記事検索
インタビュー過去記事

「MEDIAS TAB UL N-08D」開発者インタビュー

“驚きの軽さ”だけではないカーボン素材採用の秘密


MEDIAS TAB UL N-08D

 9月20日に発売が開始されたNECのXi対応タブレット「MEDIAS TAB UL N-08D」。背面パネルに東レ製のカーボンファイバーを採用し、約249gというこれまでのタブレット端末にない圧倒的な軽さを達成しているのが特徴だが、実は「HDハプティクス」と呼ばれる新しい技術が実装されている点については、あまり大きな話題にはなっていないようだ。

 「HDハプティクス」は、米Immersionが開発した「ハプティック技術」をベースに、より高度な制御を実現したもの。画面にタッチした瞬間や、何らかのグラフィックを表示したとき、あるいは効果音や音楽を再生すると同時に、その音のイメージにマッチしたリアリティのある感触を振動で伝えることができる。

 今回は、「MEDIAS TAB UL N-08D」の開発に携わったNEC パーソナルソリューション事業本部長の西大和男氏と、同社パーソナルソリューション事業開発本部の永井道生氏の両名に、カーボンファイバーによる軽量化や、「HDハプティクス」の狙いなどについて、同製品の注目ポイントを伺った。
NEC パーソナルソリューション事業本部長 西大 和男氏 NEC パーソナルソリューション事業開発本部 永井道生氏

カーボンによってフレームも省き、軽量化

――改めて、MEDIAS TAB UL N-08Dのコンセプトを教えてください。

西大氏
 どこでも持ち歩いて、どこでも使って、どこでも楽しめる、というのが基本コンセプトです。「UL」はウルトラライトという意味なのですが、最初は、徹底的に超軽量の端末に、ということで開発を始めました。キャッチフレーズは“驚きの軽さ”でして、実際に使ってもらって、驚いてもらおうというところがポイントです。手に持ってもらわないと、いくら数値で軽さをアピールしても、広告を見ただけではわからないですから。

 NOTTV対応などのために必然的に横向きになるMEDIAS TAB N-06Dと違って、MEDIAS TAB ULは縦向きが基本です。これは、ワングリップ(片手)で持って使えるようにしたかったのと、片手で気軽に撮影できるように、カメラレンズをスマートフォンと同じように端末の上部に配置しているためです。

永井氏
 端末が軽いので、カメラ撮影も、通勤電車で電子書籍を読むときも、片手で支えるのが苦にならないんです。

――ターゲットはどういった層になりますか。

西大氏
 やはりビジネスというよりは、コンシューマーに向けたものになります。ボディカラーも白のみですので、どちらかというとやや女性向けですね。女性の持つバッグはやや小さめで、7インチのサイズがちょうど収まりがいい。10インチクラスになるとビジネスバッグにしか入りませんから。それに、軽いので力の弱い方であってもどこへでも持って行けるメリットがあります。そんなわけで、ある程度女性にターゲットを絞ってはいるんですけども、ビジネス用途でも、軽いからMEDIAS TAB ULだけ出張に持って行く、といったことが考えられます。結局は何のアプリを使うか、というところによってくるでしょうから、幅広い層に使っていただける製品だと思います。

 他機種との差別化についてお話ししますと、我々が出しているもう1つのMEDIAS TAB N-06Dの方は、防水でNOTTV、ワンセグ、おサイフケータイにも対応していて、大きなスマートフォンというようなものです。LifeTouchシリーズは(安価であるという)価格帯もひっくるめて、ファミリー向けなどのMEDIASとは異なるマーケットにアタックしていくという方向性です。一方でこのMEDIAS TAB ULは、とにかく軽量にしつつ、実用性も重視しながら、MEDIASシリーズで比較的弱いカメラの強化も含めて進化させた、というものになります。ちなみに、全部入りのN-06DとN-08Dは全く別のものとして企画していますので、今後も両方を併存、併売していくのが前提となっています。

――とにかく軽く、ということで省略した機能も多いかと思います。女性にも向いた端末ということで防水のニーズも高かったと思いますが、それを省略してでも最軽量というのが最優先だったのでしょうか。

西大氏
 弊社は割り切りがうまくありません(笑)。機能を絞って、とがった方向に持って行く、というのが不得意です。薄く、軽くするためにはいろいろなものを犠牲にしなければならず、その1つには防水が含まれます。はっきり言ってしまえば、日本の市場で防水でないものを出す恐怖というのは感じていました。

 ただ、300〜400gのタブレットが100g軽くなる、つまり約30%軽量化されることで、これまでとは一気にタブレットの使い方が変わってくるのではないかという予感があったんですね。従来のMEDIASは“どこででも全部入り”というようなコンセプトで、すでに防水仕様で出していたので、MEDIAS TAB ULは思い切って軽さで勝負しようということになったんです。

 通常、業界的には“最軽量を目指す”というと10gとか1g単位の戦いをするものなんですが、一気に30%も軽くなると“最軽量”という言葉では弱いくらいです。開発中は250gを切れない限りは商品化しない、と言っていたくらいで、結果的にずっと使い続けていても手が疲れない軽さにまで持ち込めた、という自負があります。

左上のカーボンファイバー繊維からの加工工程ごとの素材を並べたところ

――軽量化のためにカーボンファイバーを使うことにした理由を教えてください。

西大氏
 企画し始めたちょうどその頃、軽さを狙ったVersaProというUltrabookがあったので、我々も圧倒的な軽量端末というのをやろう、と考えました。それには東レさんが開発している超軽量カーボンファイバーというのが軽量化に使えそうだね、というところから始まりました。東レさんと話し合いをもったところでは、飛行機向けなどのわりと大きなものは手がけていても、モバイル端末の部品として使うような小さな加工はあまり経験がなかったらしく、お互いにとってチャレンジングなものになりました。

 つまり、先に“カーボン+軽量”というのがありきで、最初は軽量という特長だけで戦おうと思っていたんですけども、さらにユーザーインターフェイスにも特徴をつけたいと考えました。そんなときにハプティクス技術をもつImmersionさんとも縁があって、一緒に開発することになったわけです。軽量なだけでなく、ハプティクス技術をベースにしたHDハプティクスを採用したことで、商品としてのインパクトがついたと思います。
こちらが元々のカーボンファイバー素材 カーボンファイバー1層分をシート状にする
シート状にしたものを積層し樹脂を流し込むと、ほとんど金属のような板に プレス成形で背面カバーの形状にする。その後塗装工程を経て製品に組み付けられる

――カーボンファイバーは素材としては高価なものだと思うのですが、端末コストへのインパクトはどれくらいのものだったのでしょうか。

西大氏
 パーツごとの具体的な内訳はお伝えできませんが、そこにコストがかかっているのは事実です。ただ、このカーボンという素材をもし活かすことができれば、圧倒的に軽くなるはずだ、という我々の思いと、たまたまそこでパートナーである東レさんが乗ってきてくれた、というタイミングがうまく同期して実現できたものなんですよね。

永井氏
 カーボンファイバーを使った外装は、いわばカニみたいなものなんです。外側は堅いが内側は柔らかい。内部をフレームでがっちり固めて、外側を樹脂カバーで覆うのが今の主流ですが、MEDIAS TAB ULではフレームをほとんどなくして、カーボンファイバーの外装で強度を出している。そういう点では、内部パーツを省くことによるコストダウンを図れています。

――カーボンファイバーを素材とするにあたって、どのあたりが一番難しかったのでしょうか。

永井氏
 形を作る、というところがやはり難しかったですね。元々は繊維状だったものを積層して樹脂を流し込み、フラットな板状の素材にするわけですが、これをプレス成形して端末の背面を形作ります。側面に回り込む部分ですとか、持ちやすさや強度を出すために微妙なウェーブを施しているところ、そしてそのウェーブと側面のRが重複しているような箇所で、精度よくフォーミングするのに非常に苦労しましたね。

 塗装も大変でした。モバイル端末は手に持って使うものですから、PCなどよりも塗装に関する要件が厳しいんです。今回のMEDIAS TAB ULではホワイトの塗装を4回重ね塗りしています。

――カーボンファイバーは無線電波を通しにくいとされています。無線まわりへの影響はどのような設計にして解決しているのでしょう。

永井氏
 内部構造でもシールドなどの処理は行っていますが、端末背面の上下の一部は、カーボンではなくプラスチック素材になっています。ここから無線電波が通る仕組みです。塗装で素材感に差が出ないようにしつつ、樹脂とカーボンの境界となっている切り込みを端末の上下で対称にするなどして、デザイン上も妥協せずに、違和感のないものに仕上げるのにかなり手間をかけました。

塗装前の状態では、カーボン素材とプラスチック素材の違いが目立つ

西大氏
 カーボンファイバーを使うときに、アンテナまわりの設計を工夫するのは、どのメーカーでも考えなければならないことです。全体としてデザインでその部分をどう処理するか、という点もキモになってきますね。

――今回の製品はドコモから発売されましたが、その理由をお聞かせください。また、3G/LTEのないWi-Fi版を発売する予定はありますか。

西大氏
 筐体に使ったカーボンという素材は、固定して使うものというよりは、モバイルに非常に近いところにあって、持って歩くものというイメージが強い。MEDIAS TAB ULの、どこにでも持って歩ける、どこでも楽しい新感覚のタブレット、というテーマを考えると、持ち歩いて使える携帯電話網とのバンドル(組み合わせ)でなければマッチしないと思いました。Wi-Fiのみ搭載のベンダーモデルにはLifeTouchシリーズがありますが、保持携帯性の強いものはやはりキャリアさんと組んだ方がいいだろうと考えました。それがMEDIASシリーズのコンセプトでもあります。特に今回はハイスペック端末なので、MEDIASで出したい、ということでドコモさんと交渉しました。

“コツン”も“ドーン”も振動でリアルに再現

――端末を振動させる「HDハプティクス」の仕組みについて教えていただけますか。

永井氏
 ハプティック技術で使われるパーツについて言えば、最近のスマートフォンでは「LRA」と呼ばれる振動子でして、MEDIAS TAB ULで採用しているのは「ピエゾ素子」というものになります。応答速度は5msとLRAの10分の1、しかも振幅を細かく調節できるので、瞬間的にオンにできる応答性の高い微細な振動を発生できます。5msというのは200Hzに相当するのですが、この応答速度での振動は、人間にとってそのものを触ったと実感するのに最適な周波数であるとされています。これがまずHDハプティクスにおける一番大きなポイントですね。

中央の「LRA」が多くのスマートフォンが搭載している振動子 MEDIAS TAB UL N-08Dでは、より微細な制御を可能にするピエゾ素子を搭載する

 さらに、端末の筐体にカーボンファイバーを用いて強い剛性をもたせることで、振動が伝わりやすくなっています。一方で、端の樹脂を流し込んで成形している部分では振動を吸収します。振動の立ち上がりがよく、しかしすぐに振動が収束するという構造になっています。これが“波形のキレ”につながり、その振動が何を表現したものであるか、というのがわかりやすくなるわけです。

 また、タッチ時の振動だけでなく、音に合わせた振動の発生もハプティック技術としては今回世界で初めて実装しました。たとえばゲームの効果音や音楽、動画の音声に合わせて振動させることができます。コンテンツプロバイダーが別途加工をしなければならない、ということはなく、再生された音に合わせて自動で振動します。

――ハプティック技術を採用したスマートフォンはすでにいくつか登場していますが、この技術を「MEDIAS TAB UL N-08D」に搭載したのはなぜでしょうか。

西大氏
 ハプティック技術の用途としては、これまではキータッチしたときの“押した感”を実現するため、というものだったのですが、タブレットのように大きな画面になると、もっと違う使い方ができるんじゃないか、と考えました。MEDIAS TAB ULは軽量でもあるので、振って遊ぶこともできる。ずっと持っていたり、振ったりしても、疲れない。片手でしっかり持つこともできるサイズで、ハプティック技術による効果を指先や手のひらで感じられるんですね。

 特に今回MEDIAS TAB ULに搭載したHDハプティクスでの“当たり感”というのは、筐体の剛性に最も影響されるんです。スマートフォンのような小さな端末ではどうしてもその感触が薄くなるのですが、大きなタブレットだとそれがわかりやすい。画面が大きいことによる視覚的、触覚的な面白さ、MEDIAS TAB ULならではのカーボンファイバーによる筐体の剛性、それとハプティクスを連係させている、というところがミソです。

 タブレットの出荷台数がノートPCのそれを超えるという話もありますから、これからチャンスはあると思うんですね。タブレットの新しい価値を作っていかないと、現在のようなアーリーアダプターばかりでその先に広がっていかないんじゃないか。HDハプティクスのような新しい価値を作るのが我々の役割ではないかと考えた、というのが搭載した理由の1つでもあります。

――これまでの端末では、ハプティック技術を採用していてもタッチ操作に限られていました。

西大氏
 通常のハプティック技術はディスプレイを振動させるものなので、先ほども申し上げましたように、指で画面を触って感じるもの、という位置付けでした。しかしながら、MEDIAS TAB ULは端末全体を振動させます。外装を含めて震わせて、端末全体で振動を感じさせるというのは、もともとのハプティック技術でも想定していなかったことだろうと思っています。

永井氏
 特にアクションゲームのようなものでは、主人公の動きや爆発のアクションなどを視覚と聴覚と触覚で感じられて、気分が盛り上がるんですよね。HDハプティクス対応の「ソニックCD」を開発していただいたセガさんにも、かなりノリノリでご協力いただけました。

――HDハプティクス対応アプリもさまざまなものが揃い始めているようですね。

永井氏
 鉄球やピンポン球、スーパーボールを弾ませて遊べる「Haptics Ball」や、ダイスを転がせる「DiceShaker D&D」、ギター演奏できる「Solo Lite」などは、HDハプティクスの効果が特にわかりやすいアプリだと思います。

西大氏
 開発者はHDハプティクスの波形だけでなく、サイコロの転がる音まで一生懸命チューニングしていましたけども(笑)、それでいいものができたと思います。波形については微妙なチューニングがないと普通のバイブのようになってしまって面白くない。技術陣がこだわってチューニングを施したことで、面白いものができあがりました。

「Haptics Ball」では、出現させるボールの素材の違いにより、振動の仕方が明らかに変化する 音の響きによって端末の振動が微妙に変化し、演奏している感覚をリアルに味わえる

 HDハプティクスというのは、新しいユーザーインターフェイスです。こういったユーザーインターフェイスというのは人を惹きつけるものなんでしょう。iPhoneが初めて登場したときの“マルチタッチ”以来、スマートフォンではユーザーが驚くような画期的と言えるインターフェイスは現れていませんが、このハプティクスを女子大生に使ってもらったときに、「すごい!」と声を出して驚いてくれたんです。そういうことからも、ハプティクスの新しいユーザーインターフェイスとしての可能性は、大きいのではないかと思っています。

 あとは、この仕組みを使った新しいアプリケーションをいかにしてコンテンツプロバイダーや個人開発者の方に作ってもらえるか、というのが課題です。SDKという形で提供は始めていますが、どのような展開の仕方が有効なのか、今も試行錯誤中です。

――「HDハプティクス」を活用したアプリの開発は簡単なのでしょうか。

永井氏
 もちろん我々も簡単に開発できるようにすることを目指していまして、SDKの他にも、いろいろと研究している中で見つけた最適な振動の波形を作成して提供しています。「タブレットアプリファン」で公開していまして、対応アプリを作りやすい環境はすでに整いつつあります。

西大氏
 コツンという波形や、ドーンという波形など、さまざまな波形をコンテンツとして提供するのが、使う側としても便利だろうと考えました。オリジナルの波形をカスタマイズして作るのはかなり大変ですので。

――この技術を発展させれば、手書きアプリへの応用も考えられるのでは?

西大氏
 この7インチサイズのタブレットというのは、ノートとして使って、手書きでメモをする、という用途が本質的に存在しているでしょう。とはいえ、どの端末もアプリも、まだまだ紙に書くような質感や操作感は実現していないですよね。手書きに求められるのは、追従性と“書いた感”だと思っています。ガラスの上を滑らせて書くというのは、やはりなじまない。今後は、こういったハプティクスという技術を搭載したデバイスで、手書きの触感を実現したい。“書いた感”をどうすれば出せるか、というのをこれから追求していきたいですね。

――Android 4.1に対応する予定はありますか。

永井氏
 Android 4.1への対応は、状況を見ながら検討していきたいと思っています。

――今後、ハプティクスのような新しいユーザー体験を可能にする技術は出てきそうでしょうか。

永井氏
 弊社グループには、NEC Corporation of America、NEC Technologies (UK)という海外拠点がありまして、そこで新しい技術を常に発掘しています。今回のハプティクスについてもその活動から得られたもので、シリコンバレーにあるImmersionさんと我々の技術を結合させて形にしたものでした。逐次新しい技術は発掘・開発しています。このハプティクスの発展形はもちろん、先を見据えた別の技術についてもすでに手掛けていますので、今後も新しいものがどんどん登場することになるはずです。

――本日はありがとうございました。




(日沼諭史)

2012/10/5 22:06