「AQUOS PHONE 104SH」開発者インタビュー

こだわり抜いた国産初のAndroid 4.0スマートフォン


AQUOS PHONE 104SH

 2月24日にソフトバンクモバイルから発売されたシャープ製Androidスマートフォン「AQUOS PHONE 104SH」は、国産端末としては初のAndroid 4.0搭載機となる。おサイフケータイやワンセグといった機能こそ備えていないが、今や国内では標準となりつつある防水・防塵にも対応し、同社独自のテクノロジーを注ぎ込んだフラッグシップモデルだ。

 Android 4.0搭載端末としては、現在のところ国内では「GALAXY NEXUS SC-04D」があるのみ。リードデバイスである同端末の発売からわずか約3カ月という短期間で発売にこぎつけた「AQUOS PHONE 104SH」における注目ポイントや狙いについて、同社通信システム事業本部 グローバルマーケティングセンター 所長 兼 プロダクト企画部長の河内厳氏、同プロダクト企画部 係長の澤近京一郎氏、そしてパーソナル通信第二事業部 商品企画部長の林孝之氏の3氏にお話を伺った。

最新、最高の端末をいち早くお届けしたい

林 孝之氏

――国内メーカーの端末としては初めてのAndroid 4.0となります。

林氏
 今回スマートフォンを開発していく上で、スマートフォンのあり方を再定義しよう、ということになりました。Android 4.0という最新のプラットフォームで、CPUなども最新、最高のものを提供すると同時に、パフォーマンスチューニングの部分にも徹底的に手を入れています。

 我々としては、単にAndroid 4.0を載せただけの端末にするわけにはいきません。中途半端なものにならないよう、お客様と向き合って、皆様に受け入れていただける商品を目指して開発を進めてきました。

澤近氏
 最新のプラットフォームであるAndroid 4.0をいち早くお届けしたかったのはもちろんなのですが、パフォーマンスや操作性の面でよりよいものを求められるお客様からの期待も感じていたので、それにしっかり応えたいという開発者としての強い気持ちがありました。

――では、104SHの特徴を教えていただけますか。

澤近氏
 まず一つ目は「HIGH SPEED」ということです。デュアルコアのOMAP4460 1.5GHzという現時点で最速と考えられるCPUを搭載しています。それだけでなく、シャープ独自のチューニングである「ダイレクトトラッキング技術」を施している点も注目していただきたいポイントです。

 タッチパネルの操作においては、快適さを“サクサク”とか“ヌルヌル”といった表現で形容されますが、CPUを単純に高速化したところで、“サクサク”だけれどぎこちない、“ヌルヌル”だけれど遅く感じる、ということになりがちです。この反応速度と滑らかさという相反する要素を高次元で両立させるべく、理想の動きを求めた結果が「ダイレクトトラッキング技術」という形になりました。

 もう一つは、ソフトバンクモバイルさんの提供するULTRA SPEEDに対応していることですね。下り最大21Mbpsの高速通信と、高速なCPU、そして「ダイレクトトラッキング技術」との組み合わせで、圧倒的に使いやすいスマートフォン環境を実現できたものと自負しています。

澤近 京一郎氏

――スペックから考えると、ターゲットとしては男性向け、ということになるのでしょうか。

澤近氏
 男性はもちろんですが、女性にもぜひ使っていただきたいと思っています。特に女性はSNSを使われる方が多くいらっしゃいますし、そういった用途では、いかに快適にスクロールできるか、いかに簡単にコミュニケーションできるか、という点がポイントになってきます。「ダイレクトトラッキング技術」を含め、パフォーマンスを改善することによって、女性にも受け入れていただける商品に仕上げることができたと考えています。

――OSとしての機能はいかがでしょう。

澤近氏
 Android 4.0で新たに備わった顔認証などの基本機能はすべて取り入れるのはもちろんですが、弊社独自の使い勝手の向上策も盛り込んでいます。

 たとえばロック画面には、カメラのほかに電話やメールといったよく使われる機能へのショートカットを配置しました。ドロワー(アプリ一覧画面)では、たくさんのアプリをインストールしたときでも混乱しないよう、適切なカテゴリー分けができるインターフェイスになっています。

カテゴリー分けされたドロワー

 カテゴリーはお客様自身で自由にカスタマイズできるようになっていて、カテゴリー名はもちろん、アイコン画像を変えたりしてオリジナルのカテゴリーを作ることも可能です。

――基本機能でいうと、スマートフォンでは電話の取り方がわかりにくいという意見もあります。

澤近氏
 その点もしっかり対応しなければならないものと認識していました。画面を見れば誰でも操作方法がわかるようなデザインにしていますし、Android 4.0が元々備えている、電話を取れないときにテキストでメッセージ送信可能な“クイック返信”機能にも当然対応しています。

 104SHではキャリアメールにもしっかり対応しています。“迷惑メール設定”も可能で、単純に迷惑メールフォルダに振り分けるだけでなく、着信音を鳴らさないようにしたり、新着メール扱いにしない仕組みにしています。お客様にとって本当に必要なメールにのみ気づかせる作りにしているんです。

 音声認識による文字入力でメール作成できるのも特長の一つです。Android 4.0で音声認識の精度が大幅に向上したことによって、メール作成時でも十分に実用的なレベルに達しています。

ハードウェアにも一切の妥協はせず

ハイクオリティな動画コンテンツで高性能なディスプレイを体感できる

――ハードウェアの特徴を教えてください。

澤近氏
 やはり4.5インチのHD液晶がポイントです。従来の4.2インチのQHD液晶と比べると、260ppiから329ppiにまで高精細化が進んでいます。開発陣としては、“画面”を持って歩くイメージを思い描いていて、それを具現化するデザインを目指しました。端末前面の投影面積に対して液晶ディスプレイが約70%を占めるこのデザインを、我々は“フルディスプレイデザイン”と呼んでいるのですが、動画を再生したときなどには、液晶が浮かび上がっているように見えて、迫力を感じられると思います。

 このクオリティを体感していただくために、動画コンテンツを一つプリインストールしていますので、ぜひご覧になってください。それと、屋外でも画面が見やすい“リフレクトバリアパネル”や、覗き込み防止の“ベールビュー”にもきっちり対応しています。

――カメラの性能もかなりアップしていますね。

澤近氏
 画素数12.1メガピクセルの裏面照射型CMOSセンサーを採用していますので、薄暗い場所でも明るくきれいに撮影できるのはもちろんですが、それに独自の画像処理エンジン“ProPix”を組み合わせることで、より美しい写真を簡単に撮影できるようになっています。

 今回から新たに“連撮モード”を搭載していまして、シャッターアイコンを連打してもしっかり追随して撮影してくれます。1枚1枚を丁寧に撮りたいときは従来通りフォーカスを当てて撮影し、とにかく瞬間を撮り逃したくないときは“連撮モード”で、という使い分けができます。

河内氏
 カメラの起動自体がかなり速くなっているところも注目してほしいですね。

――AV機器との連携機能はどうでしょうか。

澤近氏
 液晶テレビのAQUOSやレコーダーであるAQUOSブルーレイといったAV機器とのDLNAによる連携機能は、お客様からの要望も多いところですので、もちろん搭載しています。スマートファミリンクに対応していますので、104SHで撮影した写真をAQUOSに映したり、AQUOSブルーレイで録画した番組を104SHで楽しんだり、AQUOSブルーレイのチューナーで受信したテレビ番組を104SHで観たり、といったことが可能です。

 Android 4.0のような新しいプラットフォームでは、こういった従来からの機能・サービスに対応するのは極めてハードルが高いのです。しかし、新しい端末を使われる先進的なお客様には従来の機能も含めすべて届けたいという開発陣の思いもあって、なんとか間に合わせました。

「エコ技」の各モードへはホーム画面にあるウィジェットで切り替えられる

――ここまで高性能だと、バッテリーがあまり持たないのではないかと心配してしまいますが。

澤近氏
 パフォーマンスが向上したとなると、やはりバッテリーの持ちは気になってくるものと思います。1520mAhと比較的大容量のものを搭載していますが、バッテリーの使用量をいかにセーブするか、というのが大事なところです。

 104SHでは、当社独自の省エネ機能「エコ技」を搭載しています。“通常”、“技あり”、“お助け”の3つのモードを切り替えて使う、従来機種と同様の機能です。中でもおすすめは“技あり”モードで、お客様の使い勝手にできるだけ影響を与えない設定になっているのが特長です。

 検証したところ、実使用を想定した場合、“通常”モードにおけるバッテリー持続時間は約121時間、一方の“技あり”モードではおよそ1.9倍の約225時間と大幅に向上します。バッテリーの持ちについてはきっとご満足いただけると思っております。

――その他の特徴はありますか。

澤近氏
 大画面であるものの、薄型で持ちやすさを考慮した設計になっているところですね。そして、最薄部を8.9mmとしながらも、防水・防塵に対応しているところ。できる限り大きなバッテリーを搭載して、薄型にし、さらに防水・防塵も、というのは、技術的には大変困難な部分なのです。しかしそこを妥協してしまうと“単なるAndroid 4.0端末”で終わってしまいます。そうならないよう、一切妥協せずに作り込みました。

 ソフトウェア面では、「緊急地震速報」と「エコ技」の連携機能があります。緊急地震速報メールを受信したときには、“お助けモードに切り替えますか”というメッセージを表示して、すぐにモードを切り替えられるようにしています。緊急時ですから、万が一のためにバッテリー消費を抑えたほうがいいのではないか、というユーザーサポート機能ですね。

 従来機種で人気のある機能については104SHでもしっかりキャッチアップしていて、単にAndroid 4.0を載せただけの端末ではない、というのをお客様には体感してほしいと思いますし、我々としても自信をもって提供できる端末に仕上がったと思っています。

河内 厳氏

――ワンセグやおサイフケータイが搭載されなかった理由は?

河内氏
 Android 4.0端末をいち早く市場に投入する、というときに、それら日本独自の機能やサービスを実現するにはどうしても時間がかかります。弊社だけで進めることもできませんし、ある種の割り切りもありました。

――NFCを採用するという選択肢もあったかと思うのですが。

河内氏
 もちろんAndroid 4.0ではNFCがサポートされていますから、やろうと思えばできました。ただ、いかんせん日本ではまだNFC対応サービスがほとんどないため、今回は搭載を見送りました。マーケットの状況に応じて対応を検討して参ります。

――防水・防塵対応については従来端末のノウハウがそのまま活かされているのですか。

林氏
 これまでのノウハウの蓄積は活きています。とはいえ、可能な限り端末を薄く、小さく見せるために、ギリギリまで時間をかけました。CPUがデュアルコアの1.5GHzで発熱量もそれなりに大きくなってくるということで、いかにその熱を逃がすか、という構造設計も入念に行っていますから、安心してお使いいただけるはずです。

ユーザビリティ向上は、キャリアの支援で高いハードルを乗り越えた

――Android 4.0になると、従来のインターフェイスからはガラッと変わるわけですが、その点でユーザーが使いやすくなるよう工夫されたところはありますか。

澤近氏
 最も考慮したのは、操作の統一感というところでした。Android 4.0という新しいプラットフォームにおける新しい“作法”ができたとき、無理に以前の“作法”も用意しようとすると、アプリごとに別の“作法”が存在することになって、逆に不便になってしまいます。もちろんグラフィックの統一感というのも操作性に関係するでしょう。

 そういったところも今回は全面的に見直しています。たとえば、スマートフォンではAndroid 4.0(タブレット用としてはAndroid 3.0)から採用された「アクションバー」というものがあります。操作性の統一という意味では、そのアクションバーにも対応するのが、まず第一。弊社オリジナルのアプリについては、開発期間がかなり短いという困難がありつつも、すべてアクションバーという新しい“作法”に対応させながら、いかに使いやすさを向上させるか、いかにグラフィックコンセプトを統一していくか、という何段階ものハードルを越えようと頑張ってきました。

 これについては、キャリアであるソフトバンクモバイルさんにも多大な協力をいただいてクリアしてきたという経緯があります。ユーザビリティ評価やスケジューリングといった部分の調整だけでなく、我々メーカーでは気づけないお客様サイドの不満点など、改善すべき箇所をご指摘いただけたりして、かなり大きな支援をいただけました。

――本来画面内のソフトキーで操作するAndroid 4.0で、ハードウェアキーをあえて採用した理由はどこにあるのでしょう。

林氏
 社内でも賛否両論さまざまな意見がありましたが、今回は、4.5インチHDディスプレイをお客様にちゃんと見ていただきたいと考えました。ソフトキーをなくした分、画面を大きくフル活用していただけます。ハードウェアキー自体、利便性が高いというのももちろんありました。

あらゆる部分を徹底してチューニング

――OSの起動時間が20秒程度と驚くほど速いのですが、このあたりにはどのような工夫が?

澤近氏
 起動プロセスをすべて見直して、どこかに削れる部分がないか、一つ一つ確かめるという地道な作業を行いました。これまでの機種では、我々としても起動が遅いと感じていて、どうにかして高速化できないかと調査を続けていたのですが、ここへ来て、ようやくその努力が結実しました。

 もちろん、たくさんのアプリをインストールした場合は多少遅くなってしまう可能性はあります。しかしながら、「どうせいずれ遅くなるから」と最初から諦めるのではなく、メーカーとして対応でき得る最良の策を講じさせていただきました。

――チューニングというのは具体的にどういったものなのでしょうか。

澤近氏
 チューニングの要素に関して言えば、端末起動の高速化のための要素もあれば、アプリの高速化に影響する要素などもあります。基本的に“動作”に関係する箇所全てにおいてパフォーマンス改善のための見直しが入っているんです。

 それらの中で、たとえば特にタッチパネル操作において高速化を果たしたチューニングということで、「ダイレクトトラッキング技術」と命名しているわけです。

――ハードウェアのスペックアップだけでなく、チューニングによってもパフォーマンスを向上させることができたわけですね。

澤近氏
 そうですね。従来よりも安易に高速化しようと思えば、ディスプレイ解像度を下げるとか、グラフィックの質を落とすといった手もあります。ただ、そうしたところで、ITリテラシーの高い先進的なお客様の方々にはご満足いただけません。そういった方々の求める端末というのは、最高のスペックであり、最高のパフォーマンスでしょう。我々もある意味、意地になって最高のものを提供しようと躍起になりました(笑)。

――今回のチューニングというのは、既存の2.x系のAndroid端末にも適用できるものなのでしょうか。つまり、2.x系の端末がソフトウェアアップデートで高速化する可能性は?

澤近氏
 実際にソフトウェアアップデートをするかどうかは別として、適用できる可能性はあると思います。もちろんAndroid 4.0というプラットフォームに依存するチューニングもありますので、その部分は難しいかもしれません。

林氏
 起動プロセスについて言えば、(プラットフォームに依存しない)ソフトウェア側の見直しも大変多かったので、改善する見込みはたしかにありそうです。メモリ容量など、システム構成が104SHと異なる端末では、改善できる程度の差というのは出てきそうですが。

――既存の2.x系の端末でも、Android 4.0へのバージョンアップを期待されているユーザーが多いと思います。

林氏
 もちろんお客様様の期待されていることを我々としてもしっかり受け止めて対応していかなければならないと考えています。検討した上で別途アナウンスさせていただきたいと思っています(※その後、シャープでは「AQUOS PHONE」シリーズのハイエンドを中心とする一部機種でAndroid 4.0へのバージョンアップを予定していることを発表している)。

グローバルにおけるシャープの取り組み

写真左から河内氏、澤近氏、林氏

――2011年10月1日に、グローバルマーケティングセンターを設立したそうですが、これにはどういった目的があるのでしょうか。

河内氏
 これまでのフィーチャーフォンは日本特有の市場で、それに合わせた戦略を展開してきました。しかし、海外発のスマートフォンが普及してきた今、いわばグローバルでほぼ共通化された端末を扱っていくことになります。そうしたときに、グローバルのことをよく知っておかなければ戦えないのは当然です。

 Googleをはじめとするシリコンバレーの企業から、随時最新の情報を手に入れるのと同時に、より良好なパートナーシップを確立していかなければならない。それによって得られるものが商品開発に与える影響は計り知れません。逆に、日本で起こっていることだけを見ながら物作りをするのは大変リスクが高いなと考えました。グローバルに通用する物作りをすることで、当然それは日本における端末開発にも役立てられるだろうと考えております。

――海外においてはどういった展開が考えられますか。

河内氏
 現在カリフォルニア州のサンノゼに拠点を構えていますが、うまく活用することで北米でのビジネスチャンスが広がる可能性もあります。つまり、日本以外のビジネスを伸ばしていくため、というのがグローバルマーケティングセンターの設立のもう一つ理由です。マーケットを広げるための取り組みであり、商品を強くしていくための取り組みでもある、というわけです。

 今回の104SHについても、こういった取り組みがあったからこそ、日本に留まっているだけでは得られない情報を入手でき、リードデバイスのリリースからわずか3カ月という短期間で商品発売までこぎ着けられたのではないかと考えています。

――ということは、104SHはグローバルを意識したモデルと言えるかと思います。104SHベースの端末の海外展開はあり得るのでしょうか。

河内氏
 今回のモデルは、まずAndroid 4.0端末をいち早く日本のお客様にお届けしたい、という目的で開発してきました。しかし、次の展開ということになってくると、当然チップセットが変わることになったりもしますので、104SHで培ったノウハウを活かせるということはあるにせよ、全く同じということにはならないと思います。

――本日はありがとうございました。




(日沼諭史)

2012/3/1 10:00