記事検索
インタビュー過去記事

ケータイ販売の新たな潮流

イオンがSIMカードとSIMフリースマホ販売に取り組む理由


 店頭で端末と回線をセットで購入、契約することが一般的な携帯電話において、近年、通信回線だけを提供するSIMカード単体の商品(パッケージ)が登場している。
イオンで販売される日本通信のSIMカードパッケージ

 2011年春のSIMカードロックの解除を受けて登場したSIMカードパッケージは、日本通信の商品をはじめ、これまでにSo-netやIIJなどの商品が登場している。当初はネット通販での販売だったが、2011年6月、ショッピングモールなどを展開するイオンの店頭で、日本通信のSIMカードパッケージの販売が開始された。

 “イオンSIM”などと呼ばれるこの商品は、当初、販売する店舗が限られていたものの、ITリテラシーの高い、ヘビーユーザー層を中心に人気となり、一部店舗では即日完売となった。現在、イオンでは、IIJのパッケージの販売も開始し、さらに9月からはNECカシオ製でSIMロックフリーのAndroidスマートフォンの取り扱いも開始している。今回、イオン店内で携帯電話販売を担当するイオンリテールの住宅余暇商品企画本部 デジタル統括部 イオンニューコム事業部長の石上義市氏と、イオンニューコム事業部 商品部&営業企画部部長の河野充宏氏に、イオンの狙いなどを聞いた。

もともとは主婦層がターゲットだった

――イオンの店舗内にある携帯電話コーナーは、各社の携帯電話を取り扱っていますが、イオンリテールはいわゆる併売店で、携帯電話販売の代理店業務を行っているということでしょうか。

石上氏
 はい、そうです。街中に携帯電話を販売する店舗がありますが、当社の店舗はイオンの店内で展開しています。

――そうした中で、SIMカード単体のパッケージを販売することになった背景を教えてください。最初は、昨年6月、日本通信のSIMカードパッケージが発売されました。

河野氏
 イオンに来店されるお客様の多くは、主婦の方です。接客を通じてお話を伺っていると、固定通信を含め、月々の通信料金がかなりの負担になっていることがわかってきました。一般的に携帯電話の料金プランは、基本料や通信料などをあわせると、5000円〜7000円程度かかります。たとえば家族3人というケースでは、1万5000円〜2万1000円くらい、毎月かかることになります。
石上氏

石上氏
 イオンでは「お客様が第一」と考えて事業を進めていますから、ユーザーが何を求めているか、その声を聞くのはいわば義務です。食品を扱っていますから、週に数度、お越しになるお客様が多く、ちょっと立ち寄って、携帯電話に興味を持たれたお客様の声を拾いやすいところがあります。

河野氏
 携帯電話の割賦販売開始以降、買い替え頻度は2年程度から3年半〜4年と、長期化していますが、新機種には関心を持たれて売場に立ち寄られる方が多く、お客様との会話を通じて、要望を伺うようにしています。通信料を安くしたいと思っている方に向けて、なんとか負担を軽減できないかと考えて、MVNO事業者と商談を進めて、昨年6月に日本通信さんと、月額980円のデータ通信の提供を開始したというわけです。

――980円の“イオンSIM”は、イオンと日本通信、どちらから声を掛けたのでしょうか。

河野氏
 イオン側からです。当時、研究を重ねて、月額で1000円を切るプランが提供できないかと考え、日本通信さんと交渉を開始しました。

――1000円を切る、というプランですが、既存キャリアの料金プランが存在するなかで、どういった考え方で決めていったのでしょうか。

河野氏
 携帯各社のサービスを、マトリックス(分布図)を作って分析し、ここ(安い部分)がないと。この部分をカバーする商品を提供できれば、ニーズにお応えできるのではないかという仮定のもとで進めていきました。

ヘビーユーザーに支持され在庫薄に

――販売開始直後は、売り切れになったとか。

石上氏
 店舗によっては、ですね。当初、購入された方のほとんどは、ITリテラシーの高い層でした。

河野氏
 その後、さまざまなメディアで報じられて、普段からイオンにお越しいただく方々にも利用されるようになっています。

石上氏
 品川シーサイドにあるイオン店舗での売れ行きがよく、そうした点からすると、現状は、ビジネス層が中心ではないかと思っています。

――先の話では「主婦層が“通信料を負担に感じている”」というところから企画した、ということでしたが、想定したユーザーとは違う層に人気になったのですね。

河野氏
 もちろん売れると思ってスタートしたわけですが、当初の手応えは想定以上でした。そして、ITリテラシーの高い層に人気となったのは、想定とは異なる点でした。

石上氏
 たとえば四国では一店舗でしか販売されず、在庫薄になったため、四国在住の方が岡山の店舗にまで在庫を探しに来る、というケースもありました。

河野氏
 扱っている店舗はどこか、といった問い合わせも多くいただきましたね。詳しい方々ばかりなので、利用方法について当初はまったく問い合わせがなく、その点は想定外でした。

石上氏
 販売時も指名買いばかりでした。メディアに取り上げられるようになってから、より幅広い方が手に取るようになったようで、「わからない」などと問い合わせをいただくようになりました。

――では、現在は、ヘビーユーザーから一般層に移ってきたのでしょうか。
河野氏

河野氏
 はい、当初はITリテラシーの高い層の方から評価をいただきましたが、現状はビジネス層、そして主婦の方にも利用いただいております。

――店頭での販売の手法はいかがでしょうか。たとえば積極的に来店客へ声をかけていくのでしょうか。

河野氏
 お客様自身がパッケージを手に取って、レジへ持っていく“セルフ販売”に近いですね。携帯電話をご覧になっているところへ積極的におすすめするということはしておりません。

競争力を重視してラインナップを拡充

――最近では、IIJのパッケージの販売も開始されましたが、そうしたラインナップの拡充はどういった判断に基づくのでしょうか。

河野氏
 お客様に提供する、選択肢を広げたかったからです。
イオンで取り扱われるIIJのSIMカードパッケージ

――こうしたSIMカードパッケージは、イオン独占販売という形なのでしょうか。

河野氏
 いえ、そうではありません。実際に他社でも日本通信のSIMカードは販売されています。ただ、今回の「IIJmioウェルカムパック for イオン」は、通信量100MBのクーポン付きのイオンオリジナルの商品です。

――イオン自身がMVNOになる、という考えはないのでしょうか。

河野氏
 そこは、開通登録の業務、カスタマーサポートなどで、いろいろと難しい課題があると思っています。

SIMロックフリーのスマートフォン販売の背景

――9月からNECカシオ製のAndroidスマートフォンで、SIMロックフリーの端末が販売されました。これは、ヘビー層以外にも広がりつつある中で、スマートフォンとSIMカードをセット販売する必要があると判断されたのでしょうか。

石上氏
 まさにその通りです。

河野氏
 なにぶん初めての取り組みでしたから、国内メーカーの機種にしようと考えました。
NECカシオ製でSIMロックフリーのAndroidスマートフォン「MEDIAS NEC-102」

――それは故障時の対応などを考慮して、ということでしょうか。

河野氏
 はい、それもあります。また、我々の今の力量では、さほど多くのロットを取り扱いできません。そうした条件の下で話を聞いていただけたところとして、最終的に「MEDIAS NEC-102」が販売となりました。

――なるほど、NECカシオはタイやメキシコでも防水・防塵対応のAndroidスマートフォンを納入していますね。「MEDIAS NEC-102」はNTTドコモの2011年夏モデルである「MEDIAS WP N-06C」と同等のスペックと、最新の機種ではありませんが、販売から約3週間を経て、ここまでの手応えはいかがでしょうか。

石上氏
 当初の想定からすると手応えはかなりあります。次のフェーズを考えなければいけないと思っています。

河野氏
 最新機種を求める方は、高速な通信速度も求めるでしょう。イオンで取り扱う、安さが特徴のSIMカードパッケージと一緒に購入できる機種として、最新ではない機種でも購入いただけるかと考えました。しかし受け入れられるかはわかりませんでした。販売を開始してみると、需要はあるのだなと実感しています。こうしたスマートフォンを販売する際、我々にとって、競合は中古市場です。中古市場の価格は動きがあります。一方、今回のAndroidスマートフォンは、SIMロックフリーの機種として開発されるもので、何カ月も前から交渉していくわけです。発売時に中古市場の価格が下がっていると、我々にとってはリスクになり得ます。

――なるほど、中古市場での価格が下落すれば、イオンでスマートフォンを販売しても、購入するユーザーは減る可能性がありますね。

河野氏
 そういったリスクはあったのですが、販売を開始してみるとご支持をいただいております。

――製品ラインナップとして、たとえばモバイルWi-Fiルーター、データ通信カードは選択肢にあがらなかったのでしょうか。

河野氏
 プレスリリースはしておりませんが、「MEDIAS NEC-102」取扱店舗では、iPod touchに装着するジャケットタイプのモバイルルーター(協和ハーモネット製のHE-WR01)の販売も同日より開始しています。ただ、売れ行きは「MEDIAS NEC-102」のほうが上です。

スマホ人気がイオンの店作りにも影響

――そうした手応えを得たということは、今後、ラインナップはさらに拡充ということになるのでしょうか。

河野氏
 現時点では、検討していく、というところです。ただ、今後市場のトレンドとしては、タブレットの普及に期待しています。これはiPadやSurface、Nexus 7、あるいはKindleなどの新商品が続々と発売しますから、選択肢が広がれば期待できると思います。たとえば「動画を観る」には、スマートフォンよりも大画面のタブレットのほうが便利ですよね。これから年末にかけて、タブレットの需要が高まるのではないかと思っています。

――安さを売りにしたSIMカードパッケージとは異なる利用スタイルですね。SIMカードパッケージを求める層に加えて、タブレットなどに興味を持つユーザーも取り込む、ということになるのですか。

河野氏
 大型店舗を中心に、タブレット端末もしっかり品揃えをしていきたいと考えております。今期は、積極的にデジタル商品の売り場を拡大しております。

――デジタル商品の売り場を広げるのはなぜでしょうか。

河野氏
 スマートフォンと関連サプライの伸びが背景にあります。それらを核として、当社の強みがあるゲーム売場、AV機器をプラスして、デジタル商品を集めて、売場を拡大しています。デジタル機器の進化によって、日々の暮らしはますます便利に、楽しくなっていきます。こうした商品群は互いの関連性が高く、お客様の「暮らし」を便利にする、いろいろな提案をするには、売場拡大が必要なのです。

――イオンの各店舗側に提案して、採用してもらわなければいけないのですね。

石上氏
 はい、プレゼンテーションをして、検討してもらうのです。最近ではイオン新船橋店のモールゾーン(専門店が展開するゾーン)に、デジタル商品売場「NEW DIGITAL WORLD」を出店しております。ぜひ一度ご覧いただきたいと思います。

――なるほど。今日はありがとうございました。




(関口 聖)

2012/9/25 15:57