G-SHOCKに通知します。たとえば電話がかかってきたときには、音や振動で通知すると同時に、G-SHOCKの液晶に発信元の名前も表示されます。

――電話帳に登録されたフリガナが表示されるわけですね。

奥田氏
 そうです。電話帳にフリガナが登録されていればそれが使用されます。フリガナが登録されていなくても、名前の中にG-SHOCKで表示可能な文字があれば、できる限り表示するようになっています。名前もフリガナも表示できない場合は、最終的に電話番号を表示するという仕組みです。

 それと、この「ANP」では、ユーザーが端末に搭載されている歩数計機能を利用していて、歩数の達成目標を設定している場合、その目標を達成できたときにG-SHOCKに通知するということも可能です。

 あとは、端末の着信時の鳴動をG-SHOCKからの操作で止められる「PASP(Phone Alert Status Profile)」と、端末の場所がわからないときなどに、G-SHOCKからの操作で端末のアラームを鳴らすことのできる「FMP(Find Me Profile)」、そしてG-SHOCKの時刻を端末の時刻に合わせることのできる「TIP(Time Profile)」があります。「TIP」では海外でも時差を正しく反映しますので、海外出張などの際にも便利に活用できるものと思います。

――まれな例かとは思いますが、複数のG-SHOCKとペアリングすることは可能なのでしょうか。

奥田氏
 もちろん可能です。ただ、同じモデルのG-SHOCKを複数台所有するユーザーは少ないとは思いますが(笑)。今日は黒いG-SHOCKを、明日は赤いG-SHOCKを、などのように、気分に合わせて持ち替えることもできるでしょうね。

 補足ですが、G-SHOCKとともに、BluetoothヘッドセットなどのBluetooth 2.1以前対応の機器を同時に使用することも当然可能です。このあたりは対応不可欠な部分だと思っていますので。

――電力消費の少ないBluetooth 4.0と、電力消費の多くなりがちなBluetooth 2.1が混在することになるわけですが、Bluetooth 2.1のみをオン・オフするといった使い方はできるのでしょうか。

奥田氏
 チップレベルでのオン・オフということになりますので、個別に機能をオン・オフすることは残念ながらできません。

――さきほど端末の歩数計の機能との連携についてお話がありました。こういったフィットネスやウェルネス系のサービス・機器とのコラボレーションも引き合いが強いのでは?

松川氏
 そういった方向性は十分に考えられます。すでに当社は「MEDIAS WELLNESS」という健康管理サービスを提供していますので、対応するとすれば、まずはこちらのサービスの拡張といった側面からアプローチする可能性が高いのではないかと思います。また、Bluetooth機能を搭載した体組成計などとの連携も、もちろん考えられますね。

 国内では本格的な普及が遅れているBluetoothですが、本製品をきっかけに、本格普及の弾みにつながれば、とも思っています。

「MEDIAS.NET」をリニューアルし、グローバル展開も意識

森山氏

――他にアピールポイントなどがあればお願いします。

森山氏
 実は、「MEDIAS PP」の発表会のタイミングで、「MEDIAS」シリーズのポータルサイトである「MEDIAS.NET」をリニューアルオープンしました。コンテンツとしては、すでに発表している「MEDIAS」シリーズ4機種の紹介サイトになっていまして、「MEDIAS」シリーズを3キャリア向けにリリースしたこと、それによるブランドの再構築がリニューアルの目的です。これを機に、マルチブラウザー、マルチデバイスに完全対応しました。

――具体的にはどのような方法でコーディングを?

森山氏
 HTML5とCSS3を採用しています。HTML部分はワンソースでカバーしつつ、CSS3のmediaqueryを活用することで、PCなどの広い画面ではコンテンツを3カラムで表示し、タブレット端末でアクセスしたときは2カラム、「MEDIAS」などのスマートフォンでは1カラムに整形して表示する仕組みになっています。あらゆる環境で最適に表示されることを目指しました。

――グローバル向けにもコンテンツを用意しているのでしょうか。

森山氏
 このサイトの一番下にリンクがありまして、すでに「日本」と「グローバル」を切り替えることができるようになっています。「グローバル」は今のところ英語のみで、「MEDIAS」というブランドを紹介する内容となっていますが、もし当社の端末が販売される国が今後増えることになった場合は、その国の言語にも随時対応していく予定です。

 海外に対しては、クチコミやソーシャルなどに頼った人的プロモーションでは難しいところがあります。やはり、Webメディアとしてコンテンツを充実させていく方向に力を入れていきたいですね。

――最後に、つい先日、Android 4.0が正式発表になりました。「MEDIAS」シリーズとしてAndroid 4.0への対応予定がありましたら教えていただけますか。

松川氏
 まさに今、対応を検討しているところです。

――本日はありがとうございました。




(日沼諭史)

2011/12/1 11:39