インタビュー

「ENERUS」開発者インタビュー

スマホとセットで便利なPHSの第3弾

 ウィルコムから発売された「ENERUS」(WX03S)は、スマートフォンなどを充電できるモバイルバッテリー機能を搭載したPHS端末だ。ウィルコムはスマートフォンなどと組み合わせると便利な機能を搭載したPHS端末をラインナップしており、「ENERUS」(エネルス)もそうしたラインナップを強化する内容になっている。セイコーインスツル(SII)およびウィルコムの担当者に開発コンセプトや背景などを聞いた。

 取材には、ウィルコム 商品企画部 端末企画グループの島田健司氏、セイコーインスツル システムアプリケーション事業部 移動通信システム総括部 MC企画部 主任の山本美穂氏氏、同 MCプロダクツ部 MC技術企画課 副主査の武藤淳氏、エスアイアイ移動通信 MCプロダクツ部 MC技術一課 主任の三井謙二氏に応じて頂いた。

左から三井氏、武藤氏、山本氏、島田氏

 スマートフォンと組み合わせて使うというコンセプトのシリーズは、セイコーインスツル製としてはBluetooth子機になる「SOCIUS」(ソキウス)、3GのモバイルWi-Fiルーターになる「PORTUS」(ポータス)を発売しており、「ENERUS」は3モデル目となる。「SOCIUS」の後継モデルに位置づけられるが、武藤氏によれば、「PORTUS」の改善点なども盛り込まれた内容になっているという。

 モバイルバッテリーの搭載に至った経緯は、スマートフォンと組み合わせて使うというコンセプトに沿った中から出てきたもの。SIIの山本氏によれば、無料通話用としてウィルコムのPHSを持ち、そしてスマートフォンにモバイルバッテリーと、3つの機器を持ち歩く人も珍しくないという。そうした状況や、Wi-Fiルーター機能を備えた「PORTUS」が大容量バッテリーを搭載していたことなどを踏まえ、「ユーザー視点に立ったものとして、また企画側からもそうした意見が出てきた」として、USBの電源供給機能を備えた“モバイルバッテリー搭載PHS端末”が誕生することになった。

 ベースモデルが「SOCIUS」ということで、Bluetooth子機機能を引き続き搭載する一方で、「PORTUS」は現行モデルとして「ENERUS」と併売されるため、「PORTUS」のモバイルWi-Fiルーター機能も統合するといった開発は、このモデルでは見送られた。さらなる進化や融合は、今後の開発の検討課題になっている。

 「ENERUS」に搭載された通常サイズのUSB端子による電源出力は5V 500mAで、パソコンのUSB端子と同じ規格。端末とデータ通信は行えない電源供給専用で、USB扇風機やLEDライトといった、USBを電源としてのみ使用する機器も利用できる。武藤氏によれば、500mAの出力は端末ハードウェアの仕様でもあり、ファームウェアで出力を上げるといった変更は難しいとのことだった。

 1700mAhという容量は、充電の警告が出たiPhoneを1回充電できる容量としてちょうどいいとのことで、容量増大による重さの増加といった部分とのバランスを調査・検討し、この容量に至っている。なお、モバイルバッテリーとして給電していても、PHSとしての電話機能を維持するため、バッテリーが残り10%程度になったところで給電は自動的に停止する機能が搭載されている。待受画面などでは詳細なバッテリー残量を確認できるほか、「5分間だけ充電する」といったように、時間を決めて充電できる機能なども搭載されている。また、一般的なモバイルバッテリーでは「充電開始ボタン」を押して充電を開始するが、「ENERUS」は自動判定機能を搭載し、充電できる機器が接続されると自動的に給電を開始する。こうした使い勝手の部分は単なるモバイルバッテリー製品にはない「ENERUS」の特徴になっている。

パソコンなどで一般的なサイズの給電専用USB端子を搭載
スマートフォンの充電のほか、USBグッズも起動できる

Bluetooth機能も強化

SIIの武藤氏(左)、山本氏(右)

 Bluetooth関連では、「SOCIUS」同様に、ペアリング時に質問に答えていけば接続できるような分かりやすいユーザーインターフェイスを採用し、幅広い層のユーザーが利用できるように配慮されている。武藤氏は、「実際に使ってみると、面白いという声は多い」とし、「SOCIUS」ではスマートフォンのBluetooth子機として手軽に通話をしたりリダイヤルしたりできるといった、ヘッドセットが持つ手軽さが実際に利用したユーザーに好評だったのこと。「ENERUS」ではBluetooth子機として2台のスマートフォンとペアリングでき、同時待受が可能になっている。

 Bluetooth関連ではほかに、新たに親機モードを追加し、カーナビなどとも連携できるようになった。山本氏は、「SOCIUSユーザーからの声を元にした」とのことで、また「SOCIUS」同様の子機機能のほか、スマートフォンの音楽再生をコントロールできる機能も用意している。さらに、プロファイルではPBAPに加えてOPPをサポート。「電話帳データの“送受信”が可能になった」(三井氏)という。

 端末として強化されたのは通話に関連した音声品質の部分で、武藤氏は、「大きく変えたのが通話品質で、開発の途中に音響系のメインのチップを変更し、開発日程を維持しながらも、品質にこだわった」と明かす。音響系チップの変更で根本的に音質が向上し、さらにDSP処理が可能となったことでソフトウェアによるチューニングも施されている。受話、送話のどちらにも効果があり、Bluetoothで接続している場合でも効果があるという。

幅広い層を意識したカラーバリエーションを用意

 ボディカラーは、SIIの社内では一部で「初音ミクカラー」と呼ばれているという緑系の「エメラルド」が目を引く。カラーバリエーションは4色だが、開発段階では10色まで製作したとのこと。島田氏によれば、「効果的で、ユーザー層を限定しない色にした。紫やピンクなども検討したが、一番幅広いユーザーに訴える色にした」とのこと。特徴的な“挿し色”のエメラルドはSIIでも議論があったとするが、発売直後の初動の販売動向では、ブラックに次ぐ2番目に人気の色になっているという。

 そのほか性能面では、島田氏が説明するようにスマートフォンと組み合わせて使うというコンセプトがあるため、Webブラウザやカメラを非搭載とするなど、割り切った部分や省略した部分が多いのも特徴。メール機能も省けるように考えられるが、SIIの山本氏は「ユーザーの不安感につながらないかなど、そこは常に議論になる」とし、島田氏も「そこまでいくと、逆にITリテラシーの高いユーザー向けになってしまう」と説明。スマートフォンに任せる機能、PHS端末側に残しておく機能のバランスが重要とする。

 「ENERUS」で自営モードの搭載は見送られているが、島田氏によれば、法人需要では低価格であることがまず条件になり、結果として機能も極めてシンプルな端末が求められるためだという。一方、BYODなど、プライベートでも利用しているスマートフォンやタブレットを仕事で利用する流れは拡大しており、ウィルコムとして、「さまざまなスマホを選んだ上で、内線としても使えないかという声はあり、何かしらの検討はしていることろ」と、ひとつの検討課題を明らかにしている。

(太田 亮三)