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「モバイルプロジェクト・アワード2012」受賞者に聞く

シリーズ累計1600万DLを超えた“なめこ”シリーズ


 時間とともに成長したなめこを、軽快なフリック操作で刈り取る――ただそれだけのシンプルなアプリが、わずか1年強でシリーズ累計1600万ダウンロードを超えた。

 スマートフォンユーザーはもちろん、そうでない人も、街角でキャラクターグッズを見たことがあるはずだ。そのきっかけとなったアプリが、ビーワークスの開発した『おさわり探偵 なめこ栽培キット』(以下、なめこ栽培キット)である。7月には最新作にあたる『おさわり探偵 なめこ栽培キットDeluxe』(以下、なめこ栽培キットDeluxe)もリリースされ、再び順調にダウンロード数を伸ばしているという。

 数多くあるスマートフォン向けゲームの中で、なめこはどのようにブレイクしたのか。また、今後なめこはどこに向かっていくのか。ビーワークスの担当者3名にインタビューを行った。

時間とともに育つなめこを、タッチで栽培するという手軽さが受けて大ヒットした「おさわり探偵 なめこ栽培キット」 図鑑機能も歴代シリーズに搭載されており、ユーザーのコレクター心をくすぐる
ビーワークス 情報開発事業部 営業部 アカウントディレクターで「なめこ」広報担当の伴雄斗氏

 今でこそ一大ブームを巻き起こしているなめこ栽培キットだが、元々は『おさわり探偵 小沢里奈』(以下、小沢里奈)というパッケージゲームのプロモーション用として開発されたものだ。採算も、このゲームが売れれば取れるようになっている。そのため、当初の目標は「App Storeでの無料アプリの合格ラインと言われる10万ダウンロード」(伴氏)と、やや控え目だった。「ベータ版を社内の人に触らせたときの反応も、今まで作ったゲームと段違いだった」(同)といい、内容に自信はあったものの、1600万ダウンロードはビーワークスの想定を大きく上回っている。

 なぜなめこ栽培キットは、一気に火がついたのか。実はビーワークス自身にも「正解は分かっていない」(河合氏)というが、いくつかの仮説は立てている。河合氏、伴氏によると、次のような理由が考えられるという。

「まずゲームの中身がユーザー層とマッチしていた。気軽に遊べて、作りがiPhoneで遊びやすいものだった(当初はiPhoneアプリとしてリリース、昨年12月にAndroidに対応した)。それ以外には、“なめこ”という言葉のチョイスもよかったと思う。今だと検索すれば色々なアプリが引っかかるが、当時、App Storeでは『なめこ栽培キット』しかヒットしなかった。なめこを栽培しているとTwitterでも言いたくなるが、タイムラインに何人もそういう人がいると、どういうことなのか調べてみようと思うのではないか」(河合氏)

「なめこはキーワードとして誰もが知るものだが、App Storeにはなかった。友達が面白いゲームを見つけたと言っていても、普通はどれのことだかなかなか分からない。ただ、なめこの場合はキーワードできちんと見つけることができる」(伴氏)

 ヒットの下地はあった。ニンテンドーDS用ゲームの小沢里奈には元々のファンがいたため、「勝手に広がっていく力はあった」(同)。また、プロモーションは合計3本のアプリで行われており、なめこ栽培キットの前に「おさわり探偵占い」と「おさわり探偵味噌汁」というアプリもリリースしていた。「これらも1万ダウンロードはされていて、なめこ栽培キットが出たときに誘導できた」(同)効果も無視できないだろう。1万ダウンロードという数字があれば「去年のApp Storeであれば25位以内に入ることができる」(同)からだ。膨大なアプリの中で埋もれないためには、早期にランキングに入る。こうしたApp Storeでの鉄則は、しっかり守っていたわけだ。

 ただ、いくらマーケティング活動が成功しても、アプリ自体の完成度が低ければ、一度ついた火は消えてしまう。だからこそ、なめこ栽培キットでは、操作時の“気持ちよさ”にとことんこだわった。
ビーワークス 情報開発事業部 ゲーム開発部 ゲームディレクター/ゲームグラフィッカーで「なめこ」キャラクターデザイナーの河合真吾氏

「プログラマーが技術のある人で、そこにはこだわってくれたため、最初の段階からある程度完成していた。抜ける気持ちよさ、生えるときの気持ちよさは絶対。そこに集中して作った。ただ、企画段階では生えたなめこを抜くだけだったので、ゲーム性や面白さに欠ける。そこで、レアなめこが生えてくるなどのルールを作り、制限を設けたり設備の概念も入れた。収集が楽しいというのは、共通認識だった」(大廣氏)

 この気持ちよさや収集の楽しさが、クチコミで徐々に広がっていく。「なめこで何をつぶやけばいいんだろうと思ってつけられなかった」(同)というTwitterへの投稿機能などは見送られたが、一方で「スマートフォンをパッと出して、指でなぞれば収穫でき、それぞれ持っている人がデモンストレーターになってくれる」(伴氏)。結果として、なめこ栽培キットは「3日後にはApp Storeで2位になり、リリースから1〜2週間で目標の10万ダウンロードは達成できそうだった」(同)と予想を超えるペースで数字を伸ばしていった。

 10万ダウンロードを達成したころ、ユーザーから「なめこグッズはないのかという要望が挙がってきた」(同)という。「気が早いよ(笑)」(大廣氏)という思いはあったが、実は「グッズメーカーからもお問い合わせはいただいていた」(伴氏)。ユーザーおよびメーカーの双方からニーズがあったこともあり、この企画も半年の準備を経て実現する。当初は「iPhoneケースや画面クリーナーが発売されるぐらいだったが、バンダイからガシャポンも出ることになった」(同)といい、「どのグッズも関係者全員の予想を上回る人気」(河合氏)だ。『春のなめこ市』というキデイランドで行った物販イベントでは、90分待ちの行列ができた。同様に東京駅で開催された『東京なめこ市場』でも、2台のレジを4台に増設しなければいけないほどの状況になったという。

 こうしたイベントの告知は専用サイトで、誘導はアプリ内に表示されるバナーで行っている。バナーに関しては広告も配信されているが、「自社広告の比率の割合がかなり高い」(伴氏)のが特徴。「ポータルサイトに呼びこみ、告知やリアル店舗との物販がうまく連動できている」(同)という。プロモーションアプリという当初のスタンスを崩すつもりはなく、他社広告はあくまで副次的な収益源という位置づけのようだ。ユーザーの中には「サイトに行くために、わざわざアプリを立ち上げてバナーをクリックする人もいる」(同)ように、アプリ内の一機能として認識されていることがうかがえる。
ビーワークス 情報開発事業部 ゲーム開発部 ゲームグラフィッカーで「なめこ」ディレクターの大廣将之氏

 日本で人気のなめこ栽培キットだが、スマートフォンのアプリストアには国境の壁はない。小沢里奈が海外でも発売されていたこともあり、なめこ栽培キットも初代のころから英語、フランス語、イタリア語に対応し、「今は繁体字(中国語)や韓国語も入っている」(河合氏)という。日本で火がつき始めてすぐに、なめこ栽培キットの人気は海外にも広がった。現状では、「欧米では全然だが、東アジアではヒットしている」(伴氏)といい、グッズの海外展開の企画も進行中だ。

「日本でヒットしたあと、7月から2週間ぐらい経ったときに、突然マカオのランキングに入った。その1週間後ぐらいに、香港と台湾で順位がポーンっと上がった」(同)

「まさになめこの菌が広がっていくように、シンガポールに広まった(笑)。香港、台湾から2週間ずれて、今度はシンガポールでもランキングの上位に上がっている」(大廣氏)
端末の言語設定を変更すると、自動的にアプリが当該言語に切り替わる

 突然海外でダウンロード数が伸びた原因も正確には分かっていないが、伴氏は「日本のランキングに注目しているユーザーがアジアには多い。特に台湾では、日本に次いでダウンロード数が伸びている」という。また、タイでの注目も高まっており、なめこ栽培キットDeluxeに限ってみると、同国でのダウンロード数が日本についで多いという結果になっている。「おそらくLINEのスタンプを発売した効果で、先にキャラクター認知が広がり、アプリにつながった」(伴氏)というのが、その理由だ。

 ちなみに、本物のなめこは「自生しているのが日本と台湾だけ」(同)で、そもそものモチーフが理解されないおそれもあった。そのため、ビーワークスではローカライズにもちょっとした工夫をしている。なめこの説明には菌類を意味する「Funghi」が使われ、中国語圏ではここから派生して「方吉(ファンジー)」と呼ばれている。「『おでんなめこ』は『ケバブ』に、『おばけなめこ』は『イエティ』にと、日本特有のものは現地で説明しやすいように置き換えている」(大廣氏)と、現地の文化を考慮した翻訳も行っているそうだ。

 前述のように、7月にはiOSとAndroid向けになめこ栽培キットDeluxeもリリースした。従来のなめこシリーズとの大きな違いは、「じい」というキャラクターがプレイヤーにさまざまなクエスト(お願い)を課してくるところにある。「ななめこを7匹原木の上に生やしてみよう」や「なめこを1000匹収穫しよう」というのがそれで、クリアするとゲーム内通貨のNP(なめこポイント)やアイテムが手に入る仕組みだ。NPは原木、照明器、保湿器、加湿器、消耗品などに交換でき、なめこの育成速度やレアなめこの発生率などを上げることが可能となる。従来のなめこシリーズより、ゲームとしての性格が強くなっているシステムと言えるだろう。河合氏も「やりがいを出したい、というのが目的だった」と語る。一方で、マイペースになめこを育てていたユーザーには、クエストが面倒だと捉えられている節もある。この点については、「ユーザーの意見を聞きつつ、バランスをとりながら改善していく」(同)。クエスト自体は残しつつ、見せ方を変えることで幅広いユーザーに対応していく方針だ。

 1600万ダウンロードを超えたなめこシリーズだが、無料で提供するプロモーションアプリという位置づけを変える予定はなく、バナーでの他社広告もなるべく控えめにしていく。流行りのアイテム課金の導入にも、否定的だ。ゲームそのものが持つ気持ちよさや、収集の楽しさに加え、こうした安定感、安心感が定番アプリとしての人気を維持する秘けつなのかもしれない。
ゲームセンターの景品や文房具など、各種キャラクターグッズを発売。インタビューに同席した(?)、写真のようなぬいぐるみも人気だ 「じい」のお願いという新要素が加わった「なめこ栽培キットDeluxe」
複数のレアなめこを原木の上にそろえるなど、達成が難しいクエストも用意 メダルの数によって、なめこの説明が変わるのもDeluxeからの新要素だ




(石野 純也)

2012/8/10 09:00